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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
26/43

#16 霊獣殺し Krad_Killer

 北條とイヴが転移の術式によって霊界から姿を消し、下界に戻ったのを見送ったシグとリズはテーブルの上のカップと、結局手を付けなかったお菓子の小包を片付ける。


 今も尚、北條が座っていた席には彼の霊力の残滓が漂っている。霊力で満ちている霊界で判別出来る程に彼の霊力は強いものだった。


 本当に人間なのかを疑うレベルに。


「……リズ、本当に兄ちゃん、一体何者なんだろうな」


「分からない。でも、イヴお姉さんを支配するって事はかなりの強者だと思う。霊力に関しても、リングだけじゃあまり隠蔽出来てないし」



 基本的に霊力は霊力を持つ者にしか見ることはできない。となると一見、霊術師や霊獣がノーラムリングをつける必要はないと思える。それでも霊力保持者がノーラムリングを身に付けるのは、霊力に魔力としての性質も含まれているからだ。更に言えば、あまりに多い霊力は放っておくとダダ漏れになる。ノーラムリングには霊力を封印し、溜める事の出来る魔水晶が取り付けられている。と言うより、魔水晶がノーラムリングの本体と言っても過言ではない。



 いくら魔力としての性質がおまけのような物だったとしても、その絶対量が増えれば魔術師に感知される。それを防ぐために付けるのだ。



「……シグ達は長い間霊力と一緒だから扱いには慣れてるけど、イヴの姉さんの話を聞くに兄ちゃんが霊力を手にしたのは一年前。さらに言えば、契約する前は魔力すらダダ漏れだった。早く扱いに慣れないと、"その手の奴ら"に仕掛けられる」



「お兄さんとイヴお姉さんだったら大丈夫だと思うけどね。でも、少なくとも知る限り、ロックスフィードにはもう一人いる。霊力を持ってる人が」


「人間と霊獣のハーフ」


「うん。あの子は……どうだろうね。二人に襲われて生き残れるかどうか」



「霊力が漏れてれば、それを感知してロックスフィードが標的となる。イヴの姉さんと兄ちゃんが退ける力を持ってたとしても、ハーフの子が狙われたら危ないって事だな」



 シグは手を付けていないお菓子を戻し、窓から外を眺める。



 未だに雲一つない空には丸い月が輝いている。霊界と下界の違いは大まかに言えば二つ。満ちているエネルギーが魔力か霊力か。次に本来ならば霊獣のみしか入れないと言う点だけだ。



 おそらく今、下界の空にも月が輝いていることだろう。


「宝玉を取り込めば力は増大する。生成される宝玉は保有する霊力量で変化するから……万が一にもないと思うけど、兄ちゃんがやられたら……」


「霊獣狩りもその契約霊獣も……おそらく力量でリズ達を追い越す」


「困るなあ、そう言うの」


 シグが心底ウザったそうな低い声で呟く。


 

 人間が神霊を支配している時点で色々イレギュラーな自体だというのに、まさかその霊獣に仇なす霊獣狩りとその契約霊獣までもが下克上してきては溜まったもんではない。



「……さて」


 リズは小さく呟き、家の扉の前まで移動する。


「シグ達としても、ハーフの子は数少ない同類だからね。危険が迫っていることを分かってて知らんぷりする事は出来無い」


「それじゃあ、行こうか」


「あぁ」



 その直後、二人の身体の周囲に青い光――霊力の残滓が漂う。演算するは下界に転移するための霊術。 二人の足元にそれぞれ青いサークルが浮かび上がり、演算が完了する。


『狩りの時間だ』


 そして、再び霊界から二つの霊力反応が消えた。




 城塞都市でもある学園都市ロックスフィード、そこは巨大な壁で街を魔物から守っている。門には騎士の鎧に術式が施された召使ファムルス――騎士鎧ナイトアーマーが配備されていた。


 召使ファムルスには二種類あり、術者が直接操作するタイプの『遠隔型』と、術者が一度術式を施せば自律する『遊撃型』がある。騎士鎧ナイトアーマーが遊撃使であり、魔物に反応して自律して戦闘を行う様に設定されていた。


 門は合計四つ。その全てに二体ずつ騎士鎧ナイトアーマーが配置されていて、その戦闘力は危険度Cランクの魔物を相手にしても充分やり合える程のモノだった。


 ――それが、西門に配置されていた騎士鎧ナイトアーマーが、タダのガラクタに変貌していた。


「くはっ、対Cランク程度じゃ俺様は破れねえっての」


 高い城壁の上。


 そこに一人の男が立っていた。


 青黒いアーマーコートを身に纏い、腰には刀身およそ四○センチメートル程の刀が吊るされている。月の光に照らされるショートヘアは銀色に輝いていて、鮮やかな赤色の瞳は街全体を見回していた。



「感じる……感じるぜぇ、霊力の反応をよぉ。三つ――その内一つはどっかで一度見た事がある……? って事はあのハーフのガキか」



 不敵な笑みを浮かべた男は、高さ二○メートルの城壁を飛び降りる。常人ならば脚が骨折程度では済まない大惨事になりかねない行為も、彼は無傷でこなした。


 柔らかい動作――ふわりと言う擬音語が似合う程軽々しい動作で着地した男は、ポケットに手を突っ込んで辺りを見渡しながら歩き出す。


 時は十一時を越えようとしていた。街の中心から離れた城壁沿いの道には人の姿は確認できず、あるのはただ闇だけ。



「さーて、一人で来たのはいいものの、これからどうするかねえ。あのガキくらいなら俺様一人でも余裕だろうけど、あと二つの霊力は結構、それなりの奴らっぽいしなあ……面倒くせぇし、後の二体アイツと一緒に来た時でいいか」


 アイツ――その言葉が指すのは、彼の契約霊獣。一つ隣の街で今頃優雅にお茶でも飲んでいるだろう、女の精霊の事だ。


 霊獣狩り。


 男と精霊は一部事情を知る者にそう呼ばれている。



 彼らは霊力保持者を狩り、宝玉を手に入れて己の中に取り入れる事によって、自らの力を倍増させる。強さを求めて簡単に殺しができる、そう言う部類の生物だ。


「俺様――ドロイト=ガブリアル様が喰らってやるから、大人しく待ってろよ?」


 街全体で見ればまだまだ端だが、それなりに街の中に入り込んで広間となっている場所に差し掛かった時だった。


 新たな霊力反応。


 それも、かなり強大なモノ。


「神霊クラス――ッ!?」


 霊獣狩り――ドロイトがそう叫ぶのと同時に、その霊力反応の発生源が目の前に現れた。


 それは小さな少女の身体をしていた。


 それは容姿が酷似した二人の姿だった。


 金髪ポニーテールと、青髪ハーフアップの人形のような美少女。


 異名、『雷爪ライソウ』と『水龍スイリュウ』を掲げる序列第八位の神霊。


 神霊シグ、神霊リズ。


 双子は霊力の隠蔽に注いでいた意識の七割を殺気に変換してドロイトを威圧しながら言った。


「よぉ、霊獣狩りさん。ロックスフィードに何か用かな?」


「そう簡単に宝玉喰らえると思ったら大間違いだよ?」


 異常な程の霊力が衝撃波となってドロイトに襲いかかる。ソレを真っ向から受け止めた彼は、表情に不敵な笑みを浮かべて小さく身構えた。



「まさか、まさかなあ。三体だけでも充分な手柄だったてのに、神霊様が二体も出てくるとはなあ。……俺様一人じゃ仕留められるか分かんねぇけど、試してみるのもいいかもしれねぇ」



 幼い容姿でありながらも鋭い目付きで睨んでくるシグとリズを睨み返しつつ、右手を腰のベルトの元へと持っていく。そこには一振りの刀が鞘に納めて吊るされている。


 霊獣殺し。


 霊力を持つ者に対して絶大な効果を発揮する武具である。


「へえ、シグ達とやり合おうって? 所詮精霊の契約者の癖に随分と強気なんだな。それとも、現状を理解できていないタダの間抜けか?」



「人を見てくれで判断してもらっちゃ困るよ。容姿は幼い少女のものだけど、リズ達は歴とした神霊――貴方のところの契約精霊なんて容易く屠れるのよ?」



 シグとリズの煽るような言葉を聞いて頬を引き攣らせたドロイトは吐き捨てるように言う。



「随分と俺様もフォルも舐められたもんだなぁ。容易く屠れる? ハハッ、やれるもんならやってみろよ? テメェらは知らねーだろーけど、俺様達は既に五つの宝玉を喰らってる。それなりにいい勝負になるんじゃねえかなあ?」


 右手に握った霊獣殺しの刀身の先を地に付けて小さく構えながら、


「それに、この『霊獣殺し』だってあるんだ。もしかしたらテメェら、その長い人生も今日で幕引きかもな?」


「お前みたいな輩に五人も喰われてしまったのか」


 ドロイトの言葉に顔を顰めたシグが悲しげな声音で呟く。


 精霊も神霊も、何度でも生まれ変わる。



 霊獣という存在は死ぬ時には必ず一人となって誰にも見つからぬ場所に行き、そしてそこで絶命する。宝玉と化した霊獣は長い時間をかけて再び精霊として命を得るのだ。



 勿論、前世での記憶は持ち合わせていない、ただ自分は霊獣であり、特別な力を持った存在だという知識を持って新たな人格として生まれるのだ。


 しかし、その宝玉を取り込まれれば生まれ変わる事は出来無い。


 もう、ドロイトによって取り込まれた霊獣の宝玉が再び霊獣として生まれ変わる時は永遠に来ないのだ。


「……可哀想に。こんな奴に喰われて、続くはずだった命を断ち切られるなんて」


「おーおーお優しい事で。どうせ神霊様だって自分より格下の精霊を見下してたりするんだろーがよ」


 笑いの中にも明らかな怒りを含んだ、そんな表情をしたドロイトが言い放った瞬間に動き出す。


 常人が出せるスピードを逸脱した跳躍。おそらく一瞬で強化付与の霊術、もしくは魔術を己に施したのだろう。


 シグとリズが立つ前方へ跳んだ彼は、そのまま右手に握った霊獣殺しを一閃した。


「まだまだだね」


 リズの声が聞こえる。その直後には霊獣殺しは振り切られていて、その刀身はその場に残った二人の残像を切り裂いていた。


 ドロイトと同格のスピードで彼の背後に回り込んだシグとリズは同時に術式を演算する。


 二人の術式演算能力は凄まじいものだった。


 基本的に魔術よりも難易度の高い霊術の術式を素早く、且つ精密に演算した二人はそれぞれの術をドロイト目掛けて一直線に放つ。


「轟雷よ」


「水竜よ」



 顕現せしは稲妻の様に轟々と唸る雷と、竜の形を模した水流。シグの轟雷は闇夜を照らしながら突き進み、リズの水竜はまるで咆哮の様な唸りを上げて進撃する。



 どちらも並の魔術師を遥かに凌駕した術だ。魔術師で表すならⅠ等級程の実力がなければ防ぐ事はまず不可能な領域。


 ソレを見たドロイトは嬉々した様子で声を荒げる。


「くっはぁ! いいね、いいね最高じゃねえか! 流石神霊様、容易くその領域の力を発現するか!」


 一歩後退して右肩を前に突き出す様な姿勢を取ったドロイトは、向かってくる轟雷と水竜を睨みつけて霊獣殺しを一閃した。


 銀の剣閃を闇に描いた霊獣殺しは周囲に衝撃波を放ちつつ、二つの霊術を迎え撃つ。


 そして、振るわれた刀身がシグとリズの術と交錯した瞬間だった。


 術が――轟雷と水竜が弾け飛んだ。


 正確には、霊獣殺しの刃が二つの術に触れた瞬間、術を構成していた霊力が乱されて崩壊した。


「……そういう事か」


 シグは、月の光を浴びて銀色に輝く霊獣殺しの刀身を睨み付けて呻く様に呟く。


 隣に並んで立つリズも忌々しいモノを見るような目付きでソレを見た。


「霊獣殺し……つまりそれは斬った対象の霊力を掻き乱してるって事ね」

次回

『双龍VS霊獣狩り其の弐』


ノミの心臓が潰れかけたので、更新速度が落ちるかと思います。詳しくは近々活動報告にて……

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