第八十四話 失敗と助言
次の日、春野は荒れていた。
理由は色々あるが、一番は仕送りの件だった。
朝、7時ぐらいにチャイムが鳴り、仕送りが届けられた。それを受け取った春野はすぐに電話を確認して、留守電がないことに気が付き、僕に問い詰めてきた。
「昨日、電話がきたわよね?」
「・・・・・・ああ、きたね」
何もなかったと答えるかも考えたが、仕送りを見た瞬間こちらに問い詰めてきたことを考えると、電話は毎回行われている事が分かる。
バレる嘘をついても意味がないため、僕は素直に答えた。
「内容は?ありのままの全てを教えなさい」
(聞いていなかったでは済まされなさそうだな)
僕にそう思わせるほど春野は有無を言わさない詰め方をしてくる。
「仕送りを送った。無駄なことはしないでほしい。早くあの人を説得しろだってさ」
出来るだけ冷たくそして必要最低限のことだけを僕は伝える。
春野への暴言は伝えなかった。
「本当にそれだけ?」
「それだけだよ」
僕はお得意のポーカーフェイスを存分に活用しながら答える。
「そう・・・・・・椿君もくだらない気遣いをするのね」
春野は冷たく言い放つと、何処か諦めたような哀愁を感じさせる声で語る。
「お義母さんは、必ず私のことを疫病神と言うのよ」
春野の言葉に天を仰ぎたくなったがギリギリで踏み止まる。
「椿君のことだから、電話に出るわけがない。だからこそ、聞いたわよね?」
「・・・・・・」
何も答えられなかった。
「どうして、その事を隠したのかしら。いや、質問を改めましょう。椿君は疫病神と言われる私についてどう思ったのかしら?」
春野の鋭い視線が僕に突き刺さる。
(失敗したな・・・・・・)
僕は春野に対する暴言に対して、感情よりも先に理性を優先した。
今の僕が春野に送れる言葉は、冷たい言葉だけだ。
「・・・・・・」
僕は沈黙することしかできなかった。
「何も言わないのね」
ほんの少しだけ落胆したように言って、春野は自分の部屋に向かう。
「悪いけど、今日は1人でいたい気分なの。私のことは構わないで過ごして」
そうして春野は部屋の中へと戻っていった。
(難しいな・・・・・・)
出来るだけ慎重にやっていた筈だが、全てがうまくいかない。
今回の苦痛は自分の失態であるため、しっかりと受け止める。
「それにしても疫病神か・・・・・・」
小さく僕は少し懐かしむようにこぼすと共に小さい頃を思い出す。
『この疫病神が!』
『いつも問題ばかり運んできて!早く消えてよ!』
『・・・・・・』
人は決して正しいわけでも、守ってくれるわけでもない。
害する者なら容赦なく排除しようとする。
そのことを僕はよく理解している。
そして、そのことに普通だと慣れてしまうことがどれほど悲しいことか。
(まだ間に合う、行動をしなければ)
悲しんではいられない。
挽回をするために行動するのだ。
ぼくは、冷たい頭を覚ますように深呼吸をして、向き合おうとしたその時だった。
スマホから電話が鳴る。
相手は雄大先輩だった。
「弓弦です。作戦の最終確認ですか?」
「話が早くて助かるよ」
僕は頭をすぐに切り替える。
「弓弦君の指示されたポイントに人員の配置は済ませておいた。メンバーも演技が上手い子を選定しておいた。バレる心配はないだろう」
「素早い手配、ありがとうございます。流石、雄大先輩です」
「あはは、協力すると言ったからね。それでターゲットは予定通り来るのかな?」
「藤井さんの協力もあって、問題ないと思います」
「やはり、内応者の存在は大きいね」
「そうですね。だけど、ここまで上手く運べてるのは藤井さんが頑張ってくれていることも大きいです」
藤井さんはこちらの指示にただ従うだけではなく、自主的な情報提供などとてもよく動いてくれている。
ここまで事がスムーズに行くのは、ただ内応者がいたからだけではできない。
「確かにそうかもしれないけど、藤井さんを内通させ、バレないように動かすその手腕、何処で学んだか、私はそちらの方が気になるね」
「歴史を学ぶことをお勧めします」
「なるほど。弓弦君らしいね」
歴史はただ覚えるものではない。
孫子の兵法を始めとした多くのものが今現在でも通ずるものは多くある。
それは学ぶことは勿論のこと、数千年前の事が現在でも使えると言うことは、人の性質は環境がどれだけ変わろうがある程度変わらないものであるということ。
逆に変わっているところはどうして変わったのか、時代ごとにまとめて、変化する方程式を見つけ出せば、より自分の望んだものへ誘導できる。
この世は非常に複雑かつ奥深い。
それをどれだけ知識として見つけ、経験として扱えるようするのか、それが人としての強さが決まる。
まあ、それがどれだけあっても幸せになれるかは別問題だけどな。
「こちらの確認は以上だ。それで今、春野君と一緒に暮らしているんだろう。上手くいっているかい?」
「・・・・・・」
絶賛全く上手くいっていないことを聞かれて沈黙してしまう。
「おーーい?そこは大丈夫て言ってほしいんだけど」
「ダ、ダイジョウブデス。ナントカシマス」
「カタコトだよ」
雄大先輩の苦笑している姿が容易に想像できる。
「まあ、弓弦君のことだ。ある程度の解決方法を考えついているのだろう。だが、最善ではないと言った感じかな?」
「人の心を読まないでください」
平然とこちらの考えていることを当ててこないでほしい。
「弓弦君は策略家で自分も他人も騙すこともできる。きっとなんでもありのバトルでは、一番強い。だけど、それは何でもありのバトル、世の中なんでもありなんて中々ない。今の弓弦君は偽りを使いたくない。だから困っているかな?」
「ここまで知られたら僕は叶いませんよ」
少しの情報でこちらの事情を殆ど察する力、生徒会長には敵わない。
「あはは、弓弦君はこだわりすぎることがある。たまには素直な気持ちでやってみてはどうだろうか?きっとそっちの方が面白い」
「本音出てますよ?」
「何のことかな?まあ、そっちは弓弦君に任せている。頑張って」
そうして雄大先輩は電話を切る。
(まったく、雄大先輩はたまに趣味に走るから困る)
それにしてもこだわりすぎか。
雄大先輩の言う通り、何処か未来のことにこだわりすぎていたことがあったかもしれない。
それならばどうするべきか、僕は改めてじっくりと考えるのだった。




