#2 学園都市 University_urbem
1/20 等級設定変更。この後の話もこれからやっていく予定
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翌日。
二人は簡単な準備をして森を出た。
しかし、準備と言ってもさして特別な事はしていない。
北條はいつも通り両手の指全てに『ノーラムリング』を嵌めて、学生服を身に纏っている。
彼の持つエネルギーの本質は『霊力』であるが、魔力としての性質も持っている。そのため、ノーラムリングが効力を持つのだ。
イヴはいつも通り、白が基調のワンピースを着ている。
普段と違うところといえば、半年前よりも増大した霊力を隠すためにノーラムリングを六つ嵌めている事くらいだ。
多少オーバーハイドではあるが。
微笑を浮かべたイヴが、隣に並ぶ北條に声を掛けた。
「あまり遅くに行ってセリアを困らせるのも面倒ですから。イツキ様は私が抱えてロックスフィードまで跳びます」
「……女の人に抱えられるのは不本意だけど仕方がないな。強化付与は試したことがないし」
「では」
イヴがそう言った直後、お尻から生えていた黄色い狐の尻尾が一つ増えた。
力の解放。
九尾の妖狐の神霊であるイヴは、その尻尾の数と力量が比例している。尻尾が増える程に強力になるのだ。
もっとも、普段はその力を封じているが。
「凄い霊力だな」
「はい。……それにしても、契約前よりかなり霊力が増大していますね。流石イツキ様です」
「ま、普通なら僕にこんな力が宿ってるはずないから、異世界転移の賜物だろうけどね」
苦笑する北條に近づいたイヴが、
「何であろうとそれはイツキ様の力です。私の力だって、神霊として生まれたが故に手に入れたものですから」
そう言いながら北條を抱えた。
いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。
北條は素直に抱えられながらも悔しそうな表情をして、
「早く強化付与を使えるようになろう……」
一人ごちた。
強化付与は魔術だけでなく霊術にも存在する。とは言っても、攻撃が主な霊術の強化付与は魔術よりも効力が低い。
もっとも、霊力量が規格外である北條がそれを使いこなせば、魔術との差など一瞬で埋まる――いや、越すだろうが。
「それじゃあ跳びます。しっかり掴まっててくださいね?」
「うん」
北條がイヴの胸元にあるブツを気にしながらゆっくりと背中に腕を回した。
丁度ブツ――彼女の胸が彼の胸板に押し付けられるような状態だ。
北條が鼓動を早くする中、イヴは至福そうな表情で、
(あぁ、イツキ様に抱かれてる……なんて幸せ!)
興奮していた。
二人は数分かけて学園都市ロックスフィードへと移動した。
もっとも都市内に着地する訳にも行かず、近くの草原に降り立ったのだが。
付近に魔物はいない。
イヴから発せられる神霊としての威圧を感じ取ったのだろう。元々低ランクの魔物しかいないこの草原で彼女に近づこうとする調子者はいないらしい。
「コレが学園都市ロックスフィード……」
目の前には高さ二十メートルはあるだろう巨大な石の城壁。
学園都市ロックスフィードは巨大な城壁に囲まれている城塞都市だ。全人口の半分以上が学生であるこの都市には、その学生の量に見合った学園の数を誇っている。
北條達が入学しようと思っている魔術学園だけでなく、冒険者を育成するための冒険者育成学園や、そこから派生した戦士職専門学校など、様々な種の学園が揃っていた。
「流石だな……ここがファンタジーな異世界だって事は分かっていたけど、こうして街を見てみると改めて自分が転移したことを実感するよ」
「さあ、こんな所に立っていないで早く中に入りましょう?」
イヴが尻尾を一つに戻し、惚けている北條の背中を押した。
「……ん? この騎士の鎧みたいな奴は何だ?」
門を潜って中に入ろうとした時、北條が門の前に立っている騎士の鎧を指差して尋ねた。
人が着ている訳でもなく、ただ鎧がそのまま門の前に立っている状態だった。
「これは魔術的な力で作用する『召使』又の名を『使い魔』と言うものです。この鎧は街を魔物から守る門番の様なものですね」
「異世界すげー。魔術ってそんな事もできるのか」
「まあ、召使の使役は魔術の中でもかなり高難易度と言われてますけどね」
「魔術に興味がなかったイヴが何でそんな事知ってるんだ?」
「……セリアより引用しました」
「やっぱりな」
なんて他愛ない話をしながら、二人はロックスフィードへ足を踏み込んだ。
「おぉ! やっぱりファンタジーって言ったら中世ヨーロッパ風なんだな!」
初めて異世界の街へやって来た北條が興奮した様子で街の様子を見回していた。
やはり日本の建物とは雰囲気が全然違う。
屋根はそのほとんどが赤茶色で、ポツポツと紺色の物が混ざっている程度だった。
パッと見て全部同じ建物に見えるが、細かいところが少し違っている。
ファンタジーRPGに出てくる街にそっくりだった。
「街を見るのは後にしましょう。今はまず学園に行ってセリアに会わなければ」
「あ、あぁ、そうだったな。ごめん、はしゃぎ過ぎたよ」
頬をポリポリと掻きながら苦笑する。
そんな彼を微笑ましく見ていたイヴが、「行きますよ」と行って再び歩き出した。
「……で、そのセリアさんの学園って言うのはどこにあるんだ?」
「アレです」
イヴは北條の質問に答えつつ前方に指を向けた。
立ち並ぶ建物の中、大きく開けた場所に巨大な建物が建っていた。
「凄い、遠くから見ても大きさが分かるくらい大きいな」
「まあ確かに、セリアのところ――『レイヴス学園』はこの都市にある魔術学園の中でもトップクラスですからね」
「そ、そんな凄い所なの?」
「はい」
学園都市がかなり広いことはもう分かっている。
まさか自分が、そんな"学園都市でトップクラスの学園の学園長に不正入学を頼みに行く"だなんて思っていなかった彼は表情を凍らせた。
「……やっぱやめとかね?」
「な、何を言っているんですか、イツキ様! 大丈夫ですよ、何とかなります! 前例はいくつかありますから!」
「前例? いや、だとしてもやっぱり不正は……」
「だから大丈夫ですってば! 学園側としても、有能な生徒が入学してくれるなら身元不明ぐらいどうって事ないですって!」
「……、」
ここまで来て怖気づいた北條をイヴが宥めながらも、二人はなんとか学園前まで到着した。
「うっわ、目の前まで来たらもっとデカく見えるし、やっぱり――」
「おいお前たち! 何用だ!」
怖気づいている北條とソレを宥めているイヴの元に一人の男が近づいていった。
門の側に置いてあった騎士の鎧の召使よりも簡単な構造の鎧を身に纏い、両手で長槍を握った男。
この学園に仕える衛兵だ。
「え、あ、僕達は――」
「セリアと話をしに来たイヴと申します」
状況が状況なだけにオドオドしている北條とは真逆に、堂々たる姿勢でイヴがそう言った。
訝しげな様子で二人の様子を見ていた衛兵が、「少し待っていろ」と言うと、耳に手を当て何かを唱えた。
「……?」
《アレはおそらく遠隔通信術式でしょう。私達の念話の様なものです》
首を傾げる北條に念話で教えるイヴ。
やがて頷いた衛兵が、
「……失礼、確認しました。イヴと黒衣の少年ですね」
「こ、黒衣の少年て……」
「まあ仕方がないんじゃないですか? セリアはイツキ様の名前を知らない事ですし」
「僕が学生服以外の服着ていたら入れなかったってことか……?」
北條がそのシチュエーションを想像してホッと胸を撫で下ろした。
「今こちらに学園長の使いの者が向かっています。暫くお待ちを」
そう言うと衛兵は二人を門の中――学園の敷地内に招き、再び門番を開始した。
数分後、学園の扉が開いて中から一人の少女が現れた。
銀色に輝く美しいゆるふわウェーブは肩に掛かるくらいの長さで、青金石の様な深い青色をした瞳は、前方に立つ北條とイヴの二人を見据えていた。
「お待たせしたの。私はメリアン=ユイハード、学園長の使いで来たの」
二人の側まで歩き寄り、まだ幼さが残る声音でメリアンと名乗った少女は踵を返した。
「着いてくるの。学園長がお呼びなの」
学園内は外から見るよりも広く感じた。
それも当たり前な話なのだが、部屋の数が尋常ではなかった。下手したら迷ってでてこれなくなるかもしれない。
そんな事を考えながらメリアンに付いて行った二人は、学園長室の前まで辿り着いた。
「ここが学園長室なの。中で学園長がお待ちなの」
メリアンはそう言うと、扉を二回ノックした。
「入っていいぞ」
それに反応して奥からセリアの声が聞こえてくる。
メリアンは「入るの」と一言呟くと、その扉を開いた。
とても広い部屋だった。と言っても一人でいるにはの話で、あと三、四人増えれば丁度いいくらいの大きさだ。
大きな机が部屋の奥に有り、そこの椅子に腰をかけた女性がいた。
「……私がセリア=オレアス。この学園の学園長だ」
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学園長室。
二人をここまで案内してくれたメリアンは今、学園長室内にはいない。セリアの命によって他の作業をしに行った。
よって今、この部屋には北條とイヴ、そしてセリアの三人だけである。
「久しぶりだな、イヴ。そっちの少年は……」
「イツキです。イツキ=ホウジョウ」
「そうか、イツキ君。まずは君に謝らなければ行けないことが――」
「僕を殺そうとした事ですよね。大丈夫ですよ、ちゃんと生きてますから」
セリアの声を遮って北條はそう告げた。
それを聞いたセリアは申し訳無さそうに苦笑して、
「そ、そうか……その節は本当にすまなかった」
頭を下げるセリアにあたふたしている北條を横目に、イヴは一歩前に出てセリアに言った。
言ったというより、聞いた。
「それでセリア。何か気が付いた事はないのかしら?」
イヴの意味ありげな言葉にセリアが身体をピクリと動かした。
そしてすぐに真剣な顔になって、
「あるに決まっているだろう。……少年、イツキ君から全く魔力を感じなくなった。どういう事だ? いくらノーラムリングを十個嵌めていたとしても多少は感じるはずなのに……」
セリアは北條から魔力を感じ取れない事も、普通のとはデザインがかなり違っているノーラムリングの事も両方気が付いていた。後方に至っては、一度イヴの洋館で見ているから知っていて当然だが。
「あら、気が付いていたのですね」
イヴはそう言うと、視線で北條に合図を送った。
それに頷いた北條が霊術の演算を開始する。
霊術結界。
例によって虹色に輝く膜が、学園長室内に展開された。
「……どういうつもりだ?」
セリアが訝しむような表情でイヴを見据える中、彼女はさらりと、
「いえ、ここから先はあまり他の人に聞かれていいものではないので、結界を張らせて頂きました。と言っても、防音機能だけが目的ではありませんが」
「???」
「では私から貴方に言う事、お願い事がいくつかありますので聞いていただけます?」
「あ、あぁ。どうしたんだ? イヴ」
「まあまあ。それじゃあまず一つ目、イツキ様から魔力を感じられない理由」
「……お、おい!?」
「私達が契約を行ったからです。『支配の契約』……私が従者で、イツキ様が主となります。契約をすれば契約者の魔力は霊力に変換される。セリアも知っていたでしょう?」
そんなイヴの言葉にセリアは目を見開いて固まっていた。
やがて震える唇を開いて彼女は言った。
「契約、だと? イヴ、お前それがどういう事か分かっているのか?」
「分かっていますよ。私はイツキ様と対等になる事は出来なかった。あの魔力のオーラを見たセリアなら何となく想像がつくでしょう? 私よりイツキ様の方が上だった、それだけの事です」
「……確かにそこも有り得ない話だが、それだけじゃない。彼は……イツキ君はいくら強大な力を持っていても、ただの人間なんだぞ!?」
セリアの必死の表情を見た北條は、やっとその言葉の意味を理解した。
自分は人間。
イヴは神霊。
――寿命の差だ。
「……、」
「そのイツキ君と契約するということは、イヴはイツキ君と一緒に死んでしまうという事、なんだぞ?」
正確にはイツキが死ぬまでしか生きることができない、だが。
北條は渋い顔をしている。やはりまだ後ろめたさがあるのだろう。
そんな彼女の言葉を聞いたイヴはその表情を和らげた。
「いいんです、セリア」
「え……」
そしてイヴは笑顔で言った。
「私は、イツキ様と一緒にいると決めたんです。退屈な日々はもう終わり、イツキ様の生を共に歩む、そう決めたんです」
「……そうか」
身を乗り出す形で立ち上がっていたセリアが、小さく笑うと再び椅子に腰をかけた。
そして北條に値踏みするかのような目線を向けると、
「イヴにそこまで言わせるとは……イヴ、お前惚れただけじゃないだろうな?」
「ギクッ!」
イヴがビクンと身体を震わせて、やがて上ずった口調で言った。
「そ、そんな訳ないじゃないですか。もちのろんですよ。イツキ様は異性として好きですけど、私が契約したのがそれだけが理由ではありません!」
「???」
北條が「異性として?」とかなんとか言いながら首を傾げている間にも話は進んでいく。
「まあ、話はお願い事に移行する訳ですが。――私とイツキ様二人をここに入学させて貰いたいのです」
ストレートに言ったイヴの言葉を聞いて、セリアはフッと微笑を浮かべると、
「……まあそんな事だろうとは思っていたよ。私の推測だと、イツキ君を学園に入れてくれ、と言う頼みだと思ったんだが、まさかイヴも入学したいとはな」
「私はイツキ様の神霊。常にお側にいるつもりです」
「ちょ、イヴ? 常に一緒にいるっていうのは色々困るような……?」
「そういう事ですからセリア。手続きをしていただけますか?」
「あれ、聞いてない?」
スルーされた北條がオロオロするなか、セリアは自分達を包んだ虹色の膜に視線を向けながら言った。
「ふむ、いいだろう。……しかし条件がある」
その言葉を聞いたイヴがニヤリと笑みを浮かべるが、セリアはそれに気が付いていない。
北條も切り替えて、「やっぱりこう言う展開になるんだな」と小さく呟いていた。
「結界の強度も問題なし……よし。私と決闘して一撃でも浴びせる事が出来ればお前達を入学させてやろう。と言っても、攻撃するのはイツキ君、君だけだ。そうだな、制限時間を儲けるとしよう」
何やら一人で考えて呟くセリアを見て、北條は唖然としていた。
イヴは一瞬目を見開いていたが、すぐに余裕の笑みを戻すと北條に目配せをした。
《……イツキ様、案外簡単に片が付きそうですね》
《あぁ、そうだな。普通に決闘していたら方が勝目が薄かったけど、攻撃してこない、逃げ回るだけの相手なら余裕だな》
《とは言えあのセリアですから、何が起きるかはわかりません。イツキ様なら万が一にも負ける事はないと思いますが、油断は禁物です》
《……あの?》
イヴの意味深な発言に反応した北條が尋ねた。
その質問にイヴは淡々と答える。
《セリア=オレアス。彼女は『刹那《Momentum》』の二つ名を持つ魔術師ですわ》
イヴの念話が脳内に響くのと同時に、セリアが口を開いた。
「イツキ君、まだ結界は張れるね?」
「え? あ、はい」
「よろしい。それではここじゃあ狭いから移動しよう。そこでも結界を頼むぞ」
学園長室を出た三人は広い学園内を歩いていた。
目的地は学園の修練場。日本の学校で言う体育館の様なものだ。
とは言っても、その壁は魔術に耐久するためのコーティングが施されたもので、ある程度の威力の術は完璧に耐えきる事が可能だ。
一定以上の威力を持つ術は、結界術式などでカバーしなければ危ういが。
そんな修練場に移動する途中、北條はイヴからセリアについて……『刹那』について聞いていた。
《彼女の『刹那《Momentum》』の二つ名の由来は、彼女自身に施された術式にあります。その本質は特殊な強化付与で、術式の演算無しでその効力を自在に操作できるモノなんです》
《演算なし? 魔術の展開に他のトリガーがあるって事?》
《はい。と言ってもそのトリガーが簡単なもので"意識"するだけなんです。その効力を意識するだけで、その効力分の魔力量で術が自動的に展開されます》
マイナーなモノならば他にも術式演算無しで展開することができる魔術もあるにはあるが、その難易度は普通の術式とは比べ物にならない程高い。
そもそも演算をしないのだから難易度も何も無い訳なのだが、術式を展開させる感覚を体に染み込ませる必要があるのだ。
そんな芸当が出来ない北條は感心した表情で、
《つまりは、突然速くなったり遅くなったり、緩急つける事が出来るわけか》
《ですので、本気で攻撃しなければ簡単に避けられるでしょう》
《ま、最初から手を抜くつもりはないよ。ただ、色々と試させては貰うけどね》
念話でそう告げた北條がニヤリと笑う。
《……うふふ、流石はイツキ様。余裕がありますね》
《でも、アレ使えば一発くらいは当たるでしょ》
《まあ、そうですね》
歩くこと数分後、大きな扉の前まで来た三人は立ち止まった。
扉の上には大きな文字で『修練場一』と表示されている。
「……イチって事はまだ他にもあるんだ、流石トップクラス校」
北條が呟いた後、セリアが扉を押した。
ギギ……と音を立てて開いた扉の先には、一面灰色の素材で作られた巨大な部屋があった。
「ここが修練場だ。三等級程度の術師が扱う術までなら耐えられる素材で出来ている」
「三等級?」
「魔術師の等級を差す言葉です。等級は全てで一から五まであって、五が最下等級、一が最高等級となっています」
「正確には五等級、四等級、三等級、二等級、一等級の五種類だがな。しかしまあ、五等級と一等級は明確な範囲が決まっていなくてな」
イヴの言葉にセリアが付け足した。
と言うのも、『このラインより下は五等級、このラインより上は一等級』と曖昧で、下限や上限が無いらしい。
「だから五等級の中でも異常な程弱い奴もいれば、一等級の中でも異常に強い奴もいる。ま、前者は学園を辞めていく者が殆どだが」
セリアが苦笑しながらそう言う中、北條は必死に等級を覚えようとしていた。
「まあ、そんな事は今は置いておこう。それではルールを伝える。制限時間五分以内にこの空間の中で動き回る私に一撃を浴びせる事が出来たら君の勝ち。イヴも君も本学園に入学させよう。しかしそれが出来なかったら諦めてもらう。……契約したということは、イツキ君もそれなりに霊術が扱えるのだろう?」
「……分かりました」
北條はセリアのルール説明を聞き終えた後、霊術の演算を開始した。例によって『霊術結界』を修練場内に張る。
「それと」
虹色の膜が張られたことを確認した北條が続けて術を演算する。
対象はセリア。
次の瞬間、赤色の光がセリアの体を包み込んで消えた。
「何だ今のは?」
「防御式です。今の僕の術なら容易く受け止める事が出来るでしょう。効力時間は六分間です」
「……ほう。私は攻撃に当たるつもりは無かったのだがな」
「まあまあ」
セリアが北條と距離を開きつつ、軽口を叩いて微笑した。北條も同様、苦笑しながら――しかしこちらは割と真面目に――そう言った。
修練場内がシンと静まり返る。
イヴはいつの間にか入口の側まで後退していた。
北條とセリアは修練場の中心で十五メートル程距離を開けて構えている。
タイミングは北條に委ねられた。
壁の高いところに取り付けられた時計が静かに鳴る中――
針が一番上を向いた瞬間に、二人は動き出した。