第九十七話 二人の今
「春野・・・・・・」
春野が僕の所に来たことに驚いて何も言えなくなる。
(どうしてここにいるんだ? まだ雨が降り始めて30分程度しか経っていないいないはず)
様々な考えが頭の中を駆け回る。
僕は今日の予定を春野に教えていない。
だから、春野から見れば僕がどこにいるかもわからないし、傘が必要な状況であるかも分からない。
外に出て、クラスメイトと会う危険性もある。
それに僕なんかのために出る必要性もそこまでないはずだ。
総合的に考えて、春野が僕を探しに来る理由がない。
それに見つけ出した時間帯も考えると、春野は雨が降ってすぐに僕を探す決断をして行動したことが分かる。
「私が来たことがそんなに不思議?」
春野はこちらを少しだけからかうような表情をして聞いてくる。
「……正直なところ結構驚いているよ。僕は何も伝えていなかったから」
言い逃れをしても見栄を張っても意味がないと思ってので、僕は素直に思ったことを口にする。
「私は疲れている人を見捨てるほど酷く人ではないわ」
「……バレてたんだ」
目のクマなどはバレないように化粧などをして、頑張って誤魔化していたつもりだったが、バレバレだったらしい。
「一緒に暮らしているのだし、私の前で隠せるわけないでしょう。それに椿君の折りたたみ傘、どっちも家に置いてあったわよ」
「……結構やらかしていたんだな」
「それは普段からだから。勘違いしないで、今回はそれがさらにひどかっただけの話」
「あはは……」
春野の言葉の刃に傷つけられた僕は苦笑いする。
春野と関わり始めて段々と分かってきたが、春野はある程度の線引きをしていて、敵対する人や相手から自分に関わろうとしている人、親しい人には割と暴言というか、ものをはっきりと言うことが多くなる。
僕がどの立場でいるのかは分からないが、大分この傾向が強くなり始めているので線引きは超えているらしい。
「だけど、どうしてこんなに早めに行動して見つけることが出来たの?」
「私を誰だと思っているの。そこら辺の凡人とは違うのよ。天気予報は見る所によっては数時間ごとに変わることがあるから、朝昼と定期的な確なっていたわ。
この雨も朝は違ったけど、昼は70%の確率で雨になっていたわ。椿君が昼にでも確認していたら色々と対策が出来たはずよ。
それに天気予報の専門サイトを探せばかなり当たるサイトもあるの。今日のこの時間が雨になることは前々から私は分かっていた。」
つまるところ、春野はこの時間が雨になることをかなり早い段階で知っていて、この状況が予想できたと言うことだ。
(だけど、早めに知っていたなら教えてくれればよかったのに)
僕と春野は毎朝一緒にご飯を食べている。
春野の性格上、きっと僕の見ているもの以外にも精度がいい方も見ていたい知っているはずだ。
「まあ、椿君が二本とも折りたたみ傘を忘れているのは予想外だったけど」
春野は僕の心を読んだかのように。疑問にジト目をしながら答える。
僕が馬鹿げた失敗をするとは思わなく、僕が学校に出た後に気が付いたのだろう。
「すいませんでした」
僕は心の底から謝った。
「謝る必要はないわ。さっきも言ったけど椿君は結構抜けているから」
「ソウデスネ」
全くもって否定できない事実に僕もメンタルはゴリゴリと削れて、何とか返事をするのが精一杯だった。
「早めに行動できたのは分かったけど、僕がどこにいるとかはどうしたの?」
「非常に忌々しいけど、私の自殺を止めようとする椿君は私を蔑ろにしようとすることを全くしないわ。疲れて変な時に寝ていた時以外はね」
「その節は大変申し訳ございませんでした」
本当に忌々しそうな表情と自分のミスをしっかりと突かれ、僕の立場とメンツは粉々である。
「それだから、まあ、椿君がいる所はある程度予想できるわ。買い出しをするためにスーパーにいるか、何かのトラブルに巻き込まれて変な所にいるか、今の椿君のように間抜けな表情をしてどこかで雨宿りしているか」
「間抜けな顔ですいませんでしたね……」
僕はなすすべもなかった。
春野は僕の行動を完全に予測できていて、僕の尻ぬぐいをしたと言うことだ。
(頭が上がらねーー)
やはり、殆どのことで春野の方が上であった。
これで本当に春野の抱える問題を解決できるのかとメッチャ不安になる。
「だけど、私はがっかりだわ。予想が当たっていたことにね」
春野は少しだけ拗ねるように言って外を向いた。
その言葉に僕はクスっと笑う。
全てで春野に負けている訳ではない。ほんの少しだけ勝っている場所がある。
例えば、結構粘り強いところとかいい勝負できるんじゃないだろうか。
そして、勝っている場所があると言うことは、何かしら出来るということだ。
なら、僕は力になれる。
「ごめんなさいね。春野の予想を裏切れなくて」
「本当よ。だけど今だけは許すわ。あの約束も裏切ってほしくないから」
春野はそう言って、僕に傘を突き出してくる。
「早く帰るわよ。疲れているんでしょう」
僕は突き出された傘を受けとる。
どのような思いで春野が来てくれたのかは分からない。だけど、純粋に来てくれたことに結構うれしかった。
僕は出来るだけ素直にいたい。特にうれしいといった気持ちはしっかりと表現した方がいい。
だから、僕は間抜けな顔と言われないよう、自分なりに出来るだけ嬉しそうな表情をして春野に言う。
「来てくれてありがとう。とても助かったし、うれしかったよ」
僕よりも一歩早くここから出ようとしていた春野の足が止まる。
「……当然のことをしただけ、早く帰りましょう」
そうして春野はこちらを振り向くどころか、さらに一歩早く遠ざかるように僕から離れていく。
「ちょっと待ってよ!」
僕は一人で帰ろうとする春野を一生懸命に追いかけるのだった。




