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電装戦記クアド・ラングル  作者: 神宮寺飛鳥
【クイーン・オブ・ソード】
7/24

2-3

「あれ? なんすかこれ?」


 翌日の放課後。すばるのクアド・ラングルコーナーに足を運んだ静流の前に見覚えのないPOPがある。大型のパネルに手書きで書かれたそれをまじまじと見つめる静流の背後、何やら満面の笑みで鳴海が歩いてくる。


「良くぞ聞いてくれました。実はすばるではね、二ヶ月に一回クアランの店舗内大会を開催してるのよ。今月もやるから、そのお誘いの告知ってわけ」


 恐らく鳴海が作ったのだろう。綺麗な手書きの文字でデカデカと告知されている店内大会のPOPに静流は感嘆の息を吐く。


「しかしなんで端っこに猫のイラスト?」

「かわいいでしょ? 余白に何もないと寂しいじゃない」

「せめてロボット描くとかさぁ」

「描ければ最初っから描いてるわよー。残念ながら絵の才能はないみたいなのよね」

 そんな事は見ればわかる、とは言わなかった。どう考えても余計な事だからだ。

「せっかくだし静流君も参加してみたら? 今ならいい線行けると思うわよ」

「俺、この間アリーナのCランクに上がったばっかりっすけど?」

「その割には随分動けるようになってると思うわよ? 対人戦ばっかりやってるっていうのもあると思うけどね……っと。ただ、静流君一人だけだと出場は出来ないのよね。今回実はタッグ戦にしようと思ってるから」

「二対二か……んー、相棒が居ないとダメって事ね。鳴海さんは出るんすか?」

「私も出るけど、今回はシードっていうか、ラスボスって感じ。トーナメントで参加者に戦ってもらって、一位のチームと私が戦う事にしようと思ってて」

「んー……まあ、その方がありがたいかもしれない……」


 冷や汗を流す静流。というのもこの女、小野寺鳴海の実力はどう考えてもこんな場末のゲームセンターには似つかわしくない代物なのだ。

 クアド・ラングルのアリーナ戦はBランクから一気に別世界となる。ここから先は勝者だけが勝ちあがる事が出来るランキング制の世界。Bランクの定員数は最大二千人。新たにBに上がった元Cランクのプレイヤーは枠が空いていればすんなりとBランクの最下位につくことが出来るが、枠が定員の場合、最下位に近いBランクプレイヤーを打倒しなければ上がる事すら許されない、そんな完全実力主義の戦いを勝ち抜いた先、そこにAランクの世界が存在する。

 Aランクは一位から百位までの席しか存在していない。故にAランカーは全国に最大百人。鳴海はその中で現在二十三位につけている実力者なのだ。

 正直な所、静流は何度戦っても鳴海に勝てる気がしなかった。そして案の定これまでの大会は一つ残らず鳴海が優勝してしまっており、その結果大会を重ねる毎に参加者は減り、前回に至ってはたったの四人だけでの開催となってしまった。


「鳴海さんが出ないようにすればいいんじゃないの?」

「えー。私だってクアランやりたいんだもん……」

「店の為を少し考えましょうよ。鳴海さんが出てればそりゃ普通は参加しませんって」

「だから今回はラスボスって事で……決勝は私と勝ち抜いた二人の戦いにしようかなーと」


 普通に二体一でもこいつは勝つ気でいる。そんな風に思わせるきらきらした瞳であった。


「ちなみに佐々木君と守谷君は捕獲済みよ。タッグで参加してくれるって」

「哀れな……まだ彼らDランクあがったばっかりなのに。しかしそうだとすると、俺は他のやつと組まないといけないのか……」

「三河君とかは? なんか君達最近仲いいじゃない」

「何故か組む事は多くなりましたけど、別に仲良くなったわけじゃないっすよ」

「うんうん、わかるわかる。ゲーセンって不思議でしょ? 友達でもない人と一緒に遊んだり、全然知らない人のはずなのに打ち解けられたり。それがゲーセンの不思議な魔法なの」


 ウィンクしながら語る鳴海。あんまりにも乙女チック過ぎて、少し笑いそうになってしまう。


「まぁー、考えときますわ」

「前向きな検討をお願いするわね。さってと、私はもう一仕事するかなー」

「な、鳴海さんが仕事をするだなんて……!」

「何失礼な事言ってるのよ? このPOPまだ完成してなくてね。他にもちょっと作りたいのがあるから、これから事務所でちまちま作業してくるわ」

「鳴海さんそういうの苦手そうっすね」

「あはは、実はそうなの。私手先が不器用でさー。実はこのPOPも私が携わったところはこの余白の猫ちゃんだけなのよね。他の所は友達に手伝ってもらってるの」


 笑いながら鳴海がそんな事を言った正にその時である。鳴海の背後から近づいてくる人影があり、それを見た瞬間静流は思わず声をあげていた。


「って……お前!?」

「……え? 兄さん……ですか?」


 そこに居たのは制服姿の妹、ましろであった。互いに驚愕し固まる神崎兄妹の狭間、鳴海は何度も振り返りながら首を傾げている。


「何? どうかしたの?」

「鳴海さん……彼とは知り合いですか?」

「え、うん。最近うちでプレイしてくれてる静流君っていう子なんだけど……」

「鳴海さん、そのチビと知り合いなんですか?」

「え、うん……私の友達なんだけど……POP作りを手伝いに来てくれた……」


 おろおろしながら交互に二人を見る鳴海。


「え、なになに? 私何か変な事に巻き込まれてる?」

「いえ、鳴海さんは何も悪くありません。これは私達兄妹の問題ですから」


 完全にぽかーんとしている鳴海を他所に歩み寄るましろ。兄は心底うんざりした様子で、それがまた妹からすると腹立たしかった。


「こんにちは兄さん。放課後にゲームセンターに入り浸りとは不良ですね」


 だから眉をぴくりとさせながら満面の笑顔で言ってやる。すると兄は溜息を一つ。


「そりゃお前も同じだろ? 何やってんのさ、中学生がこんな所でよ」

「勘違いしないで下さい。私は遊びに来たのではなく、鳴海さんの手伝いにきたのです」

「親父とお袋は知ってんのか? お前がこんな所に来てると知ったらあの二人、随分狼狽するだろうぜ?」

「私は何もやましい事はしていません。友達に会う為に両親の許可など不要です」


 じっと兄を睨み付ける妹と、そんな妹をのらりくらりかわす兄。二人の仲がどうにも良さそうには見えないものだから、鳴海は何も口を挟めなかった。


「失礼しました、鳴海さん。彼は私の兄なんです。ここにいるとは知らなかったものですから」

「あ、兄って……お兄ちゃんって事? ましろちゃんの?」

「出来の悪い兄と違って、この生意気でちっこいのは優秀なお子さんなんすわー。近所ではよく、神崎兄妹の良い子の方って言われてますよ」


 肩を竦める静流。険悪な雰囲気に呑まれていた鳴海だが、そこは大人。もう二十一なんだからがんばらなければと己に言い聞かせ踏み込んでいく。


「よ、よくわかんないけど、せっかく兄妹なんだからもっと仲良くした方がいいと思います!」

「なぜ警護なんですか?」

「仲良くって言われてもねぇー。別に仲悪くないよなぁ、ましろ?」


 鼻を鳴らして目を閉じるましろ。何故か鳴海の方が涙目になりつつあった。そんな混沌とした状況に差し込む一筋の光明……第四の登場人物が颯爽と現れようとしていた。


「お待たせましろちゃん、鳴海さん。今日も頑張って……あれっ? 静流ちゃん?」


 その声にびくりと背筋を震わせる静流。妹は額に手を当てため息を漏らしている。


「陽鞠ちゃーん、助けてー! 神崎兄妹がいじめるー!」

「えっ、ええ!? あのねっ、二人ともいじめはよくないと思いますっ!」


 現れたのは陽鞠であった。抱きついてきた鳴海の頭をなでなでしつつ、何か気合を入れて神崎兄妹を指差す陽鞠。しかし二人はぴくりとも表情を変えない。


「ましろさん? これはどういう事なのかしら?」

「どうもこうも、私達は共通の友人であると、ただそれだけの話です」


 踵を返し、鳴海と陽鞠の隣まで移動するましろ。三人と一人、まるで住む世界が違うというように。立場が異なるというように。妹は兄をあからさまに突き放す。


「……こいつは流石に驚いたな」


 寂しげな笑顔を浮かべる静流。そんな彼が何を考えているのか、妹だけが理解していた。


「また逃げるつもりですか、兄さん」


 完全に状況が理解出来ない鳴海。その隣で陽鞠が不安そうな目を向ける。


「静流ちゃん……?」

「逃げる? 俺がどこに逃げるって?」

「逃げるつもりでしょう。いつものように。私と陽鞠ちゃんから」


 眉を潜める静流。ゲームセンターの中はいつものように雑多な喧騒に包まれているはずなのに、何故か段々と音が遠のき、ましろの声がクリアに聞こえてくる。


「そうやって逃げていれば兄さんは楽かもしれませんね。でもそれでは何も解決しません。わかっているんでしょう? 自分がどんなに惨めな事をしているのか」


 真っ直ぐに兄を見つめる瞳。それを兄は久しぶりに見つめ返した。

 妹は兄が何を考えているのかすぐにわかる。何年も何年もずっと、伊達に妹をやってきたわけではない。だが兄は違った。兄は妹の目を見たところで、その本心を悟る事は決してない。


「邪魔して悪かったな。ま、後はよろしくやってくれや」


 片手をひらひら振りながら振り返る静流。ましろは唇を噛み締め、同時に拳を握り締めた。


「ま……待って静流ちゃん!」


 弾かれるように走り出した陽鞠。だが伸ばしかけたその手は自らの思いに反し、静流の腕を掴もうとはしなかった。

 少しずつゆっくりと遠ざかっていく静流の背中。何度もこうして彼を見送ってきた。ただ見ているだけ。手を伸ばせば届く距離にいるのに、また指をすり抜けてしまう。

 それは自分に勇気がないからだと陽鞠は理解していた。それは己の弱さ故なのだと。これ以上静流を傷つけたくない、静流を怒らせたくない、そんな言い訳ばかり繰り返している。


「静流……ちゃん」


 泣き出しそうな声で呟く名前。力なく陽鞠の手が落ちた――まさにその時だ。


「ど、どこ見て歩いてんだよ神崎……ぶつかってくるなし」


 颯爽と立ち去ろうとしていた静流と衝突したのは三河であった。二人はよろけながら互いの顔を確認し、それぞれ微妙な表情を浮かべた。


「それはこっちのセリフでしょうよ。どこ見てるんだよ三河」

「僕は別にクアランしにきただけだし……何? なんなの君? 目を瞑ったままポケットに手とか突っ込んで歩いちゃってさ。中二? 中二病なの? ちゃんと前見て歩きましょうなんて、学校で習わなくたって子供でも皆当たり前に出来る事だよ? 恥ずかしくないの?」


 口元を抑えながら笑う三河。それから静流の後ろにいる三人へ目を向ける。


「……うん? あれぇ!? あれれ、もしかして……小日向さん!?」


 きょとんとしている陽鞠。そこへ猛然と駆け寄り三河は鼻息荒く陽鞠の手を取った。


「す、すごい偶然だね! こんなチンケなゲーセンに君の様な天使がいるなんて!」

「……さっきから微妙にスルーしてたけど、君達すばるに何か恨みでもあるの?」


 笑いながら呟く鳴海だが、絶対に心は笑っていない。


「えっと、あのう……三河先輩、でしたか?」

「まじで!? 同じ学校とは言えただのパンピーでしかない僕の名前を!?」


 振り返り頭を掻きながら眉を潜める静流。そういえば三河は陽鞠たちと同じ明瞭学園の生徒。今もその制服を着用しているのだから間違いはなかった。


「そう考えると、三河もエリートなんだよな……」

「えっと、出来るだけ生徒の顔と名前は覚えるようにしてるんです。それに三河先輩、学校では色々な意味で有名人ですから」

「ぼ、僕……小日向さんのファンなんです! 生徒会選挙の時も票入れました! それにあの演説! 僕感動しました! お話出来て光栄です!」


 目を輝かせながらぎゅっと陽鞠の手を握り締める三河。汗だくの大きな顔が近づいてくるものだから、陽鞠はすっかり目がぐるぐるしてしまっている。


「あの、あの、私……」

「おいこらデブ、いい加減にしやがれ!」


 背後からケツを蹴り上げる静流。三河は甲高い悲鳴をあげ、尻を押さえながら倒れこんだ。


「ったく、油断も隙もねーな……。おい陽鞠、嫌な時はちゃんと嫌って言えよな。昔っからそう教えてんだろうがよ」

「え……あ……う、うんっ! ごめんね静流ちゃん、ありがとうねっ!」

「え? な、何で泣くんだよ……お、おい?」


 振り返りぎょっとする静流。見れば陽鞠は笑顔のままぼろぼろ涙を零していた。


「あ、あれ? おかしいな……えへへ。ごめんね静流ちゃん、ごめんね」


 すっかり狼狽している静流。陽鞠は何度もぺこぺこ小さく頭を下げて笑っていた。と、そこで復活した三河が背後から静流へと襲い掛かる。


「神崎! 君という奴はもう今日と言う今日は容赦しないぞぉ! 目には目を、歯には歯を! 汝ケツを蹴られたら背後から奇襲せよ!」


 叫びながら飛び掛る三河。静流は繰り出された拳を顔色一つ変えずに受け止め、更に掴んだ腕を捻り上げ、足払いをしてその場に三河を組み伏せてしまった。


「ひぎゃあああ! 腕が折れるううう! 僕の腕がああああ!」

「ったく、男相手にアホやるのは構いませんけどね。女にセクハラすんのは駄目っすよ」

「わ、わかりましたああ! もうしませんごめんなさいいい! あっ! 神崎さん本当にやばいんで本当に! 僕の間接がかつてない方向に捻じ曲がっちゃうから!」


 開放された三河は床に転がったまま震えていた。たぶん、泣いていた。


「兄さんは腕っ節強いんですから、気軽に暴力を振るうのはやめてください」

「へいへい……っと、鳴海さん、今のはハウスルール的にまずかったっすか?」

「んー。ちょっと三河君が変態だったから、まあいいかなあ。但し変態に限るって事で」


 そんなやり取りをする静流と鳴海を他所にましろだけが三河へと歩み寄る。


「大丈夫ですか? 三河先輩」

「き、君は……?」

「神崎静流の妹、神崎ましろです。愚兄が大変失礼をしました。立てますか?」


 そっと優しく手を差し伸べるましろ。その笑顔は三河の目に眩しく輝いて見えた。


「す……好きだあああっ!」

「学習しろっつーんだよコラァ! てめえ表出やがれ!」


 三河を蹴飛ばしそのまま首根っこを掴むと静流は店の外へと彼を引き摺っていった。


「……ましろちゃん……ああなるってわかっててやったでしょ?」

「はい。兄さんが私の場合でも怒るのかどうか興味があったもので」


 苦笑を浮かべる陽鞠にあっけらかんと答えるましろ。ましろと三河を引き離す為、ましろを庇うように兄が触れた肩。妹はそこを無表情に撫でていた。


「えーと、でも、なんだかよくわからないけど……三河君、グッジョブ?」


 首を傾げる鳴海。三河が登場したお陰で先ほどまでの深刻なまでの空気の悪さはどこかへ吹き飛んでしまった。陽鞠もましろもそれには同意で、顔を見合わせ笑顔を作る。


「三河先輩に感謝しなければなりませんね」

「じゃ、私はその三河君を救出してくるわ。静流君にボコボコにされたら可愛そうだし」




「成程……そんな経緯があったのか。俺はてっきり静流が殺意の波動に目覚めたのかとばかり思ってな。テンション上がってついBGMを奏でちまったぜ」


 数分後鳴海がつれてきたのは焦燥しきった三河、上着を脱いで袖を捲くっていた静流、そしてギターをじゃんじゃんかき鳴らしている朝比奈の三人であった。


「増えていますね」

「久しぶりだなましろ。陽鞠も元気そうで何よりだ」


 爽やかな笑顔の朝比奈。実は朝比奈もこの二人とは顔見知りであったりする。最も鳴海ほど親しいわけではなく、ただの顔見知り程度であったが。


「しかし驚いたな。ダブル神崎がまさか兄妹だったとは。まあ生き別れの妹がいるなんて設定はマンガ的にはありがちなんだがな。この主人公体質め! ニクイぜ!」

「いや俺ら別に生き別れでもなんでもないし……っていうか暑苦しいっすよ朝比奈さん」

「今日はなんかテンションあがっちまったままでな! 悪いがこのまま押し通すぜ!」


 光る汗を流しながらギターを弾く朝比奈。その手から鳴海がギターをひったくると、一瞬で朝比奈は目から光を失い大地に膝をついた。


「俺の相棒、デリンジャーが……」

「ギターに名前つけてんのかこの人……おっかねーな……」

「まあ冗談はさておき」

「本当に冗談だったのかよ……?」


 咳払いをしながら立ち上がる朝比奈。神崎兄妹を見た後、陽鞠に目を向ける。


「お前達三人、幼馴染にしてはなんだか他人行儀すぎやしないか?」

「あんた本当に今来たんだよな? どっかで覗いてたとかじゃないよな?」

「覗きは男の浪漫! だが今回は違うな。本当に今通りかかっただけさ」


 目を閉じ笑う朝比奈。そうしてタメを作った後、目を見開き腕を振るう。


「折角こうして出会ったのも何かの縁だ! ここに三対三の合コンを開催するものとする!」


 その場の全員が驚愕の声をあげた。そのまま鳴海が身を乗り出し叫ぶ。


「あんた何またバカな事言い出してんのよ! デリンジャーへし折るわよ!」

「人質に暴力を振るうのはやめろ! それだけは人道に反するぞ! まあ冗談はさておき、折角こうして集まったんだ。親睦を深めるのも悪くないだろう?」


 笑いながらウィンクする朝比奈。その視線の先、陽鞠が目を丸くする。


「あ、あのー……私……私……ごっ、合コンしたいですっ!」


 一応解説すると、陽鞠は結構チャンスに弱い。普段は決してそんな事はないのだが、この幼馴染である神崎静流を前にするとすぐにテンパってしまい、そこら中にごろりごろりと転がっているチャンスを全て踏み砕いてきた女である。

 故に今も彼女の思考はとにかくテンパっていた。顔を真っ赤にし、両腕を振るいながら叫ぶ。


「合コン興味あります! あのっ! なんかその……おっ、男の人とその……一緒に……デート……じゃなくて、その……わ、私まだ処女なので、そういうの興味ありますっ!」


 その場の全員が驚愕に打ち震えていた。こいつ何言ってんの? という空気に張本人は全く気が付いていない。だがその中でたった一人、三河だけは蘇生を完了していた。


「処女キター! 僕も合コンに参加したいです! やりましょう是非! 是非にぃーっ!」

「ふむ? 静流、お前の幼馴染は中々エキサイティングだな。それと三河の首を絞めるのもそこそこにしてやれ。落ちそうになってるぞ」


 そっと静流の肩を叩く朝比奈。混乱を極める状況の中、ましろが小さく息をつく。


「仕方ありませんね。私もその合コンとやらに参加しましょう」

「はあ? ましろさん、正気ですか?」

「勘違いしないで下さい兄さん。これは合コンとは名ばかりのただの仲良しごっこですから」


 三河の首に背後から腕を回す静流。妹の口から飛び出した鋭い言葉を睨み返していたせいで、必死に腕をタップする三河の事を忘れていた。


「しょうがないわねぇ……まあ、何か色々事情があるみたいだし? 男連中の中にかわいこちゃんを放り込むのも心配だし? 私も一緒に行くわよ」

「鳴海さん、かわいこちゃんって……死語……いや、なんでもないっす……」

「た、たしゅけてぇ……! たひゅ……けぇ……!」

「兄さん三河先輩が息してません」


 こうして六名は揃って出かける事になった。別段ゲームセンターの中でも遊ぶこ物に事欠かさなかったが、落ち着いて話をするには少々落ち着きのない場所だ。

 結局近場にあるカラオケボックスへ移動。その個室を利用し、腰を据えてゆっくりと話をする事になったのであった。

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