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第83話 悪い奴だな

「あ、もって行きます。私、美珠様の侍女なんですけど、そういう指示もらってますから」


「あら、そう? お願いね」


 優菜は食堂のおばちゃんから、国王騎士副団長、国廣用の食事を受け取って運んだ。

 誠に不本意ながら女のふりをしてもなんら疑われることもなく。

 献立はソーセージ二本に拳大のパンが二つ。

 大人の男にしては、騎士に食べさせるにしてはとても少ないものだった。

 食事はもう罪人だと物語っていた。

 その重罪人、国廣は城の地下牢ではなく、城の奥の奥にある部屋に入れられていた。

 部屋の扱いは罪人とは言い切れなかった。


「はいります」


 警備も軽く、魔法騎士が一人だけ。

 胡坐をかいて掌を合わせ、魔法で拘束し続ける若い魔法騎士だけだった。

 あとは目を閉じ微動だにしない国廣。


「夕飯、持ってきました。ここなら手が届きますか?」


 近くのサイドテーブルに食事を置いて、優菜は男の前に座ってみた。

 視線はどう動かしても合わせられなかった。


「どういうつもりで裏切ったのか、教えてください」


「先ほどもいっただろう? 国王騎士団長になりたかった。それだけだ」


「そうですか? なんか違う気がします。 だって、さっきヒナが本当の姫だと分かった時、なんか嬉しそうだったから」


 優菜はそのまま国廣の皿から優菜はソーセージを取ると口に入れた。

 程よい塩分が体にしみこんでゆく。


「あ、すいません。思わず食べてた。これしか食事ないのに」


「構わない。食欲はないから」


 優菜は軽く頭を下げると話を続けることにした。


「国境で会った時、あなたはいい参謀だった。ウン。きっと、ずっといい参謀だったはずだ。国境で将軍も団長もいないのにあの人数を束ねてきたんだから」


「褒めても何にもでないさ。まあ、その夕食ぐらい進呈するけれど」


 その後ろで若い少年騎士が二人を眺めていた。

 どうするつもりだと顔に書いてあった。


「騎士の人ってきっと、敵には、って敵じゃないけど、何を聞かれても答える気なんてないだろうから。俺が勝手に考えたこといっていいですか? 別に答えてくれなくてもいいから」


「別にいらないよ」


「俺の考えです。別に答えてくれなくてもいいです。押し付ける気もありません。どうせ、貴方は人に何も伝えることなく死ぬつもりだろうけど、一人ぐらい勝手に貴方をよく思っていて、たまに墓に花を供えてくれても悪くないと思うけど」


「なるほど。じゃあ、聞くだけ、聞こうか。軍師君」


 優菜は頷いて男を見据えた。

 やっと目が合った。


「貴方にはもう家族がいらっしゃらないそうですね。もともとはいいところ坊ちゃんだったけど、はやり病で家族の方皆さん亡くなられたとお聞きしました」


「ああ、天涯孤独だよ。妻も、恋人もいない、寂しい人生さ」


「でも、そんな貴方にも守るものはある。国と民だ」


「今回はそれを裏切ったんだよ」


 優菜は被せられた言葉に首を振った。


「きっと、違う。そうじゃないと思います。あなたは自分が悪役になっても守ろうとしたんだ。国を、そして、自分の騎士団を」


 向こうからの反論は何もない。

 だから優菜は続けた。


「内通者として、向こうの情報を得て決して国境が落ちないようにしようとしたんだ。そして一人で罪をかぶって死のうとしてる。

俺、国王騎士団長をはじめてみた時、なんて感情のない人なんだと思いました。笑いもしないし、喋りもしないし、でも今は少しくらいわかります。あの人は悪い人じゃない。それにあの人がヒナの、いや、美珠姫の話をするときは本当に優しい顔をしてる。もともとはそういう人だったんですよね」


 答えない国廣の変わりに頷いたのは後ろにいた少年騎士だった。


「そうです。国王騎士団長はとても美珠様を大切になさっていました。俺達下っ端がわかるほど。でも、姫を失われてからのあの方は、心を閉ざしてしまわれた」


 一つ頷いて優菜は言葉を続ける。


「全ては一人の女の出現が発端になった。玲那だ。北晋国からやってきた彼女を貴方はもともと少し疑っていたのかもしれない。そしてその女のせいで纏まりつつあった国は乱れた。

あなたはきっと凄く心配したんでしょ? 国のことも上官のことも。だから、北晋国に探りをいれようとした。使者としてやってきた春野と繋がっている振りまでして」


「それほど、あの傲慢馬鹿騎士を思ってはいないのだがね。だが、君の話をきくだけなら、私はすごくいい男だな」


 薄く笑ったようにみせるその顔は何一つ笑ってはいなかった。

 顔が強張っていた。


「確かに気持ち悪いぐらいですね。そんないい男がいたら。きっと、ヒナと出会う前の俺だったら、信じなかったと思います。そんな気持ち理解できなかったから。

でも、この国は熱いです。なんか色んな人間がいて、精一杯生きてる。俺はまだこの国の事情を良く知らない。貴方と国王騎士団長の関係だって知らない。もしかしたら本当にものすごく仲が悪くて、本気で陥れようとしているのかもしれない。

でも俺は騎士を信じたい。ヒナを守ろうとしてくれる人たちを信じたい」


「国廣様、どうか本当のことを」


 少年騎士、魔希は苦しげな声をだした。

 騎士として裏切った人間のその裏の顔がそうであって欲しいと祈るように。

 けれど国廣は何を言うこともなくその場でただ首を振った。


 それから魔法騎士が交代する時に一緒にその一人きりの見張り役と共に部屋を後にすることにした。

 年の変わらなさそうな少年騎士と王城の廊下を歩く。

 ちらりと横目でうかがうと、男らしいというよりもどこかたおやかな感じがあった。


「あの、奇襲作戦の時にヒナに、いや美珠姫に『お守り』くださった人ですよね」


 優菜の言葉に少年騎士は顔を輝かせて何度も首を振った。


「ええ。魔法騎士団長の魔希と申します。美珠姫が北へ行かれた時に同行させていただきました。貴方のことは魔央っと団長から聞いてます、優菜さんはあの魔宗様の弟子であられるとか」


「ああ、そうなんです、流れでそうなったんですけど。今は弟子になれてよかったと思います」


「魔央も弟子でよかったとか言うんですけど、俺にはあの黒い魔法使いは邪悪な存在にしか思えなくて。だって美珠様を襲い、魔央をあんな目にあわせた張本人なんでしょ? 看病してたこっちの身になれってんだ」


「へえ、看病まで。当番とかだったんですか? それは大変でしたね」


 中身は野犬になってはしゃぎまわっていたのだから、部下にはいい迷惑だっただろう。

 けれど彼は謙虚に首を振った。


「いえ、それは好きでやってることなんで」


(ワンコ兄さん、慕われてるんだな……)


「確かに自分の経験則や今回色々な人の話を聞いた限りでは、先生のやり方は鬼畜ですけど」


「でしょう!」


「でもいいところだってあるんですよ。思いのほか面倒見だっていいし。俺、先生いなかったらきっと死んでたし」


 ふと優菜は彼の存在が気になった。

 どうしてワンコ兄さんを部下のくせに呼び捨てにしているのか。

 話からして彼は仲がよいようだけれど、それだけなのか。

 ワンコ兄さんが入っていた犬を世話していた記憶もある。

 えらくワンコ兄さんの周りに出てくる少年騎士。


(も、もしかして、この人! え、でも男の子だよな。桂みたいに男っぽいだけか?)


「あの、失礼ですが兄さんの弟さんですか?」


 すると一気に顔を赤らめて首を振る。


「いいえ、俺は魔央に魔法を教えてもらったんです。だから魔央の弟子にあたります。それだけです!」


「あ、はい」


 気圧されて仰け反りながら頷くと少年は鼻息荒く前を向いた。


(いや、やっぱりそうかも)


「あの、あと一つだけ」


「何です!」


 何とか平静を装おうとしながら振り返った少年におそるおそる問いかけた。


「ワンコ兄さん、いえ、魔央さんの恋人の子犬はどこにいるんですか? 子犬っていうぐらいだから相当可愛いんでしょう?」


「あんた! 絶対分かって言ってるだろう! 悪い奴だな」


(やっぱりこの人だったのか!)


こんばんは! 暑くなってきましたね。

更新が遅れまして大変申し訳ございません。

ご迷惑をおかけいたしましたが、無事退院いたしました。


これからラストに向けて突っ走ります。

よろしくお付き合いくださいませ!



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