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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
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#30 少年は再び決意する Determination_Apud_eundem

お久しぶりです。

なんか、やっぱり心理描写は難しいです。

 北條は簡単な動作で飛び降りた。ふわり、という表現がよく似合うような軽やかな着地を魅せた彼は、そのまま、涙を流す少女――シーナと、そんな彼女に霊獣殺しを向けるドロイトへと向かって、一直線に歩きだした。



 視線が向けられる。

 シーナの、涙で潤んだ悲しげで、申し訳無さが映った瞳と。

 ドロイトの、歓喜に満ちた凶悪な瞳から。


「……、」


 少しずつ歩み寄ってくる北條を見てニヤリと笑ったドロイトは、シーナに向けていた刀を引いて後ろ――リアが立つ場所へと後退した。

 そして、彼も同様に懐から赤く染まった魔水晶が取り付けられたノーラムリングを取り出しながら喚く。



「おうおう、メインディッシュご登場ってかァ? ちょっとばっかし気が速い気もするが……あ? テメェ、あの時そこの女と一緒にいた……くっはっは、そういう事か」


「黙れよ」



 何やら勝手に喚きだし、そして自分の中で納得し始めるドロイト。おそらく、北條達と買い物の帰りにすれ違ったあの時の事を思い出しているのだろう。北條はその時、身に付けた隠蔽の力を試していたため、ドロイトの『眼』でも見極めることが出来なかったのだ。



 ドロイトの言葉を、如何にも不愉快だといった様子で黙らせると、北條は倒れるシーナの元へと歩み寄った。眉を寄せて北條を見上げるシーナ相手に、彼は目線の高さを合わせるためにしゃがみ込む。

 そして、小さく呟いた。



「何か、言い訳することはあるか?」


「……え?」


「シーナ、君は自分が何をしたのか、分かっているのか?」


 北條はシーナに喋らせる間もなく続けた。


「そうだよ、多分君は、僕とイヴに迷惑を掛けられないと思って一人でアイツに挑んだんだろ。君が僕に霊獣狩りの事を教えてくれ時、僕は言ったよな。『だからもし霊獣狩りが現れたら一緒になんとかしよう』って。でも、その約束を君は破った」


「……、」


 下唇を噛み締めて涙を流すシーナ。そんな彼女の涙を北條は自分の指で掬い取る。


「約束を破った君から、僕はその見返りを貰わなければいけない」



 我ながら何を言っているんだろう、と北條は思う。不器用な彼は、こうやって全く必要のない建前を用意してしまう。

 ただ一言、それだけ伝える事ができればそれで十分なのに、それが出来無い。

 己の『力』の無さに情けなくなる。



「シーナ、君を死なせる訳には行かない。生きて、僕にその借りを返すんだ」



 立ち上がり、北條はシーナに背を向けた。

 ドロイトと向かい合う。



「僕は弱い。一年前まで身体が弱い身体虚弱者で、そんな自分に失望さえしてた。日々を明るく過ごす同年代の人達を見ながら、僕の心は暗くなっていた」


 まるで自分に言い聞かせるかのように、北條は告げる。


「今もそうだ。僕は弱いままだ。いくら凄い力を手に入れたって、そんなのただの鍍金だ。結局心の何処かで、本当の殺し合いってやつを恐れてる。今だって凄い怖いよ。出来る事なら今すぐ逃げて、せっかく手に入れた自由な生活を堪能したい」


 でも、と北條は続けた。



「大切な人を失う方がもっと怖い」



 彼は、決意の色を持ったその黒い瞳をドロイトにぶつける。

 死ぬのは怖い。痛い目に遭うのは怖い。本当の意味で、人を傷つけるのは怖い。

 折角手に入れた自由な身体。虚弱体質なんてものに悩まされなくなった自由な日々を本当は堪能したい。

 走る事が出来る、スポーツだって出来る、一人で街をぶらぶらしたりして買い物だって出来る。

 それでも。



「僕はきっと、シーナがいなくなったら、笑えない」



 きっと北條は、シーナがいなくなった後の世界では、どんなに身体の自由があろうとも、どんなにお金があろうとも、笑う事は出来ないだろう。


 もう、真っ暗な生活は嫌なのだ。

 大切な人と会えなくなるのは嫌なのだ。

 前の世界では、身体虚弱者である北條を家族は暖かく見守ってくれた。でも、結局北條はそのまま恩を返せず消えてしまった。

 もう、家族に出会うことはできない。恩を返すこともできない。


 それなら。


「僕はこの世界で、大切な人を守るために戦うんだ」


 後ろに倒れるシーナへと振り返った北條は言う。


「言ったろ。『君が襲われたら僕が助ける』って」


 彼は微笑みながら前を向く。

 視線の先には、幾人もの霊獣を殺し、その宝玉を体内に取り込んだ霊獣狩りがいる。宝玉を取り込んだ事によって力を増大させた彼は、神霊の攻撃をも防ぐと聞いた。

 もしかすれば、ただ力の振れ幅の上限が高いだけで、自分の力を十分に発揮できない北條は負けてしまうかもしれない。


「それでも、戦うって決めたんだ」


 相手がどんなに怖くても、相手がどんなに強く、自分に勝目がないと分かっていても。

 大切な人を守るために戦う。

 そう再び決意した少年は、その表情に笑みすら浮かべて言った。



「シーナ。罰ゲームは、二人で生きて、その後だ」

 

まずはじめに、よければ『お気に入りユーザー登録』をおすすめします。活動報告、多めになると思いますので。

ただいま『小説家になろう大賞2014』へ向けての新規小説を作成しています。

まあ、既に八話分の予約掲載を済ませて、2/25に解き放たれるようになっていますが。

もしよければ、そちらの方の応援もよろしくお願いします。

と、そんな事もあって、こちらの更新がまばらになるかと思います。

不定期更新、文字数少ない、等が発生する恐れアリです。

なるべく被害は最小に済ませようと思っているので、ご了承ください。

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