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第18話 ずっとあのまま

「わ」


 雪に埋もれて足を取られてしまったヒナを優菜の手が掴み持ち上げる。


「大丈夫?」


「うん。優菜がいるからだいじょーぶ」


 ヒナはいつものように笑うと優菜の隣を歩いた。

 繋いだ手はそのままで。

 そして優菜に体を寄せてくる。


「ん?」


「優菜、あのね、私も戦う」


「え?」


 優菜にとって、それは突然で、思ってもない言葉だった。

 戦うのは男の仕事で、女は家にいるものだと思っていたから。

 それは優菜の頭が固いのではなく、北晋国の伝統的なライフスタイルだった。

 優子のような活動的な女性は別として多くの女性は結婚とともに家に入って、家を守る。

 

「優菜を守るためには、私だって戦わなきゃね」


「どうした?」


 ヒナにどんな心境の変化があったのか、一体何がヒナをそうさせたのか、優菜は全く分からず、足を止めて自分の半身をじっくり眺める。

 するとヒナは照れくさそうに笑った。


「私ね、記憶がないから、ずっと不安だった。今まで何をしてたのか、どんなことをして生きてきたのか、全然覚えてなくて、霧が掛かったみたいで。どんな人とどんなことをして生きてきたのかも、それとも何かに作られたのかも、何もわからない。でも優菜もお姉ちゃんも優真も皆、私を家族だって言ってくれた。すごく嬉しかったの。そこだけ霧が晴れて、すごく幸せだった」


「ヒナ」


「もしかしたら、私、人を殺して生きてきたのかもしれない。捨てられて、どこかで浮浪生活だったのかもしれない」


「もういいよ、もういいんだよ、ヒナは俺の双子の妹だろ?」


「お姉ちゃんよ! でも、そうなの、優菜がいてくれたから、皆がいてくれたから私、今ここにいる。こうやって、優菜と手を繋いでる。数日前までまったく知らなかったのにこうやって。ありがとう、優菜」


 ヒナは感謝を体現するように優しく優菜の体を抱きしめた。

 優菜はどこか緊張して、そんなヒナの体温と匂いを感じる。


「優菜はちゃんと教えてはくれないけど、私、双子だからわかるもん。優菜は私達には言わない、すごく重いもの背負ってる。でも、優菜の重い荷物、私も背負うよ。優菜が抱えてるもの、私も抱えるよ。私も強くなる。優菜と一緒に戦えるように」


(それってプロポーズじゃないのか?)


 けれど自分を抱きしめてくれるヒナのくっついた頬があたたかくて優菜はその心地よさに目を閉じた。


「そうだな。俺達双子だもんな。だったら、俺はヒナの不安を半分、持ってやる。それでさ、いつか記憶取り戻そう。もしかしたら、ヒナ、暢気に暮らしてたかもしれないだろ? 毎日、おいしいもの食って、ものすごくいい男達、侍らして遊んでたのかもしれないだろ?」


「何? 私には優菜がいればいいの。男は優菜だけでいいんだから」


(だから、それってプロポーズじゃ……)


「もし、万が一、万が一にも私が、毎晩毎晩若い男たちを侍らして、逆ハーレムを作ってた超尻軽女だったとしても、もう今は優菜だけなんだから」


「そうだな。俺にもヒナと優真だけだ。二人が生きられる世の中になればそれでいい」


「よし、約束!」


 ヒナは体を離すと小指を差し出した。

 そんな小指に優菜も指を絡ませた。

 絶対守ると誓うためにきつく、きつく。


「私、優菜と優真を守るために強くなる」


「俺も二人を守ってみせる」


       *


「ねえ、本当に二人は双子なのかな」


 鍋をかき混ぜながら優真は茶色のワンコ兄さんに声をかけた。

 ワンコ兄さんは優真の隣にちんまりと座りながら、雪の上に作った魔法の火を一定に保ち、耳を傾ける。

 どこか優真の顔は楽しそうだった。

 何か、楽しい小説を読んでいるときのような。


「だって、双子だったら結婚できないんでしょ? 私、あの二人にはずっとあのままでいて欲しいな」


 けれどワンコ兄さんの表情は違う。

 眉間に皺を寄せ、どこか苦悶した表情を浮かべていた。


「『ずっとあのまま』なんて、そんなの辛いことだよ。人は成長していく。十代なら、すごい速さで成長していくんだ。その中に出会いもあれば、別れもある」


「でも、私、優菜とヒナと一緒にいたい」


 ワンコ兄さんは不安そうな顔をした優真の背中を肉球で叩くと、優しく微笑んだ。


「うん。だから、私はあの二人はともに成長して欲しいと思う」


「え?」


「お互いを高めあえる二人であって欲しいと、思うんだ。って難しかったかな」


 ワンコ兄さんが試すような目を向けると、優真は目じりを下げてへへっと笑った。


「ちょっとね」


「君もいずれ、出会うさ。自分の人生にとってかけがえのない人に」


「かけがえのない人か。優真にもできるかな」


「ああ、できるさ。私にだっているんだから」



      *



「くうう! ヒナ的には飛竜を味方にしたかった!」


「やっぱ予想はしてたけど、見つからない。もう飛んでちゃったのかな」


「かもしれないな。はいどうぞ」


 二人はワンコ兄さんから渡されたスープを早速すする。

 雪山を一日歩き回り、冷え切った二人にとって、なんの成果もないということが更に疲れを増幅させた。

 それでもヒナはそんな疲れを見せないように振舞った。


「おいし~い! これ!」


 ヒナはワンコ兄さんと優真の作った具の沢山入ったスープを一口口に入れて声を上げる。


「うま!」


 優菜も声を上げてかきこんでゆく。

 確かにそのスープは心も体も温めてくれた。

 ヒナと優菜は顔を見合わせて、頷くと、もう一杯と、器を優真に差し出した。


「でも、飛竜がなんでこんなところ、うろついてるんだろう」


 優菜の言葉にワンコ兄さんは目を伏せる。

 そしてあえて冷静に声を出した。


「紗伊那に飛竜はいにくいんだよ。少し前に竜騎士が反乱をおこしたからね。人の憎しみは飛竜、そしてそれを操る竜族へと向いた」


「反乱で、国にいられなくなったってこと?」


「そうだよ、今は彼らは国にしっかりと仕えているが人に認められるまでにはまだ遠くて長い道になる。それでも、姫様は竜騎士の復活を願っておられた」


「最近、死んだっていう紗伊那のお姫様?」


 ヒナの言葉にワンコ兄さんは顔をあげて、まっすぐにヒナへと向けた。


「そう、死んだっていうお姫様だ」


「その姫様が騎士団長達とともに魔女と竜騎士と戦ったんだろ? んで、平和になったって聞いたけど」


「優真もそんな絵本、最近読んだ!」


 優菜と優真の言葉にワンコ兄さんは何度も何度も強くなってゆく火を抑えようとしていた。

 けれど抑えきれず、火は時折渦になって、四人の顔を照らしていた。

 静寂が支配したときだった。


 声が頭の上から聞こえた。


「騎士団長だけではない。騎士も軍も、一つになった。あの時は、国も輝いていた。けれど、今の足並みはバラバラだ。教皇は人の心どころか、自分の心を癒せず、王は仇を討つために躍起になっている。騎士団長達も全く心が通じていない。ひょっとするとこのまま紗伊那は滅びるのかもしれないな」


「先生!」


(何でー! 犬に黒い羽生えてる!)


 優菜はまたドキドキしつつ無事に着地を終えたワンコ先生を目玉が飛び出るほど凝視していた。

 ヒナと優真もその先生の背中から飛び出た羽に釘付けになって、色々な角度へと首を動かして眺めていた。

 そんな少年少女に崇めろともいうべき視線を送りながらワンコ先生は自慢げに羽を黒い体毛に隠して、ワンコ兄さんから早速スープを受け取った。


(ひい! 先生、空も飛べるんですか? もう一体、あんた何?)


「どうやら、紗伊那は秦奈国の第二王子を養子として迎える方向で動いているようだな。王の甥で、姫とも仲が良かったから。ただこれはまだ極秘事項みたいだがな。まあ、私の僕ともいうべき、同胞が教えてくれた」


(そんな大国の極秘事項を何で、あんたが知ってんのー! あんた本当に一体何者?)


 優菜は心の中で突っ込みつつも今の情報を早速頭の中で整理する。

 そしておちていた枝を拾って、雪の上に図を描いた。


「死んだ姫様、バラバラな騎士、秦奈国の第二王子。士気のあがらない五十万の兵士。そんな瓦解しかかっている大群は心が一つになった兵には勝てない」


「心が一つ? 優菜、この国の兵は紗伊那よりバラバラではないのか? ここから見てもさほど士気は高くない」


 ワンコ兄さんの言葉に優菜は静かに首を振った。


「嫌、いる。王よりカリスマ性がある人物が。そしてそれにちゃんとした軍師がついて、地の利があれば勝てる」


「誰だ、それは?」


 ワンコ兄さんの言葉に優菜は顔を上げた。


「上皇様」


      *



「そう、藤堂姉弟が亡くなってしまったの」


 老齢の女性は手紙を机へと置いた。


「可哀想に、まだこれからだと言う時に」


 そして手入れされたこじんまりとした庭へと目をやる。


「お手紙の返事はどういたしましょう?」


 藤堂姉弟の死を報せた手紙の裏には藤堂秀司の文字。


「本当に悲しいわね、優子と優菜は私、本当に大好きな子たちだったから。懐かしいわ、この庭で走り回っていたのに」


こんばんは!

なんとか、連日の更新間に合いました。


今日もアクセスありがとうございます!

いかがでしょう、

前までと少し違ったものにはしたいと思っているですが、

皆様がご覧になられてちょっと違った作品になっているのでしょうか?


さて、次回にはこの雪山から抜け出す予定!

そして行く先はもちろん!




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