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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第二章 魔術学園編 Nullam_turpis_Edition
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終章finale Marcello_finale

第二章はこれで終了です!

 結局夕食まで食べていったシーナとメリアンが自宅に帰ったのは八時頃だった。学園を出たのは大体2時頃だったから、六時間程北條の家に居座っていたことになる。


 その二割程の時間をトイレで過ごした北條とシーナ――シーナは断りきれずに飲み続けた――は、終始ぐったりしたまま虚ろな目を浮かべていた。


「もう、無理。もう、ミルクティー嫌い。もう、ヤダ…………」


 ぶつぶつと念仏を唱える様に口を動かす北條。ソファに倒れたまま呻いた彼は、キッチンで何やら作業をしているらしいイヴに暖かいお茶を要求した。


「ありゃ、聞こえてない……?」


 返事がない事を疑問に思った北條は、妙な倦怠感に包まれた身体を無理やり動かしてソファから起き上がった。


 その頃。


「……ちっ、今日も結局メリアンさんに勝つ事が出来なかった。一体何が悪いんでしょう……いくらなんでもメリアンさんはおかしい気がします。私は毎日頑張っているというのに」


 イヴは自分がどうしてメリアンより美味しいミルクティーを作れないのか試行錯誤していた。

 どうやってもメリアンに勝てない、そう呟いた彼女はふとある事に思いついた。


「そう言えば、かなり長い間顔を出していませんでしたね。……久しぶりに出向こうかしら」


 顎に人差し指を当てて可愛らしい仕草で首を傾げた彼女は、洗い物を済ませて濡れた手をタオルで拭い、そのまま一緒に食器の水滴も拭き取る。


「イツキ様はぐったりしてますし、少しの間出掛けてきますか」


 彼女はそう呟くのと同時に何やら呪文の様なモノを唱え始めた。

 神霊――霊獣にのみ与えられた高位の術式。もちろん魔術ではない霊術の一種で、その難易度は並の魔術の比ではない。同時に霊力の消費量も多く、精霊だと数時間休まなければいけない程。

 転移霊術。

 徐々に彼女の周りに薄い青色の光が漂い始める。霊力の残滓と術式の光だ。


「……でも、あそこに行ったら"あの男"が絡んでくるから嫌なのよね……」


 呪文の詠唱を終え、段々と青白い光が強くなっていくサークルの中でイヴは溜め息混じりに呟いた。

 その口調から、どうやら彼女がこれから行こうとしている場所には面倒くさい人物がいるらしい。

 身体から相当な量の霊力が術式に奪われていくのを感じながら、彼女は徐に目を閉じて言った。


「『転移、霊――「イヴー、暖かいお茶ぁー」界!?』イツキ様!?」


 突如背後に現れた北條は、青白い光が増して行き、完璧に術式が出来上がった状態のサークル内に立つイヴの肩に手を置いた。

 しかし無情にも術式は作動する。

 転移が始まった。


「ぬあ――ッ!?」


 サークル内に足を踏み込んでいた北條に合わせるようにして、サークルが広がった。それと同時に、彼の身体も青白い光が包み出す。


「え、ちょ、嘘!?」


 イヴの悲鳴にも似た声が家の中に響き渡り、そして二人の体にノイズが走る。

 その直後。

 二人の身体が学園都市ロックスフィードから掻き消えた。




 大自然という言葉がよく似合う場所だった。緑が生い茂る大きな森、山や丘。そして底が見える程に透き通った水が流れる美しい小川。川辺に敷き詰められた石も全て美しく形が整っている。異常な程澄んだ空気が美味しい。


 この"世界"に住まうのは魔力を持たない純粋な動物と、人間と魔物よりも高位の存在である精霊や神霊等と言った霊獣のみ。

 霊界。

 本来ならば・・・・・霊獣のみが行き来することが可能な世界に、二人の人物が来ていた。


 広がる緑の草原。

 そこに一人の美しい女性が立ち尽くし、黒髪黒瞳の少年が尻を付いていた。

 狐の耳と尻尾を携えた彼女は、すぐ隣で座り込む黒い少年を見据えて目を見開いて固まっていた。対する少年も、いきなり変わった光景に目をパチクリさせながらキョロキョロしている。


 九尾の妖狐の神霊と、その契約者である霊術師。


 本来ならば・・・・・ありえない現象だった。


「こ、ココどこ……?」


 呆然と呟いた北條の隣で、イヴが慌てて表情を取り繕い、冷静な声音で言った。


「ココは霊界。本来ならば、霊獣のみしか来る事が出来無い、霊獣の世界です」


「……ふぁ?」


「ココは霊界。本来ならば、霊獣のみしか来る事が出来――」


「それはもう聞いたよ! だから、じゃあどうして僕は"霊獣のみしか来る事が出来無い霊獣の世界"とやらに来てるの? て言うかココどこ!」


 美味しい空気を吸い込みながら北條はしきりに顔をキョロキョロと動かす。しかしどこにもロックスフィードの街並みはない。


 夜で、しかも人工的な光がないためか、空に輝く金色の月が異様に眩しい。おそらく夜の間この世界を照らす役割を果たしているのはあの月なのだろう。


「それは私が聞きたいですよ! ……普通ならこの世界に人間がやって来るなんて有り得ないはず――普通なら?」


「???」


「そう言えば、そうでした。イツキ様は、普通じゃないんでしたよね」


「おい、僕は普通の人間だ」


 さも北條は普通の人間ではない、全く別の生き物だと言っているような彼女の口ぶりに思わずツッコミを入れる彼だったが、ようやく彼女の言わんとしていた事に気がつく。


「そういう事か。僕は……異世界人だったね」


「はい。先程も言いましたが、ここは霊獣のみが来る事の出来る世界なんです。先程キッチンで展開していた私の術式は、この世界に転移するための転移術式――霊術です」


「その術式の展開中に僕がイヴの身体に触れてしまったから、その転移に巻き込まれてしまったって事だな」


「そういう事になりますね……」


 深刻な表情で何かを考える様に首を傾げるイヴ。

 直後、いくつもの霊力の反応が近づいてくるのを感じ取った北條は、一瞬でその表情を引き締めて飛び跳ねるようにして立ち上がる。


(ココは霊界――と言う事は、霊獣がいる。さっきシーナから聞いた話が確かだと、霊獣が皆信用できるわけじゃない……)


 北條は脳内で思考を張り巡らせ、いつでも霊術を展開させられる様に構えた。

 それに比べてイヴは気楽な様子で「三人……」と呟いていた。


「あー! イヴの姉さんが男連れてるー!」

「イ、イヴのお姉さんが男の人を連れてきた……」


 ボーイッシュな声と気弱そうな声。双方共に少女のモノだった。


「あぁ? イヴの気配ともう一つ……誰だ、コイツ?」


 次の声は青年のもの。しかしその声音にはどことなくトゲが感じられ、あまり好印象を持てないモノだった。

 そんな三人の声を聞いたイヴが、北條の隣で徐に口を開いた。


「シグ、リズ……ヘリオス」




 


 


これにて第二章が終わりとなります。ここからはオーバーラップに向けて細かい改訂などの作業に入ります。


第三章をお楽しみにしていてください

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