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最弱魔王なのに勇者パーティに『史上最凶の魔王』と誤解されています〜怖くて訂正できないまま世界を救うことになりました〜  作者: 蒼月よる


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薬草採取でSランク超えの評価をもらってしまった

薬草採取でSランク超えの評価をもらってしまった


 冒険者としての最初の依頼は、薬草採取だった。

 ギルドの掲示板に貼り出されていた紙には「レグノール東の森にて薬草ルミネラを五束採取。報酬・銀貨三枚。推奨ランクE」と書かれていた。


「よし、手始めにこれをやろう」


 エルヴィンが依頼書を掲示板から剥がし、受付に持っていった。Aランクパーティが最低ランクの採取依頼を受けるのは珍しいらしく、受付嬢が二度見していたが、エルヴィンは「基本が大事だからな!」と笑い飛ばした。


 基本もなにも、ヴァルゼンとしては薬草採取が精一杯だった。

 戦闘系の依頼など論外だ。魔物討伐? 護衛任務? とんでもない。薬草を摘むだけなら、さすがに命の危険はないだろう。


 (薬草採取。これならいける。これなら僕でも足を引っ張らない)


 珍しく前向きな気持ちで、ヴァルゼンは東の森へ向かった。


 問題は、森に入って十分で発生した。


「ルミネラって、どんな草なんだ?」


 エルヴィンが足元の草を指さして聞いた。

 勇者は魔物を倒すことに特化した存在であり、薬草の知識は皆無らしい。グリゼルダも同様に首を傾げている。フェリクスは「文献では白い花弁と銀色の茎が特徴とありますが」と述べたが、実物を見たことはないようだ。


 ミラベルが「僧侶の修行で薬草学は習いました」と手を挙げたが、「でも、実地で採取したことは……」と語尾が萎んだ。


 つまり、パーティの誰もルミネラの実物を知らない。


 ヴァルゼンは周囲を見回した。

 森の中には無数の草花が茂っている。どれがルミネラなのか、見た目では判別がつかない。


 だが——ヴァルゼンには魔力感知がある。


 魔王の血統に由来する、魔力の流れを感じ取る能力。戦闘には何の役にも立たないが、魔力を帯びた物質の位置を漠然と感じ取ることはできる。

 薬草ルミネラは微量の魔力を含んでいる。ヴァルゼンの感知能力であれば、その魔力の微弱な脈動を拾えるはずだ。


「あの、こっちに何かある気がします……」


 ヴァルゼンは自分でもよくわからない方向へ歩き始めた。

「何かある気がする」というのは文字通りの意味で、「なんとなく嫌じゃない方向」に足が向いただけだ。嫌な場所を避け続けた結果、嫌じゃない場所にたどり着く——危機察知の逆バージョンである。


 三分ほど歩くと、木の根元に白い花を咲かせた草が群生していた。銀色がかった茎。甘い匂い。


「これ……ルミネラですね」


 ミラベルが目を見開いた。


「間違いありません。こんなに群生しているのは珍しい……しかも、品質が極めて高い個体ばかりです」


 ヴァルゼンの魔力感知は、魔力含有量の高い——つまり品質の高い個体に自然と引き寄せられていた。本人はまったく自覚がない。


「さすがだな、ヴァルゼン! 一直線にたどり着いたぞ」

「い、いえ、たまたまです……」


 たまたまだ。本当にたまたまだ。嫌じゃない方向に歩いただけだ。


 採取を始めた。ヴァルゼンが「あっちにもある気がする」「こっちのほうが良さそう」と感覚で指し示すたびに、高品質のルミネラが次々と見つかった。

 依頼は五束だったが、三十分で二十束を超えた。


「ヴァルゼン様、もう十分以上の量です」


 グリゼルダが採取した薬草を束ねながら言った。


「しかし……この精度は常軌を逸しています。森に入って一度も無駄足を踏んでいない。まるで薬草の位置を事前に把握していたかのように」

「いえ、本当に、なんとなく……」

「その『なんとなく』が恐ろしいのです、ヴァルゼン様」


 グリゼルダの蒼灰色の瞳が真剣だった。


「戦場で長年過ごした私でも、索敵にこれほどの精度は出せません。あの方の感覚は——次元が違う」


 (次元は同じです。方向が違うだけです)


 フェリクスが手帳を広げ、採取ルートを地図に書き込んでいた。


「面白い。魔王殿の移動経路を分析すると、完璧な効率曲線を描いている。ランダムな探索ではこうはならない。すべての薬草の位置を事前に感知した上で、最短ルートを導き出している」


 事前に感知などしていない。足が勝手にそっちに向いただけだ。


「加えて、選別された個体はすべて高品質。魔力含有量が通常の薬草の三倍以上ある」


 フェリクスの声に、普段の冷静さを超えた興奮が滲んでいた。


「つまり魔王殿は、位置だけでなく品質まで遠隔で識別している。この精度の魔力感知は——僕の知る限り、文献上にも存在しません」

「あの、そんな大層なことは——」

「ですから大層なんですよ、魔王殿。ご自分では気づいていないのかもしれませんが」


 気づいていないのではなく、本当に大したことをしていないだけだ。


 ギルドに戻った。

 受付で薬草を提出すると、受付嬢の顔色が変わった。


「これは……ルミネラの特A品質ですね。しかもこの量——」


 モノクルの奥の目が見開かれた。昨日の計測不能事件の受付嬢と同じ人物だ。また彼女か。


「五束の依頼で、二十三束。しかもすべて特A品質。これは……」


 受付嬢がカウンターの下から分厚い台帳を引っ張り出し、ぱらぱらとページをめくった。


「特A品質のルミネラをこの量、一回の採取で持ち込んだ記録は——当ギルド支部の歴史上、ありません」

「た、たまたま群生地に当たっただけで——」

「その群生地を一発で見つけること自体が異常なのです」


 受付嬢の声が上ずっている。


「薬草採取の専門家でも、特A品質の群生地を見つけるには数日かかります。それを初めての依頼で、しかも三十分で——」


 受付嬢は一度深呼吸をして、居住まいを正した。


「依頼達成の評価を最高ランクとさせていただきます。報酬は品質ボーナスを加算して銀貨十五枚。加えて——この実績は支部長にも報告いたします」


 (報告しないでほしい)


 しかし受付嬢はもう奥に引っ込んでしまった。


 エルヴィンが腕を組んで頷いている。


「薬草採取でここまでの結果を出すとはな。やはりヴァルゼンは、何をやらせても超一流だ」


 (超一流じゃない。草を摘んだだけだ)


「Sランクの冒険者でもここまではできない、と受付嬢は言っていた」


 グリゼルダが低い声で付け加えた。その蒼灰色の瞳には、もはや疑いの影すらない。純粋な畏敬の光だけが宿っている。


「初回依頼でSランク超えの評価。これが魔王の実力か」


 (魔王の実力じゃない。魔王の血統の副産物だ。しかも戦闘には一切使えないやつの)


 ミラベルが嬉しそうに報酬の銀貨を数えている。


「これだけあれば、今夜は少し良いお食事ができますね、ヴァルゼン様」

「え、あ……そうですね」

「今度は硬パンじゃなくて、ちゃんとしたものを食べてくださいね?」


 翡翠色の瞳が微笑んでいる。昨日の硬パン事件がまだ尾を引いているらしい。


「……はい」


 ヴァルゼンは小さく頷いた。

 自分の力で——いや、自分の感覚で稼いだ報酬だ。これなら、パーティの金を使う罪悪感なしに食事ができる。


 フェリクスが手帳を閉じた。今日の記録は相当な量になったはずだ。


「初回依頼記録。薬草採取——歴代最高評価。Sランク冒険者の水準を凌駕。注目すべきは、魔王殿がこの結果を『たまたま』と表現した点。本当にたまたまであるならば、それは才能を超えた天賦の領域にある。意図的であるならば、我々の想像を絶する精度の魔力感知を保有していることになる。いずれにせよ——この人物は底が知れない」


 底はある。むしろ底しかない。


 宿に戻る道すがら、ヴァルゼンは銀貨十五枚の重みを腰の袋で感じていた。

 初めて自分の力で稼いだ金。それは素直に嬉しかった。

 だがその嬉しさの裏側で、また一つ、誤解の実績が積み重なったという事実が胃を圧迫する。


 計測不能のギルドカード。初回依頼でSランク超え。


 (この調子で行ったら、来週あたりには英雄扱いされかねない)


 まさか、と笑い飛ばしたかった。

 だが笑えなかった。この数日間で学んだことがある。


 ヴァルゼンの「まさか」は、必ず現実になる。


 今夜の夕食は、温かいシチューとふかふかのパンだった。

 自分で稼いだ金で食べる食事は、涙が出るほど美味かった。

 ミラベルがまた泣いていたが、今度は嬉し涙だった——と、本人は言っていた。


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