1話
確かに学校が終わって、帰宅して、部屋で寝たはずだった。
目を開けると、そこは見慣れた六畳の天井ではなかった。
背中に硬さを感じる。固めのクッションのベンチだ。
ゆっくり起き上がると、吹き抜けの高い天井と、等間隔に並ぶ白い照明が目に入った。
無印のロゴ。ZARAのマネキン。遠くに見えるフードコートの看板。
……ここはショッピングモール?
寝る前に着ていた、少しくたびれた無地の半袖と短パンのままだった。
裸足。当然スマホも財布もない。
さすがにこの格好でうろつくには羞恥心を感じる服装だ。
そう思って辺りを見回したところで、ようやく気づいた。
——人がいない。
買い物客どころか、店員も、警備員も、だれ一人もいない。
照明はすべて点いている。
エスカレーターも動いている。
だが、足音がしない。
自分の呼吸音だけがやけに大きく感じた。
「……閉店後?」
いや、そんな雰囲気じゃない。
シャッターは開いているし、BGMも流れている。
——流れているはずなのに、音楽のメロディが微妙におかしい。
知っている曲のはずなのに、どこか逆再生のように聞こえる。
ぞわりとした。
とはいえ、立ち止まっていても仕方がない。
出口を探そう。
ショッピングモールならば館内図があれば場所は分かる。
場所が分かれば帰れる。たぶん。
裸足のまま歩き出す。
タイルの冷たさが足裏に刺さる。
やけに広い。
近所のイオンなら、もう出口の一つくらい見えてもいい頃だ。
だが、歩けど歩けど、ガラス扉も案内板も見当たらない。
(……出口なくない?)
同じ場所を回っているわけではない。
確実に違う店の前を通っている。
それなのに、出口がない。
案内板すら見当たらない。
「いくら何でもおかしいだろ。設計どうなってんだよ……」
気づけば一時間は歩いていた。
ほんとーに、なかった。
ふと、頭に浮かぶ。
(そもそも、これ夢じゃない?)
家で寝ていた。
今はショッピングモール。
人はいない。
むしろ夢以外に説明つかなくない?
「じゃあ、好きにしていいよね」
急に気が楽になった。
先程、通った靴屋に入る。
前から欲しかったブランドのスニーカーが並んでいる。
そのなかから普段はいているサイズの靴を手に取った。
「夢だし」
とおもってその靴を履いて店を後にした。
次に自分の貯金では手に入らない服屋に入る。
ファッションショーを一人で開催する。
「夢だし」
とおもって一番気に入った服に着替える。
生まれて十数年。穢れない綺麗な経歴に窃盗罪が追加されたが、夢なのでセーフ。
そういうことにした。
次は家具屋。
夢の中で寝たら覚めるかもしれない。
ワンチャンある。
「お値段以上」の店で、一番値段が高そうなベッドに潜り込む。
天井の照明が、やけに白く感じた。
静かすぎる。
……いや、静かじゃない。
微かなノイズが聞こえる。
耳鳴り?
いや違う。
天井のスピーカーだ。
——ザ、ザザ……。
『ログイン認証……失敗しました』
その声に、聞き覚えがあった。
私の声だった。
心臓が跳ねる。
「……は?」
夢、じゃない?
恐る恐る目を閉じる。
意識が沈む。
そして——目が覚めた。
さっきと同じ天井。
同じ照明。
同じ静寂。
服も、靴も、変わらない。
(夢じゃなかった)
その瞬間、背中に冷たい汗が流れた。
ここは——
本当に、どこなんだ。




