第17話 飛竜をみつける
「うわ……何あれ」
ヒナは雪山を登り終えたとき、その先に広がっていた光景に声をあげた。
隣で優菜は声すら上げられず、圧倒されていた。
(何だ、この軍隊の数)
それは国境近くの山から南を見た瞬間の出来事だった。
目の前に広がるのは雲海のような絶景ではない。
全く相反する景色だった。
両国国境にあたる豊富な水をたたえた大河の手前、優菜達が暮らす北晋国側には黒い軍服に赤い鉢巻を巻いたかなりの数の人間。
そして大河の向こう、紗伊那にはその数を更に凌駕する、おびただしい人の数。
圧倒的多数の兵士だけではなく青、白、赤、黒、とりどりの装束。
(軍以外に六色、やっぱり全騎士か)
「国王騎士以外は、その数を半数以下でおさえてるようだな」
優菜は騎士の総数を知らずにいた。
だからこそ、聞こえてきたワンコ先生の言葉に優菜は顔を向ける。
もっと説明を求めるように。
「おそらく残りの騎士はまだ王都を守っているのだろう。あの天幕を見てみろ。旗が立っているだろう。あの大きな旗が団長旗、団長がいるという証だ。だから、今いるのは国王騎士と暗黒騎士の団長だ」
(国王騎士団長と暗黒騎士団長)
「暗黒騎士とかすごく怖そう」
まるで何かのスパイ作戦のように、双眼鏡で偵察するために、雪のこぶに体を隠していた優真が恐れをなして呟いた。
優菜はあえて隠れることもなく、そんな双眼鏡を借りて覗いてみる。
見えたのは絶対破壊不可能な重厚な鎧に身を包んだ真っ黒い騎士達だった。
(何だよ、あの重装備。あんなの目の前にいたら誰だってビビるだろう)
「しかし、国境は完全に閉じているな。私がこの国に入ったときにはまだちゃんと開いていたから、荷物に乗せてもらってきたのだが」
(荷台に? 馬車の荷台に黒いワンコ乗っけられてんだろ? 悲しそうな瞳で売られてゆくカンジ? どうやって交渉したの、それ! はうあ、見たかった!)
ワンコ先生の言葉に優菜はドキドキしながらも国境の上を通る幅員十メートルほどの一本の橋へと目を移す。
橋の上にある国境の門は双方、固く閉じられていた。
その門を守る守備兵以外、門には民間人の気配もない。
「さて、どうして侵入するかだが」
そんなワンコ先生の声に優菜は双眼鏡を外して、空を見上げる。
今にも雪が降りそうな重い灰色の空だった。
「飛竜を見つける」
「え?」
優菜の言葉にヒナが顔を上げて、同じように空を見上げる。
けれど今日、その空には鳥一羽飛んでいなかった。
「昨日、飼われた飛竜を見たんだろ? だったら、それに乗せてもらう。で、紗伊那に入る」
「そんな、どこにいるかも分からないのに」
諦めの入ったワンコ兄さんの言葉をワンコ先生がおさえて腕を組んで優菜へと目を遣る。
お前の意見をきいてやろうという様子で。
「まあ、それしかないな。この国境を突っ切るよりは簡単なことだろう」
「ってか、先生、そんなこと考えていたんですか」
ワンコ兄さんは困ったように後ろ足で右耳の後ろを掻いた。
「まあ、兎に角、善は急げだ。優菜、ヒナ、お前達は兎に角探せ、大して強くないワンコは優真とともに食事の準備を」
「あの、先生は?」
「少し、向こうの情報を探ってくる」
先生の肉球が指し示した先には広大な紗伊那が広がっていた。