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電装戦記クアド・ラングル  作者: 神宮寺飛鳥
【クイーン・オブ・ソード】
11/24

3-3

 ――五月末。第十四回、クアド・ラングルすばる店内大会開催。

 二ヶ月前、鳴海を追いかけ偶然静流はこの店に足を踏み入れた。その時と同じ様にクアド・ラングルのコーナーには大型モニターが移動され、専用の飾り付けが施されている。その規模は所詮手作りのレベルだが、鳴海が陽鞠、ましろと共に一生懸命作った物だ。


「二週間なんてあっという間だったっすねぇ」


 ポケットに両手を突っ込んだまま笑う静流。その傍らには変わらずツナギ姿の朝比奈がいる。


「お互い学業や仕事のある身だからな。完全に調整出来たとは言い難いが、後はぶっつけ本番でやってみるだけだ。人生は常に準備万端で試練を迎えられるとは限らん」


 朝比奈は基本的に毎日仕事があるし、静流は学校上がりにバイトもしているので、基本的に練習時間を合わせるのは難しい。それでもやれるだけの準備はしてきたつもりだ。


「それにしても、参加者は結局八組か。まあ前の大会からすりゃましですかね」

「二人一組だからな。かなり人数が増えた方だろう。一体何が原因だ?」

「原因はあんたよ朝比奈……」


 溜息混じりに歩いてくる鳴海。朝比奈は腕を組んだ姿勢で目を丸くしている。


「俺は何も宣伝はしていないぞ?」

「あんたが参戦するって聞きつけて、元クランメンバーが復讐に来てるのよ。二組もね!」

「ほう。良かったな、大会が盛り上がって」

「それはそうだけど、あんたは自分がした事の罪深さをもっと重く受け止めなさいよね」


 鳴海に脇腹を小突かれる朝比奈。その様子に静流は笑みを浮かべる。


「やっぱ二人とも、なんだかんだで仲いいっすよねぇ」

「そりゃまあ、幼馴染だしね。だからって手加減はしないわよ? 静流君も本気で来なさい!」

「静流はこの二週間で随分と成長した。お前もうかうかしていると狩られるぜ?」


 したり顔の朝比奈に鼻を鳴らす鳴海。二人はにらみ合っているものの口元には笑顔があり、決して悪い意味のライバル関係ではない事が覗える。


「それじゃ大会のしきりとかあるから、また後でね!」


 手を振り立ち去る鳴海。それと入れ違いに三河とましろが近づいてくる。


「よ、よう神崎。君がボコボコにされるところを見に来てやったぞ」

「ましろさん、なんで三河と一緒なんだ?」

「さっきそこで見つけたので一緒に居てもらったんです。やっぱり腐っても大会というだけあって人だかりが凄いもので、一人だとなんだか居心地が悪くて。三河さんが一緒に居ると、色々な意味で楽なんです」


 にっこりと微笑むましろ。それは確かに、ましろは背が低い。大人の男に囲まれてしまうとにっちもさっちも行かなくなってしまう。そこは横幅の広い三河、あまり評判がよくない事もあり、人だかりの中に近づいていくと自然と空きが出来る。ましろは素早くそのスペースに飛び込み、満足な陣地を得るという仕組みである。


「ま、まいったなー。僕、頼りにされちゃってる?」

「はい。三河先輩のお陰で快適です。でも人が多くて息苦しいからか、喉が渇きました」

「おっけー! ぼ、僕買ってくるよ! ちょっと待っててね!」


 人を掻き分け走り去る三河。ましろは笑顔で小さく手を振る。


「お前ってさ。外道だよな」

「兄さんにだけは言われたくありません。それに勘違いしないでください。私は別に三河さんに何も要求していません。ましてやジュースを買って来いなんて、一言も」


 しれっとそんな事を言う妹に苦笑する兄。それからそっと妹の頭に手を乗せた。


「な、なんですか……急に?」

「そういやまだちゃんと礼を言ってなかったと思ってな。なんつーか……ありがとな」

「ただありがとうと言われてもなんの事なのかわかりませんよ。それに……勘違いしないで下さい。私はただ、自分がそうしたいからしただけですから」

「だな。だからよ、俺も自分がそうしたいからする事にした。もう逃げねぇ。他人を騙す事は出来ても、自分の気持ちを欺く事は出来ねぇからよ」


 ぐりぐりと頭を撫で離れる兄の手。それをましろは名残惜しそうに見つめる。


「んでさ。結局お前は俺と陽鞠、どっちの味方をするつもりだ?」

「それは……勿論、陽鞠ちゃんですよ。私の願いなんて、昔から変わりませんから」


 肩を竦める兄。妹が穏やかに笑みを浮かべた所へ三河が滑り込んでくる。


「お、お待たせましろちゃん! 紅茶と緑茶とコーラあるけど、どれがいい!?」

「りんごジュースがいいです」


 汗を振り払い無言でUターンする三河。ましろはその姿を優しく見つめていた。


「さてと。静流、俺達もアセンの最終確認をしよう。最後の復習だ」

「ういっす。んじゃまたな、ましろ」


 朝比奈と共に離れていく兄。その口から出た【またな】という言葉がなんともくすぐったい。


「全く……どいつもこいつも、世話の焼ける人達です」


 ユニフォンを眺めながら話す二人の横顔は真剣そのものだ。ましろは正直それが少しだけ意外であった。なにせ彼女はゲーマーではない、ただの女子中学生なのだから。

 たかがゲームにこんなにのめりこみ、まるで人生においてかけがえの無いイベントであるかのように扱う彼らの事を少しだけ不思議に思う。だが理解出来ないわけではない。


「このロボットがカオスレイダーに似てる事くらい、私にだってわかりますから……」




「お待たせしました! それではこれより第十四回、すばるクアド・ラングル店内大会を開催いたします! 基本的な仕切りは私が……と言いたい所ですが、私も大会に参加する事になってしまったので解説もゲストをお呼び致しました。どうぞー!」

「どうもー! クアド・ラングル大好きおじさんでーす!」

「ごふっ」


 仮設ステージと呼ぶ事すらおこがましい、ただ一段床より高くなっているだけの台座の上に立つ鳴海。その横に解説の男が現れた瞬間、ましろは口からジュースを吹き出した。


「うわあ!? ま、ましろちゃんどうしたんだい……?」

「……そ、惣介おじさん……」


 青ざめた表情でわなわなと震えるましろ。その視線の先では左右の手でピースを作って観衆の前で奇妙な動きをしている小日向惣介の姿があった。

 一応彼は開発責任者だが、別に顔がメディアに露出しているわけではない。故に彼が何者なのかこの場の誰も理解してはいなかった。まさか彼がクアド・ラングルの創造主であるという事も、小日向陽鞠の父親であるという事も、当然誰も知らない秘密である。


「ましろちゃーん、見てるー? 久しぶりだねぇ! イエーイ!」

「あれ? あの変なおっさんましろちゃんの知り合いなの?」

「いいえまったくしらないひとです」


 四十手前の男が満面の笑みで手を振っているので、ましろは何も見なかった事にした。


「俺が解説をするけど、君達は俺自身の事は興味ないだろうし名乗りもしないよ。ただ解説に関しては結構自信あるから任せちゃってくれよな! 皆一緒に楽しもうぜー!」

「この変なおっさんの知識量に関しては多分私より上なので安心してくださいねー。というわけで、早速対戦の組み合わせをこのくじ引きで決めたいと思いまーす! 各チーム代表者一名はステージまでお越しくださーい!」


 鳴海の声に従いぞろぞろとステージに集まる参加者達。朝比奈に背中を押され、静流もくじ引きの為に前に向かう。くじ引きのくじは明らかに素材が割り箸で、なんとも手作り感の溢れる代物であった。


「それぞれ同じ色を引いたチーム同士が一回戦の対戦相手になるわ。そしてそこからトーナメント表通りに対戦して言ってもらうからよろしくねー」


 鳴海に割り箸を渡すとこれまた手書きのトーナメント票にそれぞれのチーム名が書き込まれていく。静流は青ブロック、対戦相手は【リベンジャー】というチームであった。


「なんかもう大体読めるな……くわばらくわばら」


 さっさと抽選を終えて戻る静流。数分後、第一試合が開始される事となった。


「それでは栄えある第一試合! 赤ブロック、チーム【アブノーマル】対チーム【こたつ@みかん】の対戦を行ないます! 両チームは筐体へどうぞー!」

「ふむ。チームアブノーマル……佐々木と守谷のチームか」

「なんか持ちネタみたいになってますね」

「彼らも成長したという事だろう」


 そんな少々見当違いな方向の話をする静流と朝比奈。少々の準備時間の後、大型モニターに試合の様子が映し出される。鳴海と惣介がなにやらマイクに向かって喋っていると直ぐに戦闘が開始されたのだが、静流と朝比奈は試合そのものよりそれ以外に目を向けていた。


「よかった。ステージはアリーナBですね。それにしてもやっぱりこれだけ人目があるところでプレイすると考えると緊張しますわ」

「フッ、よく言う。お前ほど肝の据わった男なら問題にもなるまい。だがまあ、そうだな……プレイ中は集中していれば気にもならんだろう。ドレッドノートの中に入ってHMDをつけてしまえば、音も映像も切り離されるからな」


 二人がそんな話をしていると、背後から男女二人組が近づいてきた。鳴海と惣介の拡大された声のせいでそれに気付かない静流たちに二人組は仕方なく肩を叩いた。


「ん? お前達は……?」

「久しぶりだな朝比奈! 忘れたとは言わせないぜ、俺達の事を!」

「誰だ?」

「忘れたとは言わせないって言っとるやろ!? 相変わらずナメくさった男やな自分……」

「あれですよ朝比奈さん。チームリベンジャーです」

「ああ。そうかお前達が……。今回はお互い、フェアプレイでいい試合をしよう!」


 笑顔で握手を求める朝比奈。その手を関西弁の女が振り払う。


「アホかい! こいつほんまにうちらの事忘れとるで!」

「朝比奈てめえ……いい加減な奴だとは思っていたがよ!」


 筋肉質な大男は握り拳を震わせながら朝比奈を睨む。が、効果は見られない。


「何度も言うのはあれだが、お前ら誰だ?」

「朝比奈さん、俺も何度も言うのはあれなんですが、チームリベンジャーです。リベンジャーって意味わかりますか? 復讐者って意味です」

「お前達……復讐は何も生みはしないぞ。過去に囚われるのは止めて明日を生きるんだ」


 筋肉男の肩をそっと叩く朝比奈。それに殴りかかろうとする男を背後から女が押さえ込む。


「物理はアカンて! 試合前に強制退場になるで!」

「放せ松島ぁ! 俺はこいつをぶっ飛ばせればそれでいいんだあ!」

「くっ! こんな方法でうちらの集中を乱してくるとは……必死やないか朝比奈! けど覚えとき! こないなことでうちらを負かせると思っとったらな、痛い目ぇ見る事になるで!」


 女に引き摺られて去っていく筋肉男。朝比奈は最後まで首を傾げていた。


「おい静流、人違いで絡まれた場合お前ならどうする? 俺はどうしたらよかったんだ?」

「いや……もう、なんでもいいっす。どうせ次の試合であの人ら、退場っすから」

「ほう? 強気だな、静流」

「俺はあのデイジーを倒すんですよ。あんなモブキャラに負けてる暇はねえっすわ」


 いつも通り緩い表情のまま呟く静流。朝比奈はその肩を強く叩いた。


「そうだな。その通りだ。誰だか知らんが、俺達の前に立ちはだかった事が不運だったのだ」

「いや、だからね……?」


 静流が呆れているといつの間にか第一試合の決着がついた様子であった。勝利したのはチーム【こたつ@みかん】。佐々木と守谷は一回戦敗退のようだ。


「ふむ。思っていたより早く決着がついたようだな」

「まあ初心者じゃしょうがないっすよ」

「それをお前が言っても説得力はないがな……」


 筐体から出てきた守谷と佐々木に手を降る静流。二人は静流の姿を見つけ近づいてきた。


「やっぱりダメでしたー。静流さん、この仇は討ってくださいね!」


 無言でサムズアップする静流。そこで鳴海が呼びかける。


「それでは第二回戦、青ブロックの試合を行ないます! 両チームは筐体へ!」


 筐体へと向かう二人。ドレッドノートのシートに腰掛けユニフォンを翳す。朝比奈の言う通りHMDをつけると周囲の喧騒は全て遠い存在へと変わり果てた。


『おはようございます。現在この筐体は店内対戦モードで起動しています。事前設定に従い、二対二のフリーバトルを行ないます』


 プレイヤーの指示もなく画面は切り替わっていく。その間静流は念入りにシートの調整を行い、グリップの握り心地を手のひらに覚えこませておく。


『マッチング完了。これよりフリーバトルを開始します』


 世界が光に飲み込まれ、次の瞬間には静流は仮想の町へと降り立っていた。

 このマップ、アリーナBはフリーバトル時に選べるステージの一つだ。アリーナ内に再現された廃墟という設定で、高層ビル群の中に複数のハイウェイが張り巡らされた複雑なステージ構成になっている。

 そのステージの両脇、ハイウェイの上に両者が配置される。お互いの間に遮蔽物はない為この時点で機体の外見は見て取る事が出来た。


「飛行型と多足型か……ん? どこかで見覚えのある機体だな……」


 朝比奈の通信に溜息を漏らす静流。そこへ対戦相手の声がけたたましく飛び込んで来た。


「朝比奈ァ! 俺はテメエに復讐する日をずっと心待ちにしていたんだ! お前が復帰したと聞いてわざわざ来てやったんだ、ありがたく思いやがれ!」

「なんと、復讐相手とは俺の事だったのか……」

「高城もうええ、話しかけるだけ無駄や! さっさとぶっ潰して仕舞いにしたる!」

『それでは第二試合……戦闘開始!』


 鳴海の声で動き出す四機。筐体外では惣介がモニターを眺め頷いている。


「さて、チームアベンジャー側は……と。高城君がアヴァロンの高速多脚型機、【ユニコーン】をカスタムした【スターベイズ】。松島ちゃんの機体はステレオグラムの飛行型、【ディティーブラ】。機体名は【シーフ・ベース】ね。高城君のスターベイズは中量級で装甲も硬めだが、機動力は前進限定で恐ろしく速い。ランスと盾を装備した一撃離脱タイプ。シーフ・ベースは元々素早いディティーブラを更に機動戦用にカスタマイズしているね。速攻、ヒットアンドアウェイで敵を片付ける前のめりな編成だ。対してチーム【師弟(仮)】は……」


 そこで画面に目を凝らす惣介。注目すべきは静流ではなく朝比奈の機体である。


「イフリート・ゼロか! これは貴重な機体を持っているねぇ!」

「イフリート・ゼロ?」


 解説を聞きながら首を傾げる佐々木。試合を終えた二人はましろ、三河と合流し四人で試合を観戦していた所であった。


「イフリートと名の付く機体は三機存在してるんだよね。ま、まず普通のイフリート。これはバージョン1で高性能エース用機として支給された。い、今はもう買えない。次がイフリートMk-2、静流が乗ってるやつ。これはバージョン3で増えた量産機。イフリートの性能をオミットして、生産性を高めたって設定。で、最後が朝比奈さんのイフリート・ゼロ」

「確かにMk-2とはデザインも違いますけど……あんな機体見た事ないですよ?」

「ゼ、ゼロはマジでレア機体。なにしろナンバーズじゃないと支給されないからね。アヴァロン所属でナンバーズになると、社長が勝手に送りつけてくる。元々高性能機であるイフリートの性能を更に強化した機体。ただデタラメにコストが高いから、レギオン戦で落とされると酷い事になる。まあ欠点ってそれくらいだけど」


 朝比奈の愛機はイフリート・ゼロを青く塗装しカスタムした【シックザール】。白いマントを羽織り、その肩にはナンバーズ限定のエンブレムである【No.8】が輝いている。


「ぼ、僕も久々に見た。何度か対戦してもらった事があるけど、あの機体の恐ろしさはガチ。先ず基本性能が他の機体とダンチだから。本当、コストさえ良好ならなあ……」


 ぶつぶつと呟く三河。モニターではシックザールは巨大な剣を大地へと突き刺し、その柄に両手を重ねて仁王立ちをしている。


「おお。試合は既に始まっているのにシックザール動かないね。これは師匠の貫禄? さすがチーム名通り新旧イフリートによる師弟関係ってわけか。設定も俺好みだなぁ」

「とかなんとか言ってるうちにチームリベンジャーが迫る!」


 無数のタイヤが先端に装着された多脚機であるスターベイズが火花を散らしながらハイウェイを疾走する。左手に盾、右手に大型のランスを構えシックザールを狙っていた。


「相変わらずスカした野郎だぜ……! 松島、もう一人は噂じゃ初心者だ! あのチームは朝比奈さえ片付けちまえば勝てる! 作戦通り行くぞ!」

「おう! 行くで朝比奈……その無駄なコマンド達、足元掬ったる!」


 四枚の羽を高速で上下させながら飛行するシーフ・ベース。飛行ユニットである下半身の装甲を開き、内蔵されたミサイルポッドを露出させる。


「マイクロミサイルコンテナ! 食らいやぁ!」


 発射されたミサイルポッドが空中で起動し花開く。放出された無数の小型ミサイルが降り注ぐ中、シックザールは大剣を空に構え盾にして耐える。


「シックザールの頑丈さは知ってるがなあ! このツイストランスなら崩しきれんだよ! ガードブレイクチップ増し増しで……受け取れぇ!」


 高速回転するランスを突き出しながら突撃する高城。そのタイミングは正確、松島のミサイルが振りそそいだ直後を狙っている。エネルギーを放出し美しい波紋を放ちながら繰り出されるランス。狙いは完璧、ガードの構えのままのシックザールを捉えている。

 元々ツイストランスにはガードブレイク性能が付いているが、今回は更にガードブレイク性能を強化してきている。相手がガード硬直に入っているところに繰り出せば、高い確率でガードブレイクを起こし、そのまま突き抜けられる算段であった。

 しかしスターベイズの槍がシックザールを貫く事はなかった。青いイフリートの前に飛び出してきた白いイフリートが、その刃を打ち付けて攻撃を防いだからだ。


「何!? こいつは……切り払い!?」


 すかさず反撃の構えを取るフルブレイズ。その瞬間を狙い松本が爆雷を投下する。


「一旦引き、高城! 今度は挟み討ちで!」

「俺の槍の一撃をガードではなく切り払った……? あいつ……!」


 爆雷を回避した二体のイフリート。その間にスターベイズは二機の居たポイントを通過。その後回転しながら急停止かつ反転。再度火花を散らしながらホイールを唸らせる。


「朝比奈さん何してんすか……戦う気あるんすか!?」

「ふむ……? 静流、あのユニコーンタイプをお前に任せられるか? 決勝前の腕ならしに丁度良さそうだからな」


 大剣を肩に乗せ振り返るシックザール。フルブレイズはエネルギーブレードを二刀構えその隣に立つ。


「あの機体の突っ込み速度は尋常ではなく速い。恐らくはあのデイジー以上だ。一撃の威力も明らかに刀より上。お前はあれくらい手玉にとれなくては話しにならんぞ。上で飛んでいる雑魚は俺が片付ける。お前は練習に専念しろ……行くぞ!」


 瞳を輝かせ跳躍するシックザール。マントをはためかせながら大剣を手に飛行タイプのシーフ・ベースを狙う。それを確認し静流は反対方向から接近するスターベイズへと向かった。


「練習つったってね……! あんなの直撃したら一撃で落ちるぞ……!」


 二刀のフォゾンブレードを手に加速する静流。スターベイズは槍を構えそれに応じる。


「邪魔だ素人が! 俺の狙いは朝比奈一人! 立ち塞がるなら貫くのみだ!」


 無言でグリップを握りなおし感触を確かめる。

 ハイウェイの舗装を引っぺがしながら猛然と加速する鉄騎。その接触までの時間を目算しつつ、静流は素早く左右のグリップにコマンドを入力する。


「今……!」


 左右の刃を同時に繰り出しランスを受け止める静流。フルブレイズは瞳を輝かせながら身体を半回転させ、そのまま素早くスターベイズを切りつけた。


「またか……こいつ、近接格闘特化機なのか。だとしても……!」


 盾を消し更にもう一つランスを取り出す。再び反転したスターベイズは左右のランスを繰り出しながらフルブレイズを襲う。

 同時攻撃を静流は同じく二対の剣で受け止める。だがそれは防御ではなく切り払いというコマンド技。次の瞬間スターベイズは前進の勢いを相殺され大きくノックバックした。


「何ぃ!?」


 既にフルブレイズは流れるような動きで次の攻撃を繰り出している。それは即ち今攻撃を入力したのではなく、切り払った瞬間には次の動きを先行入力していたという事。

 足の止まったスターベイズに十字の切り傷が刻まれる。続けフルブレイズは跳躍、真上からブレードを投擲しスターベイズを串刺しにした。


「そ、そんな馬鹿なああああっ!?」


 爆発するスターベイズ。そちらに気を取られた松島の隙を突き、朝比奈はビルを蹴って大跳躍。咄嗟に反撃で出されたミサイルを大剣を投げつけて破壊し、爆炎を突き破り接近。素手で捕まえたシーフ・ベースを大地へと叩き付けその首を手元に転送した大剣で斬りおとした。


「んなあっさりとぉおおっ!?」

『勝者! チーム【師弟(仮)】!』


 聞こえた鳴海の声に小さく息を吐く静流。その掌の中に掴んだ感覚を逃がさぬよう、そっと力強く握り締めるのであった。


「朝比奈ぁ! これで勝ったと思うなよ! 俺達はまたお前を倒しに現れるからな!」

「首を洗って待っとき! ばーかばーか!」


 何か喚きながら立ち去って行く二人。朝比奈は最後まで怪訝な顔をしたままであった。


「今の試合、中々面白かったねぇ。切り払いを積んでるフルブレイズにスターベイズは相性的に負けていたけど、あれをきっちり受けて返せる静流君のコマンドの正確さ、思い切りの良さ、共にグッドだった。あの速力を切り払える子はそういないだろうね!」

「さてー、それじゃあ盛り上がってきたところでどんどん試合を進めていきましょう!」


筐体を出た朝比奈と静流。二人は向き合い、特訓の成果を実感するのであった。

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