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第九十五話 応える

(雰囲気ぶち壊しだな)


 私は赤菜さんの元気で力強く言葉を聞いてそう思った。


 森岡さんも同情じみた目でこちらをチラリと見てきた。


「どうぞ、入ってきて」


「それじゃあ、おじゃ・・・・・・します・・・・・・」


 元気よく入ってきた赤菜さんは、いじめに関わっている中心人物の殆どが揃っていることに目を見開いて固まる。


 後ろにいた晴人は、やりやがったなと言った視線をこちらに向けた後、邪魔にならないように素早い動作で教室の外に出ていった。


「椿君、これは・・・・・・」


 立ち直った赤菜さんは、私の真意を聞いてくる。


「答えが出たんだろう。私はその答えを言葉よりも行動で示してほしい」


 赤菜友梨がどのような結果を得たのかは分からない。ただ、春野を救いたいなら、この程度のことは乗り越えてもらわないといけない。


 何より、悠長に対応できるほど、私が稼げる時間も多いわけではない。


 今は約束で縛っているが、第三者の介入など想定外のことが起きれば春野は自殺を決行する可能性がある。


 その時に止められるか分からないし、現状だっていつ春野の親が気がつくのか分からない。


 私の対策は完璧ではないのだ。


 だからこそ、ここでいじめの件に蹴りをつける。


 私はそう決めた。


「そっか。わかった」


 私の考えを聞いた赤菜さんは短く答えた。


(強くなりましたね)


 迷いなく答える赤菜さんの姿に、私はそう思った。


 1週間前までの赤菜さんなら、ここまで堂々とした態度はできなかったはずだ。


 赤菜さんの成長に私は少しだけ微笑む。


「赤菜さん、文化祭のことも含めてごめんなさい」


「ごめんなさい」


 最初に動いたのは森岡さん達だった。


 辛いところや気まずいところもあるはずだが、逃げることなく真っ直ぐと向き合って謝った。


 それは簡単には出来ることではなかった。


「私たちがした行為は、謝るだけでは許されることはないと言うことは理解しています。私たちは今後、最大限の償いをしていきます。


 本当に申し訳ございませんでした。」


 頭を深々と下げて森岡さん達は謝る。


 赤菜さんは謝罪の言葉を落ち着いて受け止めていた。


「頭を上げてください」


 堂々とした声だった。


「森岡さん達が反省していることはよく分かりました。その上で、私の答えを言いたいと思います。」


 ゆっくりとそしてハッキリとした口調で話していく。


「私についてしたことは、許しています。ただ、愛佳ちゃんがやったことに関しては許せません。愛佳ちゃんが苦しんでいる限り、私は貴方達を許すことがないです」


 明るく元気なところが印象的な赤菜さんからは想像ができないほど凄みのある声で言い放った。


 春野を思う気持ちがどれぐらい強いのかがよくわかる。


「ですが、貴方達以上に、私は私が許せません。愛佳ちゃんから、逃げた私が許せません」


 赤菜さんは手を強く握っていた。


「愛佳ちゃんの身を削るような必死の努力に私たちは何一つ返せていない。


 だからこそ、私は愛佳ちゃんの努力に応えてあげたいです」


 語る赤菜さんに前まであった償わないといけないと言う、後めたいものは一切感じられない。


「私は、償いではなく、応えたい。愛佳ちゃんの努力をかなしみでは終わらせない。


 だから、森岡さん、他のみんなも私に協力をしてくれませんか!


 私だけでは、愛佳ちゃんの頑張りに応えられないから」


 そうして、赤菜さんは森岡さん達に対して頭を下げた。


「お願いします!協力してください!!


 私だけではダメなんです!


 愛佳ちゃんの頑張りは私だけではないから!


 クラスメイト全員に向けられているから!


 私は何一つとして愛佳ちゃんが頑張りを無駄にしたくないんです」


 赤菜友梨は前を向いていた。


 償いのためではなく、応えるために動く。


 塞ぐのではなく、塗り替える。


 冷たく暗い過去を無くすために行動するのではなく、そんな暗い過去を暖かく照らすほどのの明るい未来を作り出す。


 それが赤菜友梨の出した答えだった。


 そして、赤菜友梨が放ったその光は、伝染を始める。


 過去ではなく未来に向けられた光は、償いのためという上限がない。


 無限大の可能性を秘めた光は消えることはない。


「春野さんの努力に応える手伝いをさせてください」


 赤菜さんの言葉に、森岡さんが一歩前に出て手を出して協力を申し出た。


 赤菜さんはその手を明るく元気いっぱいに掴んでいった。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その言葉を皮切りに、藤井さん達も次々と応えていく。


 そうして赤菜友梨は、未来への光で過去の暗闇を消してみんなとまとめて見せた。


「椿君、これが私の答え。


 私は自分がした罪を無かったことにしない。しっかりと受け止めて糧にして、より良い未来にして、振り返った時にいい思い出にする!


 そうすればみんないい笑顔で過ごすことができるでしょ!」


 赤菜友梨の姿は、心地がいいほど真っ直ぐで明るかった。


(罪を無かったことにせず、いい思い出にするための糧とするか。なんともまあ、誰かみたいに破壊的に一直線で強引じゃないか)


 子の成長を喜ぶような感情が湧いてくる。


 しかし、それをまだ表に出すときではない。


 私は最後まで彼女の壁であり続けよう。


「そうですか、なら頑張ってみてください」


 試すかのような物言いで赤菜さんに言う。


 そうして、私は立ち上がる。


「困ったことがあったら、雄大生徒会長が協力してくれるようにしておきますので、活用してください。


 準備が出来たら私に連絡をしてください。春野さんを必ず連れてきます。


 それと悠長に準備しているほど、時間はないので気を付けてください」


 必要な事項だけを淡々と伝えて、私は教室のドアを開ける。


「赤菜さんの答えは、実現しなければただの妄言です。


 本気ならば妄言で終わらせないように頑張ってくださいね」


「うん!必ず愛佳ちゃんを笑顔にするし、椿君に認められるように頑張るから」


 私の言葉に、赤菜さんは真正面から堂々と受け応えた。


 赤菜さんの言葉を聞いて、私は教室から出ていった。


 そして少し歩いていると晴人と出会う。


「もう少し優しくしてあげれよかったんじゃないか?」


「勝てば官軍負ければ賊軍と言うだろう?


 どれほどのいいことを言ったとしてもそれを実現できなければ、ただの妄言になってしまう。


 赤菜さんはスタートに立って進み始めたのであって、ゴールをしたわけじゃないんだ。


 こんなところで油断してもらっては困る」


「そう言う理性的過ぎるところ、色々と損してるぞ」


「なら、もっと私を甘えられるようにしてくれ」


「それは無理だな」


(こいつ・・・・・・)


 平常運転の晴人に私は軽く笑った。


 なんだか気分が少しだけ楽になる。


 思えばこのように気軽に話すのは随分と久しぶりに感じる。


「赤菜さんのこと、本当に助かったよ。ありがとう」


「約束したことだからな。やり遂げてやったよ」


 やって当然と感じさせる力強い言葉に私は晴人を頼もしく思う。


 私はいつも不安なことばかりで臆病だから、堂々と前に進んでいく晴人に結構勇気をもらっている。


「それにしても随分と私のことを目の敵にする発言が聞こえたし、強引なところも増えた。


 彼女に何をしたんだい?」


「何もしてないぞ。ただ、俺は俺らしく振る舞っただけだ」


「ほどほどにしてくれよ。色々な意味で危ない私が」


(春野は赤菜さんがグレた、責任取れとか言われかねないし、私の立場も怪しくなってしまう)


 物事がうまく進んでも、私が苦労人みたいな立場にはさせられたら負担が増えてしまう。


「それで晴人はこのあとどうする?こちらは頼みたいことは今のところないから、自由になる」


「ゲームをしたいところだが、どうせ友梨に連れ回されるから、友梨の手伝いをするかな。どうするのか見たいところがあるからな」


「そうか、晴人が近くにいてくれて、助かるよ」


 私は晴人を見る。


(前よりも明るくなったな)


 今までは、やる事がなくダラダラしていたが、今は赤菜さんと行動することが増えているからか、賑やかな日々を過ごしているのだろう。


(いよいよなのかな)


 親友のいい変化に私は密かに喜ぶ。


「それじゃあ、お互い最後まで頑張ろう」


「そうだな」


 私たちはそう言って互いの向かう場所へと歩き出す。


「そういえば言い忘れたことがあったわ」


「?」


 晴人の言葉に私は晴人の方を見る。


「困ったら頼れよ。お前が言う強引さを持って助けてやるから」


「・・・・・・頼りにしてるよ」


 私は昔のことを思い出しながら立ち去った。


 その後、雄大先輩にあった。


「お疲れ様、椿君。見事な手腕だったよ」


 まだ、結果の方は伝えていないはずなのだが雄大先輩は独自の情報網から結果を知ったのだろう。


「ありがとうございます。ただ、今回は運が良かったところが多いですね」


「そうなのかい」


「はい、みんないい人で良かったです」


 今回、結果的には最高の結果を掴み取ることが出来たが、それはかなりの運が絡んでいた。


 まず、今回のいじめ自体がする違いのようなもので、いじめをしていたと言っても本質はいい人たちだ。


 しっかりと間違えを認識できたのなら、反省してくれる。


 その時点で痛めつける以外の選択肢が取ることができた。


 それだけじゃない、森岡さん達の強さにも色々と助けられた。


 藤井さん達の友達思いで行動を起こせる強さ、藤田さんの行動力、そして、間違いを認めて共に歩んでいける森岡さん。


 それぞれが強い人だったからメンタルケアの必要があまりなく短時間で物事を進めることができた。


 本当に運が良かったと思うところもあるが、逆にこんな人物達だからこそ、雄大先輩が動いたのではないかとも考えてしまう。


 あの人たちならばうまく乗り越えると危険性が少ないと思ったのではないだろうか。


「そうかそうか、弓弦君がそこまで言うなら、興味があるね。どこかで生徒会に誘ってみようかな?」


「・・・・・・抜け目ないですね」


 案外ノリノリの雄大先輩を自分の考えが正しかったことを確信する。


(今回のことで成長させるついでに、どれぐらい出来るか見ていたと言った感じか)


 どこまでもすごい人だ。


 本当に多くの場面で助けられてる。


「もう気がついたと思うけど、そろそろ私の次を継ぐ人を探しておこうと思ってね。


 君たちを試すところとして使っていたところはある。


 凛奈君と雄大君達の行動力は魅力的だからね」


「そうですね。色々とやっている雄大先輩の後を継ぐとしたらそれなりの行動力が必要になりますからね」


 雄大先輩は来年の夏には生徒会から離れることになる。


 それまでに雄大先輩が改革したものを維持する体制を作り、残していきたいと考えているのだろう。


 ただ、雄大先輩のやっていることは仕事も多いから早め早めに行動しなければならないのだろう。


「今回の件で彼らの手腕を見ながら関わりも持つことができた。これから彼らがすることでも少なからず私たちの助けが必要になるだろう。そうなれば色々と教える口実が作れる」


 助けるだけで終わらないのは雄大先輩のすごいところだ。


「春野さんの問題が解決したら、私達も生徒会に入れるつもりですか?」


 雄大先輩にはそれができるほどの借りはある。


「たまに手伝ってもらいたいとは思っているけど、入れるつもりはないよ」


「それはまたどうして?」


 てっきり入れるものだと思っていたので意外だ。


「今回の件で思ったんだが、君たちあまりにも自由を知らな過ぎる」


「自由ですか」


「ああ、春野君は勿論のことだが、弓弦君、君が一番ひどい」


「はぁ」


 そんなことを言われても実感というかあまり意識していないこともあり、反応がイマイチなものになってしまう。


「あまり問題視してないように思えるから、言うけど弓弦君、ここ最近、自分の為の時間無かっただろう?」


「・・・・・・」


 言われてみればそうだったかもしれない。


 振り返っても単純に自分のための時間が出てこなかった。


「そういうことだよ。


 学校の件も大きな問題は終わったんだ。椿君的にも私たちに学校方は任せて春野君だけに集中しようと考えているのだろう。


 学校の方は全て私がなんとかするから、椿君はこの際、春野君に集中するついでに、自分がやりたいように少しでもいいか自由にしてみなさい」


「そう言われても、現在、こちらが迷惑をかけている側です。


 さらに迷惑をかけるのはプラスにならないのでは?」


「はあーー」


 私の言葉に雄大先輩は、深いため息をする。


「いいかい、恋愛において押し引きが大切なように、いい関係を築くなら、たまには我儘になることも大切だ。


 弓弦君は一件我儘に見えるようなことでも、最終的には相手のためになるように行動してしまう。


 それでは相手の気が休まないだろう。


 特に相手は察しのいい春野君だ。なんだかんだ、見抜いてきているはず。


 だからこそ、少し休ませるつもりで我儘なことを言ってみればいい」


「なる・・・・・・ほど?」


 まあ、完全に納得はできていないが一理ありそうなところもあったので考えておこう。


「私はそろそろ森岡君達のところに行きたいからここまでとするよ。春野君のこと任せたよ」


「はい、1人にしないように頑張りたいと思います」


 そうして私達は解散して、私は学校を出る。


「いじめの件がようやく終わった。学校の方は雄大先輩達がなんとかしてくれる。


 これで春野だけに集中できる」


 なんだかんだ、マルチワークな感じで完全に向き合えているとは言えなかった。


 これからが、僕の方の本当の戦いが始まる。


「いい笑顔で過ごすことができるか」


 先程の赤菜さんの言葉と姿を思い出す。


「春野、君の頑張りは赤菜さんを親友を救っていたよ」


 春野愛佳の頑張りは決して無駄ではない。


 それを春野が知れる日が早く来ることを思いながら、春野が待っている家に帰るのだった。

ここまでご愛読していただきありがとうございます。


これで一章6節罪と罰は終わりとなります!


いやーー、長かった。それが私の感想です。


ですが、これでようやく春野さんと椿君だけに集中した話をすることができます。


と言うことで、みなさんお待ちかねの春野さんと椿君のメイン章が始まります。


糖分耐性をつけておいてください。


学校の問題とか面倒くさい楔はもうない!やりたい放題やるぜーー!




では次節、学校の件を終わらせた椿は、春野愛佳をより知るために、より多くの時間を割き始める。


 様々な角度からより攻めてくる椿に対して、春野は今までの受け身だけでは、ダメだと思い始め、春野も椿弓弦がどう言う人物か知るために行動を始める。


 春野の自殺を止め、彼女の言葉の答えを見つけようとする椿と、悉く邪魔してくる椿をどうにかして出し抜こうと本格的に動き始める春野。


甘くても猛毒な2人の時間が始まる!


椿弓弦は、自殺を止めて答えを見出せるのか!



一章7節 甘茶の攻防戦が始まります。








プロローグ的なもの書いてみたかった。


今後とも椿君達の応援、よろしくお願いします。


面白いなど思っていただけたら、下にある⭐︎の評価やブックマークをしてくれると嬉しいです。


また、登場人物一覧を七十八話のあとがきにまとめておきました。簡易的なものなので、分からないところがあれば連絡よろしくお願いします。

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[良い点] きちゃーーーー!!!続き楽しみにします!
[良い点] >弓弦君、ここ最近、自分の為の時間無かっただろう? ↑これ、僕も感じていました。  描写してくれて嬉しく思いました♪
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