#11 初日Ⅶ Primo_dieⅦ
※文章が少ないくせに本日は連続投稿予定です。
※自分の表現力の無さに打ちのめされました。ご注意ください。
本日二話目!
イヴの演習もすぐに終わった。
彼女が得意な属性の一つ、氷属性の魔術で相手の職員を氷漬けにし、ダメージの代わりに削られる魔力が切れる寸前で氷を解除すると言う鬼畜な方法で戦闘不能にし、演習終了。
この演習の目的は、敵――この場合は職員だが、その相手にちゃんと魔術を使えるかを見たり、属性の傾向やスタイルを確認するためのものだったらしい。
「取り敢えず、みんな冒険者の魔術師みたいな傾向があるわね。それも別に悪くないんだけど、街に外に出れば魔物がいる。一人で戦わなければいけない場面も出てくると思うの。だからそう言う時にしっかり対処出来る様に、自分のスタイルを見直してみてね」
教室に戻った北條達は席に戻り、教卓の前で声を上げるアウラを見ていた。
チャイムと同時に教室を出て行ったアウラを見届け、北條は溜息をつきながら隣のイヴに声を掛ける。
「イヴ……流石にさっきのアレはまずいだろ。あの先生、かなりビビッてたよ?」
氷漬けにして魔力をダダ漏れ状態にさせたあの所業を指摘すると、イヴは口を尖らせて言う。
「面倒だったんですもん」
身体的ダメージを魔力消費に書き換える魔力変換フィールドがなかったとしたら、あの職員の命も危なかっただろう。分かっていてやっているとは思うが、あまり好ましくはない。
そもそもイヴやメリアンのやり方だとアウラの目的が果たせていない様な気もするが、学園長のお墨付きと言う事で許されているのだろう。
どういう経緯かは知らないが、メリアンはセリアの弟子のようなモノらしい。
彼女が得意とする属性は水と雷。今日の様子を見る限り、例の入学試験の際の北條にかなり影響を受けているらしい。
戦術的な技術が甘い北條は、火力ゴリ押しでセリアを圧倒していた。
今日のメリアンの演習は薄らとその北條の面影を写していた。
「別に大丈夫なの。私もイヴさんも、わざわざ演習なんてする必要ないの。学園長のお墨付きなの」
口を挟めてきたメリアンが薄らとドヤ顔を浮かべてそう言った。
その時だった。
「――気に食わねぇ」
ガゴンッ! と何かを蹴った様な音が教室内に響き渡り、生徒達の視線が一点に集中した。それには北條やイヴ、メリアンやシーナも含まれていて、まさに教室中の全ての人達が一斉にそちらを向いた。
教室の端、常に三人の取り巻きを周りに置く少年、カゼルだった。
長机を蹴飛ばしたのだろう。一つだけ列を外れて斜めになっている。
集まる視線を受けて舌打ちしたカゼルは、椅子を後ろに跳ね飛ばしながら乱暴に立ち上がり、強く足音を出しながら北條の元へと歩き出す。
「……、」
その様子を見たイヴは、鋭い目つきをカゼルに向けて、北條を守るように前に出た。
カゼルとて、やはり一等級。
魔術の腕はその等級に値する程のモノだった。
アウラの煽りを受けた彼は、固定砲台スタイルからがむしゃらに魔術を放つスタイルに強制変更させられ、彼女に満足げに頷かれていた。おそらくアウラの様子を見るにそちらの方が良かったのだろう。
――だとしても、イヴには届かない。
しかし、イヴの様子を見ても物怖じせずにカゼルは北条とイヴ、その隣に座るメリアンを睨んだ。
「おい、そこどけよ女」
「……、」
「チッ」
何も言わずに鋭い目つきを続けるイヴを見たカゼルは、青筋を浮かべて舌打ちすると、彼女に隠れるように――その気はない――座っている北條に視線を向けた。
「おいテメェ、どんな小細工使いやがった?」
カゼルは憎々しげな声音で、疑いかけるような表情で言った。
その言葉に一瞬ポカンとした北條だったが、慌てて表情を取り繕って尋ね返す。
「小細工? 何の話?」
「とぼけるんじゃねぇよ! テメェ五等級じゃねえか、なのにどうしてあんな威力の術を展開できる!? しかもあれ、ただの下位魔術じゃねえか!」
「とぼけてなんかないよ。確かに五等級だけど、見たまんまだよ。普通に展開した、それだけ。種も仕掛けも小細工もない」
「……嘘ばっか付いてんじゃねえよ。五等級――最低等級のテメェがあんな術使える訳ねえだろうが!」
怒りによるものか震える声音でそう言い放ったカゼル。いつの間にかその拳は長机に叩き付けられていて、それも同じように震えている。
拳を視線で追っていた北條は、その震えが痛みによるものか怒りによるものか考えながらも言う。
「つまり君は現実逃避をしたい訳だね?」
「んだとゴルァ!?」
「確かに僕は五等級だ。学生手帳にもそう記されているからあとで見せてあげよう。でも使えたんだよ? 君もその目で見ただろう?」
「――うっ!?」
「紛れもない事実。君の目の前で起きた現象。誰かの噂話でも伝聞でも何でもない。君の目が僕の魔術の炎を見たはずだ」
憎々しい目つきで北條を睨みつけるカゼルを見て大きな溜息をつく。
その様子に遂にブチ切れたカゼルは、唾を飛ばしながら声を荒げた。
「ふざけんじゃねえ! 俺はソレに何か裏があるんじゃねえかって聞いてんだ! 五等級如きが、落ちこぼれの分際で、俺より強い術を使えるはずがねえんだよ!」
「……はぁ。自分の話題を出してくるって所で今のが現実逃避だって裏付けてるよ。つまり一等級の自分が五等級如きのゴミ同然な魔術師に劣っているのが信じられないんだね?」
「――テメェ!」
青筋を浮かべたカゼルが一歩前に踏み出してくるのを手で制しながら言う。
「いいよ。なら試してみるかい? 君と僕との仕合で」
嘘偽りの無い事実。
目の間で起きた現象。
確かに、五等級と言う最低ランクを示す魔術師が、一等級の魔術師よりも強い魔術を使っていれば誰でも信じられないと目を剥くだろう。更に言えば、北條が使っていた術式は下位魔術の物だ。
明らかにおかしい。
しかし、事実なのだから仕方がない。
「だってどうせ僕が何を言っても信じないんでしょ? だったら体験してもらうしかないよね。自分の身で味わってみれば、それが事実なのか事実じゃないのか、なにか小細工を使っているのかそうでないのか分かるはずだよね?」
「……いいじゃねーか。掛かってこいよ三下。俺が相手してやる」
挑発するように人差し指をクイクイとするカゼルを見据えた後、突然バン! と開いた扉の方に視線を向けた。
「……アウラ先生」
「話は全部聞かせてもらったわ。全く、血の気が多いものね。信じられないのも分かるわ。私もどうして"イツキ君程の術師"が五等級なんてランクを示されたのかって思うからね」
一度言葉を区切ったアウラが何らかの術式演算を開始した。その直後、教室内を囲むように結界が張り巡らされる。
魔力変換フィールドだ。
「本当は教室での魔術の行使はあまり好ましくないんだけどね。責任は私が受け持つわ。カゼル君、君が納得するまでイツキ君の相手をしていいよ?」
冷めた、薄らと光が消えかけてるアウラの目を見たカゼルは、息を飲んで北條を睨みつけた。
既に彼の掌には小さな炎が生み出されている。演習の時に使っていた下位魔術である。
ソレを見たカゼルは、殺気すらも溢れ出そうなくらいに表情を険しくする。
「あくまでその魔術を使うつもりなのか」
「僕はまだ下位魔術しか使えないものでね」
「ナメやがって……一等級ナメてんじゃねえぇゴルァァァあああッッッ!!!」