#10 初日Ⅵ Primo_dieⅥ
※文章が少ないくせに本日は連続投稿予定です。
※自分の表現力の無さに打ちのめされました。ご注意ください。
本日一話目!
己が発した爆炎が、アウラが言っていた魔力変換フィールドと呼ばれる結界によって、他の生徒に危害を加えてないか再確認した後、右手の人差し指を動かした。
その動作に呼応して動く炎を見て、小さく「よし」と呟いた彼はアウらの方へと向き直った。
「さて、始めましょうか」
北條の余裕な口ぶりに、額から冷や汗を垂らしたアウラは不敵に笑った。
「それで下位魔術……いいでしょう、掛かってきなさい」
「とは言っても、まだ僕はただの火力魔ですけどね」
呟いた直後、先程のカゼルの動作を思い浮かばせるような挙動で爆炎を纏った右腕を振るった。元々下位魔術であったはずの炎は、しかしカゼルの魔術よりも巨大な炎剣――否、炎斧と成ってアウラへと襲い掛かる。
アウラは両手に携えた光剣を一閃した。炎斧に向けて振るわれたソレは光の剣閃を放ち、モノの見事に北條の術を威力で打ち消した。
流石、と言った所だろうか。術式演算の精密さや術そのものの威力は、一ヶ月程度の修練による付け焼刃の術よりも優っている。
「熱い、流石はあの学園長に認められただけの事はあるわね」
「それはどうもです」
肌に熱気を感じながら呟いたアウラに、すぐ近くから北條が囁いた。
巨大な炎の斧で視界を遮り意識を向けさせた後、北條は同じく付け焼刃の下位の強化付与によって強化された脚力で地を蹴り、アウラの懐に潜り込んでいた。
「――ッ!?」
絶句するアウラに、既に右手に備えられた炎が振るわれた。
北條の術の威力とて、今現在はアウラのソレに劣るものの凄まじいものである。
演算の精密さは比べるまでもなくアウラが上だが、その分彼は膨大な霊力で威力を補っていた。
術の威力を決めるのは、主に術式演算の精密さと使用魔力量にある。
具体的に上げれば術師との相性等も関係してくるが、九割方その二つで威力は決まってくるのだ。
演算に霊力を使い過ぎれば術式暴発する事も稀にあるが、しっかり調節すれば威力は肥大する。
「くっ、速いわね」
普通なら容易く人の体を穿つ威力を持つ術だったが、魔力変換フィールドと言う結界がしっかりと作用しているらしい。アウラの身体には傷一つ見られない。
その代わり、ドッと魔力が削られたようだ。
「一撃でこんなに魔力が取られるのね。生身で受けた時を考えたらゾッとするわ」
「流石に人殺しはしたくありませんけどね」
呟く北條は一度右腕の炎を打ち消した。
「折角の実践ですし、ちょっと試してみましょうか」
そういうのと同時に術式演算を開始する。その数、合計八つ。
それはこの世界に存在する属性を示す数だった。
ぶわっ、と顔に汗を浮かべた必死の形相の北條を見て、目を見開くアウラ。
その直後、北條の身体の周りに八属性の下位魔術が浮かび上がった。
「くっ、はぁ、はぁ、キッつい。血管が破れるかと思った」
荒い息を吐く北條は、目だけで身体の周りを見た。
火球、水玉、電撃、氷刃、小風、土弾、闇塊、光槍。
そこに浮かぶ全てが、属性を持つ攻撃魔術の中で最も下――最下級の基礎となる術式だった。
「やばい、集中しないと消える――あっ」
呟いた直後、光属性の最下級魔術――光槍がノイズを走らせて消えてしまう。
「やっぱり、対極となる二属性を同時に保つのは無理か」
闇属性と対極となる光属性。
闇は光に強く、光に弱い。
光は闇に強く、闇に弱い。
お互いがお互いの弱点であるその二属性は、全八属性の中でも最も扱いづらいと言われる属性である。
「そう考えると、やっぱりセリアさんって凄かったんだなあ……アウラ先生も」
「わ、私はおまけなんですね」
「そういう訳では無いですよ。実際、ここにいる人達の中でその二属性を使ってたのって本当に少数でしたし」
「それこそ、上手く扱えてたのはアスティアさんだけね。学園長みたいに闇属性の剣を作り出して戦う……私も剣の腕はそれなりだと自負してるけど、少し危なかったわ」
「どことなくセリアさんに似てますよね、アスティアさん」
「同感よ」
直後、炎と光が激突した。
地面を伝ってアウラに向かって突き進む炎が、なんらかの術式によって生み出された長草にノイズを走らせながら爆発した。
爆発の範囲内にいたアウラは光剣を閃かせて爆風や熱を払い、同時に光の剣閃を北條に向けて放った。
巨大な光が襲い来る中、それよりも巨大な炎剣を生み出して対抗する。
「でも、やっぱり全部付けたままの術の威力じゃ勝てないか」
術式演算が完璧とは言えない彼は、使用霊力量でソレを補っている。
セリアとの戦闘の際は、相手が攻撃をしてこないために防御の必要がなく、攻撃に徹することができたが、今のアウラとの演習は攻撃と称するには際どい、しかし威力のある術を放ってくる。
故に防御の必要がある。
「くっ」
咄嗟に下位の結界術式によって障壁を生み出した北條は、光の剣閃がソレと激突する瞬間、己に強化付与を施して横に飛び、死角からアウラに向けて跳んだ。
遠距離攻撃は北條にとって部が悪い。
アウラの光剣の術式はかなり高度なものだろう。おそらく、セリアの闇の剣よりも威力は上だ。その分セリアは『刹那《Momentum》』と呼ばれる、魔力がある限り反則的な効力を発揮する術でカバーしているが。
あの光剣から放たれる剣閃の威力に、ノーラムリングを全て付けたままの北條は拮抗するので精一杯。
となるとやはり、元々の身体能力と強化付与によって生み出されるスピードで錯乱させ、近接攻撃で削るしかない。
完璧な死角から飛び込んだ北條は、炎剣を生み出してアウラの横腹を狙って振るう。
「――シッ!」
しかし、北條の炎剣は光剣によって防がれた。
「な――ッ!?」
「ゴメンネ、長いこと学園長と剣を打ち合ってるとね、嫌でも反応できるようになっちゃうのよ。何せあの人、あなたぐらい突然速く動いたりするんだもん、気が付いたら懐何て事はよくある話」
光剣によって炎剣を弾かれた北條は一気に後退、アウラとの距離を取る。
「へぇ、そんなにセリアさんと仕合してるんですか、羨ましいですね」
「うふふ、でもいい事ばかりじゃないのよ? この魔力変換フィールド、痛みとかそういうのは全て魔力の消費で肩代わりしてくれるけど、攻撃を受けた際にはちゃんと身体に衝撃が走るんだから。まあ、微弱なものだけどね」
「へえ、そうだったんですか」
「あ! まだ私がイツキ君に一撃も入れてないからそう言う事言うんでしょ! でも学園長は凄いよ。仕合になると、本当に楽しんでる表情を浮かべるの。言っちゃ悪いけど、まさに『戦闘狂』って感じがしたわ」
「分かりますよ」
苦笑しながら答える北條を見て目を見開いたアウラは、すぐにその目を細める。
「さて、それじゃあそろそろお仕舞いにしましょうか」
「ん。そうですね。残りイヴもいますし、時間的にはいい感じじゃないですか?」
空中に浮かんでいるように見える時計に視線を向けて呟いた。
北條の時間が来るまでに、他の生徒で結構な時間を食っていたため、三時限目が終わるまで残り十分もない。
北條の両手に炎が宿る。
アウラは両手に携えた光剣を構える。
そして再び、その二つが激突した。