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第九十四話 今まで積み上げて来たもの

「どうして……どうして二人がここにいるの」


 私は激しく動揺する。


 そんな私の動揺を振り払うように直樹は私の目の前まで来る。


「凜奈と向き合いに来た」


「……」


 直樹の表情と声からは確固たる強い決意が感じられた。


(こんな直樹見たことない)


 直樹の変化に私が動けないでいると、一歩離れたあと彼の方を一度見て、もう一度私の方を見る。


「まずは謝らせてくれ。辛いときに助けられなくてすまなかった」


 直樹は私に頭を下げる。


「そんな……直樹が悪い訳じゃ……」


「悪いさ、彼女がここまで追い込まれていることすら気が付くことが出来なかった」


「直樹……」


 直樹が心の底から後悔していることがとても伝わってくる。


「彼から全てを聞いてよ。春野や赤菜をイジメていたんだな」


「……うん」


 直樹から改めて言われることで改めて私がどのような事をしたのか、そしてその行為の罪深さを体感させられる。


 胸が張り裂けそうな気持ちになる。


 それでも私は、直樹の言葉を認めることが出来たのは、それが私への罰だと受け入れる覚悟が出来ていたからだ。


「私、酷いことを沢山したの……悪い女なの……だから別れよ。


 もう私にはなにもない。あるのは罪だけ。 


 直樹の隣にいる権利なんてないの」


 私に幸せになる権利はない。


 だからこそ、私は望みを全て切り捨ている。


「ふざけるな!」


「!!」


 直樹は怒るように声を荒げた。


「勝手に一人で決めつけないでくれ!一人で抱え込まないでくれ!


 悪い女?権利?


 そんなこと俺には関係ない!


 俺は凜奈を支えたいんだよ!どんなことがあっても前に進み続ける凜奈を支えたいんだよ!」


 直樹は私の目を見つめる。


「俺はどんなことでも恐れずに凜奈にあこがれていた。


 いつも誰もやりたがらないことを率先してやって、多くの人たちを助けて笑わせるお前にあこがれていた。


 神田の時もそうだ!


 みんな見て見ないふりをしていじめられて孤立していた神田を真っ先に助けに言った。


 このクラスでも春野が完全に孤立しないように立ち回っていた。


 いつも一番大変な役目を進んでやっていた凜奈を支えたいから、頑張ってきた。」


「そんな風に思って……」


 直樹がそんな風に思っていたなんて初めて知った。


 私が見ていた直樹はいつもカッコよくて、いざという時に頼りになる素敵な人だった。


「文化祭の時もそうだ。困っている凜奈を支えられるようにいつも以上に頑張ったんだ。


 少しでも凜奈の負担が減るように頑張っていたんだ。


 だけど、それが逆に凜奈を孤独にさせてしまった。


 支える事ばかり考えていて、凜奈の事を見ることをしていなかった」


「それじゃあ、春野さんをよく頼っていたのは……」


「ああ、少しでも凜奈の負担を減らしたかったからだ」


 そんな、そんな、直樹は私のために動いていいたの。


「直樹だけじゃないよ。クラスのみんなもいつも助けてくれる凜奈が少しでも楽になれるように頑張ってたんだよ」


 智子が隣から語り掛ける。


「みんなが……」


「うん。いつも体を張って頑張っている凜奈を少しでも楽させたいって、ほら今回は失敗は多かったから、みんな分かってたんだよ。凜奈が辛い事」


「うそ……」


 春野さんの方が頼りになるから、私を捨てたのではなく私を助けたいがために動いていた。


 すべては私たちの勘違いだった。


「なら……私のしたことは……」


 私はありもしないことで二人を苦しめた。


 その事実に心の底から声にならない嬉しさがこみあげてくると共に、それを裏切ってしまった罪悪感が私をさらに締め付ける。


「私、最低じゃん……」


 誰一人として、私を見捨てようとしていなかったのだ。


 ただ、私がそれを信じることが出来なかった。


「彼の言う通り、信じていればこんなことにはならなかった」


 私が、私が全て裏切ったのだ。


「全て私のせいだ」


 そう、すべて私が悪かった。


「違う」


「それは違うよ!」


 智子と直樹はそれぞれ私の手を取って否定する。


「みんな悪いんだ」


「凜奈だけが悪くない。何も言わないで行動して、苦しいと分かっていてもギリギリまで何もしていなかった私達も悪い」


「だけど、だけど、私はみんなの期待を裏切っての……、みんな私を恨んでる」


「そんなことはない。これを見てほしい」


 直樹は手からスマホを取り出して、一枚の写真を見せる。


 そこにはクラスメイト達のコメントが掛かれていた。


「なにこれ」


「イジメの件、みんなと話したの。その結果、私たちみんなが悪いって、みんなで謝ろうってそう決めたの。それを凜奈に知ってもらうためにコメントを書いたんだ。みんなで」


「そんな……うそ……」


 私は言葉にならなかった。


 だって、だって、私はみんなの期待を裏切って迷惑を掛けたのに。


「それがあなたが積み上げてきたものです」


 沈黙を貫いていた彼は感心するかのように言った。


「今回の件で、誰一人として、あなたを裏切る人はいなかった。全員があなたを助けたいと思っていた。そこのメッセージもたった一日で彼が用意しました。


 その事実は、あなたに関わる人のほとんどの人が高いレベルであなたを信頼し慕っていなければ達成できるものではありません。


 森岡凜奈さん、あなたの努力の結晶は万能の天才を言う才があって、酷い行為をしたとしても失われない強いもの。


 凄いと思いました」


「これが……私が積み上げて来たもの……」


 さっきから涙が止まらない。


 うれしくて、うれしくてたまらなかった。


「みんな、みんな、ありがとう」


 私は智子たちに抱きついた。


「わたし、もう裏切らない」


「ああ」


「そうだね」


 気持ちが落ち着くまで私たちは抱きついていた。


 大体10分程度ではなかったのではないだろうか、私は涙を拭いて彼を見る。


「ありがとうございます。大切なものを教えてくれて」


 私は彼に感謝を述べる。


 彼が行動していなければ全てがすれ違っていたままだった。


「そして、チャンスをください。私に春野ちゃん達がやり直せるサポートさせてください。その後でどんな罰も受け入れます」


「春野さん、重症です。あなたに何ができると?」


 彼は鋭く問いただす。


「分かりません。ただ、動かないと何もできない」


 まだ、どう対応すればいいのかなんて分からない。


 自分のしてきたことをにどうすれば償えるのかなんてわからない。


 進むのは怖い。


 多くの人になんで言われるかも分からない。


 きっと辛いことがたくさんあると思う。


 だけど、それは受け止めないと行けないことで、私がしなければいけないことは、私が傷つけた2人を生きてきてよかったとプラスで終われるようにしないといけないのだ。


 私の全てを使って。


 それだけがわかった。


 彼は私を中心した後、少しだけ天井を見て何かを呟き、私の目を見る。


「2つ、訂正しておきます。


 一つ目に、春野愛佳は重症ではありません。


 ギリギリで私が止めました。


 このことは他言無用です」


 それを聞いた私は、春野さんが無事のようで安心する。


 ただ、それで私の罪が軽くなるわけではない。


「二つ目に、私はただのお節介な第三者でしかありません。だから、あなたをどうするかを決めるのは私ではありません」


「春野さんと赤菜さんですね」


 被害者である2人が決めないと意味がない。


「はい。そして今、春野さんに会わせるわけにはいきません。


 だから、赤菜さんと話し合ってください。そろそろ来るはずので」


 彼がそれをいうと同時にドアがノックされる。


「椿君ーー!入っていいーー?」


「テンション高くね」


「当たり前でしょ!椿君を言い負かしに来たんだから強気で行かないと」


「なら、俺も連れてくるなよ」


「ダメでーす。それに晴人も言ってたじゃん。驚く椿君の顔が見たいて」


「まあな」


 非常に楽しく話す赤菜さんと男性の声が聞こえてくる。


 それは文化祭が始まる以上のものだった。


 どうやら、目の前の彼、椿君を言い負かしに来たらしい。


 私は恐る恐る彼を見た。


「どうしてこうなるんだろうな」


 彼はなんともいえないような表情をしていた。


「どうぞ、入ってきて」


 彼は呆れるように言う。


「それじゃあ、おじゃ・・・・・・します・・・・・・」


 勢いよく入ってきた赤菜さんは私たちを見て固まる。


 こうして、私たちはあの事件以降はじめて話し合うのだった。

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