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第二話 軍議

攻撃を察知した守備隊。援軍の到達は早くて明朝。

斥候の知らせを元に軍議が始まる。

 満点の星空が見下ろす中、ウガルト高地の守備隊、十七名は小規模な軍議を開いた。

 議題はどこに防衛線を引くかであった。隊長であるハスドルの指示により、最初の門を潜り抜けた後、なだらかな斜面が続いた先にある門、「第二の門」に兵員を割くことは概ね決定していたが、詳細は未定である。


 斥候として偵察に行かせた隊員のマゴが先ほど持ってきた情報によるとやはりゴブリンはこちらに向けて進軍していたようで、要するに隊長の読みは当たっていたといえる。


 敵はゴブリンが五百名ほど。狼が随伴していたらしいのでゴブリンが四百四十名、狼十五頭程度だろうか。マゴはゴブリンに発見され攻撃を受けたが何とか離脱してきたようだ。

 しかし決して軽くはない傷を負い戦闘は恐らく不可能。戦力や装備を報告したのち、近隣の部隊に支援を要請、都市に戻ることになった。


 そしてこちらの戦力は先ほどのことも含め守備隊十八人、農村の住民や今日たまたま滞在していた学者を合わせて戦える者は百名弱だろう。それゆえ効率的な人員の配置が求められる。村落部の放棄が前提であり、また非戦闘要員を多数匿う必要もあるのだ。


 ここの攻略する手筋は二つ程。一つはこの丘のなだらかな方から順当に上り三つの門を超えるもの。一つ目は先ほどと正反対の方角から急こう配を上り一気に居住部へ到達する方法。


「両方でしょうね」


 この場を仕切ることになったジスコーネは続ける。


「私の予想で敵の戦力はおよそ三倍。両方の対応が求められる。そこでみんなの知恵を借りたい」


「はーい!副長!質問!」


 声を挙げたのは部隊三番手のギスコ。いつも大酒を飲んでいる根っからの酔っ払いだ。確か三か月前からここにいる。


「なんだ?ギスコ」

「今隊長はどこにいるのさ?」


 覇気。鈍いものでも気づくであろうそれをギスコは感知できなかった。いや、しなかったのだ。

 彼を威圧した主であるジスコーネはこの質問に聞き覚えがある。


「なんですか。また聞いてなかったんですか!」

「ひい。おっかねぇや」


 副長はわずかに表した矛を隠す。


「ともかく。班長は村人の避難を進めている」

「おお、悪い悪い。居眠りをしとった」


 一同から笑いが巻き起こる。普段ならほかの隊員たちもその言動にひやひやするものだが今夜は感性が多少可笑しくなっていた。ストレスや夜更かしのこともあるだろう。何より恐怖を紛らわせる数少ない手段であった。


 しかしひとしきり笑ったあとは鈍重な空気が部屋を満たす。油が室内をわずかに照らすが、隅は闇に食われている。まるでそこに何かがいるように暗闇が此方を覗いている。勿論そんなわけがない。しかし暗闇は確かに隊員の戦意というものを確実に吸い込んでいた。


 意思は結局、悲観的なものに固定されていた。それを打破しようとギスコも芝居を打ち、ジスコーネも気づいて乗っていたが、二人はそんなことで士気が上昇することなんて考えていなかった。


「はい。副長」


 沈黙を破った、漆黒の空を穿った流星は部隊最年少、ハンノである。彼は夜目が利きよく夜間の見張りを任されていたのだ。新人いびりでは、決してない。それに彼はもともと北方帝国の人間であったが訳ありウガルトに亡命したのだ。北方では一日中日が昇らない地もあるらしくそれ故慣れているという。


「何かあるのか?ハンノ」


 少なくともジスコーネはハンノの目に何かを見た。火だ。正確には油の火を反射しているだけであった。だが副長はそれに勇気づけられた。火はハスドルが目の奥に宿していたそれだ。隊長というものの重責を知る。いつも自分は判断という物の内容を重視していた。それはもちろん正しいことだ。中身のない貿易船ほど悲しいものはないが、かといって船は速度を出さなければ嵐を超えられないのだ。


「急勾配の斜面の方には狼は登ってこられないと思います。従って農村の住民たちに遠距離攻撃をさせるほどでよいと思います。そして二の門の方ではなく三の門、居住部に弓兵や弩兵をおきましょう」


 ハンノの話には説得力があった。先ほどのことを踏まえると狼の攻撃は門の方に集中するだろう。そしてそれには門に対する破壊力は薄いためゴブリンが門をこじ開けて、犬ころが突入してくる。そういった筋書きが考えられた。

 であるからには門の付近に弓兵を置くのは確かにやめた方がいい。射手の位置と門の位置が多少遠くなってしまうが狼対策として遠距離攻撃要員をそこに置くことはありだ。


「異論のあるものは居るか?」


「おう。俺は外で戦いてえなぁ。何せ俺は剣しか自慢がないもんで」

 ギスコが不満を漏らす。


「三倍の相手に真っ向からぶつかってどうする......」

ジスコーネが頭を抱える。


 後の者も大方頷いた。


「ほかに何かあるものは?」


 何も起こらない。考えることは同じである。籠城以外に策はないだろう。

 我々は援軍を待てばいい。待つほかないのだ。


「じゃあ配分だ。人数を振り分ける」


「あと、それと気がかりなことが......」


 ハンノが切り出した。声のトーンからしてこちらが本題だったのだろう。


「夜間の見張りで気づいたのですが、一の門の隣には林があります。それを利用できないでしょうか?」


 林というのは農村の住民やここに詰めている隊員たちが薪拾いに利用していたところだ。適度な広さで大型生物や魔獣が生息しておらず、子供の遊び場にもなっていた。

 確かに伏兵を置き門外の脅威を奇襲することはできるが......兵員差から言って厳しいだろう。

 以上がジスコーネの考えだ。

「皆はどう思うか?もしそこを持ちたい人があれば名乗ってくれ」


 発案者が挟む。

「いや、そういうことではなくてですね」


 副長が返す。

「ではどうするのだ?」


 ◇ ◇ ◇


「だが奴らをどう誘い込むんだ?」

 ギスコが疑問を呈する。彼にしてはよく聞いていた方だったがいまいち理解できないようだった。


「自分が馬に乗って追わせます。案山子をもってきて偽装しましょう」

 ハンノが説明する。

「なるほどな。つまり林に細工してあんたが林におびき出すと」

「はい。うまくいけば兵力を大きく減らせます」

「林におびき出すってのも変だけどな」

「ハハハ。面白いこと言うね」


 声は上がらなかった。敵が迫ってきているという事実を前にそんな余裕は無い。彼以外は。


 ジスコーネは笑っていた。彼の顔の色が変わって行ったのはハンノの二個目の案を聞いてからだ。

 そう、これなら......


「では改めて聞く。この案に反対するものは居るか?」

 誰の手も上がらない。声も。彼らは沈黙に期待を寄せていた。

 たとえ僅かなものでも縋りたくなったのかもしれない。


「よろしい。では人員の割り当てについてだ。意見があるものはどんどん意見してくれ」


 松明の明かりは林と砦の二か所に広がることになった。畑からは案山子が引き抜かれ馬車の荷台に乗せられてゆく。まさに傭兵を運ぶようだったらしい。何せそれは隊員たちの命の身代わりでもある。彼らは薄光を求め闇の中を火を掲げながら進んでいった。油を注いだ瓶が縄で連結され、村人も次々と砦の居住部に押し込められる。環境は確かに良いとは言えないが魔物と相対するよりかはいいだろう。戦える者には矢が支給され、動ける者には石を手渡した。希望はトガに包まれているが、結局は生も死も同じ場所にあり、皆が泥に突っ伏しながら天を仰いでいたのだ。


 夜も更けてきて月があればちょうど真ん中に来ているであろう。隊員と村人は小休憩していた。老人と子供は寝ているため、静かに十六シギト、つまり一ピントのビールがふるまわれる。これはここの守備隊の夜間作業手当と同じ量であり、そのために立哨を申し出る者もいた。例を挙げるならギスコだ。

 しかし今日に限っては人に差はない。報酬に差はなかったのだ。ひどい味だが、皆々は戦友となるであろう隣人と乾杯した。


 そんな時だった。


「敵襲!人数およそ五人と狼一匹!門方向から来ます!」


 見張りの声が高地に響く。林の作業員は門の内に退避し閂がかけられた。今外にいるのはハンノとギスコ、そして隊長のハスドルだ。彼らも馬上での荒事ができるほどに乗馬がうまかった。人数からして斥候である一団を迎撃せしめんと馬は襲歩を始める。

「ウガルト高地の死闘」を閲覧いただきありがとうございます。

感想が励みになりますのでよろしくお願いします。

さて、今回は斥候を互いに繰り出している回でした!次回は本格的な襲来です。

そういえばゴブリンは攻城兵器を持っているのでしょうか?

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