第4話 天は彼に二物を
「はあ、あのサラサラの黒髪、秀麗なお顔、そしてあの優雅な物腰。たまんない」
「その上、運動神経も抜群なんて、もうこれ以上何を望めばいいの?」
「天は彼に二物を与えているのよ」
校門でたむろしていた女子たちは夢見るように、祈るように校門へと続くくだり坂に視線を送っていた。
そして目当ての人物が坂の一番下の差し掛かったのを見つかると横断幕を持ち上げた。
『ラブリー ユウナ』
力の限り、ピンク地に赤のハートが飛びまくった横断幕と、旗を振る。
けれど今日はいつもと違う。
それは誰の目にも明らかだった。
あろうことか、目当ての少年は女を連れていたのだ。
見たこともない、ノーマークの女。
自分よりも絶対可愛くない、ぶりっこのような女。
それと仲良く登校する彼らの王子の姿を見て、一瞬にして校門が殺気に満ちる。
「わ、何、あれ、ラブリーユウナだって。すごいね」
能天気に声をあげて笑いながら指差すヒナの手を優菜は下げさせる。
あえて関わるなと言いたげに。
「おっはよう! 優ちん。今日もいい朝だね~」
「おう、あべっち、おはよう」
あべっちという豆粒ほどの目をした茶髪の少年はその隣にいるヒナを見つけて、驚いて優菜の耳に囁いた。
「あれ、本当に双子?」
「まあ、姉ちゃんがそういうんだし。妹のヒナ、よろしくな」
「お姉ちゃんです!」
優菜の紹介をきいてヒナは口を尖らせていたが、人見知りのないあべっちはヒナに笑顔を向けた。
別に女の子だからと色気づくわけでもなく、手を差し出す。
「よろしく、俺、優ちんと同じクラスで、同じ部活の 安部 憲太。皆からあべっちって呼ばれてる」
「よろしくね。あべっち。私、ヒナ。優菜のお姉ちゃんです」
ヒナもそんなあべっちににこやかに手を差し伸べた。
「了解、優ちんのお姉ちゃんね」
「おい! あべっち。こいつは妹だ! この裏切り者!」
「聞いた? あの女、いえ、あの子、優菜様の妹さんらしいわ」
「聞いた、聞いた、生き別れの妹さんなんでしょ?」
女達の噂は早かった。
きっと噂の出所は悪気なく、女子に聞かれて話したあべっちであろうことは軽く予想できる。
きっと登校後、トイレにでもいって女子に囲まれて、ヘラヘラ話したのだろう。
「ものすっごい見られてるぞ、優ちん」
優菜の前に座っていた山ちゃん、こと 山本 信二 は椅子を斜めにして優菜の机にもたれながら、その隣に座る転校生ヒナを見に来る女子達を見ていた。
「確かに、学校の『王子様』の優ちんにこんな可愛い妹いたら、見たくもなるわな」
「山ちゃん、違う! お姉ちゃん! 私、お姉ちゃん」
「王子様って何だよ。全く好き勝手いいやがって。ってかヒナは妹!」
「そうだ! 王子様ではないぞ! お前は、万年二位!」
突然の声にヒナは慌てて後ろへと目をやる。
そこには神経質そうなとても細い少年がいた。
顔も色白で、背丈もそこいらの平均的な女子と同じくらい。
むしろヒナよりも小さかった。
「お、でた。がり勉メガネ」
山ちゃんの言葉に瓶底メガネをかけた少年は足を踏み鳴らす。
「全く、こんな万年二位のどこが王子様なんだ? お前など、あの方に比べればただの石ころだ! まあ、この小さな御陵町においてちょっと運動ができて、見目がいいからといって調子に乗るな。この七光り」
「まあ、頭がいいからってひたすら調子に乗ってる奴よりましだろ」
「なんだと! 安部!」
「そーよ、そーよ去ね! このもやし!」
「消えろ、キモメン!」
「キモメン……」
後ろからやってきたあべっちの口撃と、耳を澄ましていた女達の罵倒に、瓶底メガネは、あからさまに傷ついた顔をして、すごすごと退散した。
「ねえ、優菜、あの人何?」
「ん? うちの兄貴の熱狂的信者」
「兄貴?」
尋ねようとしているヒナは分かったけれど、もう教室の入り口からは次の授業の先生が姿を見せていた。
そして優菜自信全く答えるつもりはなかった。
「よし、お前ら~ 席につけ、授業はじめるぞ」
こんばんは。
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そして採点ありがとうございます。
まだまだ、序盤、全く前作とは関連がないような感じですが、
北晋国をお楽しみいただければと思います。
では、失礼いたします。