第七十八話 スタートライン
あれから俺たちは気の向くままに楽しんだ。
リベンジマッチは熾烈を極めた。
結果は俺の負け。
友梨は何処までも止まることなく楽しんでいた。
まあ、初めて数日の俺が勝ったら、それはそれで面倒なのでこの結果に落ち着いたのはある意味でよかった。
音楽フェスに関しては、菜奈さん達が全てを持っていた。
菜奈さん達の演奏は圧倒的だった。
結構盛り上がったと思ったが、その上を軽々しく叩き出したシリウスナイトは本物だった。
友梨に至ってはペンライトを振り回して最高に楽しんでいた。
一体どこにそんな体力があるんだよと思いながらも最後の時間は思いっきり楽しんだ。
ライブが終わった後は、菜奈さん達と打ち上げに軽く参加した。
本当はフルで参加したかったが、高校生が夜遅くまで遊ぶことは、俺はまだしも友梨の方の親が心配するため、少しだけ参加するという形になった。
菜奈さん達とフェスのことで盛り上がり、西村さんの迫真の演技など話題は尽きることはなかった。
「それじゃまた、一緒に音楽を楽しもう!」
「はい!」
菜奈さんとの別れの挨拶をした友梨はこちらに駆け寄ってくる。
隣に来たことを確認したら、友梨の歩調に合わせてゆっくりと帰る。
先程の賑やかさが静かになくなっていき、ゆっくりと今日という日の出来事と現実が入ってくる。
その感覚はなんとも言えない解放感があって、悪くなかった。
「今日はありがとう」
周りに人がいなくなったあたりで、友梨がお礼を言ってきた。
「晴人君が舞台に上がって、演奏している姿、とてもカッコよかった」
その声はどこまでも透き通っていた。
「晴人君のおかげで私の音楽を見つけることが出来た」
そう言って友梨は俺の前に出てこちらを見る。
「一緒に楽しんでくれてとても嬉しかった!本当にありがとう」
惚れてしまいそうなほど明るく輝いた最高の笑顔だった。
春野さんが溺愛するのもよくわかる。
「こちらこそ、ありがとう。友梨が踏み出しから、俺も踏み出せた」
こちらも屈託のない笑顔でお礼を言う。
友梨のお陰で忘れていた誓いを本来の自分を思い出すことが出来た。
弓弦の隣に立つことができるようになった。
赤菜友梨はとてつもなく強いやつだ。
「そ、そう言ってくれてありがとう」
俺からお礼を言われるとは思っていなかったのか、友梨は動揺して恥ずかしそうに答える。
(うーーん、可愛いわ)
ついつい、捕まえて食べてしまいたい欲に駆られるほど、無邪気で可愛い生物だった。
そんな生物が誰よりも勇気を持って前に出るのだから、ギャップがすごい。
ついつい気を抜いてしまいたくなりそうだが、まだ戦いは終わっていない。それどころかまだスタートラインにすら立てていない。
だからこそ、気を引き締め友梨に問いかける。
「立ち向かえそうか?」
「立ち向かえるよ」
短い言葉だったが、揺らぐことのない力強い言葉だった。
「なら、行くとするか」
「うん」
互いの親友のもとへと俺たちは歩き出す。
「そう言えばさ、椿君と愛佳ちゃんてどういう関係なんだろう?」
「あーー」
帰っている途中、友梨はふと聞いてきた。
今まで、自分の事で忙しくて何だかんだ無視してきたが、友梨視点では弓弦が突然現れた感じだ。
一体どういう関係なのか気になるのは当然だろう。
「具体的にどういう関係なのか、俺にも分からないな」
二人が同棲していることは分かっているが、実際にどんな感じなのかは分からない。
分かることは、弓弦が苦労しているであろうことだけだ。
「そうなんだ。私、学校以外の愛佳ちゃんを何も知らないから」
友梨は寂しそうに答える。
「なら、全てが終わった後に知っていけばいい。遅くはないはずだ」
「うん、そうだね」
過去の事を色々悔いても結果が変わることではない。
そんなことに囚われず、未来の為に過去を活かしていく方が生産的だ。
弓弦は常にそうしていた。
「それにしてもあの二人どういう関係なんだろう。私と一緒にいた時は椿君みたいな存在がいるなんて一切感じ取れなかったのにな」
(関わっていないはずだからな。感じ取れるわけがない)
今の二人が同棲していることなどの情報は伝えることが出来ないため、心の中でツッコミを入れておく。
いつ関わりが出来たかは知らないが、おそらくは文化祭の直後ぐらいだろう。
それより前に関わりがあるなら、ここまでの大事にはなっていないし、何日も休むといった無茶をするようなことをしていない。
だからこそ、弓弦と春野さんの関わりが日数的にはまだ浅いことは分かる。
ただ、心の距離は時間の長さは関係ない。
濃厚な出来事あれば距離は一瞬で縮まる。
そう言う意味では、現在とても濃厚な出来事に直面している弓弦と春野さんの距離が非常に近い可能性はなくもないのだが、友梨が懸念しているようなことになる可能性は残念ながら低い。
(弓弦が自分の都合のいい展開に持っていく姿が想像できないんだよな)
弓弦の精神性は異常だ。
少なくとも俺たちのような欲望に率直な健全な高校生ではない。
良くも悪くも弓弦は濃厚な人生を歩んでいる。それ故に色々とバグっている。
何の問題もなかったらワンチャンあるだろうが、今は解決すべき問題がある。
弓弦は優しいが決して甘くはない。
春野さんから大胆な攻めをしたとしても、いい感じに受け流す弓弦の姿がはっきりと想像できてしまう。
問題の解決まで弓弦が堕ちることはないだろう。
それは非常にいいことなのだが、第三者からしてみれば面白みがない。
やはり、二人で困難を乗り越え惹かれ合うという展開を期待したい。
だが、肝心の弓弦が動くことがないだけではなく、問題の解決を優先し、依存などを許さないので高い壁がある。
天才美少女である春野さんが信じられないほどの独占欲を発揮するようなことがなければないだろうな。
勿論、そんなことになるのもありえないので考えるのをやめる。
「まあ、二人の関係も落ち着いたら聞けばいいんじゃないか?」
悶々と気になっていた友梨に先延ばしにするように助言する。
「う、うん!どんな関係でも私は受け止めるよ」
「あはは」
弓弦と春野さんなら軽く対応してくれると思うが、今ある情報から複雑怪奇な関係なのは間違いないだろうから苦笑いする。
しかしながら、弓弦と春野さんの二人はどのように過ごしているのだろうか。
甘々な展開になっていないのは予想できるが、それ以外は二人とも例外すぎてどうなっているか想像がつかない。
面白いことになっていたら楽しそうだ。
全てが終わったらさりげなく聞いてみようと思いながら、俺たちは帰宅するのであった。
登場人物が多くて困ってきた人向け 登場人物一覧
主人公
椿弓弦
ヒロイン
春野愛佳
友達
大山晴人 おおやまはると
赤菜友梨 あかさいゆり
服屋の人
小林美奈子 こばやしみなこ
生徒会
木下雄大 きのしたゆうだい
宮前佐紀 みやまえさき
いじめ編 クラスメイト
森岡凜奈 もりおかりんな 藤田直樹 ふじたなおき
藤井智子 ふじいともこ
神田真美 かんだまみ
古田綾香 ふるたあやか
石丸安奈 いしまるあんな
音楽フェス
責任者 広 安富 ひろ やすとみ
音楽屋
西村 元 にしむら げん
バンド
岡田菜奈 おかだなな
川島沙優 かわしまさゆ
赤田如月 あかだきさら
大池紫亜 おおいけしあん
椿家族
椿苺凪 つばきまいな
椿苺耶 つばきまいや
椿 玲 つばき れい
これだけだと分からないなど改善要望があったら感想やメッセージ等で連絡よろしくお願いします。
また、細かい登場人物一覧は一章が終わったあたりで出す予定です。




