第十ニ話:心の天気雨
気が付くと、俺は警察署の取調室に居た。別に病院からここに来るまで気絶していたわけではないが、未砂記の心配と巻き込んだ罪悪感で頭がいっぱいだった。
「あの時俺が告白を断って突き返しておけば…もっと冷たくして嫌われてれば…俺も人殺しか…いや…死んでなんかない…あんなに騒がしくて元気な奴が…死ぬ筈…」
口に出して言っていたか、それとも心の中でぼやいていたのかすら覚えていない。取調室でも何を質問されたのか覚えていない。覚えているのはカツ丼ではなく袋入りの煎餅と温かい緑茶を差し入れされたことと、正人の急所が腫れ上がっているため病院で手術してから警察へ身柄引き渡しになるということくらいだった。
「今日はここに泊まっていけば?」
警察官の勧めで、特に寝泊まりする所のない俺は質素で重い空気の漂う警察署で一泊することにした。
寝室は個室になっていて誰も入ってくることはない。俺はこの孤独な空間でただじっとしていると、ある事を思い出した。
「あ、今日ビーズ出来ない。一日一粒ずつって言ってたけど…」
「宮下君、病院から電話だよ」
「あ、はい!」
さっきの警察官が扉の向こうから俺を呼んだ。病院からの連絡、末砂記はどうなるのだろうか。そればかり考えていた俺はすぐに部屋を飛び出し、電話機まで案内してもらった。
「もしもし…」
「宮下君だね」
「はい。あの…」
「未砂記さん、凄いですね。普通あんなに出血してたら…」
「た、助かったんですか!?」
「えぇ、良かったですね」
「はい!! ありがとうございます!!」
体中の力が一気に抜けた。明日になったら未砂記に謝りに行かなければ。いや、未砂記は自分をこんな事に巻き込んだ俺を本当に許してくれているのだろうか。複雑な気分だ。バイトで始まった長い一日がようやく終わった。