双剣のリント
「冒険者登録をしたいのですが・・・」
「はい、新人さんですね。こちらに必要事項をご記入ください。」受付嬢は答える。
少年の名はリント。15になったその年の春先、未知の世界にあこがれ、故郷の村をでてモーベルグの町に今日着いたばかりである。その足で冒険者ギルドへ入り、今窓口に立ったところである。
隅の作業台で必要事項を記入して、書類をもってくる。
「リント君っていうのね。初めての冒険者登録か。今後はよろしくね。この業界、初心者の事故やケガが多くて、うちのギルドでは定期的に初心冒険者講習を行っているのよ。ちょうど今日あるんだけど、受ける?」
「はい、是非お願いします。」
「じゃあ、この後隣にある訓練場に行ってくれる?」
「はい、わかりました。」
少年は訓練場の方にゆっくりと歩いて行った。
その後姿を見たギルドマスターが受付嬢に声をかける。
「お、他から流れて来た冒険者か?」
「あ、ギルドマスターおはようございます。いえ、村から出てきたばかりの子で、新人だそうですよ。」
「ほお・・・」
首をかしげる。あのたたずまい、隙のなさ。腕の立つ者かと思ったが…面白いのが入ってきたな。
リントが訓練場につくと、先生らしき冒険者のもとに、同じような年の男女が3,4人集まっていた。
「お、これで全部か。まずは自己紹介な。今回講師をすることになったカシムだ。よろしくな。」
20代半ば過ぎの男はさわやかに挨拶をしたあと、講義を始めた。内容は依頼の受け方や町の外の歩き方など、冒険を始める際の基本となる内容を講義していった。
「いいか、依頼を受ける時は採集依頼から始めろ。まず、魔物のいる場所での歩き方、気の配り方を覚えるんだ。腕に覚えがあるからっていきなりモンスターと戦ったりするな。勝てる相手でも、木の根っこに足をとられてたり、罠にかかったりてるうちに襲われたら死んじまう。一匹なら勝てる相手でもいきなり群れに遭遇すればやられちまう。わかったか。」
油断してなくても状況によっては勝てる相手にもやられる。なるほど、とリントは心の中でうなずいた。
「ま、最初は採集とかの依頼をこなしながらここで戦闘の訓練とかして、慣れてきたら魔物と戦うんだな。」
男は締めくくると去っていった。他の子たちはここで少し訓練をして帰るそうだが、リントはそのまま宿を探しに出ていった
時は日暮れすぎ。リントはうろちょろしてようやく宿を取り、そのまま宿で夕食をとり、少し瞑想したのちその日は眠りについた。
次の日の朝、日が昇る前にリントは起きだし、剣を持って外に出た。軽い準備運動をしたのち、少し周りを走り、素振りに型稽古。一しきり汗を流した後、宿で朝食をとって、急いでギルドに向かった。
ギルドにつくと、朝早くにも関わらず幾人かの冒険者が掲示板の前に集まっていた。リントも依頼の掲示板を見てみる。モンスターの討伐依頼や探索依頼といったいかにも冒険といったものから、護衛依頼、荷物運びや解体の手伝いといった街中での手伝いまで様々な依頼があった。
各依頼には等級が振られており、多くの依頼は初心者であるリントでは受けられないもののようだ。
昨日ギルドで教えられた採集依頼へと目を向ける。採集依頼と一口に言っても、薬草だけでなく、花やキノコや鉱物など、色々あるようだ。さらに、薬草と言っても色々あるようだ。名前も分からない薬草の中でどれがいいかと悩んでいると、男に後ろから声をかけられた。
「おう、見ない顔だが新入りか?」
リントが振り向くと、ベテランの戦士といった風情の男がいた。
「はい、昨日冒険者になったばかりです。リントといいます。この辺の土地勘」
「ほぉ、リントか。俺はガラムだ。よろしくな。初めてでまだだとこっちの依頼がいいぞ。モンスターに出くわすことも少ないし、薬草も豊富だからな。あと、薬草がどれか分からなかったら、ギルドのそっちに図鑑で確認しとけ。」
「ありがとうございます!」
リントはお礼を言うと、依頼の紙をもって受付へ向かった。その後ろ姿をみて、ガラムはつぶやいた。
「普通にモンスター討伐もいけそうだけどな・・・」
受付で依頼の薬草が生えている場所を教えてもらい、町の出入り口から30分ほど走って山あいに向かった。この辺りでは多い地域らしい。モンスターも少ないので、初心者の薬草探しにはもってこいとのことだ。
ついてみると、山あいの木々の根元には、うっそうと草が茂っている。腰をかがめてみてみると、結構薬草がある。リントは図鑑で見た通りのヒール草と、毒消しに使うドクダミを素早く刈り取っていった。作業に没頭すると、いつの間にか持ってきたかごがいっぱいになっていた。もう少し大きなかごを持ってきてもいいかもしれないなと思った。
今日は作業を終えてそのあとは地形を覚えるために1時間ほど散策をしてみた。田舎の里山とは違い人の手はあまり入っていない感じがする。その割には、モンスターにも出会わないので、初心者にはいい場所だと思った。
そういえば、お昼を持ってくるのを忘れているのに気付いた。明日からはリントは足早に町へ戻った。
昼過ぎのギルドは換算としていた。
「採集依頼を終えて戻ってきました。薬草を取ってきました。」とかご一杯の薬草をカウンターに置いた。
「あら、早いわね。じゃあ鑑定するからまた終わったら来てくれる?それとも、午後にもう1件依頼を受ける?」
「そうですね。どんなのがおすすめですか?」
「モンスターの解体処理の手伝いなんかはどうかしら?朝方大量に運ばれて来て、急遽出した依頼なの。モンスターの解体も覚えられて、お得よ?」
「じゃあそれでお願いします。」
「わかったわ。じゃあお昼過ぎに隣の解体場へ行ってね」
リントはギルド運営の昼飯を食う。昼頃にここを使う冒険者は少ないようで、ボリュームいっぱいのサンドイッチと作り置きのスープだけがでてきた。さっさと飯を食って少し昼寝をしたあとに、解体場へ向かった。
解体場は小屋というより、巨大な建物だった。イノシシやシカを処理するには大きすぎるが、中に入るとすぐに分かった。
吹き抜けの建物の中には、体長5,6メートルはあるようなイノシシを巨大にした魔獣が3,4頭、オークと呼ばれる豚の顔をした魔物が20頭ほど。いずれも死体である。あとは多量の骨が山積みになっていた。
異様な光景にあっけにとられていると、中年の男が声をかけてくれた。
「ギルドでお前が午後から入ってくれる手伝いか?」
「はい、リントと言います。」
「俺はここの監督をやっているギルラムだ。よろしくな。獲物の解体とかはやったことあるか?」
「普通の鹿やイノシシならあります。ただ、こんな大きなイノシシやオークは経験ないです。」
「はは、確かに最初は驚くわな。おめえも冒険者なら、そのうち慣れるわ。そうだな、イノシシとかがあるならこっちのワイルドボアの解体に入ってもらおうか。ハンス!」
「はい、親方。」
「こいつはリント。午後から入れる。ワイルドボアの解体を手伝わせてくれ」
ハンスと2,3人の助手とともに解体を進めていく。最初はその大きさに驚いたものの、解体のやり方自体はイノシシと大差はない。大きいためイノシシよりも力がいるものの、リントにとっては気にならないレベル。
最初は大きなイノシシだったものが、皮を剥がれ解体され、肉の塊へと変わっていく姿は気持ちがいい。休憩も取らず無心に行っていると、ワイルドボアは夕方前には骨と肉と皮に分かれた。
「よし、作業は終わりだ。お前さんのおかげで早く済んだわ。助かったわ」
「ありがとうございます。あの、あちらのオークの分は手伝わなくていいんですか?」
「ハンスの班を手伝わせるから、気にするな。今日はもう休みな。また大物が来たら頼むわ」
「はい、ありがとうございます。」
リントはお礼をすると、手や顔を洗ったのち、受付で向かった。
依頼が終わって帰ってきた冒険者もちらほらいる中、リントは薬草の報酬と解体の報酬を受け取った。薬草は一部種類の間違いはあったものの、大半は引き取られたので、銀貨2枚。解体処理の報酬は薬草よりも少し少ない位だが、隙間に入れられたので特に気にしない。銀貨1枚と銅貨5枚とのこと。
まあまあの稼ぎだ。当初は食事にも困る苦しい生活になると思ったが、そうでもないようだ。冒険者はまあまあ実入りのいい仕事のようだな。もっとも、装備を整えたり、旅をする資金を考えると、十分な額とは言えない。
しばらくは活動に慣れるために今日みたいな感じで採集依頼と手伝いの依頼でも続けるのがいいのだろうか。慣れてきたら討伐依頼など、他の依頼を受けるのも良いだろうか。そんなことを思いながらリントは宿へと向かった。
帰りに中古で背負いかごを購入してから宿で早い夕食を済ませ、外に出る。少し大きめの棒を2本持ち、素振りや型稽古、足さばきなど、動きを確認するようにゆっくり行う。一連の稽古軽く済ませたのち、風呂に入り、瞑想。冒険者生活二日目、初めて冒険者らしい1日を過ごした。
次の日から5日連続はほぼ同じ繰り返しだった。朝早く薬草採集の依頼を見て、いくつか選んで採集を行う。余裕があれば地理を覚えるために、周囲を探索する。お昼前後にギルドに戻り、街中での手伝い依頼があれば受け、ない時はギルドの図書館で本を読み、周囲の地図を眺めたり、魔物や薬草の図鑑を読んだりと、冒険者に必要そうな知識を覚えるのに努めた。
5日目の午後に受けた古い家屋の解体作業を早々に終わらせて戻った時、受付嬢にいわれた。
「今日もお疲れ様。いつも早いわね。そういえば、そろそろリント君もモンスターの依頼を受けてみない?」
「モンスター討伐は慣れたころだと言われたのですが。」
「もちろん、一人じゃなくて、他のパーティと一緒よ。それに今回は調査がメインの依頼なの。経験を積むにはいいと思うけど、いかがかしら?ガラムさんもリント君ならいいって言っているわ。」
「そうなんですか。それでは胸を借りるつもりで行ってみようと思います。」
ガラムさんとは依頼の帰りと朝の稽古の時に数回顔を合わせただけだったが、ベテランにもなると人の力量が分かるのか。さすがだなと感心して、明日からの調査依頼のために食料などの買い出しを済ませたのち、宿についた。
リントは知らなかった。リントは2日目の採集依頼から新調した背負いかごいっぱいになるまで薬草を採集して午前中までに帰ってきていたが、それは採集専門の冒険者が1日かけて採集するほどの量であることを。街中での手伝いだが午後から日没までかかる仕事をいつも前倒しで済ませており、依頼主から高い評価を得ている事を。稽古での剣さばきが、ベテラン冒険者のガラムでさえ見事と思えるほどの鋭さである事を。
遅れるのは悪いと思い、いつもより早く出て、ギルドの待合室で待っていると、3人組冒険者たちがあとからやってきた。前衛の戦士のダリオ、探索役のスカウトのアンナ、後衛の魔道士のミナの3名だ。本来はここにアタッカーのルークが入るそうだが、今回は病気のため欠席。その穴埋めとしてリントが選ばれたようだ。
「はじめまして、リントと言います。」
「初めまして、俺はダリオだ。今日はよろしくな。」
体格のいいダリオが人懐こい笑顔で答えた。
依頼内容はゴブリンの巣の調査。ここから半日程度にある村の近くにゴブリンの巣ができたようで、作物や家畜に被害が報告されたとのこと。今回はその規模の調査がメインだが、小規模であれば殲滅しても可。日程は移動、現地調査、帰宅で移動計2日の予定。状況により調査は1日かかるかもしれないとのこと。
よくある調査依頼のひとつなので、油断は禁物だが、気楽に構えてほしいとのこと。リントが初心者なので、経験を積む意味で参加の細かい点はメンバーがフォローはしてくれるらしい。ありがたい。簡単に移動時の隊列や戦闘時のフォーメーションなどを確認したのち、出かけた。
隊列なこともあり、いつもよりゆっくりのペースで歩いていた。幸い、日差しもそれほど強くなく、そよ風が吹いており気持ちがいい。と思っていたが、みんな辛そうだ。もしかしたら依頼が続いていて、疲れているのかもしれないな。
「すみません、よかったら皆さんの荷物を持ちましょうか?」とリントはみんなに話しかけた。
「え?リント君も荷物あるのにいいの?」
「いいですよ。今日は採集依頼もないので、軽いもんですし。」
「それじゃあ、お願いしようかしら」
「え?じゃあ私も!!!」
アンナとミナの荷物をリントの背負い袋の上に括りつけた。ダリオは大丈夫と言っていたが、しんどうそうだったので、食料を少しだけ持つことにした。
荷物をまとめ直すついでに少し休憩したあと、再出発した。荷物が軽くなったせいか、みんなの顔に余裕が出てきている。特に魔物に出会う事もなくペースは順調だったため、お昼よりかなり前につくことができた。
「さて、ここから調査だ。まずは俺とリントでここから手分けして調査だ。俺とミナは左手側、リントはアンナと一緒に右手側を調査してほしい。2時間後にまたここで集合だ。」
アンナさんと一緒に右手側を回っていく。リントが気配を探る限り、動物の気配も少なく、ゴブリンは見当たらない。図鑑では夜行性とあったから、そのせいか?
それでも慎重に進んでいくと、地面にゴブリンと思わしき足跡が見当たる。まだ新しい様子なので、夜にこの辺りを徘徊していたのか。この足跡をたどると、巣にたどり着けそうだ。アンナの方を見ると、何やらメモを取っている。
どうやら、おおよその地理や、足跡の情報を書いているようだ。後でミナの方の情報と合わせて整理するそうだ。なるほど、調査結果をまとめるためか。
アンナがメモを終えると、移動を再開した。足跡を辿って直接巣に向かうかと思ったが、巣の周辺をまず調査してから巣を確認するとのこと。さすが経験者は違う。勉強になる。巣の周辺と見渡すと、ゴブリンとオオカミやイノシシの小競り合いなどの跡も見られたものの、他の魔物は近くにいない様子だ。
それから足跡をみつけたところまで戻って、ゴブリンの足跡を辿ってみた。
辿っていくと大きな洞窟があり、そこに複数の足跡がみられた。足跡の数からすると、せいぜい数匹~7,8匹程度の様子。だが、この洞窟は数匹で済むには大きすぎる気がする。どういうことか?
一旦元の場所に戻り、ダリオ、ミナと合流した。向こうは村の近くの方だったらしく、いくつかゴブリンの足跡を見かけたそうだが右手側へと何かを運んでいる様子も見られたので、戻ってきたらしい。ただ、村人に話を聞くと、かなり食料を得ているのか、牛を引きずったような跡などが多くみられたとのこと。
アンナとミナの情報を合わせると、人数の割には大きな巣穴、多量の食料を確保に動いている。どうも、家族単位の群れなどとは考えづらい。そうなると、考えられることは
「先遣隊か・・・しかも近いうちに本隊がくる。」ハンスはつぶやいた。
「人数によってはこのメンバーで討伐は厳しいだろう。だが、全員で引き返していると村が襲われる可能性がある・・・となると、アンナ、先にギルドに戻って報告して、応援を呼んでもらえないか?こっちは今巣にいる奴らを調べる。」
「わかったわ。リント君はどうする??初心者だし、ここで私と帰ってもいいわよ。」
「こちらに残ってダリオさんを手伝います。」
「よし、じゃあ少し早いが飯にしよう。そのあと洞窟へ入るぞ!」
みんなで食事をとって一休みした後、アンナはいそいで町へ戻り、ダリオたちは村に立ち寄り、状況を説明して村の防備を固めてもらうように頼んだのち、巣穴へ向かった。
巣穴の入り口から入ると、解体場でもなじみのある魔物特有のにおいがした。間違いない、ここが巣だ。ダリオ、リント、ミナの順で入っていった。
少し中に入っていくと、ギャギャと鳴き声が聞こえ、3匹のゴブリンがいた。
「さあこっちだ」
ハンスが剣を盾にぶつけてゴブリンをひきつける。ミナが魔法の詠唱を始めたところで
ヒュン、ヒュン、ヒュン
「ギャ」
リントはダリオの側面から飛び出て、一瞬で3匹のゴブリンの首を刈り取った。
騒ぎを聞きつけ、また3匹のゴブリンが出てくる。
「ファイアアロー!」
詠唱を終えたミナが1匹のゴブリンへ炎の矢を命中させた。ゴブリン達が一瞬ひるんだすきにリントが1匹のゴブリンの心臓を一突き、もう一匹の首を刈り取った。
リントの早業にダリオは呆気にとられていたが、気を取り直しすぐに周囲を確認する。
どうやらもうゴブリンは来ない様子だ。落ち着いて死体を確認すると、いずれのゴブリンも鎧と武器を持っており、ゴブリンファイターのようだ。
さらに洞窟の中を慎重に探索したが、村から攫われた家畜の死体や周囲の木の実等があるほか、荷物は少ない様子。
「幸い、これ以上ここにはいないようだな。」
「そのようですね。」
「あとはアンナの呼ぶ応援が先か、ゴブリンの本隊が先か・・・」
「さて、どうします?ここで野営しますか?」
「いや、この臭いの中はつらい。まずは討伐部位を切って、その後死体を処分するとしよう」
モンスターの死体を置いておくと、病気の原因になったり、新たなモンスターを呼んでしったりする事態になりかねないと言われている。なので、素材を持ち帰らないモンスターの場合、通常は討伐部位だけを切り落とし、穴を掘って死体を放り込んで埋めてしまうのが通例だ。
穴を掘って死体を放り込んで土をかぶせたりしていると、既に時刻は夕方過ぎ。昼間食事をとった場所へ戻り、火を起こして夕食の準備をしていると、馬車とともに一団がやってきた。
アンナとともにやってきたのは、「鉄の戦士団」と呼ばれる討伐メインのパーティだった。
重戦士が2名、剣士が2名、弓兵と魔道士が1名ずつのパーティのようだ。
「おお、ゴルドの旦那か助かった!」
ダリオは洞窟のゴブリンを制圧したこと、食料があったことを報告する。
「まぁ、その食料の規模からすると、30匹程度の一団だろうか。ここは俺らが来たから安心だ!任せておけ!」
ギャギャギャギャ~!・・・急にゴブリン共の鳴き声が聞こえてくる。
ゴブリンの群れだ。しかし、様子がおかしい。
地点から見ると、見れというより一団だ。
オオカミに乗ったゴブリンライダー、こん棒をもったゴブリンが多数、鉈と粗末な盾を持ったゴブリンファイターに、弓を手にしたゴブリンアーチャー、こん棒を持ったホブゴブリン、それを束ねるのが鎧を着てオオカミにまたがるゴブリンナイト。総勢ざっと100匹程度。ちょっとした一団である。
30匹程度であれば、鉄の戦士団とハンスのパーティであれば押し切る事は可能だっただろう。この数では、魔法に奇襲をかけても、倒しきれるかどうか・・・
メンバーに緊張が走るなか、両手に一本ずつ剣を持ってリントは歩きだした。
「あ、リント君」とアンナ
「お、坊主・・・」とダリオ
止めようとしたが、声が出なかった。リントの身体から溢れる気迫に気圧されたのか。
ゴブリン達は洞窟の入り口付近に差し掛かったところで、ゴブリンナイトは違和感を覚えた。おかしい、先発隊の迎えがない・・・どうしたのだ。
ギャッ!ギャッ!
ゴブリンの叫び声が聞こえた。敵襲か!
と警戒した瞬間
ザンッ!!
一瞬で距離を詰めたリントが首を切ったことで、ゴブリンナイトの意識は断たれた。
ギャギャギャギャギャ
リーダーが死んだことで、ゴブリン達に動揺が走る中、リントは駆け回りながら切り捨てていった。
シュン、シュン、シュン、シュン
一振りごとに一匹ずつゴブリンの命を刈り取る鋭い剣線
素早すぎて姿が負えない恐怖。
突如として現れた死神の訪問に、パニックになった中、リントは舞うように、剣を振るいゴブリンの数を減らしていく。一人の少年が遠すぎる度に、徐々に数を減らしていく。
(俺たちは夢を見ているのだろうか・・・)
ゴルドとダリオは呆然と見ろしていた。だが、形勢は確実にこちらに傾いている。これを逃してはならない。
「行くぞ!リントに加勢だ~!!!」
鉄の戦士団とハンスのパーティは洞窟に向かっていき、加勢をした。降りていく頃には、既にゴブリンは半数以下にまで減っており、包囲するように加勢して、ほどなく残りのゴブリンも全滅させることに成功した。
次の日、討伐部位を回収したのち、ハンスの馬車に乗ってリントたちは帰還した。
冒険者を初めて一週間の少年が100匹近いゴブリンの群れを蹂躙した結果は、モーベルグの町の冒険者ギルドに大きなニュースとして響き渡った。
リントにはその後パーティを組もうとの誘いは多数あったが、それらをすべて断ったのち、討伐報酬を手に次の町へと旅を向かっていった。
世界を広く見る事、それが今の旅の目的。気ままな一人旅を続けたい。
これが、のちに双剣のリントとして、名をはせることになる冒険者の最初の物語である。