#5 初日Ⅰ Primo_dieⅠ
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それから北條は必死に魔術の修練を開始した。
何せ等級検査で魔法石に触れたところ、最低等級の五等級を示され、渡された生徒手帳に最低等級の烙印を押されたからだ。
イヴも同様に五等級だったため、まだなんとか心の拠り所があるものの、その結果は北條の頭にガツンと響くものだった。
魔術よりも扱うのが難しいと言われている霊術を楽々と扱えている彼が最低等級なのはおかしいからと、職員に訴えようとしたイヴは北條に止められていた。
結果は結果だ。
「……で、どうしてこうなった?」
北條は長机ににその身を突っ伏しながら呻く様に言った。
彼は今レイヴス学園の学生服――黒いコートに肩から袖口まで赤いラインの入った礼服を身に纏っていた。その指にはいつも通り赤く染まった魔水晶が取り付けられたミスリル製のノーラムリングが十個嵌められている。
ココはレイヴス学園新入生の教室だ。
それも――一等級の。
「まあまあ、いいじゃないですか。イツキ様にはここで学ぶだけの素質がありますわ」
微笑みながらそう言うのは彼の契約神霊であり従者である神霊イヴ。
グラマラスでナイスバディなモデル体型は、北條と同じ――しかし女性用の学生服に包まれている。先程から胸元が苦しいとうるさいため、北條は軽くあしらっていた。
そんな彼女も指に五つのノーラムリングを嵌めている。
彼女は北條の左隣で制服と胸の間に手動で隙間を作りながら、
「それにしても本当にキツイですわねこの制服。後でセリアにもう少し大きいの用意してもらいますわ」
「程々にしとけよ~」
北條の適当な返しに、前の席に座った少女がクスリと笑いながら続けた。
「イヴさんの胸は大きすぎるんだよ。何をどうやったらそんなに大きくなるの? あたしなんてこんなのなのに」
その少女は自分の胸――こんなのとか言っているが十五歳にしては大きい方だ――をペタペタ触りながらそう言った。
その動作に頬を赤くして顔を背ける北條を見てからかう様な笑みを浮かべるのは、シーナ=レイラン。
桃色の髪と澄んだ水色の瞳を持つ美少女だ。
その本質は霊力と魔力の両方を備え持つ、霊獣と人族のハーフ。数年前に魔物に襲撃され、両親は爆発に巻き込まれて死んでしまったらしい。
そして北條やイヴとは違い、正真正銘の一等級である。
「シーナの言う通り、大きすぎなの。邪魔くさいだけなの」
北條の右隣で負け犬の遠吠えじみた発言をしたのはメリアン=ユイハード。
肩に掛かるくらいの美しい銀髪にはゆるいウェーブが入っていて、整った顔立ちをした少女。青金石の様な深い青色の瞳は、イヴの巨大な胸を睨みつけている。
彼女はここ、レイヴス学園の学園長であるセリアの弟子であり、シーナと同じく一等級だ。
そんな彼女の言葉をイヴはやはり負け犬の遠吠えだと認識し、その大きな胸を強調するかのように組んだ腕で持ち上げると、
「あらあらメリアンさん、負け犬の遠吠えですか? ミルクティーの件は今の所、い・ま・の・と・こ・ろ私の負けですが、貴方がバストで私を凌ぐ日はこなさそうですね?」
「ナメてるの、ナメきってるの。イツキは貴方の様な脂肪の塊より、私の様な整った形で丁度いいサイズの方が好みなの」
「おいおいやめなよ。イヴ、お前少し大人気ないぞ?」
それにしても相手は霊獣なのに、メリアン随分と度胸あるなあとか思いながらも仲裁に入る。
側ではシーナがニコニコしながら二人のやり取りを見ていた。
「それに、あんまり騒ぐと注目されるから、てかもう注目されてるから。本当に勘弁してお願い」
もう少しすれば泣いてしまいそうな北條の顔を見た二人は、渋々と言った様子で言い争いを辞める。
「仕方がないですね。ミルクティーの件、首を洗って待っていてくださいまし」
「そんな日一生来ないの。イツキはミルクティーの味じゃなくて私が入れたミルクティーが好きなの」
「な、なんですって……ッ!」
一触即発のカオスフィールドの中で呻いた北條が、メリアンの方に乗り出したイヴを抱きしめる――北條は全くそんなつもりはない――形で自分に寄せて、抑えながら言った。
「馬鹿イヴ! 本当にもうやめて、タダでさえ五等級って事で変な注目されてるんだから、これ以上僕を晒し者にしないでくれ」
「ははは、はい、す、すいません!」
一瞬で顔を赤くしたイヴが吃りながら謝るのを聞いて、小さく溜息をつきながら離れる北條。
メリアンのジト目に気が付いた北條が「な、なに?」等と吐かす為、彼女は少し不機嫌である。
「あはは、仲いいね~」
そんな中でシーナだけが笑顔を浮かべて呑気にしている。
メリアンが溜息をつき、イヴがいまだ赤い顔で自分の席に座り直したその時だった。
「あー、ココって確か魔術師の最高等級を示す一等級のクラスじゃなかったっけか? なんかうるさい三下魔術師がいるような気がするんだけど、気のせいかあー?」
わざとらしく教室全体に聞こえるような大きな声でそう言ったのは、教室の右端に座り、机に足を乗せた金髪の男だった。
いわゆるイケメンと言う奴なのだろう。と言うよりも、この世界には――言葉が悪いが――ブサイクとかブスとか言った類の人種は存在しないらしい。皆が皆整った顔立ちをしている。
この世界で北條が埋もれていないのは、彼もそれなりのイケメンというやつだったからだろう。
「そうっすよ、ここは一等級の教室。最低等級の五等級がいてはいけないですよね、カゼルさん!」
そんな事を言ったのは明らかに一等級とは思えない魔力量の少年。精々Ⅲ等級程度しかない彼は、おそらく金かコネでこのクラスに来たのだろう。その理由が魔術の上達のためか、それともカゼルと呼ばれた少年の取り巻きをするためかは定かではないが。
その他二人の取り巻きを連れたカゼルは、机の上に乗せて組んでいた足を組み直して、
「そうだよなあ。なんでそんなゴミ同然な魔術師がココにいるんだろうなあ?」
ニヤリとした悪い笑みを浮かべたカゼルは、チラリと教室の窓側の端――つまりは北條へと視線を向けた。
それに気が付いたイヴが冷徹な目でカゼルを睨み返し、同じように冷徹な声音で言った。
「……それはイツキ様の事を言っているんですか?」
恐ろしい程怒気の含んだ声音だが、カゼルは怯んだ様子はない。所詮五等級だと見くびっているのだろう。
ニチャッとした笑みを崩さないままカゼルは続けた。
「ああそうだよ。最低等級の癖に女三人も侍らせて、ココに何しに来てんの? 遊びに来てんの? 取り敢えず空気が汚れるから自分にあった教室まで行ってくんねえかなあ?」
イヴの表情に触発されたのか、完璧な暴言に変化したカゼルの言葉が教室内に響く。
いつの間にか教室内はしんと静まり返っている。
そんな中噴火寸前のイヴを押さえつけた北條が立ち上がってものを言おうとした直後。
「そこらへんにしたらどうだ?」
教室の一番後ろの方からセリアにも似た雰囲気を持つ声が聞こえてきた。
生徒の視線がそちらに注目する中、白に近い灰色のロングヘアーを無造作に縛った少女――と言うより女性と称したほうがいい程大人びた彼女は続ける。
「みっともないぞ。金かコネかしらないが、仮にも一等級なのだろう?」
彼女の言葉に激怒したカゼルは勢いよく立ち上がって長机を殴りつけると声を荒げた。
「俺は金もコネも使ってねえ! 実力で一等級になったんだ! ナメてんのかこのアマァ!!」
「ふん、どうだか」
軽くあしらうその女性。北條と一つか二つ程しか違わないのだろうが、以上に大人びた様子だった。雰囲気もどこかセリアに似ている。
《ほら言っただろ。僕達は今この教室で最低等級の邪魔者なんだ。どうしてこのクラスなのか、間違っていないのかセリアさんに確認するまでおとなしくしてるんだよ》
《す、すいません。ですがさっきのあの男の発言は流石の私も我慢しかねます》
《いいから我慢して。分かったね?》
《……はい》
北條とイヴが念話をしている中、教室内にアナウンス音が流れた。
そして続けてセリアの声が聞こえてくる。
『一学年、イツキ=ホウジョウ、イヴ=ヴァレンタインは至急学園長室まで来なさい』
ヴァレンタインとはこの学園に入学する際にイヴに付けられた偽名である。
セリアの声にメリアンが「学園長なの」と呟き、シーナが「行ってらっしゃい」と笑顔で手を振る。
二人はメリアンとシーナの他、険悪な様子の二人と、クラスの生徒達に見送られながら教室を出た。
その後彼は呟く。
「あれ、学園長室って何処だっけ」