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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第二章 魔術学園編 Nullam_turpis_Edition
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#12 初日Ⅷ Primo_dieⅧ

自分的にもこの展開はどうかと思うのですが、下手で申し訳ありません。


本日三話目!

 叫んだ直後、カゼルによって生み出された巨大な炎剣が振るわれた。

 芸がないとは言うまい。

 彼が得意とする炎属性の術式。その中で最も基礎威力が高く、リーチも変幻自在で扱いやすい術式がコレなのだ。炎の刀身は魔力調節によって自由に変更でき、威力も長い間演算動作を繰り返してきたため、強い。

 よって彼が一番自信を持っている術である。

 まずは一撃。

 あの調子に乗った三下に浴びせてやろう、と。

 片手に小さな火の玉を一つ乗せただけの無防備な北條を見て、ニヤリと笑ったカゼルは連続して炎剣を放った。


「甘い」


 北條がそう呟いた直後、手に乗っていた火の玉が巨大化して、北條を守るように動き出した。

 彼が使っているのは紛れもない下位魔術であり、自動的に敵対分子を排除してくれるようなモノではない。あくまで彼が操作しているものなのだが、その操作に彼は指先を動かすという小さなアクションのみで対応した。

 カゼルが生み出した炎剣を容易く消し去る。

 残ったのは北條が生み出した下位魔術の炎だけだ。


「く――ッ!」


 一層険しい表情を浮かべたカゼルが、再び術式の演算を開始した。水色の粒子――氷属性の魔力が身体の周りを浮遊する中、勢いよく地に手を付けた。

 いつしかのセリア戦の際に見せた氷属性の霊術の様に、地面に水色の魔法陣が浮かび上がった。

 途端に、カゼルの目の前の地面からいくつも氷の手が生え、それは槍の形を象って北條に向かって突き進んでいく。

 辺りの長机を巻き込んで凍らせながら突撃する氷の槍を見て、煩わしそうな表情を浮かべた北條が再び炎を振るった。

 本人はそんなつもりは毛頭無いが、まるで虫を払うような仕草にカゼルはギリッと歯を食いしばる。


「畜生がァ!」


 叫びながら、周囲に術式で水を発生させる。まるで渦潮のように渦巻くは段々と一点に凝縮していき、ゆっくりと虎のカタチを模していった。

 やがて出来上がったのは三頭の巨大な水の虎。

 魔術の水によって出来た虎だ。

 造形術式は攻撃魔術の中でも難易度が高いと言われる術である。カゼルは全ての属性とは言えないが、火と水の造形術式ならある程度使える程の実力を持っていた。


「行け!」


 ガルルッ! と唸りを上げた水の虎が、まるで空中にある見えない足場を蹴る様にして跳んでいく。

 三方向から接近してくる北條は感心した表情で呟いた。


「ほう、水属性は火属性に相性がいい。僕の火ごと消し去ろうって戦法か」


「その余裕な表情が気に食わねぇんだよ三下がァァァあああッッッ!!!」


 右手を前に突き出して強く握り締めながら叫ぶカゼルの言葉を聞いて、顔を顰めた北條は咄嗟に術式を変更した。

 すなわち、火属性の術式から水属性に優位である雷属性の術式へ。


「炎の威力を強めて迎え撃ってもよかったんだけれどね」


 呟いて、両手に生み出した電撃――否、既に電撃の域を脱して雷と化したソレを水の虎に向けて放つ。


「クソが、それも下位魔術じゃねぇか!!!」


 込める魔力――北條の場合は霊力だが――の量次第でコレほどまでに威力が変わってくる。勿論術式の精密さも大きな影響を与えるが、やはりその影響力は使用エネルギー量の方が上を行くらしい。

 ――カゼルは北條の魔力測定の結果が最低ランクのEを示したことを知っているため、やはり何らかの小細工を使っているように見えてしまうらしいが。


『グルルァッ!』


 空中で雷を浴びた水の虎達が悲鳴を上げながら消滅するのを見て、カゼルは下唇を噛む。

 どんな術を使っても。

 どれだけ自信があった術だったとしても。

 目の前の五等級は楽々と相殺していく。

 攻撃はしてこない。攻撃する暇を作れていないのではなく"攻撃するまでもない"と思っているのだろうか。

 それでも、その受身な態勢はやはり自分をナメているようにしか感じれなかった。


「あぁぁぁああああああッッッ!」


 カゼルの攻撃は続いた。

 彼が使える術は全て試した。

 火・水・雷・氷・風・地・闇・光の八属性、全て。

 しかしソレは、容易く北條に相殺される。難しそうな表情も、辛そうな表情もせず、まるで服についた誇りを払うような動作で術を操り、カゼルが展開する術式を無情に消し飛ばしていった。


「あ、あぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 喉が潰れんばかりに叫び声を上げたカゼルは、一瞬で強化付与を己に施し、怒りに任せて突撃した。


「……、」


 溜息を付くのが聞こえる。それによって更に己の心情を制御できなくなったカゼルが、がむしゃらに炎剣を振るった。

 戦闘中に自分を見失ってはいけない。

 常に冷静に、敵の細かい動作や周囲の状況を把握する必要がある。

 アウラに戦闘狂だと称されたセリアは、しかししっかりと状況把握をしていた。そのため、北條がセリアの死角から放った攻撃さえも、闇の剣で打ち落とすことが出来る。

 だが、どうやらカゼルにその様な真似は出来なかったらしい。


「ガラ空きだ」


 炎剣を軽い身のこなしで避けた北條は、掌に炎を纏わせてカゼルの肩を撃った。


「がァッ!?」


 軽く吹き飛ばされたカゼルが、無様に尻餅をついて肩を抑えた。

 魔力変換フィールド内でダメージが魔力消費で肩代わりされるのは、魔術によるダメージのみである。

 今の北條の攻撃のうち、炎によるダメージは結界によって魔力消費と言う形に変換されたが、打ち込まれた物理的なダメージはそのまま彼の身体に響く。


「冷静さがまるで足りない。僕が言えることでもないけど」


 カゼルを見下ろす北條。

 その言葉を聞いたカゼルが目を大きく見開いて、小さく息を吹いた。

 痛みのおかげもあってか多少は落ち着いたらしい。しかしどうにも、北條に対する怒りだけは払えきれなかったらしい。

 忌々しい者を見るような目つきを北條に向けてカゼルは不敵に笑った。


「クソが、何でテメェみたいな三下にこの俺が尻餅付かされなきゃいけねェんだ、クソ! 気に食わねぇ、気に食わねぇよ」


 恐ろしい程に低い声を発したカゼル。

 おそらく今の声は教室中の誰にも聞こえていなかったことだろう。

 右手を左手の人差し指に向かわせる。

 その右手は、そこに嵌められた一つの指輪に触れ、そして掴んだ。


「……あくまで認められないんだね」


 北條も彼の様子を見据えていた。

 ノーラムリングが付けられていた事は、先程彼が長机に拳を打ち付けていた時に気が付いていた。

 仕合をする事となり、もしかしたら外すかもしれないとも想定していた。

 焦る必要はない。

 いくらここで魔力量が増えたところで、北條には当たらない。カゼルの術の威力よりも自分のソレの方が上回っていることは分かっている。

 避ける必要はない、全て魔術で相殺すればいい。

 冷静な判断が難しい状態の彼ならば、無駄に魔力を消費して魔力切れを引き起こし、勝手にダウンするだろう。

 そうすれば、己の無力さに気が付くはずだ。


(別に僕は君が嫌いだとかそういうワケじゃない。確かにいちいち構ってくる所は面倒くさいけど、君の言い分も分からない事はない)


 カゼルは自分自身の力で一等級の位を勝ち取り、そしてこの教室にやって来たのだ。

 そこに、五等級と言う最低ランクの男が女子達に囲まれているところを見れば誰だっていい気分はしない。

 北條の場合、訳ありの五等級なのだが、彼が霊術師だと言う事を知らないカゼルは納得しないだろう。


(でも、自分が場違いだって事は分かってるけど、君の僕に対する――いや、全ての五等級の術師に対する態度は許せない)


 三下。

 ゴミ同然。

 底辺魔術師。

 どれもカゼルが北條に、イヴに、そして全ての五等級に放った罵倒だ。


 北條も、過去にそういった経験はあった。ソレはカゼルの様に、罵倒する相手が知らない状態――つまり陰口ではなく面と向かってだったが。

 身体が弱いことを、幾度も馬鹿にされ続けてきた。勿論、公の場で罵倒して先生に怒られるようなことをするような相手ではなく、皆が知らぬ場所でだった。


 北條は誰にも言わなかった。

 言った所で何も解決はしない。

 自分でそう思い込んで、自分の中にその想いを閉じ込めていた。


(自分は出来るからって、出来ない人を悪く言う……現実にも、漫画にもそう言う人はいた。でも、そう言う人は絶対に、何処かで罰を受けなければいけない)


 余計に悪化する場合もあるが、既にそう言う経験があった北條でも彼の言動には許せないものがあった。

 これでカゼルが変われば良し、ダメだったのならコレはただの北條の鬱憤晴らし。


「さあ来い、カゼル君。君の魔力が無くなった所で自分の言動を悔い改めさせてやる」


「あぁぁぁああああああッッッ!!!」


 直後、ノーラムリングによって封印されていた魔力が解き放たれ、カゼルの周りに魔力のオーラが発生した。

 

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