表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リペレイター  作者: 宿明朱里
第一部
6/15

二章 幽霊の屋敷②

 運転席でハンドルを握るカムパネラ。その横、助手席にはチェリッシュが座っていた。とても窮屈そうな姿勢とむすっとした表情を携えて。縮こまるように身体を腕で抱えるしかないその車内には、不満爆発だろう。だって横顔がムーっとしてるもんね。

 真剣に前だけを見据えて運転するカムパネラに、チェリッシュが一言話しかける。


「もう少しいい車買えないの? もっと広い車をさ」

「移動するだけなんだから安い方がいいでしょ。それに維持費だってバカにならないんだよ。高いのはさ」

「そこをケチケチしないでさぁ。というか、マジックタイプライターとか買えるだけのお金あるでしょ」

「マジックタイプライターも位の高い輝石は私が買ったものじゃなくて元々あったものなんだよ」

「はいはい、嫌ならいいですよ」


 依然として視線の向きは変えずに言葉を発した。同行者がいくら文句を言ったところで、この狭い空間がいきなり広がるなんてことはあり得ない。そんなことはチェリッシュも理解している。これ以上無駄な会話を続ける理由もなければ、不満ばかり言っているわけにもいかない。愚痴はこれくらいにして、別のことを考えよう。きを紛らわすためかどうか、チェリッシュは碌に動かせない身体をほんの少しずつ動かして依頼書を読んだ。依頼書(それ)は三枚、マルコスが送り付けてきた一枚目、それから依頼主が直々に書いたフォーマット通りの二枚目、最後にメモ帳に書かれた件の幽霊屋敷の住所と注意事項。

 それらをホッチキスで留めて一まとめにしたものを、手首のスナップと最小の動きだけで器用に捲って読み進める。読み進めるとは言っても、特別詳しく書かれているのでもなければ要項が記載されているわけでもない。依頼書とは名ばかりで、お悩み相談の用紙にしか見えないものだ。何も有益な情報は載っていないことを確認して、依頼書を後部座席に投げ捨てる。


「ちょっと、乱暴に扱わないでよ。一応は依頼書なんだから」

「なーんも書かれてない依頼書に意味なんてありませーん。それよりさ先生、なんか喉乾かない? それにお腹も空いてないかな?」

「いやそんなこともないね。というか『先生』って……。とにかく今は依頼に集中しよう」

「そんなぁ......たかだか数百グロスだろう?」

「どうせトッピングしまくって数”千”グロスになるんだから」


 苦い顔をしたチェリッシュ。腹の内を見破られては何も言い返せなかったようである。


「じゃあこうしよう。終わったらサブマリンブレットで奢るよ。それでいいだろ」

「私は今お腹が空いているんだよ…」

無料(タダ)で食べれるんだから文句言わないで」


 そうこうしている内に、カムパネラたちは目的地に着いた。慎重にバックや前進を駆使し、敷地内に車を停めて外に出る。カバードポーチの掛かった見事な邸宅だ。小さな雨除けの下には、簡単なものしか置けないような丸テーブルに安楽椅子。頑固な汚れのついたボールに、どれとは対照的な手作りの人形があった。嗜好の違うその二つの玩具は、ずいぶん大事にされていたようでテーブルの下に隠されるようにして置かれていた。無遠慮に歩いくと、その丸テーブルの下をチェリッシュが覗く。前述のおもちゃの他には変わったものなど一つもなく、特筆すべき事象もなかった。依頼主から借り受けた鍵を使い、邸宅の中に入って行く。

 誰もいないのだから当たり前だが、一寸先は闇とはこういうことか。あくまで視覚的にであるが。腰に付けたショルダーバックからフラッシュライトを取り出すとそれで周囲を照らし始めた。これもまたお手頃価格のため、バッチリ照らして心配ご無用なんて素晴らしい代物ではない。一本の線が、先に向かうにつれて拡散していくライト。一番遠くを照らすころには、頼りのない弱々しい光となっていた。それでも自分の役目を理解しているフラッシュライトは、命の尽きるまで己が職務を全うするであろう。

 壁伝いに歩いてスイッチを探す。何のって? それはもちろん家を照らすためのスイッチだ。この暗闇の中では調査などままならない。手元を明るく照らしながら進む。


「もしかして電気のスイッチ探してる?」

「ああ。でないと暗くて何も調査できないからね。もしかして、このまま暗い方が良いなんて言わないでよね?」

「暗い方が雰囲気出るじゃん。『幽霊屋敷の調査』なんて、明るいとそれだけで台無しだよ」

「肝試しに来てるんじゃないぞ仕事で来てるんだ。私たちは。そんなんだから契約が打ち切りになるんだよ。もう少し自分の仕事に責任感を持つべきだ、チェリッシュは」

「そんなこと言ったってさ、嫌なものは嫌じゃん? それなら楽しんだ方がいいじゃんか。ほら、あそこの幽霊、いい感じに雰囲気出てるじゃん」


 助手が指さした先には、黒い人型の影が二体、走るように横切った。そこに何もないかのように壁に消えていったその幽霊は身長が低く、片方が片方を追いかけているようにも見えた。ちょうど、幼子が二人きりで遊ぶような。そんな仕草に見えた。その光景を見たカムパネラはぎょっとして、一歩うしろに後ずさりした。幸いだったのはライトを落とさなかったこと。災難だったのは、そのせいでハイビームが幽霊に直撃し、最初から最後までのすべて鮮明に焼き付けたこと。

 言っておくがカムパネラはこの程度で動じる性格ではない。過去には実際、命の危機に瀕する事件や出来事に何度も対面している。今回の依頼も、事前情報なしだったら驚きはしても恐怖はしなかっただろう。情報や思い込みは、それだけで戦況や心持ちをひっくり返す武器になるのだ。カムパネラのビビる姿を見て、隣の大女は腹を抱えて笑う。


「ちょっと、なにビビってんのさ。たかだか影でしょ」

「それが恐ろしかったからこうやって後ろに下がったんだよ。はぁ、はやく電気をつけよう」


 多少の怒気をはらんだ声。図星を突かれた恥ずかしさも相まってのことだった。それからというもの、ことあるごとに幽霊を目にした。廊下を歩くだけで目撃し、壁に手を付けたら出現し、一息つこうと椅子に座るとまた現れる。家中を照らすころには気疲れが最高潮に達していた。最後のスイッチに手を掛けたところで、また幽霊が現れた。何度も目にしていると、だんだんその驚きは薄れていくことになる。「なんだこれかぁ」となるわけだ、正に今がそうだった。ただの環境音にビックリする人間はそうそう珍しいものだろう。

 小さな子供程度の身長しかない影と大人サイズの影。一人の影は大きな影に抱きかかえられており、もう一体の影は脚にしがみつくようにして両手で叩いている。やっぱり見慣れたものだな。


「これで見やすくなった。さて、これからどうしようか。本格的に調査始める前にもう疲れちゃったよ」

「うーん屋根裏? 何かありそうじゃない?」

「屋根裏なんてあるのかな...。ん? そういえば書いてあったような」


 三枚を一組とした依頼書を開く。依頼主の手書きのページを開いて見ると、そこには一階、二階、屋根裏と段々に書かれているのを発見する。部屋の数や、どの部屋が誰の部屋かも書かれていた。決して読みやすい図式ではなかったが、あるだけで嬉しい。そういえば、なにやらペンを動かしてから書き終わるまで相当な時間がかかっていたのはこれが理由か。意外なところでこだわりの強い依頼主なのかもしれない。そのヒントを使って二人は屋根裏部屋まで上ることにした。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ