第九十六話 ワガママ
「困ったな・・・・・・」
そんな弱音が出てしまう。
僕は、現在帰宅中なのだが頭痛がひどく、体もとても重くなっていた。
「無茶し過ぎたな」
より良いものをするためだからと、ここ3日徹夜をした上に、非常に疲れる集中モードでいたのだ。
僕の体力は限界をとっくに超えていた。
問題への対応をしている時までは大丈夫だったのだが、学校を出てすぐ緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。
このままでは無事に家に帰れるか、少し怪しくなってくる。
本音を言うなら何処で休みたいのだが、つい最近、同じようなことをして失敗したので、あまりやりたくない。
だから、頑張って帰ろうとしていたのだが。
「あめ・・・・・・」
神様は僕には優しくないようで、ポツリポツリと雨が降り出そうとしていた。
「こんな時に予報外れるなよ」
辛い時に限って悪いことは重なる。
だが、僕にとってこれが平常運転だった。
僕はいつ雨が降ってもいいように2本カバンに折りたたみ傘を入れている。
2本入れているのは、他に忘れている人がいたら貸すためである。
そういうことで、僕はカバンから折り畳み傘を取り出そうとした。
「あれ・・・・・・入ってない・・・・・・」
カバンの中には何処にも折り畳み傘がなかった。
(どうして・・・・・・?)
理由を考えようとしたが、冷たい水が物理的に僕を冷やしてくれるため、折り畳み傘のことを後にして僕は走って雨宿りできるところに向かった。
そうして僕は春野の自殺を止めた時に寄った公園にたどり着く。
「少し濡れたけど、大丈夫かな」
持っていたタオルである程度水を取った僕は疲れるように座る。
「今回は三連続か・・・・・・」
先程、スマホで天気予想を確認したら後2時間続くとのこと。
現在は午後5時過ぎ、帰れるのは最速でも七時半過ぎになる。つまり、帰るのが遅くなってしまう。
疲れている時に、天気予報を裏切る雨にあい、なぜか折り畳み傘はなく、帰るのも遅くなる。
散々な目にあっている。
「どうしてこうなるのかなーー」
僕は上を見上げる。
昔からこんな事ばかりだ。
正直言って気分が暗くなる。こんなに運が悪いことが続くのは自分が何か悪いことをしたのではないかと思うから。
「こんなんじゃダメなのにな」
スパッと綺麗に解決するようなカッコいい理想と比べて、あまりにもボロボロで泥臭かった。
表ではなんとかしているが、見栄を張っているようなもので、裏ではこの通りボコボコにされている。
こんな姿を春野に見せるわけにはいかない。
春野は優しい人だから、自分のせいだと思って自分を責める。
それだけは、なんとか回避したかった。
きっと春野が自殺しようとしているのもこれに近いようなものだと思うから。
さらに追い詰めるようなことはしたくはない。
だと言うのに、この体たらくはつらい。
「自分の為の時間か・・・・・・」
雄大先輩の言葉を思い出す。
雄大先輩は僕に、もっと人を頼っていいんだぞと、我儘でいた方がいいと伝えたいのだろう。
その言葉の意味も分かるし、そうした方がきっといい結果になるのも分かる。
自分で言うのも悲しいが、僕には1人で全てを解決できる力はない。
誰かの協力がなければいけない。
だから、僕は協力を求めることをする。今回だって、雄大先輩達をはじめとして多くの人に頼っている。
だけど、僕は知っている。
頼ることが必ずしも正しくないこと、また他人を不快にさせる可能性があることも。
この世の中、綺麗事だけではないことを僕はしっかりと理解している。
誰もが自分で精一杯なのだ。そこで不用意に頼られることは多少なりとも嫌になる人が多い。
僕はそれが怖い。
何かを勘違いしてしまうことが恐ろしい、誰かに責められるのが怖い。
だからこそ、僕は人に頼るときは何かしらの理由を探そうとする。
僕が頼ってもいい理由を探してしまう。
改善しないといけないことは理解しているが、心のハードルが乗り越えられない。
もっと言うなら、自分のせいで誰かが傷つくことが耐えられない。
だから、僕は助けることは得意でも、助けられることは物凄く不得意なのだ。
僕はスマホを見る。
今の状況で、最も賢い判断は春野に傘を持ってきてくれることを頼むことだ。
それが頭の中で分かっても実行するには躊躇ってしまう。
感情と理性が激しくぶつかりあう。
そうしてさらに疲れた僕は上を見上げて考えるのを一旦やめる。
(我儘はキツイなーー)
自分の時間がないのは、元々の性格もあるが一番は、自分が臆病で怖いというのが一番なのだ。
ある意味一番我儘だとも言える。
そんな感じで少しの間どうすればいいかを考えて、やっぱり頼るべきだと言う結論に至る。
最悪は回避しなければいけない。
とても心苦しい気分になるが、自分の落ち度ということでしっかり受け入れよう。
(こう言った選択を気軽にできることが、きっといいんだろうな)
雄大先輩が望んでいることはそんなことのはずだ。
春野には是非ともこんな感じにならないように頑張ろう、そう思いながらスマホをとって春野に連絡しようとしたときだった。
「はあ、やっと見つけた」
世話が焼けると少しだけ冷たい感じに言いながら、僕が買った服を着て僕の分の傘を持った春野がいた。