第44話 女たらしよ
「どうせ、自分だけ行く気だったくせに」
(ウ……ばれた)
優菜はどっちにしろ防衛システムが動作する頃に北晋国で工作する気ではいた。
その威力を確かめるつもりでいたし、何かに転用できればと考えていたのだ。
だから彼らには怪我をしないように後退してほしかったし、ヒナには危なくないところにいておいてほしかった。
(でも、兎に角ヒナだけでも、避難させて)
優菜が考えを纏めようとしている時、痛烈な一言が飛んできた。
「戦えない人間は要らない」
自分を拒絶するような冷たい国明の言葉にヒナは眉間に皺を寄せる。
そしてずかずかと彼の前まで歩いてゆくとじっと国明の顔を睨んだ。
国明は顔を寄せればもう触れられる位置にある、ヒナの顔の造形、そして仕草をじっと眺めていた。
ヒナはその視線さえ気に入らないようだった。
「絶対、あんたって人から好かれないタイプ。敵すごく多いでしょう? だって見るからに、すごくネチネチ嫌味ばっかり言ってそう。俺はできる人間だって変に勘違いしてるでしょう」
「ヒナ、言いすぎ」
桂が止めに入ったが、ヒナは首を振った。
「この人性格はすごく悪いのに、絶対女たらしよ、そういう顔してるのよ。俺はもてるんだって、そう思い込んでるの。だからちょっとでも可愛い子がいればすぐ手をだすの! 私わかるもん! 絶対この人、今愛人八人ぐらいいる! きっと女の人何人も泣かしてきたわ」
いきまくヒナと呆然としている国明にかわって場を取り繕ったのはその副官だった。
「まあ、女性を泣かせてきたことは否定しませんね」
国廣はそう言って余裕の笑みを見せたものの、そしてそこから至極まじめな顔をする。
「しかし、本当に遊びではありません。君たち、行くのなら命の保障はできません。誰一人、君たちを守る余裕はないでしょうし」
するとヒナは国明から視線を外し、自慢げに自分の胸を叩いた。
「お構いなく。私は優菜のために戦うし、優菜だって、私のために戦いますので二人で充分です。私たち、息もぴったりだし。あ、桂は別よ」
「兎に角、自分たちは自分達のできる範囲でお手伝いしますので」
優菜はヒナの頭を押さえてそのまま座った。
「細かいことは、他のやつらがついてからにしよう」
兄さんの言葉にその場にいた紗伊那の人間達は頷いて出てゆく。
優菜もとりあえずその時まで策を練る気でいた。
「おい弟子ども、お前たちにも渡すものがある」
先生だった。
自慢げにふんぞり返って座る先生は、口の端を持ち上げると肉球を叩いた。
すぐに恭しく両手に供え物を持って魔法騎士が姿を見せた。
まるで突貫工事を仕上げたようなげっそりやつれた顔で。
そしてその手にあったものは。
「制服?」
それはかつて北晋国で毎日腕を通した優菜の学ランとヒナのブレザー、本当に制服だった。
(こんなものを着たら逆に動きにくい)
「制服を着て戦うの?」
「ヒナ、制服を刺してみたまえ」
ヒナは先生の声に従い、すらりと右手で剣を抜くと、魔法騎士のもつ学ランを刺した。
けれどすぐに
「これ以上刺さらない」
布が剣を通さないのだ。
「そうだ、鎧を持たない魔法騎士の法衣に使う布。魔法騎士に練り上げさせた特別な糸で作られた布だ。剣にも魔法にも強い。騎士の鎧にも匹敵するものだ。それを以前発注していたのが届いていたから持ってきてやった。ちなみに今も少し魔法騎士どもに力を練り上げさせておいた。この戦闘服は最高の状態だ」
「先生~」
(なんか先生の愛情が伝わってくるかも~)
「ありがとう先生」
優菜とヒナがその特別製のものを着て、じんわり心を暖めていると、先生は一番下にある黒いパンツとタートルのセーターを桂にも手渡した。
「桂にはこっちを」
「え? いいの?」
「騎士達は皆、今回鎧を脱いで戦うことになる。紗伊那だと分かるものは何も身につけない。向うに紗伊那の人間だと悟らせないためだ。お前は学生でもないから制服ではないが」
けれど先生は最後に魔法で優菜達の学校の校章が入ったエンブレムをくっつけた。
桔梗をモチーフにした校章がこれほど統一感のあるものだと思ったことはない。
「お前も家族だからな、ほら、私も長靴にこのエンブレムをくっつけたぞ」
皆とおそろいのエンブレムを見て桂は嬉しそうに笑うと、何も言わず走っていってしまった。
「さてと、後はあの不出来なワンコ兄さんの器をどうにかしないとな」
「はっ!」
先生は一体どういう権力者なのか、魔法騎士を従えて出てゆく。
部屋に二人になるとヒナは指を絡ませてきた。
そんなヒナが愛しくて仕方なかった。
「絶対離れないで。俺から」
「うん。離れないよ。優菜も離れないでね」
「うん」
ヒナの綺麗な瞳を見ているとどうしてもしたくなって、そのままゆっくりヒナの唇に口付ける。
唇を離すと、真っ赤な顔をしたヒナがいた。
「なんか、照れるね。こういうの」
「うん」
自分でも顔が真っ赤になってゆくのが分かる。
「あ、はは、あの、あの私、優菜にするの、恥ずかしいけど、されるのも、こんなに恥ずかしいと」
「あ、うん」
「私、あの、先にご飯、食べなくちゃ。あの、先にいってるね」
「あ!」
ヒナは俯いたまま駆け出した。
(可愛すぎる)
悶えて座ると、すぐに茶のワンコが肉球で肩を叩いた。
「兄さん! 見てたの?」
見られた恥ずかしさで優菜の頭からは蒸気が上がりそうであるのに対し、ワンコ兄さんはまるで社会を知り尽くしたかのような物知り顔で優菜を眺めている。
「私がいるのに、勝手にイチャイチャし始めたはのはそっちだろう?」
「絶対おもしろがってみてたでしょう」
「まあ。しかし、可愛いものだな。思春期の恋というのは」
「兄さんだって、年下の恋人いるんだろ?」
「まあ、そうだな。だが、もう頭の先から足の指先まで嘗め回したあとだからな。純愛はどれくらい前の話になるか」
(は? エロイ、このワンコ、エロイ!)
こんばんは!
今日もアクセスありがとうございます!
ご指摘がありましたので、一つ弁明を・・・
優菜は藤堂秀司を「義理兄さん」とよんでおりますが、
これはそのまま「ぎりにいさん」と読んで下さいませ。
二人の関係を出すように書いておりますので・・・
ご指摘くださった方、いつもありがとうございます。
独りよがりな文章になるところでした(笑)