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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
36/43

#26 交錯 Transitus

シーナVSドロイト&契約精霊 です。


ここからはバトル多めになります。

 シーナは北條家を訪れる前、事前に他の場所に宿を取っていた。そこまでする必要は無かったのではないかとは思うが、念の為だ。

 持ち物は以前から溜めておいたノーラムリングと、簡単な闇耐性が施された白いコート。宿を取る分だけの金。

 そして今、彼女は街外れの廃墟で霊獣狩りの二人と睨み合っていた。 


「で、テメェは一人で俺様逹とやり合おう、そう考えてる訳だな? 俺様の記憶ではテメェは無様に尻振って逃げてた気がするが」


「……三年前のあの時は確かにそうだったかもしれない。でもあたしはもう、逃げない」


「ご立派な事で。でも、ちょっとソレは間違ってるんじゃねェのか?」


「は……?」


 クツクツと笑いながらそう言ったドロイトを見て、その言葉の意味を理解できなかったシーナは目を剥いて首を傾げた。元々薄く握っていた拳をより強く握りなおす。


「だってテメェさっき、"三年前のあの時は"って言ったよな?」


「…………ちょっと、待て」


「いや、おかしいなあと思ってさあ。確か俺様、三年前よりもっと前にもテメェが尻振る姿を見た事があるような気がするなァ……いつだっけ」


 ドロイトは驚愕に彩られたシーナの表情を睨めながらニヤりと笑って言った。


「七年前とか?」


 その直後だった。

 パキン! と何かガラスが砕ける様な音が静かな廃墟跡地に響いた。それと同時に、ドロイトから見て前方に大きな霊力反応が生まれる。

 シーナが腰に吊るしていたノーラムリングを破壊し、そこに溜めていた魔力が解き放たれる。赤い光を纏った彼女のソレは、華奢な身体を渦巻くように旋回してその身に宿った。

 彼女は霊獣と人間のハーフ、体内には霊力と魔力の二つのエネルギーが存在する。しかし、ノーラムリング――正確にはソレに取り付けられた魔水晶にとっては魔力の方が優先度は高い。そのため彼女の指輪に溜められていたのはその全てが魔力である。

 元々霊術を使えない彼女にとっては、溜まるのが魔力であろうと霊力であろうと殆ど変わりがないが。


「アンタ……どうして七年前の事を知ってるの」


 怒りに震える言葉を聞き届けたドロイトは、隣に立つ美女の紫髪を弄りながら吐き捨てる様に言った。


「どうしてって、俺様もその場にいたからだよ」


「その場にいた、ですって……? あの時あたしの村は魔物に襲われて、父さんと母さんはその時の爆発に巻き込ま、れて……」


 怒りの中に一瞬悲痛の色も混じる。

 そんなシーナの様子をつまらなさそうな顔で見据えたドロイトは、


「だから、俺様もそこにいたんだっつーの。まだ分かんねぇのか?」


「う、そ……」


「お前のご両親様は、俺様が殺して俺様が喰らったって事だよ」


 ギリッと歯を食いしばる音が聞こえたと思ったら、それとほぼ同時にシーナが思い切り地を蹴った。足元に転がっていた瓦礫が崩れ、後方へと吹き飛ぶ。強化付与をその身に宿した事による産物だ。


「うァァァああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 空を切って駆けたシーナはその眼に心火しんかの光を宿しながら、無造作にその腕を振るった。

 ドバッッッ!!! と言う轟音が炸裂した。

 現れたのは螺旋状に渦巻くドリルの様な風――否、竜巻といった方が分かり易いだろう。

 ドロイトとの距離僅か十五メートル程の場所から放たれた竜巻は、唸りを上げて彼へと殺到する。


 しかし。


「雑だねぇ」


 吐き捨てる様に言ったドロイトは、ポケットに突っ込んでいた右手を閃かせた。ソレは腰に吊るされていた刀――霊獣殺しの柄に伸び、抜刀するのと同時に迫り来る竜巻を叩き斬った。

 右に薙ぎ払う様に振るわれた霊獣殺しは、霊力と魔力によって構成された魔術の竜巻を、その刃の性質と斬撃の勢いで消し飛ばす。


「あァ、そうか。テメェ、人間と霊獣のハーフだから魔術っつっても他のヤツとは違うんだったな。霊獣殺しが微弱ながらも作用するって事は、今の魔術には魔力と霊力・・・で演算されている」


「――ッ!?」


 容易く己の術を掻き消されたシーナはその目を剥いて、そして気が付いた。

 何をやっているんだ、と。

 以前北條に伝えたではないか、自分は元々魔力量が多い訳ではない、一等級になれたのはおそらく技術面によるものだ、と。シーナが展開する魔術の威力を支えているのは、魔力ではなくその演算能力。北條の火力押しスタイルとは違う、戦術を組み合わせて戦うスタイルだ。


 なのに今の術はなんだ。

 怒りに任せて雑な演算をして術を展開、しかしそれは無様にも斬り飛ばされた。


(……冷静さが欠けたらもうおしまい。落ち着け、あたしはイツキ君みたいに強くない・・・・んだ)


 心の中で呟き、小さく息を吐いたシーナは聞く。


「七年前、アンタがあたしの両親を殺したってのはどう言う意味? 確かあの日、あたしが暮らしていた村は魔物に襲撃されて、あたしの家は魔物が起こした爆発で粉々。父さんと母さんはそれに巻き込まれて――」


 冷静を装っている事がバレバレなシーナの言葉を聞いたドロイトは、それを最後まで言わせずに声を重ねた。


「はァ、まあどうせ殺すんだから、アッチで待ってる親の死因くらいは知ってていいかもなァ」


 面倒くさそうに。

 シーナに哀れみの目を向けて言った。


「テメェは何か勘違いしてるかもしれないが、霊獣ってのはそんなにヤワじェねえんだわ。確かにあの日、爆発は起きた。まあ俺様自体、魔物が村を襲っているのを見て便乗した訳だしな」


「……、」


「つまり、だ。テメェの親はあの爆発に巻き込まれても死んでなかった。テメェが死んだと思うくらい悪い状況だったのは想像できるが、それでも生きてた。で、そこを俺様が殺し、宝玉を頂いたって訳だ」


 話している内容はあまりにも酷い物だ。シーナの目の前で、もしかしたら助かっていたかもしれない両親の命を殺したと言っているのだから。


「いやァ楽な戦いだったよ。なにせ人間と霊獣の契約、アレは人間が死ねば霊獣も死んでしまう代物だからな」


「つまりアンタは、母さんを無視して父さんだけを攻めたって事ね」


 隠しきれていない、剥き出しの怒気が含まれた言葉をぶつける。

 シーナの言葉を真っ向から受け付けたドロイトは、その通りだ、と愉快そうに言った。


「テメェの親――女の方の宝玉は凄かったぜ? 他に四つ、精霊の宝玉を喰らってるけどあの女の宝玉はズバ抜けてた。いやァツイてた」


「……そう。お父さんもお母さんも、アンタに殺されてたのね」


「そうだ」


 ずっと、両親はあの爆発に巻き込まれて殺されたと思っていた。村を襲った魔物を憎み、しかしその怒りを何処かに発散しようにも対象がなくてどうしようもなかった。

 結局、何に当たろうとあの時の怒りは消せていない。

 しかし。


「そう、良かった」


 シーナは哀しげな笑みを浮かべて言った。


「これであたしは、全力でアンタに挑める」


 直後、暴風が巻き起こった。

 シーナを中心に全方位に風が撒き散らされ、凝縮していく。散らばった全長十数センチ程の鉄の破片くらいは軽々と宙を舞うような威力の暴風は、まるで空気砲の様に音を立ててドロイトに向かって放たれた。

 火力は北條のソレとは比べ物にならないが、流石一等級の魔術師なだけはある。

 轟々と唸る暴風は積もった瓦礫の山を打ち崩し、しかしドロイトの霊獣殺しに斬り飛ばされた。


「そんなもんか?」


「どうかな」


 あ? とドロイトが怪訝な声を上げた時には、シーナはドロイトの裏に回り込んでいた。

 強化付与による身体強化と闇属性魔術による隠蔽術式。しかし、隠蔽術式の効力は闇魔術が十八番であるセリアのソレには大きく劣っていて、精々影を薄くする程度だ。

 それをカバーする為の派手な術式。

 暴風、風属性の高位魔術。


「あたしは威力に自信がないから――さっ!!!」


 持ち上げられた右脚に風が渦巻き、思い切り振り抜かれた。

 強化付与と風属性魔術の属性でもある速度上昇によって、目に止めるのも難しいくらいの勢いで振り抜かれたその右脚がドロイトの後頭部に向かって放たれた。

 まともに受ければ頭が吹き飛ぶだろう威力を持つ右脚は、しかしドロイトの頭に直撃する事は無かった。


「リア」


「えぇ」


 短い会話のやり取り。

 それだけでドロイトの隣に立っていたリアと呼ばれた女性が動き出した。

 シーナが振り抜いた右脚の軌道上に身を置いたリアは、手に握っていた刀剣の腹でソレを受け止めた。

 ガンッ! と鈍い音を立ててシーナの風を纏った脚を受け止めたリアは、もう片方の腕で同じく風属性の術式を展開、シーナの胸目掛けて風圧の砲弾を放った。


「がは――――ッッッ!!!???」


 直前にギリギリ最速演算で展開した障壁が多少は作用したのか、物理的にお腹と背中がくっつく様な事態にはならなかったが、強い衝撃と痛みが彼女の身体を駆け巡った。

 大きく吹き飛んだ彼女は、同じく廃墟の壁に激突し、だらりと崩れ落ちる。


「すまねェな、残念だけどこっちは二人いるんだわ。本当ならサシでやり合いたい所だけど、こっちとしてはさっさと宝玉手に入れて万全の状態で他の二人も喰いてェんだ」


「他の……二人……?」


 一瞬の間詰まっていた気道が開通し、咽せ上がる彼女は涙目で呟いた。

 二人。

 人数指定が無かったとしても、シーナが思い当たる節は一つしかない。

 神霊であるイヴと、その契約者の北條壱騎。

 この戦いに巻き込まないために、家を出て宿まで取って避けた相手。もしかしたらドロイトが二人に気が付いていないと言う可能性も無いワケでは無かったが、あんな強大な霊力をドロイトが見逃す訳が無い。


「あァ。でも他の二つの反応はテメェなんか非にならねェくらい大きいからなァ。早々にテメェの宝玉を喰らっておこうと思ってな」


 ゴッ!!! と。

 ドロイトの前方で轟音が鳴り響いた。

 瓦礫が辺りに吹き飛び、金属質な音が幾つもの場所で鳴る中、一瞬でドロイトとの間合いを詰めたシーナは決死の表情で殴りかかっていた。

 だが、それはドロイトに容易く受け止められる。


「あの二人には、手出しさせない――ッッッ!!!」


「出来るもんならやってみな」

 

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