#13 初日Ⅸ Primo_dieⅨ
本日四話目。これで今日の更新は終わりとなります。
溢れ出た魔力とそのオーラを見る限り、おそらくAランク相当の魔力量を誇っていると推測できる。
北條が実際に彼が触った魔力量測定のプレートを見た訳ではないが、何となく感覚的にBランクのシーナに近い、しかしそれよりは上の魔力を感じ取った。
ノーラムリングの封印の力は、魔力量測定のプレートの前では役に立たない。
魔力(霊力)を封印するために"加工を施された"魔水晶より、そのまま形をプレートとして変換しただけの魔石の方が優位なのだろう。
解き放たれた魔力に感情を任せ、高々と雄叫びを上げるカゼルを見据えた北條は、至って冷静に小さく腰を落とし、どんな術が来てもいいように構える。
結界の外側にいる生徒達のピリピリとした緊張感が伝わってくる中、カゼルの動きは北條の想像を反したモノだった。
強化付与によって己を強化したのか、猛烈な勢いで地を蹴ったカゼルが一瞬で北條との間合いに詰め寄り、炎を纏わせた拳を下段から振り上げてきた。
(速――ッ!?)
油断していたのか、突然速くなったカゼルの動きに目を剥いた北條が咄嗟に左腕を構えた。
カゼルの拳が二の腕を掠り、鈍い、電撃にも似た衝撃が走る。痛みは感じないのに衝撃は感じるという不気味で気持ち悪い感覚に顔をしかめつつ、もう片方の手で殴りかかってくるカゼルの足を払って前方に跳んだ。
「魔術だけじゃなくて体術も使ってくるか。ちょっと予想外だけど、伊達に僕も半年イヴとやりあってないよ?」
自分に言い聞かせるように呟いた北條は、元々の魔力消費してから折ると言う作戦を変更。空中に巨大な水弾を生み出してカゼルへ集中砲火する。
「しゃらくせえ!」
腕に纏わり付いていた炎が巨大化し無造作にそれを振るった。水弾と激突した炎は、見事にソレを消し飛ばしていく。
「へえ、手加減したつもりはなかったけど、属性の効果を無視し撃ち勝つか」
「舐めんなよ、俺だって自力で一等級になったんだ」
「流石。さっきの強化付与といい、今の炎と言い、演算能力も上等だ」
「だからテメェのその上から目線が気に食わねんだよ三下がァァァ!!!」
挑発。
短気なカゼルを煽るのは簡単なことだった。
北條的には自分がこんなことを言う性格ではないと自覚しているため、物凄い違和感に襲われているところだが、仕方がない。
自分が上の立場になったことなんてないけれど。
この男の考えを改めさせなければ。
「うォォォおおおおおお!!!」
「――シッ!」
魔力変換フィールド内が、魔術によるものではない物理的なダメージが通る空間だと知ってからか、積極的に魔術以外での攻撃を仕掛けてくるカゼル。
そんなカゼルの炎を纏った拳を弾き返し、態勢を低くした北條はゼロ距離で水属性の水弾をカゼルの鳩尾に向けて放った。
「がァッ!?」
魔術攻撃による痛みは発生しないものの、鳩尾に襲いかかった衝撃が痛みとして変換されて、後ろに吹き飛ばされながら呻く。
壁に激突したカゼルは忌々しい者を見るような鋭い視線を北條に向けた。
「……君は五等級の事を三下魔術師だと言ったね。君はⅤ等級をゴミ同然だと言ったね」
「あ? そうだよ、何か文句あるのかよ!」
「大アリだよ。魔術を使うのには才能が大きく関わってくることはこの世界を見ればよく分かる。明らかに魔術は便利なものなのに、それを使わないで冒険者として働く戦士職の人だっているんだから」
「それがどうしたってんだよ」
鳩尾を摩りながら立ち上がったカゼルが、ゆっくりとした、しかし物凄い威圧の込められた北條の言葉を聞いて言い返した。
この世界で魔術師になれる者は決して多いとは言えない。むしろ全世界人口的に考えても少ない方だ。
北條が言ったとおり、魔術の扱いには才能が大きく関わってくるからだ。
「確かに、冒険者にしても国の騎士団にしても、そうやって魔術以外の力を振るえる人がいなければいけない事は分かる。それを得意としている人はそっちの道を行けばいい。でも、魔術師になりたくても、己に才能がないためになれない人だっているんだ」
黙って北條の言葉を聞くカゼルを見据えて続ける。
「現状、冒険者の七割は魔術師ではない近接系の戦士職だと聞いてる。迷宮に潜ったら、魔術師の方が魔物相手に優位な立場で戦えるだろうね。でも、それでもソレが出来ないから危険な戦士職を選んで戦う人だっているんだ」
いつの間にか生徒の視線も、カゼルを見据える北條へと集中していた。
過去に一度大規模な事件があった。
幾つもある迷宮のうち、潜る冒険者が全然いなくなった所の魔物が増えすぎて、迷宮から溢れ出し、街を襲ったという事件だ。
かなり昔の話だが、死者は数千人もいたらしい。
「誰かが戦わなきゃいけない。過去の事件も理由の一つだし、何よりそうしなければ生きていけないから、食っていけないから冒険者を生業としている人もいる。でも皆努力しているんだ。ここに入学した生徒達も同じだ。この教室にいる一等級だけじゃない、等級が下の人も沢山いる。でもみんな頑張って、努力して、才能って言う大きな壁を越えようとしてるのに、君はそんな人達をゴミだの三下だの、そんな事言える立場にいるのか?」
北條にも超えられない壁はあった。
虚弱体質。
しかし彼は、諦めてしまった。
努力をやめてしまった。
絶対に治らない病を抱え、皆と一緒にサッカーがしたいという小さな小さな願いさえも諦め、絶望に浸ってしまった。
だからこそ分かる。
そうなった時の虚しい思い――虚無感を。
何より辛さを。
「自分が五等級だって、劣等生だって事を分かってた生徒は新入生の中にも沢山いただろうね。それでも頑張りたいからこの学園に入ったんだろう。僕はそうやって人生の逆境の中、頑張る人をゴミ呼ばわりする君の方が」
チラリと、カゼルをいつも取り巻いていた少年達に目線だけを向けて、
「――よっぽど醜いと思うけどね」
一言、そう呟いた。
「……んだよ」
「……、」
「……るせんだよ」
聞き取れない程小さく呟くカゼルを見て小さく構える。
「うるせぇって言ってんだろうがよォォォおおおおおお!!!」
真っ赤な眼光を輝かせたカゼルの身体が、ゆらりと傾く。倒れそうになったカゼルを支えた脚が勢いよく地を蹴り、一直線に北條へと走り出す。
その腕には、既に炎は纏われていない。
ただ、血が滲まんばかりに強く握り締められて赤くなった拳が、思い切り後ろに振りかぶられた。
「ただの悪役か」
微かに、カゼルも何らかの事情を抱えて五等級を無碍にしてきたのかもしれない、と言う考えが頭を過ぎっていたが、今の彼の様子を見てそうではないと判断した北條が小さく呟いた。
「らァッ!」
見事なまでのフルスイング。
溜めが長すぎるその殴撃を態勢を低くする事で躱し、勢い余るカゼルの左足――つまり殴るモーションの際に最も体重がかけられる手前の足を払った。
一瞬で強化付与を施した北條は、屈んだ状態から一歩後ろに下がって、自分の方へと前のめりに倒れてくるカゼルの顔面目掛けて拳を振りかぶった。
「お前が考えを改めないのなら僕はもうどうしようもない」
近づいてくるカゼルの顔面目掛けて、北條はその拳を振り抜いた。
「これは五等級の皆の代弁だ! 一辺眠って更生してこい!」
ドバッ! と。
北條の渾身の一撃がカゼルの顔面の中央に突き刺さった。
12/23 活動報告見に来てください。
キナ臭い展開になりました、、
あぁ、僕、やっぱり小説書くの下手だなあ、と切に思います。
もっと沢山書いて上達するので、どうか末永くお見守りください!w