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第16話 ヒナちゃん、君は戦えますか?

「雪が降ってきた」


 優菜は黒のダウンジャンバーのチャックを上げると、すでに飛び出そうとしていたヒナを呼び止め帽子をかぶせた。

 そこへワンコ先生の緊迫した声が飛んでくる。


「ヒナはワンコ兄さんと、優菜は私といくぞ」


「うん! よろしくワンコ兄さん!」


「ええ、行きましょう」


(あ、ワンコ兄さん四足歩行だ)


 少しそっちに気をとられつつ、泊まっていた宿のエントランスで右と左の二手に分かれ、優菜はワンコ先生について雪の上を全速力で走ってゆく。

 隣を二足で走るワンコ先生は耳をピンと張り詰めさせて、音と気を探っているようだった。


「優真の足ならまだ、そんなに遠くはないんでしょ? 先生」


「ああ、遠くはない。だが、まずい! 何か他の生物もいる」


「え?」


 そして優菜もすぐに見つけた。

 小さな足跡と、もう一つ意味の分からないほど巨大な足跡があることを。


 ヒナは雪の中、懸命に走っていた。

 隣で茶毛のワンコ兄さんも、四足でかけてゆく。

 そんな兄さんはチラリとヒナへと視線を向けた。


「ヒナちゃん、君は戦えますか?」


「え? 戦う?」


「剣を持てますか?」


「持ったことないよ」


「よろしい」

 

 するとワンコ兄さんは足を止めて、反転した。


「狼がいます。私が相手をしますから、君は下がっていなさい」


「え? 狼?」


 ワンコ兄さんは一度吠えると、体の前に白い縁取りをされた魔方陣を出現させる。

 ヒナがその魔方陣の美しさにみとれている前で、その魔方陣から突如として現われた無数の白い火の玉はヒナとワンコ兄さんを付けねらっていた狼達を追いまわしはじめた。

 上下左右、死角などなく目にも留まらぬ速度で狼に襲い掛かってゆく。

 そして、その炎は数秒の間に標的の狼を焦がし、残った狼は本能的に危険を察知したのか、それ以上ヒナたちを狙うことなく、すぐさま雪深い森の奥へと消えた。

 静寂が戻った森の中で、ヒナは思わず手を叩いていた。


「強いじゃないですか、ワンコ兄さん」


「それほどでもありません。しかし……ヒナちゃん、君はこのまま戦わないつもりですか?」


「え?」


「優菜君は戦うのでしょう。先生からそう聞きました。君や優真ちゃんを守る為に。そんな彼に君がしてあげられることはなんでしょうね」


「私の、してあげられること?」


「ええ、双子なのでしょう?」


「双子の私がしてあげられること」


 ヒナがまじめな顔で考えようとした時、悲鳴が聞こえた。

 間違いなくそれは優真の悲鳴だった。


「ワンコ兄さん!」


「兎に角、行きましょう!」



 先に優真のもとへ着いたのはヒナとワンコ兄さんだった。

 優真の目の前にいるのは、優菜の背丈の数十倍はある巨大な赤い生物。

 鱗に覆われた巨大な生物だった。

 そして鋭い牙を剥いた口先が優真へと迫っている。


「優真!」


 ヒナが駆け寄ると、優真が涙を滲ませながら叫び声を上げた。


「ヒナ! 助けて! ヒナ!」


「今行くから」


 ヒナは赤い生物の様子を確かめつつ、崖のはしまで追い詰められた優真へと手を伸ばし近寄っていった。

 少しでも間違えれば崖下か、生物の胃の中。

 けれどヒナは怯えつつも躊躇うことなく、ただただ優真へと手を差し伸べる。

 そして指先がふれあい、ヒナが引き寄せ抱きしめると優真もきつく抱きしめ返した。

 けれどそれ以上どうしようもできなかった。

 優真はあまりに大きな生物に足がすくんだ。

 見たこともない巨大な生物が一度足をあげてしまえば踏みつけられてひとたまりもないだろうし、大きな口をあけて迫ってくれば、きっと食べられてしまう。

 それでもヒナは必死に優真を庇っていた。

 するとその生物は耳を動かして、巨大な翼を天へと向けて飛んでいってしまった。

 崖の先端に残されたヒナと優真は、お互い空を見上げてただその姿を追い続ける。


「今の、何?」


「すっごい、大きかった!」


「飛竜だよ」


 ワンコ兄さんは空を見上げ飛竜を見送りながら、腰を抜かした二人に声をかけた。


「大丈夫、あれはおとなしい生物だから。ただ好奇心が強くてね。君についてきたんだろう。けれど主に呼ばれて行ってしまった、ってところかな」


 ヒナは何事もなかったことに安堵し、大きく息を吐くと、腕の中にいる優真に叱るように声をかけた。


「よかった! 優真、どうして勝手に行動したの?」


「だって、お父さんに会いたかったんだもん。どうしてお父さんにあっちゃいけないの?」


「優真……」


 ヒナは悲しそうな優真を兎に角撫でると、抱きしめた。


「今は無理だけど、会いに行こうよ。絶対お父さん喜んでくれるから」


「今、会いたい。会いたいの。だって家族だもん! なのにどうしてダメなの?」


「優真、頼りないけど、私も家族だよ。優菜もいる。お父さんにところにいけるまで、私達が守るから。それまですごく物足りないだろうけど、我慢して」


「ヒナ」


「本当に頼りないけどね」


「じゃあ、ヒナと優菜で我慢する」


 しがみついてくる優真を満足そうにヒナは抱きしめた。

 母親のかわりになれないことくらい分かってるが、それでも年上として、優間を守ってやる覚悟は芽生えていた。


「よし、戻ろう!」


「うん!」


 優真の機嫌がすこし持ち直し、安心したヒナは立ち上がろうとした瞬間、雪に足を取られた。


「わ!」


 体が傾き、崖へと吸い込まれる。

 すると宙をさすらっていた手をきつく掴まれた。


「あっぶねえ!」


「優菜!」


「ちょっと、兄さん、もっと引っ張って!」


 優菜の後ろではワンコ兄さんが優菜の上着を口で引っ張っていた。

 助けた優菜の体もまた中途半端に傾いていた。

 するとワンコ先生が黒い肉球を優菜たちへと向けて左手をチョコチョコと動かして魔法で引き上げてくれる。


「全く、無茶するやつらばっかりだな」


「気をつけなさい、君たち」


 先生と兄さんに叱られ、三人で噴出した。

 犬に怒られたと。


 その夜、


「ねえ、ワンコ兄さん。私も戦いたい。優菜と優真を守る為に」


 ヒナは自分の布団の中で丸くなっていたワンコ兄さんにそう告げた。

 優真と優菜を守るための覚悟を決める時だった。


「どうすればいい?」


「なら、君は自分に自信を持ちなさい。自分を信じなさい。まず、それからだ」


「優真も頑張る!」


 ヒナと同じベットに転がっていた優真もずっと起きていたのか隣で、すこし緊張した声音でそう言った。


「ああ、明日から、二人には私がつこう。私は割りとスパルタだからね」


「はい。ワンコ兄さん」


「分かった。ワンコ兄さん」


 ヒナと優真はお互い顔を見合わせて抱きしめあってそのまま目を閉じた。


「じゃあ、お休み」


 ワンコ兄さんはそんな二人に布団をちゃんとかけてやると、隅で丸くなって眠りについた。



    *



「もう、どこ行ってたの! 勝手にであるいちゃあ、だめっしょ!」


 月明かりの中、長身痩躯の少女は飛んできた飛竜をしかりつけた。

 飛竜は言葉を理解しているのか、申し訳なさそうに頭を下げる。


「あたしの相棒はあんただけなんだから、もうどこにもいかないでね」


 そんな悲しげな主の言葉に飛竜もまた悲しそうな声で一度啼いた。




こんにちは。

今日もアクセスありがとうございます。


紗伊那へと侵入を試みる優菜一行。


優菜とワンコ先生

ヒナとワンコ兄さん


これからこの双子とワンコ達はどうなっていくのか!?

無事に紗伊那へと入ることができるのか!?

そしてこの飛竜は!


これからもよろしくお願いいたします!

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