#9 初日Ⅴ Primo_dieⅤ
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文章が粗雑かもしれません。
「実技演習、ねぇ。下位魔術だけだけどちゃんとやっておいて良かったなあ」
修練場二――もとい平原の隅で、職員と魔術の打ち合いをする生徒を眺めながら、北條は小さく呟いた。
どうやら知らぬ間にアウラが言っていた結界が張られているようで、中で弾ける魔術は生徒達には届いていない。空中で見えない壁に遮られている。
セリアに忠告された北條とイヴの二人は、例の交渉の日に書店で魔術教本を購入し、下位魔術だけではあるが習得したのだ。
とは言え、下位魔術である。
プロの魔術師相手に通用するかは分からない。
「下位ってことで魔力込めすぎてオーバーヒート、とかあったら怖いわ」
「まあ、無きにしも非ずって所だね。使用魔力量が多すぎてオーバーヒートって話は今まで無かったと思うけど……」
ただ単に下位魔術を好んで使うプロの魔術師がいなかっただけかもしれないが、前例は無かった。
シーナは顎に手を当てて偽物の空を見上げながら、
「でもイツキ君程の霊力なら下位魔術の暴発って言うのも有り得るね」
「あれ? 僕、シーナに霊力量の話とかしたっけ? ノーラムリングは一応付けてるし……」
「え? いや、学園長倒すならそれなりに霊力必要だろうしね。それに、等級検査の時あたし見えたよ? 貴方の霊力の柱」
「???」
「等級検査……多分イツキ君が魔法石に触れた時じゃないかな? 霊力の柱が空に向かってドカーンってね。流石にビックリしちゃったけど」
「そ、そんな事が起きてたのか……」
その時のことを思い出してみるが、やはり記憶にない。おそらく、最低等級である五等級だったことがショックで他の事に気が向いていなかったのかもしれない。
そうこうしている内に次々と演習が終わっていき、シーナの出番がやって来た。
「あ、あたしだ。それじゃあ行ってくるね」
北條は走っていくシーナを見送る。
流石シーナと言うべきだったのだろうか。
量ではなく技術で一等級になれたと自負するの納得できる戦闘スタイル。 今までの生徒達は、よくあるターン制のRPGの様に、遠くから放つ言わば魔術の撃ち合いの様な雰囲気があったのだが、シーナは強化付与によって強化された身体で、動き回って錯乱し、魔術を叩き込むというスタイルを取っていた。
「お疲れ様。流石だね」
「あはは、ありがと」
戻って来たシーナとハイタッチをする北條。労いの言葉を受けたシーナは微笑むと、北條の隣に並んで次の生徒の試合を見る。
「やっぱり遠距離から魔術を撃つだけ――固定砲台みたいなスタイルの人の方が多いね」
「まあそれも仕方ないことだよ。今迷宮に潜ってる冒険者パーティの魔術師だって、基本的に後方支援ばっかりらしいし。そう言う傾向にあるんだよ」
「でもそれじゃあ万が一、一人で何らかの敵と相対しなければいけない時に戦えないよね。動かないんじゃあ恰好の的だよ。――この世界は、街の外に出れば魔物と出会うようなトコロなんだから」
「あれれ、何かイツキ君の口ぶりが別の世界も知ってる人みたいな感じになってるけど?」
「ん? え、あぁ、そんな訳じゃないけどさ」
頬を掻いてやんわり否定する北條。
そして遂に、例のカゼルの出番が回ってきた。
「それじゃあ君の相手は私、アウラが努めましょう」
平原の中心で互いに向かい合って立つカゼルとアウラ。
「よろしくお願いします」
カゼルはそういうのと同時に、術式を演算した。身体の周りに渦巻くように現れた魔力の色からして、炎属性の術式だろう。その量も流石実力で一等級を取っただけある。
「にしても、炎ねぇ」
呟く北條の目は細められている。
もしかしたら、これはチャンスなのではないだろうか? と。
彼は炎を得意としているのだろう、そしてそれは北條も同じ。
北條としても、争い事と言うのはあまり気乗りしないのだが、いつまでも見下されたままと言うのも癪だ。
「うぉぉぉおおお!!!」
雄叫びを上げたカゼルが、巨大な炎を纏った腕を振るった。長さ五メートル程はあるだろう炎剣が、アウラに向かって横薙ぎされる。
「あら、もしかして貴方もそう言うスタイルなの?」
その呟きは、おそらく平原にいる誰も聞こえていなかっただろう。
アウラの左手が白く閃いたと思ったら、カゼルの炎剣は跡形もなく消えていた。
「――ッ!?」
あまりの速さの中で行われた一動作、何が起きたのか理解できていない様子のカゼルは目を見開いて固まっていた。その視線が、アウラの左手に向けられる。
そこには、光があった。
まるで十字架の様な形を模した光の剣。
ソレは彼女、魔術師アウラ=ヴィリアンを示す代名詞とも言える術式。
『光剣《Lux_Gladio》』
術式の威力は劣るものの、その剣術の腕はセリアと張り合える程を持つ魔術師。
「さあ、こんなものではないのでしょう? カゼル君」
最初に見たアウラを忘れさせるような自信のある声音を聞いたカゼルが、口元を引き攣らせながら笑うと、その言葉に触発されたかのように動き出した。
実はアウラはサディストなのか、対抗して炎剣を振るうカゼルを翻弄しながら笑っていた。
「……あれ、あの痛々しいアウラ先生はどこいったの?」
初めて北條の呟きに一等級組の生徒が頷いた時だった。
次々と演習が終わっていく。
メリアンは一撃で相手職員を気絶させてしまい、演習終了。
アスティアはセリアにも似た闇属性の剣を作り出し、アウラと好戦したが一歩及ばず。
そして残り、北條とイヴの二人の順番が回ってきた。
「……次、イツキ君」
アウラの声に呼ばれた北條が、平原の隅からその中央へと移動していく。
それを見たカゼルはいつもの取り巻きに囲まれながら、そんな彼の様子を見て笑っていた。
《イツキ様》
《ん?》
突然イヴから念話が送られてきて、慌てて返事をする北條。
彼女の声音には若干の怒気が含まれていた。
《あのガゼルとか言う奴に知らしめてやってください》
《わかってるさ。それと、ガゼルじゃなくてカゼルな》
《あら、そうでしたっけ?》
《……まあいいや。行ってくるよ》
視線だけをイヴに向けて念話を送った北條は、中央で相手職員と向き合った。
「で、僕の相手はやっぱり貴方なんですね。アウラ先生」
目の前で既に光の剣を両手に備えたアウラを見据えて、肩を竦めながら言う。
先程までは片手のみだった光の剣が両手に生まれている。それに気が付いた生徒達がざわざわし始める中、アウラは笑いながら答えた。
「学園長が褒め称える貴方の実力、私も見てみたいからね」
「お手柔らかにお願いします」
「それはきっとコッチのセリフだよ……じゃあ、掛かっておいで、イツキ君」
アウラはそう言うと、両手に備えた光の剣を構えた。
光属性を得意としているなら、光と対局な闇属性の専売特許でもある隠蔽術式を上手く扱えなくても、使えるだけで上等だと心の中で呟いた北條は、炎属性の下位魔術を演算、展開した。
手の平サイズの火の玉が、北條の右の掌にふわふわと浮かんでいる。
それを見たカゼルが鼻で笑った。
「はっ、炎属性の下位魔術じゃねぇか。やっぱりⅠ等級組にⅤ等級は場違いだったんじゃないのか?」
取り巻きとわざわざ大きな声で笑うカゼル。気がつけば他の職員もそれぞれ「何で学園長はあの少年を一等級組に?」だとか「下位魔術しか使えないんじゃないのか?」だとか囁きあっている。
確かに下位魔術しか扱えないのは事実だ。しかしそれは、現状の話。
小さく笑った北條は呟いた。
「さて、下位魔術はどこまで持つかな」
直後だった。
手の平サイズだった炎に魔力としての性質も合わせ持った霊力が注ぎ込まれた。
轟! と。
北條から見て右方向に爆炎が生じた。
「――ッ!?」
衝撃波に乗った熱気を受けたカゼルの表情が驚愕に染まる。
現れた炎は、既に下位魔術の範囲を超えていた。
自分の右腕をも包み込んだ爆炎の片翼を見た北條は感心したように口笛を吹いた。
「やるじゃん、下位魔術」
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追記/12/22 夜、更新予定