【桃肛門祭り】
・
・【桃肛門祭り】
・
「まず皮を剥くでぇい、レベル1からやっていくでぇい」
なんとなく今、コロッケ屋さんの遊ぶのはいいけども、落とすのはダメという言葉を思い出した。
いややっぱり遊ぶこともアウトだろ、と思った。
高梨さんは何をするのかなと思って、高梨さんのほうを見ると、台所に立ってフライパンを用意していた。
「高梨さん、桃でもアツアツにするの?」
「桃ジャム作って、オヤッサンの肛門に流し込もうと思っている」
「何かよく分からないけども、ドSだ! アツアツのままっ? アツアツのままなのか! それはっ!」
「グツグツのトロトロでいこうと思っています」
そう淡々と述べる高梨さん。
ついに高梨さんが本気になったか、と思った。
何かよく分からないけども”ついに始まったな”と思った。
良くない歯車が回り出したような気がした。
そんな会話をしていると、オヤッサンが皮を剥き終わり、一口大にカットした。
桃は瑞々しく光っていて、肛門に入れるにはもったいなかった。
いや肛門に入れるには全部もったいないよ、座薬以外。
だから
「オヤッサン、普通に食べましょう。肛門に入れたところで何なんですか」
「良い香りになるでぇい」
「桃を食べて口臭を良い香りにして笑い合えばいいじゃん」
僕がそう言うと、真剣な瞳になって、落ち着いた声で喋りだした。
「ほら、オヤッサン、ウンコ嫌いじゃん?」
急な”じゃん”口調に、何か腹立った。
そんな僕の気持ちは露知らず、オヤッサンは矢継ぎ早に、
「ウンコ嫌いじゃん?」
あっ、何かこっちがエピソード相槌しないとダメなんだ。
しょうがない、じゃあ
「まあ確かにオヤッサンはウンコ出す度にトイレの中で『くせぇ! 死ねぇ!』と叫びますよね」
「そう、だからウンコを良い香りにするには、肛門を良い香りにすればいいと思ったんだでぇい」
「そうなりますかね、関門を良い香りにしても、出る人が良い香りになるとは思えないんですけども」
僕が一応真面目にそう返すと、オヤッサンはやれやれと呆れたようにこう言った。
「肛門から、桃のミストを出しながらウンコ出せば、桃の消臭効果がウンコに付くでぇい」
いや!
「肛門から桃のミスト出ないから! 肛門にミストが出る装置無いから!」
「急にキタなぁ」
「いや僕の強めのツッコミを急にキタなぁ、じゃないんだよ! じゃあまず肛門からミストを出す装置を付けろよ!」
「でも彼氏とエッチしてる時も肛門が濡れるでぇい、あれはミストが出てるからでぇい」
そう「当然でしょ?」みたい顔をしながら話すオヤッサン。
いや俺は全然男同士のエッチには詳しくないけども、
「多分汗じゃないの? じゃあ汗を桃の香りにするということ?」
と、できるだけ普通に返すと、
「でも彼女とエッチしてる時も肛門が濡れるでぇい、彼女の肛門いじりは絶品でぇい」
「いやもうちょっと話が変わってんじゃん、肛門いじりの話がしたくなってるじゃん」
「博史にも肛門くらいはいじってほしいでぇい」
そう言いながら剥いた桃を食べたオヤッサン。
いやまあ食べることはそれでいいんだけども、
「僕、絶対オヤッサンの肛門はいじらないからな」
「じゃあ誰がオヤッサンの肛門に桃を押し込むんだでぇい?」
と言った時に、ある妙案が浮かんだ。
いやでも、これは、とも思ったけども、まあやってみることにした。
「じゃあオヤッサンもう根負けしたよ、お風呂でお尻を出して待ってて、僕が肛門に桃を押し付けるから」
僕がそう言うと、オヤッサンの目がハートマークになって、
「早速お風呂に行くでぇい!」
と言ってすぐさま走り出した。
飼い主から逃げるイヌくらいの早い速度でお風呂へ駆けていった。
さて、あとは剥いた桃を全部僕が食べるだけだ、と思って、桃を食べ始めた。
やっぱり桃は美味しいなぁ、肛門に押し込むよりも食べるべきだよな、と当たり前のこと考えた……って、そうだ。
「高梨さん、二人で一緒に桃を食べようよ」
「ううん、せっかくだから桃ジャム完成させる」
何がせっかくなんだろうと思いつつも、僕は剥いた桃をフォークに刺して、高梨さんの隣に持ってきた。
「じゃあ今度は僕が……あーん」
それに対して一瞬驚いた高梨さんだったけども、すぐさま食べてくれた。
正直恥ずかしい行動をしていることは分かったけども、もう深く考えると何もできなくなるから、このまだちょっと恥ずかしい程度の段階でやり切った。
遂行した、と思っていると高梨さんが、
「料理中に抱きつくとかダメだから」
「そんな危ないことはしないよ、他の男と一緒にしないで」
と言いつつも、そんな抱きつく勇気無いだけだけども。
「やっぱりそう言うと思った、博史は他の男とは全然違う、好きだよ」
そう言って僕へウィンクをした高梨さん。
そんな
「もう合図以上の言葉をもらっているから……」
段々言葉が先細りになっていく僕。
いやだってこんな経験無いから、って、誰に言い訳しているんだ、脳内の僕よ。
「じゃ、じゃあ、もう一口、桃持ってくるから」
と言って僕はそそくさとテーブルのほうへ戻って、今度は皿ごと台所に持っていって、二人でそのまま談笑しようと思っていたその時、高梨さんが火を止めて、フライパンを持ってどこかへふらっといなくなった。
いや
「高梨さん、どこに行くの?」
僕は桃の皿を一旦テーブルに置いて、ちょっと呆然としていると、お風呂場のほうからすごい叫び声が聞こえてきた。
「うわぁぁぁあああああああああああああああああああああああつつつつつつっつつつつつつぁぁぁああああああああああ! 肛門がぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!」
あっ! 高梨さん! オヤッサンの肛門に桃ジャム流し込んだ!
僕は家の中とは思えない速度でお風呂場に直行すると、そこには全裸のオヤッサンが肛門からまだグツグツいっている桃ジャムを流し、白目を剥いて倒れていた。
「博史、私、オヤッサンに恩返しできたかな」
高梨さんは僕のほうを見ながら微笑んだ。
こういう時はしっかり言わなければならない。
そう、
「……グッジョブ……」
何かこれが出た、涙も出た、でも笑っちゃった、汗かくほど笑っちゃた、そのあと。