南都は落ち込んでおりました
南都に到着した。長い馬車旅は三人の教師たちにとっては苦痛の連続であった。別に変わったことは起きていないのだが、兎にも角にも腰が痛い。あまりにも。
「痛い」「痛い」「痛い」
三人揃って仲良く腰を痛めた。
国平は腰をさすりながらも、学問大臣のフリードリヒから受け取った地図を開いた。その地図は南都の地図であり、学校の位置が記されていた。
「えー。ここから十キロ歩きます」
「無理だ」
「帰りたい」
うだうだ言いながらも三人は歩き出した。
南都周辺の景色は王都周辺それとは全く別のものだった。王都のように草原が広がっているわけではなく、辺り一面が真っ平らな畑に開墾されていた。どこまでもどこまでも畑。そして、畑には様々な農作物が揺れていた。
「なぜ馬車は学校まで送ってくれなかったのか」
竹橋が文句を言った。
馬車は南都の入り口までしか送ってくれなかった。まるで急かされるように馬車を降ろされ、馬車は逃げ帰るかのように去っていった。
「なんか事情がありそうですよね」
国平が周囲の状況を見ながら言った。
南都は王都とは違い平屋の建物が多かった。背の低い建物が広がり、そこには農民達が詰め込まれるように住んでいた。
しかし、見かけるのは女性や子どもばかり。年若い男たちは数えるほどしか見かけなかった。
「やはり、南都の男たちは戦争に駆り出されているようだ」
竹橋が言った。
「おそらくだが、南都の住民は王都のことをあまり良く思っていないのではないか? 王都では幸せそうな家族をたくさん見かけたが、ここはそう、暗い」
「そうですね。女性と子どもが必死に働いている。映像資料で見た戦時中の様子そのままですね」
保里が胸に手を当てながら荒い息を始めた。
「せ、戦争……。本当に戦争が起きているのですね……」
「信じられないですよね……」
竹橋が周囲を見ながら語る。
「王都の人間には、いや、おそらく西都、東都、北都の人間にも徴兵がかかっていないのだろう。戦争に駆り出されているのは南都の人間だけ。そして、その原因はおそらく、教育の進んでいない南都が他の都市に見下されているから」
三人の周囲で生活する人々の服装は薄汚れていた。穴の開いた服を当たり前に着て、子どもたちは藁を編んだような服を着ている。
格差。
「これは、根深いな」
「ですね」
その時だった。一人の子どもが竹橋に向かって石を投げた。
「……っ!」
幸い石は当たらなかった。
「返せ!」
子供が叫んだ。
「お父さんを返せ!」
国平が「やばい」と呟き、二人に声をかけた。
「走りましょう!」
竹橋と保里は国平に続く形でその場から逃げ出した。