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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
41/43

#31 激突 Concursus

 月が闇夜を照らす。

 廃墟跡地には当然の様に街灯なんてモノは存在しない。いや、正確には存在しているのだが、ドロイトとシーナの戦闘の所為か、それ以前に壊れていたのか、地に倒れ伏している。

 足元に転がるのは鉄・鋼の瓦礫。足場は決して良いとは言えない。


 周囲の状況を確認した上で、北條は名を呼ぶ。


「イヴ」


「はい、イツキ様」


 現れたのは夜の暗闇にも負けない美しい金髪と金色の瞳を持つ美女だった。頭からは三角耳を生やし、お尻からは木の葉型の尻尾を生やす、一見狐人こじん族にも見える彼女は、そもそも人間ではない。

 神霊。

 この世界において、人間と魔物よりも高位の存在。

 炎と氷を司る九尾の妖狐の神霊、イヴだ。


「シーナを安全な場所へ。――あ、あと治癒も」


「御意。……ですがイツキ様、私は霊術による治癒はからっきしですので、魔術による下位の治癒術式しか行使できません。効果の程は期待なさらずに」


「あぁ、頼んだ」


 短いやり取りを済ませた後、イヴがシーナの身体を抱え込んだ。

 口出しする間もなく状況が物凄い速度で進んでいることに気がついたシーナは、ボロボロの腕を北條へと伸ばしながら、掠れた声で名を呼ぶ。


「い、イツキ君……」


「大丈夫だ」


 彼女の方を見ず、イヴとシーナに背を向けたまま彼は言う。


「僕が君を守るから」


 その言葉には、強い意志が宿っていた。

 本当の『戦い』――殺し合いと言うモノを恐れていた北條壱騎はもういない。

『殺し合い』だなんて物騒な騒ぎが起き無い様な平和な世界に住んでいた北條壱騎はもういない。

 そこに立っていたのは、かつての弱い自分を捨て、大切な誰かを守るために立ち上がった、たった一人の少年だった。


「イヴ」


「御意」


 再び短く名を呼ぶ北條の言葉に反応し、イヴが踵を返す。

 男の子にしては、少し小柄な北條の背中。しかし巨大な決意を背負ったその背中に、シーナは手を伸ばして言葉を紡いだ。


「あたし、貴方に言いたい事があるの。絶対に伝えたい想いがあるの。だからお願い、絶対に戻ってきて」


「……、」


「絶対に、あの二人に勝って戻って来て」


 いつものシーナからは想像も出来無い、一見弱々しい掠れた声だった。霊獣狩りの二人に痛めつけられた身体は、声を発する度に痛みを伴うのだろう。

 それでも、余力を振り絞ってそう言ったシーナに、北條は今度こそ首だけ振り返って笑いながら答えた。


「任せとけ」


 シーナを抱えたイヴは、暗闇の中に消えていった。彼女を安全な場所――おそらく北條宅に運び、そこで拙い魔術の治癒術式を施すのだろう。

 それを見送った北條は、前方に立つ二人を睨みつけた。

 まるで茶番を見せられていたかの様なそんな表情を浮かべるドロイトは、後頭部を掻きながら吐き捨てる様に言った。


「おうおう、逃がしてくれちゃって。折角もう少しで宝玉ゲットってトコロだったのによォ」


 敢えて暗闇に消えていった『神霊』について言及しないのか、ドロイトが北條を睨みつける。


「……お前は、何の為に力を求める?」


「あァ?」


 突然の北條の問いかけにドロイトは小さく首を傾げて声を漏らす。隣に並ぶリアは、相変わらずの様に何も声を発さず、沈黙を続けている。

 いつもよりも膨大な量の霊力が身体の中を駆け巡る感覚を覚えながら、強く拳を握りしめて再び尋ねる。


「お前は何の為に霊獣を襲い、宝玉を手に入れ力を求める」


「ンなもん、何でテメェ何かに教えなけりゃいけねェンだよ」


「……そうか」


 小さく呟いて、霊力を練り上げる。

 北條から感じられる霊力が、目的のある流れに変化した事を感じ取ったドロイトとリアが身構える中、北條は言った。


「僕は、皆を守るために力を求めるよ」


「ケッ」


 北條の言葉にドロイトが卑屈な笑みを浮かべた。

 直後、巨大な『炎』と『風』が激突した。





 北條が生み出した豪炎と、ドロイトとリアが生み出した暴風。共に莫大な力を持ったソレは、廃墟跡地に轟音を響かせながら拮抗した。

 霊獣狩りの二人が『風』属性の霊術を扱う事から、ドロイトの隣に立つ精霊リアは風属性を司る霊獣なのだと判断できる。

 そして、


「俺様は攻撃術式は得意じゃねえって言ったけどなァ、リアが風属性を司る精霊ってな訳で俺様もそれなりに扱えちゃったりするんだよ」


「へえ、やっぱり契約相手の得意不得意は契約者側にも影響するのか。……で、それは本気か?」


 一周回って冷静さを手に入れたのか、北條は極めて平淡な口調でそう呟いた。

 直後、彼が放った豪炎の規模が膨れ上がる。更に霊力を加え込んだのだ。

 一瞬で自信らが展開した暴風を大きく上回った炎を見てニヤリと笑ったドロイトは、同じように霊力を注ぎながら、


「流石じゃねェか。やっぱ大きな反応はテメェの方だったみてェだなッ!」


 懐から取り出したノーラムリングを割りながらドロイトが叫ぶ。

 真っ赤な光――魔水晶に溜められた霊力がドロイトの身体の周囲を渦巻く。同時に風の威力が増大した。


「……チッ」


 小さく舌打ちした北條は、炎に送る霊力を中断して強化付与を展開。身体の周りに白い光が発生し、強化された脚力を駆使して一気に後方へと下がる。

 同時にドロイトとリアの風が炎を呑み込み、更には北條の小さな身体を呑み込まんと迫り来る。


「どうしたどうしたァ!! そんなもンじゃねえだろォ!!」


「……、」


 無言のまま霊力を練り上げた北條は、一瞬で十枚もの霊術結界――対風属性に特化した障壁を生み出した。

 横倒しになって渦巻く、竜巻のような暴風は透明の障壁にぶち当たり、轟々と爆音を発しながらそれを突き破り――、

 残り三昧を残したところで消えた。


「……なんだ? 大口叩くもんだからてっきり十枚くらい必要だと思ったが、僕の買い被りだったか?」


 虚勢。

 そう捉えることも出来るだろう北條の言葉に、しかしドロイトは笑みさえ浮かべて軽く返す。


「随分と舐められたモンじゃねえか。まァ、俺様の本業は霊術による戦い方じゃァねえから、その評価も強ち(あながち)間違っちゃァいねェけどな」


 言いながら、霊獣殺しの切っ先を北條に向けるドロイト。

 銀に輝く刀を見据えた北條は、霊界にてシグとリズから聞いた事を思い出す。


『霊獣狩りが持つ刀は【霊獣殺し】と言って、対象の霊力を掻き乱すことによってダメージを与える武器』


 戦うと決意した北條に笑いながら教えてくれた一つの情報だった。


 こんにちわ。

 前回お話した新作についてですが、一応、活動報告にも載せましたが、『Re:ゼロから始める異世界生活』を読みまして、僭越ながら自分の文章は読めたもんじゃないと思いまして、今書き直してます。


 よって、投稿は遅くなります。

 申し訳ありません。

 詳しい事は活動報告で書いたりしますので、もしよろしければお気に入りユーザー登録をオススメします。

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