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第四話 誘引

斥候を退けた守備隊。短い休憩の後、次は本体と対面する事になる。

 着々と築城を進める守備隊。彼らを見守るものはか弱く、チラついている星々のみであり、月が姿を現してくれることは無い。

 突然、見張りが大音声を上げた。虫でも見つけて驚いたのであろうか。そんな訳がない。悪趣味すぎる。

 となる残るもう片方の可能性。敵襲だ。

 砦の屋上に設置された望遠鏡は極めて鮮明に、明かりこそないが、来客の影を捉える。

 それは槍や斧、弓を抱えた人型の者と、何やら大きな荷物を載せた狼。どれも十分、脅威として報告するのに十分だ。


「敵襲!ゴブリン多数と狼十五余り!東方の微高地に集結しています!」


 それが聞こえた時、隊長であるハスドルは星空の元、休憩を取っていた。大きな石に腰を掛けて手には支給されたビールがある。彼は内容物をアンフォラに移し替え、多少冷やしてから飲もうと考えていたが、結局、我慢が足らず常温のままチビチビと舐めていた。麦酒は酒という名目ではなく手軽に手に入る飲料水として、滋養強壮剤として配られている。斯様な飲み方をするものでは無いが、何か思うことがあったのだろう。

 一度ジスコーネがその理由について、作業の合間に尋ねたことがあったが、彼曰く、


「バルカに悪いと思ってな......墓くらいは作ってやらないと」


 バルカとは彼が乗っていた馬のことだ。首と胴が泣き別れになっちゃったあの。かれこれ一年はともに時間を過ごしていて、情が沸いても仕方がない。


 副官、ジスコーネは自己と職務を秤にかけ、意を決し「隊長である貴方がそんな様子でいたら士気が下がる」と戒めたが効果はなかったらしい。


 涙を地に落としている彼の様子は進歩を思わせた。少し前の彼ならどうしていたであろうか。馬を戦闘の度使いつぶしていた彼はどうしていたか。無論、隊員をそのように使われたら困るので都市側はその成長も汲み取って隊長に任命したのだが。


 いろいろ物思いに耽っていた彼だが、仕事となればそんなことは二の次にしなければいけない。空を仰ぎ静かに目を閉じる。その闇は雫を隠してくれた。


 まず、防衛の要である門、その外の作業員を退避させる必要がある。人員は崖側、門側ともに未配置、これは退避の後でいいだろう。そして今回の戦闘の要である策の準備。これはほとんど完成しているが敵を誘引するための出撃を優先させ、残った容量で仕事を割り当てることにしよう。


「門外の作業員は居住区に退避!戦える者は武器を配るからこっちへ来い!」


 ハスドルも見張りのそれに勝ると劣らない声量を挙げたが、さすがに遠くまで完全に伝えることができなかったので結局、伝令を飛ばすことになった。


 ゴブリンたちはこのウガルト高地に着々と進んでいたがまだ時間があった。隊長はちょっとした余興を行う。訓示というべきか、ハスドルの自己満足のため。


「敵はわが方の恐らく三から四倍。各員は最善を心掛け、夜明けまで戦い抜こう。さすれば援軍が到着し、奴らを蹴散らしてくれる。時間を稼ぐには。そう、奮戦があるのみだ。使命を果たそう。この一晩だけでもいい、生存のために努力してくれ!仮に相手側に主導権があろうとも!望みがほとんど無くなっても!我らの意思は我らの手の中にしかないのだから!」


 沈黙。非常につまらない、ありふれた内容に隊員たちは辟易し、そして微笑。やがて声になり爆発的に笑いの渦が巻き起こった。


「な、なんだ君たち!そんな言っていることが可笑しいか!」

 ハスドルの顔は赤みを帯びている。怒りによるものか、酒によるものかは検討も付かないが、そのどちらともとした方が多少は正確であろう。


「ええ、十分可笑しいですよ」

 ギスコは隊長に気落とされない数少ない隊員だ。その物怖じしない性格故損を被ることも多々あるが、ここ一番での判断が特に秀でていて、槍勝負では大いに重宝されていた。


「君まで笑うのか......」ハスドルは肩をすぼめた。


「そんなこと、全員知ってるってことよ!わざわざ言う必要もない」


 ここに集まった百人前後の者が皆、首を縦に振る。

 その手には極めて雑多な武器、防具が握られていた。


 彼らの多くは訓練を受けたこともないだろう。装備も粗悪品だ。

 それでも、その眼には希望があった。わずかな望みが確かにあった。


「そ、そうか......それはすまない」


 ハスドルはひどく顔色を悪くしている。というもの、ここまで皆が協力的なことが理解できなかったらしい。逃げ出そうという者が必ず出てくるだろうと考えていたが、出てこないことはとても考えられない。


「行こうぜ!隊長!奴さんらを釣り上げないことには玉砕必至だ!」


 ギスコが馬小屋の方に走ってゆく。よく見ると彼のマントには何らかの意匠がつけられており、それはどこか、神秘的か、或いは悪魔的な現実性のない力を感じるものだった。


「私たちはここに残るので、安心して行ってきてください!」


 避難してきた住民だろうか。知らぬが非常に頼りがいがある顔だ。このような心意気のある者がいるなら安心だ。

 それに砦にはジスコーネもいる。心配することは無いだろうと彼は考えたらしい。


「では私とギスコは出撃する!皆の者......健闘を祈る!」


 そう発するとハスドルは納屋に駆け出し、二騎は篝火の中、闇に繰り出していった。


 ◇ ◇ ◇


「すいません。ハンノは怪我をしたかなんかで出撃ができないようで」

 ハンノは自分も門外に出撃をさせるように主張したがギスコが留めた。全身打撲で馬に乗ろうだなんて止められて当然だった。


「ああ、大丈夫だ。ギスコ。君にはよく助けられている。令を言おう」

 ハスドルは自分の仕事が少なくなったことに満足しているようだ。


「にしても隊長。柄にでもないことをやりましたね」


 お互いの顔が見えるギリギリの距離を保ちながら酒飲みと隊長は並走していた。目標はゴブリンの一団。引き付けて林まで誘導することが仕事だ。


「あれは本心だ」

「え?」


 ギスコは素っ頓狂な声を上げる。彼は自身の予想を裏切られたようだ。


「もしあれを芝居だというのなら、君は私を買いかぶりすぎている」

「私はお前のように肝が据わっているわけではないからな。そんな余裕は無かった」


「そうですか。まぁどっちでもいいぜ。隊長」

 ギスコは先ほどの間抜けた面を元に戻し、再び酒飲みの顔に変えた。


「仕事さえやってくれればあっしはいいけどよ」

「それが心配なんだ」

 小さな。小さな笑いが巻き起こる。二人はわずかに緊張から解放されるが、すぐさま心が締め付けられた。それも先ほどと比べて強く。


「今度、酒でも飲みましょう」

「ウガルトの方に良い酒屋を知っているんですよ」

 彼はいつの間にか水筒を取り出しビールを飲んでいた。そして視線を前に戻すな否や、右手を短剣の柄にかける。


「ああ、考えておこう」

「その前に、無事に帰らないとな」


 ハスドルの目の前には狼が二頭、そしてゴブリンの大群がいた。


「ギスコ!狼を狙え!」


 馬上の轟音にも拘わらず彼は命令を聞き取ったらしい。隊長は投げ槍を。もう一人は鈍く光るそれを鞘から抜いた。

 目標はこちらの姿を見つけた後、ある程度散開したが此方の機動力には対抗できていない。狼だけが付いてこれるだろうからこれを撃破してしまえば順調にいくだろう。


「当たれっ!俺の投擲!」


 ハスドルが放った槍は空中で大きくしなると、線条を描いて狼一頭の脇腹に突き刺さる。そいつは大きなダメージを受け、地に転がる他なかったが、もう片方の目は確かに馬を狙っていたらしい。

 伏せたかと思うと足元に牙が飛んできた。非常に良いノビで足に歯形が付こうとしたその瞬間、


「喰らえぇ!俺の剣を舐めんな!」

 ギスコがその狼の頭部を一刀で落とす。残りの狼は見当たらず、どうやら中央に固まって移動しているらしいが問題はない。ここから林までの距離で追いつかれる心配がないからだ。


「よくやったギスコ!あとは林まで走るだけだ!」

「おう隊長!言われなくても!」


 騎手は馬にギャロップを続けさせ、途中狼の追撃を退けながら木々の間に入って行く。そしてそこはウガルト高地守備隊の本拠地の目と鼻の先だ。

 このゴブリンの一帯を率いていたのはゴングル家ゴブレディ族の戦士だったが、相手方のとった行動の意味が分からない。側近と少し話し、集団を二つに分けて一つは林の確保、もう片方を予備とした。

 村は放棄されているようで、略奪に赴いた者がそう報告したのだ。普段なら住民をさらうか、家財を持って行くかするが今回の仕事は高地の確保である。

 林の確保については高地への攻撃の際に良い目隠しが必要だったためだ。また、騎馬が二騎入っていったらしいが、その追撃をした狼が矢を受けたというのだ。ここしばらくの小競り合いの中で馬に乗ったまま弓を引けるものを見たことがない。そう考えたゴブリンは伏兵がいると考え掃討を開始したのだ。

 かといって全員で入ると敵方が出撃してきて挟撃されかねないと判断。予備を半分としたのはこのためだったらしい。


 林の中は暗く、そして静かだった。敵がいるはずない、と、誰もが思い始め緊張の糸が途切れた時、それは起こった。矢が飛んできたのだ。それも一矢、二矢などではなく矢の数は一斉射で三十、四十ほどの物。しかしこんなことを想定していたのであろうか、彼らは盾で難なくそれを防いだのだ。そして敵弓兵へ攻撃!のはずだったが......


 弓兵に見えたものは案山子だったのだ。そして矢の出どころは固定された弦を一斉に弛緩させる装置だった。


「今だッ!」


 ギスコの声が森に響く。彼は斧を木へとたたきつけた。それは段々と傾斜を増して行き、林全体の木々が倒れる。

 実は木はあらかじめ不安定な状態になっていて一本が倒れると、押されるようにして次々と倒れていくようにしてあったのだ。それがハンノの策であり、望みでもあった。

 それは上手く、露呈することなくハマり、林に侵入したほとんどのゴブリンが倒木に押しつぶされる。致命傷を負ったものは少なかったが今晩中の復帰は絶望的だろう。


「やったなギスコ。勲一等の働きだ」

「本当にそう思ってくれるなら支給する酒を増やしてくれ!」


 安全な木の後ろに隠れた二人組が息を殺して話始める。声量は抑えられているものの、その調子はどこか浮ついたようで、甲高い。


 そんな時だった。危険な木は油入りの壷をぶら下げて目印にしていたが、倒木によって瓶が割れ、内容物が地面に撒かれていたのだ。そこに掲げていた松明が落下。火が油を伝って広がり、それは狼が背負っていた荷物も例外ではなかった。


魔法防御壁(マジック・バリア)!」


 一瞬にして空気が膨張し、強い熱線を感じる。ギスコの防御壁は間に合った様だが威力は凄まじい物で、林は計画に無い木も倒れ、農村の建物の多くは半壊。高地で留守番をしていた見張りも爆風で転げた。


「......大丈夫かギスコ。ギスコ?」

「ああ、心配はいらんが少し......何というか......疲れた」

 魔法使いは倒れた。どうやら体内の魔素が欠乏し、又、軽いやけども負っている様だ。彼をこのまま寝かせてやりたいところだがそうは行かないだろう。

 隊長はギスコを背負って地下通路を通り、門内に侵入するつもりだったらしい。

 耳の奥には爆音がまだ残っていて、それは雷鳴にも似ている物だ。ハスドルが記憶を探った結果、該当するものは二つ。一つは超強力な雷魔法。だが林に撃った理由がわからないので除外して、残る可能性は一つ。粒状魔法石に魔力を流し込んだ物だ。これは入手方法が分からないが、使用法に関しては事故ということもあり得て、現実性が多少なりともあった。

 そして、それを何のために持ってきたのか。一目瞭然だ。


 ハスドルの目の前には崩壊した二の門と損傷した三の門。突撃を敢行しているゴブリンと居住区から登る煙があった。

ウガルト高地の死闘を閲覧頂きありがとうございます。

感想など、励みになりますのでよろしくお願いいたします。

さて、今回はゴブリンたちが城門を突破しました!攻城兵器はちゃんと持ってきたようです。

一気に居住区付近まで攻め込まれた守備隊は立ち直ることができるのか?

次回、物語としてはクライマックスです。迫力は保証できませんが。

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