第7話 ヒナはここにいる
部活帰り、体を動かしたために汗ばんだ体が吹雪にさらされ急速に冷え、こらえられない寒さに二人で震えながら走っていた。
「今日はハンバーグな。明日土曜だし、ついでに明日の晩飯も買っとこう。休みはごろごろしたいしな」
「重くても持って帰るよ」
心強いヒナの言葉に優菜は頬を緩める。
「何か、この二日で、ヒナが双子だっていうのも違和感なくなってきた」
「私だって!」
双子と分かってからまだ三日。
そう、あの理解できず、無視した日からまだ三日しか経っていないのだ。
幼稚園から一緒のあべっち、高校から友達になった山ちゃん、そんな二人の親友といつの間にやら、もう同じくらい大切な仲間になったヒナという存在。
(さすが、俺の妹、やっぱり素直で可愛いからだな)
顔を見合わせ、微笑み合うとヒナと二人で買いなれたスーパーへと入る。
このあたりじゃあ、安売り店として有名なスーパーの中は、仕事帰りの主婦や男性で混雑していた。
優菜はさっさと帰るために、初めから目をつけた二日分の食材を迷いなく手に入れようとしていたのだが、ヒナは子供のようにお菓子コーナーに駆け出した。
「あ、こら待て!」
「ねえ、優菜、優菜! チュッパってこんなに種類あるんだね! チュッパ買って?」
「いいよ、かご入れて」
するとヒナは両手で棚の商品を掴み、手早く全部かごに入れてゆく。
「ちょっと待て! ヒナ! 食べたいの三本までしか許さないぞ!」
(俺は親か!)
するとヒナは言葉を聞き入れ、しょんぼりして棚の前で吟味しはじめた。
ぶつぶつと、味を呪文のように唱え、両の手がたくさんの商品を持ち替えてゆく。
優菜はそれを後ろから見守っていた。
「苺は絶対食べたい。プリン、ラムネ、ピンクグレーフルーツ、コーラ……だめ、三本なんて無理だよお!」
「それを我慢するのが大人なんだぞ!」
「じゃあ、優菜も食べて。途中からそれ貰うから」
「はあ?」
(そ、それって間接チューぢゃないか! って、ヒナは妹、妹なんだ!)
「よし、決まり一人三本で二人で六本!」
そう決めてから、妙にてきぱき動くヒナにはどうしても敵わなかった。
帰り道、早速二人でチュッパを食べながら歩く。
優菜にはどうしても二人きりになって聞きたいことがあった。
「なあ、ヒナ、聞いていい? ヒナって今まで、どこにいた?」
するとヒナは飴を咥えたまま黙ってしまう。
それでも優菜は双子として聞かなければならないという使命に駆られ、今度はあえて抽象的に質問してみた。
「じゃあ、楽しいところか? 暗いところか?」
「……わかんない。目が覚めたら、先生がいた。いたのは暗い家の暖炉の前。でも、先生はそこは私の居場所じゃないって言った。じゃあ私の居場所はどこって散々泣いたら、双子に会いに行こうって言ってくれたの。双子のいるところが君の居場所だって。そこに行けば未来が開けるって」
そしてヒナは何度か飴を口の中で転がした。
優菜はその隣で辛抱強く言葉が来るのを待っていた。
「私、今までのこと何も覚えてない。全部先生の受け売りなの。双子が待ってるっていうのも、十六歳っていうのも、女っていうのも、ぜーんぶ嘘かもしれない。もしかしたら、私の存在自体、嘘かもしれない」
「そんなわけあるかよ」
ヒナは分からない自分がもどかしく、そして怖いのか小さく自分の体を抱きしめながら何度も何度も目を固く閉じていた。
ヒナに嫌な思いをさせるのは嫌だったけれど、ヒナの出自については一度はきかないといけないことだった。
だから聞いたことに後悔はなかった。
けれど謝りたくはなった。
「そうか、ごめんな変なこと聞いて、ごめん」
するとヒナは首を振った。
「ううん。話さなきゃいけないことだったから。私、優菜の双子でよかった。だってあの家すごく楽しいの。お姉ちゃんも優菜も優真も大好き。あべっちも山ちゃんも、本当に皆、大好き」
夕日に照らされて目を輝かせるヒナの瞳が潤んでいるように見えて、優菜はその頭を何度も撫でた。
「ヒナはここにいる。ここにいるよ」
その言葉にヒナは小さく、とても小さく頷いた。
「ヒナは俺の隣にいる。俺とヒナは双子だ。心はもう繋がってる。それにヒナは女の子だ。だって、俺とは体の作りが違う。まあ、全部見たわけじゃないけど。まあ十六歳ってのは、正直どうしようもないけど、俺の双子の妹っていうなら、きっと十六歳だろう。まあ、俺より年上ってことはないだろうし」
「私、お姉ちゃんだから」
ヒナは必死に目をこすって、それからいつものように優菜に強がって笑って見せた。
優菜はそんなヒナの表情に極上の笑みを浮かべた。
「よっし! 帰ろう? 皆待ってる」
「うん!」




