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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
42/43

#32

相も変わらず少なく不定期です。

すいません。

携帯ですので、題名は後に


「霊獣殺し、か」


「ンだよ、知ってんのか……まァいい」


 笑みを浮かべたドロイトが、霊獣殺しを小さく構えて白い光を生み出した。彼の身体周りを渦巻き、やがて消えていく。

 強化付与を行った際に現れる、魔力の残滓だ。

 それも、かなり強力な。


「……魔力残滓が出てくる様な領域かよ」


「俺様の得意分野の一つなんでなァ。魔術による攻撃は苦手……肉弾戦の方が得意なもンでな。そっち方面は全部リアに任せてンだわ」


 言いながら隣に立つリアと呼ばれた精霊の少女の頭を撫でる。

 気持ちよさげに目を細めた少女を見据えた北條は、足元に転がった小さな瓦礫を蹴り飛ばしながら、


「お前が前に出てその子が後ろから援護……今更だけど、一人を相手に二人掛りってちょっとばっかし酷いんじゃないか?」


「あァ、テメェ何言ってんだ? 殺し合いに卑怯もクソもねぇ。生きるか死ぬかのどっちかだけだ」


「……、」


「まァ、俺様が生きてテメェが死ぬんだがな」


「随分な度胸じゃないか。案外ポッキリ死んじまうかもしれないぞ?」


「抜かせ」


 まるで北條の虚勢を見破っているかのように鼻で笑うドロイト。そんな彼の様子を見て一瞬たじろぎ、額から冷や汗を流す。

 強化付与を施してから雰囲気が変わった。

 数値的なパワーアップによるものだけではない。それに後押しされるかの様にドロイトの自信が浮き彫りにされたかの様な。

 ――少なくとも、ドロイトは六つの命を奪っている。

 宝玉。それを手に入れるためにドロイトとリアが殺した霊獣が五人、そしてその中の一人と契約した人間が一人。

 シーナの両親も、そこに含まれている。

 無意識下に歯を食いしばって眉をひそめた北條を見て、ドロイトは愉快そうに笑った。


「くっはっは、青いねェ。戦場で考え事なンかしてたら――」


 直後、ドロイトの周囲に暴風が荒れ狂った。


「簡単に死ンじまうぞ?」


 轟音が炸裂した。

 宙に巻き上がり、風によって放たれた瓦礫が北條目掛けて飛来する。それと同時に、霊獣殺しを振りかぶったドロイトが咆哮を上げて跳躍した。


「――ッ!?」


 先に放たれた瓦礫よりも速く北條の目の前まで移動したドロイトは、強化付与によって高められた腕力と本来のポテンシャルによる斬撃を放つ。

 銀の軌跡が暗闇に浮かび上がった。


「ぐっォォォおおおおおおおお!!!」


 それは恐怖を振り払うためのものだったのかもしれない。

 一瞬で術式を構築し、ドロイトと同様に身体能力を底上げした北條は、目を見開いて振り下ろされる霊獣殺しを睨みつけた。

 空を切り裂き、振り下ろされる銀の刀身は。


 しかし、北條が無理矢理に身体を捻った事によって躱された。


「ほォ、テメェの強化付与も上等じゃねェか!」


「そりゃどーも!」


 引き攣った笑みを浮かべた北條は直ぐに体勢を立て直して後方へと飛ぶ。

 それを追いかけるのは空中を突き進む瓦礫と、ダメ押しでリアの竜巻。


「チッ!」


 全てを避けきるのはまず困難だろう。

 十を超える瓦礫が北條という的ただ一つに向かって飛来する。たとえそれを避け切ったとしても、リアの暴虐な竜巻が後ろにある。

 なら――、


「全部は、諦める」


 悲痛を噛み殺した声を漏らし、両手に炎を宿した。

 それをただ、振るう。

 ゴバッ! と衝撃波が発生し、同時に豪炎が顕現した。破壊の特性を持つ魔術の炎は、北條を守るように広がっていき、襲い来る瓦礫を迎え撃つ。


 摂氏数千度もある魔術の炎は鉄を溶かし、魔術外からの攻撃を無力化していく。

 それでも、全てとはいかなかった。


「がァッ!?」


 炎で対抗しきれなかった瓦礫が北條の左肩に直撃し、その威力によって北條が倒れた。

 出来る事ならば悲鳴を上げたくなるような激痛が、肩を始めとして全身に駆け巡る。今まで味わった事がないような、死と隣り合わせの状態による痛み。

 ここで声を上げてしまえば、気を失ってしまえば残る道は死への道ただ一つである。

 仲間はいない。

 シーナもイヴもメリアンも、ここにはいない。

 ここには、味方は誰一人いない。


「はは……」


 下手をすれば意識を飛ばしてしまいそうだった。

 身体が勝手に痙攣している。

 暴れ狂う『痛み』はついに『熱』に変換され、全身を焦がし尽くすかの様な感覚を覚えて目尻に涙を浮かべながら。

 それでも北條は笑った。


「ホント、おかしーよなぁ」


 震える身体を動かし、地に手をつける。

 本当におかしい話だ。改めて思う。

 身体が弱いと言う事を除けば普通の男子高校生――日本男児だった少年が、異世界に来て殺し合いをしているのだ。

 大切な一人の少女を守るために。

 こんな突飛な現実、見るのは世界で自分だけだと思っても全くおかしくない。


「殺し合い……ねぇ」


 死と隣り合わせの状況で。

 痛みを覚えて。

 ようやく本当の意味で、北條壱騎の中で、何らかの意思決意が固まった時だった。


「絶対負けらんねぇ――ッ!」


 治癒術式の構築と同時、右腕を薙いだ。

 それが霊術のトリガーとなり、北條の身体から霊力が搾り取られる。二つの術式が同時に展開された。

 一つは先の治癒術式。霊力の残滓が宙を漂い、強い痛みを感じていた肩を癒していく。

 そしてもう一つは、真っ暗な闇の中を眩しい位に照らす光。霊術の光だ。


「ハッ、まだ分かんねェのか!? 俺様に霊術は通用しねェ!!」


「霊獣殺しで捌ける範囲(、、、、、)での間違いじゃないのか?」


 言うのと同時に光が爆発的に拡大する。まるで巨大なカーテンの様に広がった眩い光は、直後に破裂して幾つもの槍へと変化した。太陽よりも明るく照らす光の槍は、その照準をドロイトとリアに定めると直後、凄まじい勢いで放たれた。

 




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