#7 初日Ⅲ Primo_dieⅢ
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しかも日刊一位になっている!?
驚きましたびっくらこきました。
本当にありがとうございます! これからも頑張ります!
何とかホームルーム前に教室に戻った彼は、集まる視線の中ぐったりした様子で席へと着いた。
カゼルが北條の姿を見た途端に舌打ちしたのを聞いて、イヴが再びカゼルに突っかかろうとするのを止め、大きな溜息をつく。
シーナが寄ってくるのを横目で見ながらメリアンが言った。
「イツキ、学園長は何の用だったの?」
「ん? えーと……僕とイヴの等級が何故五等級なのかと、何故五等級の僕等が一等級のクラスになったのかの説明だよ。なんでも、純粋な魔力を持っていない僕等の実力は魔法石じゃ測れないらしい」
「おかしいと思ったの。学園長すら圧倒するイツキが五等級な訳ないの」
「ふぇ、イツキ君、あの学園長を圧倒しちゃったの?」
シーナがおかしな声をあげて驚いた後、小首を傾げて尋ねる。
ここにいる面子、つまりメリアンとシーナは北條が霊獣と契約した霊術師である事、そしてイヴが霊獣の中でトップクラスに君臨する神霊だという事を知っている。
北條はシーナの質問に苦笑しながら、
「いやあ……まあね」
「凄まじかったの。あの学園長がイツキのイイように弄ばれてたの」
「やめてくれ何か違う意図を感じる気がする」
メリアンの言葉を否定しながら机に突っ伏す北條。
そんな彼を見てクスリと笑ったシーナは、
「それじゃあそろそろホームルーム始まるし、席もどるよ」
シーナがそう言った途端に、教室の扉が開いた。
「あ、やばっ。先生来ちゃった。じゃあね」
「おう」
手を振り返して視線を扉の方へと向ける。そこに立っていたのは身長一六○程はあるだろう女性だった。黒に近い濃い紫色の髪の毛は肩に掛かるくらいまで伸びていて、瞳も髪と同様に濃い紫色をしている。
大人な女性という雰囲気を放つその教師は、扉を締めて教壇まで移動した。
そして、教室全体を見回した後、小さく息を吐いた彼女は凛とした、しかし少し幼さが残った声で言った。
「おはようございます。私が一学年、一等級クラスを担任する事になったアウラ=ヴィリアンです。何かといたりゃない……所があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
ペコリと礼をするアウラ。
噛んだのをスルーしようとしたアウラを北條は呆然と眺めた後呟いた。
「噛んだな」
「噛みましたね」
「噛んだの」
イヴとメリアンも北條に続いて呟く。
それは教室内に伝染していき、皆が皆口々に「噛んだ」と呟いている。
ざわつきを聞いたアウラが薄らと目元に涙を浮かべて抗議の声を上げた。
「ちょ、やめ、皆酷いよ、許してぇ……」
ざわつきが静まった後。
アウラはコホンと咳払いをした後に、姿勢を正して言った。
「改めまして。アウラ=ヴィリアンです。これでも一応一等級魔術師だから、あんまり馬鹿にしないでね?」
唇に人差し指を当てて軽く前傾姿勢を取るアウラ。おそらく色気を出そうとしていたのだろう。
「ちょ、ちょちょ、なんでそんなに白けるの? 私、そんなに痛い?」
いや、確かに可愛い……と言うより綺麗なのだが、何故だか理由は分からないのだけれど、この人がやると白ける。
北条も同じように白けた表情で細い眼を向けていると、アウラがそれに気が付いた視線が噛み合った。
――そしてそのままアウラは、小さくウインクをかます。
「――ッ!?」
「どうかしたんですか? イツキ様」
突然驚いた表情で仰け反る北條を見たイヴが怪訝な表情で尋ねる。それを聞いた北條は、そのままの表情で首を振って「なんでもない」と告げた。
今のウインクはどういう意図だろうか?
少なくとも北條はこの教師、アウラ=ヴィリアンと出会ったことは無い。全くもって身に覚えがない。
短時間で二度目の咳払いをしたアウラは教壇に両手を置いて話を切り出す。
「コホン。このあとは入学式よ。一等級らしく堂々と胸を張ってちょうだいね?」
「一等級とはかけ離れた五等級とかいるじゃねーか」
カゼルが物凄い小声で何か言った様な気がしたが、北條はソレをサラリとスルーした。いちいち構っている暇はないし、変に食いついてボロを出すわけにも行かない。
関わらないのが一番である。
「イツキ。あんな奴の戯言気にしなくていいの。イツキが凄いのは私が知ってるの」
「メリアンさんの言う通りですわ。その内イツキ様の実力を知って真っ青な顔して泡吹く事になるでしょう」
イヴとメリアンが真面目な顔してそういうのを聞いて苦笑する。イヴは相当キてるみたいで、固く握尻目られた拳が震えている。
これ以上はカゼルの身が危ないと思った北條が小さく溜息を付いた。
「イヴ。取り敢えず生徒に手を出すのだけはやめてくれよ」
「わ、分かっていますわ」
顔をそらして言い放つイヴ。そこまで気にする必用は全くないのに、どうやら彼女の耳は北條への罵倒センサーの様なものになっているらしい。
北條への言葉にも薄らと怒気が含まれている。
流石の北條もカゼルのあからさまな態度を見て様々な感想は持ったが、その中に怒り等と言うものは含まれていなかった。
彼にとっては無自覚かもしれないが、おそらく『弱者の戯言』だと本能が判断したのだろう。
カゼルは相変わらず、椅子に浅く座って足を長机の前に投げ出すだらしない態勢をしている。
「まあ、十五歳ならそういう時期だしね」
北條は今の見た目こそ初々しい高校新入生のソレだが、本来なら彼は十七歳。つまりは大学受験生のはずだった。
カゼルの精神年齢が肉体年齢と比例して上がっているかどうかは分からないが、それでも北條は彼より大人である。
彼の発言にいちいち反応する必要はない。
「そろそろ移動するよ。廊下に並んでね~」
アウラの声が教室内に響き、ガタガタと椅子の音が鳴り出す中、北條はイヴの手を取って立ち上がらせると言った。
「まあその内ギャフンと言わせる時が来るだろうから、それまで大人しくしていよう。いくら僕でも最初から最後までナメられっぱなしは嫌だしね。――それと、万が一にもイヴ、君が絡まれたとしても絶対に手を出しちゃダメだからね? お前はもう他の生徒より大人なんだから、大人らしくしなよ?」
「……分かりました。私はここの子供達より大人ですもんね。分かりました」
意外と精神年齢が低いのかもしれない――もしくは北條に忠実すぎる――イヴを見て苦笑すると、先に行ったメリアンを追い掛ける様にして教室を出た。
入学式と言うのはやはりどの世界でも同じようなものらしく、小学、中学、高校と体験してきたソレと何ら違う点の少ない普通の式だった。
違う所といえば、職員の話は八割方魔術の話だった事と、校歌の存在が無かった事くらいである。
ステージの上の教壇の前に立ったセリアは、やはりこの学園の学園長で、尊厳やら威厳等と言う、魔力とはまた別のオーラが漂っていた。凛とした声音で新入生を迎える彼女の視線は、全生徒の中でより強大な魔力を持つ者を転々としていたが。
やはり魔術師と言う人種は力ある者に惹かれるのだろうか。
メリアンが北條の力を見た時も、恐怖というより驚愕や尊敬等と言った感情の方が大きかった。もっとも、戦う以前の北條の様子を見ていると言うのは、彼女の心境に大きな影響を与えていただろう。
ギャップ、と言うのが正しいかもしれない。
普段の北條は一人称が『僕』だと言う事もあってか、少し弱々しく見えてしまうところがある。そのため、簡単にカゼルの様な輩に煽られたりする。
もっと堂々としていればいいのだが、何分、生前の身体虚弱者時代の影響が残っているようだ。
何事もなく無事に入学式を終え、最初の休み時間に入っていた。授業は一時限五十分、休み時間が十分となっている。
既に友達と言うものを作った他の生徒達は、それぞれ固まって何やら楽しそうに雑談をしている。
――聞こえてくるのは魔術についての話やら、女子によって繰り広げられるカッコイイ男子についての話やらだが。
北條はやはり、イヴとメリアンとシーナの美少女三人に囲まれていた。
「いやぁ、メリちゃんはずるいなあ。イツキ君と席となりで。あたしだけ離れてるんだもん」
「た、たまたまなの。運が良かったの」
シーナの言葉にメリアンが顔を逸らせながら呟いた。勿論、セリアに頼んで席を隣にしてもらった等と正直に言うつもりはないらしい。
メリアンがニコニコ笑うシーナと目を合わせない様にしている中、何か決心した様な表情で北條が立ち上がった。
「ん、どうしたの?」
「いやね。あのヒトに朝のお礼をしに行こうかと思って」
行ってくるよと手を振った北條は、そのまま教室の一番後ろに目を閉じて座る少女の元へと向かった。
「……何か用か?」
北條の気配に気が付いたのか、灰色ポニーテールの彼女は片目だけを開いて腕を組んだまま彼を見据えた。
北條は頬を掻きながら苦笑し、
「えーと、さっきのお礼をしようと思いまして。ありがとうございます。僕はイツキ=ホウジョウ……五等級なんですけど、これからよろしくお願いします」
「礼などいい、ただの気まぐれだ。……私はアスティアだ」
「アスティアさんですね、この節は本当にありがとうございます」
「同級生なんだ、敬語じゃなくていいぞ。それと、もう少しシャキっとしたらどうだ? そんな態度だからあの男にあんな事言われるんだぞ?」
「う、それはまあ……そうですね」
アスティアは閉じていたもう片方の目を開いて、両目で北條を見据えた。
「見た感じ、ただの五等級ではないんだろう? 身体付きもそうだが、あの二人が関心を示すほどには普通ではないんじゃないのか?」
「……ま、まぁ、訳ありって事にしておいてください」
「ふ、まぁいい。そろそろ始まるぞ?」
腕を組んだまま視線を教室の壁に下げられた時計に向けるアスティア。それに気が付いた北條は苦笑しながら席に戻った。
椅子に付いた時、隣のイヴが後ろを向いているのを見た北條は、首を傾げて尋ねる。
「どうした。イヴ?」
「……いえ、何でもありません」
イヴが視線を向けていた先を探すも分からない。北條はそんなイヴの様子を見て怪訝な表情浮かべながら、頬杖を付いてアウラが来るのを待った。
数分後。
鐘の音と同時に扉が開かれ、妙に場を白けさせるのが上手い教師ことアウラが入ってきた。
教室に入ってすぐの所で立ち止まった彼女は言った。
「さあ、二、三時限目は実技試験よっ!」
起伏がないと言うか、ストーリー性がないお話が続いて申し訳ありません。第二章にあたる今の段階では面白味にかける土台作りのような感じが続きます。第三章からは面白くなると思う(?)ので、申し訳ありませんが、お付き合いください。
活動報告多用予定。
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