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【オヤッサンの彼女が休日に来店】

・【オヤッサンの彼女が休日に来店】


 オヤッサンがお風呂場で気絶しているので、僕と高梨さんで店側の掃除をし始めた。

 そんな時だった。

 どこかから扉が開く音。

 あっ、そうだ、オヤッサンって営業していなくても、自分が家にいる時は何故かお客さんが入ってくる扉の鍵を開けておいて、状況によってはすぐにあら汁くらいは出せるようにしているんだった、と思いながら、扉のほうを見ると、そこにはオヤッサンの彼女が立っていた。

「キャーーーーーーーーーーーーッ」

 甲高い叫び声を上げたオヤッサンの彼女。

 一体どうしたんだろうと思いながら見ていると、どうやらオヤッサンの彼女は高梨さんを見ながら声を発している。

 なるほど、浮気していると思ったわけか、僕はすかさず

「この僕の隣にいる高梨さんは居候の身ですが、オヤッサンの浮気相手ではありません」

 と手振りで説明すると、高梨さんが優しく微笑みながら、

「むしろ博史の彼女」

「いやまあまだそうじゃないけどもっ」

 とツッコミつつも、やっぱり何か嬉しい。

 嬉しいならもう付き合ってしまえと、心の中の悪魔も天使も囁くけども、男の人とエッチすることが仲良くする方法だと思っている人だ。まだ額面通り全てを受け入れることはできない。

 高梨さんの本当の本心がちゃんと分かった時、受け入れようと思っている。

「そっ、そうだったんですか……でも居候じゃ、間違い起こりませんか?」

 まだ全く安心していないような表情で高梨さんに歩きながら詰め寄ってきた。

 もう百合の近さまできたオヤッサンの彼女と高梨さん。

 オヤッサンの彼女のほうこそ、浮気しているんじゃないか、というくらい人との距離が近いのだ。

「いや、私は、オヤッサンとは何も無い」

 高梨さんは少し困惑しながらそう答えた。

 でも実際何でオヤッサンとはエッチして仲良くなろうと思わないのだろうか。

 僕とオヤッサンに何か違いがあるのだろうか、いやまあ違いはあるだろうけども。

 そういう一般的なところなのだろうか、とか思っていると、高梨さんはそのまま続けた。

「オヤッサンは恩人ですが、何だかフィーリングが合わず、エッチはしたくないです」

 あっ、一般的なところだった。

 割と一般的なところだ、多分。

 さて、それに対してオヤッサンの彼女はどう答えるのかなと思って見ていると、オヤッサンの彼女は自信満々になりながら、

「まあオヤッサンのことが全て理解できるのはアタシだけですからね! 仕方ありません!」

 いやまあオヤッサンは彼氏もいるんだけども、普通に浮気しているし、何なら彼氏とのほうが仲良さそうだけども。

 ところで

「オヤッサンの彼女さんは今日何しに来たんですか?」

 と普通に距離を持って聞くと、オヤッサンの彼女は僕のことをふんわり抱き締めながら、

「もう! 博史くん! アタシのことはフワリンって呼んでいいと言ってるのに!」

 フワリン、それはオヤッサンの彼女が自称しているあだ名だ。

 髪型がふんわりとしたボブなので、そう呼んでほしいと自ら申し出ていた。

 でも実際、フワリンと呼ぶのは恥ずかしいので、出会った最初の時間帯は”オヤッサンの彼女さん”と呼ぶことにしているが、フワリンと改めて言われたら、とりまフワリンと呼ぶことにしている。フワリンさんだけども。

「フワリンさん、ちょっと近いですって」

 と、フワリンさんを引き離そうとした時、それ以上の速さでフワリンさんが後ずさりした。

 否、高梨さんがひっぺ剥がしたのだ。

 そして高梨さんが頬を膨らませながら、

「そういうの違うと思う」

 と言い、フワリンさんのことを睨んだ。

「ただのスキンシップじゃん、何この子、可愛いー」

 そう言いながらフワリンさんは高梨さんの頭を撫でた。

 本当にこの人は誰にでも距離が近いなぁ。

 撫でられた高梨さんは何だか調子が狂うといったような顔をしながら俯いた。

 というわけで本題だ。

「オヤッサンと何か約束があったんですか?」

「ううん、ちょっと会いに来ただけ。顔が見たくて」

 オヤッサンの顔、今完全にお風呂場で白目を剥いているなぁ。

 というわけで

「オヤッサンは今、買い出しに行っています」

「いいえ、お風呂場にいます」

 と間髪入れずに否定した高梨さん。

 いや!

「ダメだって! 今ちょっとアレになってるじゃん!」

 僕のその言葉がフワリンさんの好奇心を刺激してしまったらしい。

「えっ? オヤッサンがアレになっているって何だか興奮する! めっちゃえちえちになってるのっ? 今すぐお風呂場に行かなきゃ! 脱ぎながら!」

 本当に脱ぎながらお風呂場に向かったフワリンさん。

 いやもう脱ぎながらだから掴んで止めることもできず、僕はその後ろ姿も見ずに下を向くだけで精いっぱいだった。

 というか!

「高梨さん! さすがにアレはショッキングでしょ! 僕たち殺されるかもしれないよ!」

 そう、殺される。

 フワリンさんは他人との距離が近すぎて、生も死も距離が近すぎるのだ。いや関係無いか。

 とにかく包丁はすぐに振り回す。

 寿司屋なので包丁は割とあるので、すぐに振り回すのだ。

 その度にオヤッサンがケツで真剣白刃取りをして事なきを得ているのだが、今、オヤッサンのケツは桃汁崩壊である。

 もしフワリンさんが包丁を振り回し始めたら、僕たちはただただ商店街の奥のほうへ走って逃げるしかない。

 果たしてどうなるか、と思っていると、なかなかフワリンさんはこちらのほうへ来ない。

 もしかしたらフワリンさんはオヤッサンの介抱しているのかもしれない、と思って、おそるおそる様子を見に行くと、

「あっ、あっ、あっ、オヤッサンのお尻っ、甘いっ、あっ、あっ」

 ……何か舐めているみたいだ……僕は静かに寿司屋の寿司屋たる部分に戻っていって、高梨さんと談笑しながら掃除を再開した。

 そう、談笑しながら。

 自分たちで声を出して、できるだけオヤッサンとフワリンの声が聞こえないように……。


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