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プロローグ

 古びたアパートの一室。二人の男達が携帯ゲームで遊んでいた。部屋にはマンガ雑誌が散乱し、壁際のデスクトップPCモニターには、アニメのようなアバターを映した動画配信者によるゲーム実況が行われていた。

 男達のうちの一人、着崩したワイシャツとスラックスのままベッドに寝転がっていた河津 幸生(かわず こうせい)は時計を見ながら口を開く。

「もう11時か、織彦お前明日シフト?」

話しかけられた星原 織彦(ほしはら おりひこ)は、床に座りながらずれた眼鏡をかけ直し、時計を見上げる。

「うーん、バイトはないけど、講義だね。終電キツいから帰るね」

一緒に遊んでいたゲームをセーブしスリープモードにする。

立ち上がるとジーンズにキャラものTシャツの上から、部屋のハンガーに掛けていた黒のジャケットを羽織る。

「お前……服装の季節感めちゃくちゃだな、そりゃモテんわ」

「それを言うならバイト帰りで着替えないまま遊ぶのも不潔じゃない?」

親友からのオタク弄りにも臆せず反論する織彦。真逆な感性ながらかれこれ10年以上、不思議と遊び続けている関係だった。

「駅までなら送るわ」

「あ、ありがと」

幸生もゲームを止め立ち上がり、バイクのヘルメットに手を掛けるが……

「あ、ちょい待ち」

ふとTVモニターに目を向け近付く。画面の中では配信者が操るキャラクターが何やら選択肢を上下させながら視聴者に語りかけていた。

『えっとー……このクエストいけばルート的には速いんですけど、ロストしたらこれまでの配信分全部無駄なんですよねー。皆さんどう思います?』

口調に合わせ画面脇のアバターも首をかしげる。幸生はキーボードを叩くと、画面の中のチャットの中に彼の書き込みが反映される。

『何々?最短爆走してこそのRTA。プロの腕に期待しますって、きゃーw、ゲロゲロさんスパチャありがとう♥️んじゃクエスト受けまーす♪』

盛り上がり書き込みが加速し、あっという間に幸生の書き込みは見えなくなる。

「よっし!」

「ねえ、今いくら入れたの?」

ガッツポーズする幸生に呆れる織彦。チャットに合わせ金銭等を振り込み、配信者を応援したり自分の意見を聞いてもらう。それが近年流行っている配信文化だ。

「1万だよ。普通だろ、何か変か?」

「僕は今一理解できないんだよね、それ。昔でいう大道芸への投げ銭にしては高すぎない?大体何が楽しいのさ」

「何って……何だろうな?」

大学を卒業し、内定を貰った会社を半年で退社。しかし都内でバイトをすれば地元の新卒と大差無いため、親には誤魔化し続け今の生活。困りはしないが成功もない、そんな人生において唯一見付けた趣味が配信視聴だった。それが暇潰しなのか、生き甲斐なのか、それとも……

「分からんけどさ、お前のそれと似たようなもんじゃね?課金額もさ」

話題をそらすように織彦の手元に目を向ける。親友はスマホで何かゲームをしているようだった。

「これ?」

織彦はスマホ画面をこちらに向ける。織田信長、木下藤吉郎秀吉と言った、幸生でも教科書で見知った名前から、知らないどころか読み方すら分からない名前の羅列と、アニメタッチな顔イラストがずらずらと並んでいる。どうやら歴史戦略ゲームのようだ。話を振られた織彦は目を輝かせる。

「やってみる?これノブヤボとは違ったアプローチでやる戦略SLGでね。単なるガチャじゃなくキャラ毎の組み合わせのシナジーで戦略性の幅が広いんだよ。ただ自由度が高すぎて公式が把握してないのも多くてさ。例えば利家と組ませるように作られてるまつのスキルが、松永の方とも噛み合ってる通称NTR爆薬戦法なんて……」

「いやんなこと聞いてないから」

典型的なオタク談義に辟易する幸生。

「もういいや、とにかく外行こうぜ」

二人で玄関に行き靴を履く。と、

「あれ?なんかお経聞こえる?」

外に出ながら織彦が耳を澄ませる。

「この辺お寺あった?」

「いや、無かったと思うが……なんだ今度は怪談蘊蓄か?」

からかいながらバイクのスタンドを畳みエンジンキーを回す。織彦も気にせず後ろに跨がる。

 二人を乗せたバイクは駅に向かい夜道を疾走する。

「林道抜けた方が早いからそっち行くわ」

「急がなくてもいいけど、まあ好きにしなよ」

幸生としては、終電さえ間に合えば良い織彦はともかく、ゲーム実況の続きが気になるので急ぐことにしたのだが……

「あれ?信号こんなに無かったっけ?」

既に一キロ以上信号にぶつからない。

『いや、それどころか……』

幸生はバイクを止める。

「どうしたの?なんかトラブル?」

織彦はバイクから降りて違和感を感じる。

「あれ?ここ舗装されてないね」

オフロード車な上に良くならしてあったため気付かなかったが、いつの間にかアスファルトから剥き出しの地面になっている。うしろを見てもその道が続いている。いや……

「幸生……都内に古民家集落ってあったっけ?」

二人の後ろには、木造茅葺き屋根の集落が建ち並んでいた。

「なんだ?どこに来たんだこれ」

幸生はスマホを確認する。電波は圏外を示していた。

「……ヤバイよ幸生」

「今度は何見付けた?」

隣をみると織彦がうつ向き、握りしめた両拳を震わせる。

「……ついに」

「ついに?」

嫌な予感がして幸生はたじろぐが、その予感が当たる。

「ついに僕も異世界モノな話がキター(゜∀゜ 三 ゜∀゜)!!」


……その声は、戦乱冷めやらぬ元亀元年(西暦1570年)の日の本の夜空に響き渡っていた。

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