第七十三話 選択の時
「次はシリウスナイトの予定でしたが、トラブルにより30分後にさせていただきます。来ていただいた方には大変申し訳ございません。」
「えーー、マジかよ」
「楽しみにしてたのに」
お目当ての延期に会場では落胆の声があがる。
会場の雰囲気が下がりはじめ、暗い雰囲気が立ち込もうとするアウェイ状態から友梨たちの戦いが始まる。
「その間、飛び入り参加の形で仮面ヒーローズの演奏をお聞きください」
アナウンスと共に友梨たちは舞台に上がる。
それと同時に会場にはどよめきが走る。
「なんかやばい格好の人たちが出てきたぞ」
「ユニークで私的にはあり」
「ゴリラとタヌキ本格的すぎて怖いわ」
「その分ウサギが可愛い」
舞台にはゴリラ格好をして仮面を身につけ、ドラムに立つ西村さん、タヌキの格好をしてギターを持つ広さん、そしてウサギの格好をした友梨がピアノに座る。
異様な格好と全員が仮面をしていることから、表情が読み取れず未知が観客を支配する。
それによって先程の不満は掻き消される。
会場の全員が今から何が始まるのか期待の込めて見つめる。
静かさが会場を覆った。
永遠と思える静寂の中、本物ゴリラだと思わんばかりに西村さんは両腕を振り上げる。
そして静寂の時を打ち破らんと盛大にドラマを叩きつけると共に、圧巻のドラム捌きを見せる。
「すげーーー!!!あのゴリラすげーーー!!」
「ヤバすぎヤバすぎ」
意外性とゴリラの迫力、そして抜群のドラム捌きに会場が湧き上がる。
最高のスタートダッシュをした西村ゴリラに続くように、友梨ウサギと広タヌキも演奏を始める。
「何これうますぎ」
「タヌキ、見た目に合わず動きキレキレやん」
「とんでもない隠し玉あるやんけ」
突如として現れた奇天烈の格好した3人組が予想を超える演奏をするインパクトに会場は盛大に盛り上がる。
(作戦は無事に成功したか)
会場の盛り上がりを見て、西村さんの作戦が成功したことに安堵する。
ライブが始まる少し前。
「西村さん、それは」
「うちにあった衣装さ」
西村さんの横に数種類の仮装用の衣装が置かれていた。
「それは何に使うんですか」
「これを着て、演奏をするんだよ」
「はい?」
西村さんの言葉に広さんを除いた全員が意味が分からないっといったリアクションを取る。
「その衣装を着てやるって本気ですか?」
「本気だとも」
川島さんが冗談でしょと言った感じで聞くが西村さんは本気だとハッキリと言い返す。
「それに何の意味が……」
「意味ならある。相手にインパクトを与えることだできる」
「確かに、その衣装を着て演奏をしたらインパクトを与えることは出来そうですが、意味があるんですか?」
確かに、そこにある衣装を着て演奏すればインパクトはあるだろう。しかし、それがライブの成功に何の意味があるのか、
「意味ならある。私たちが演奏する上で二つの問題が存在する。一つは予定が遅れる事への不満、もう一つはシリウスナイトの前座を務める格がないことだ」
「確かに……」
西村さんの考えは正しい。
相手から見ては楽しみにしていたものが遅れるのだ。不満は募る。そんな逆境状態で時間稼ぎをしなければいけない上に、シリウスナイトの前座としての期待を応える必要もある。
その期待のハードルは先程のバンドを技量を明確に超えないといけない。
片手でしか弾けない友梨には酷な問題である。
「この二つは技量だけでは乗り越えることができないだろう。だからこそ、小細工をするんだ。この衣装を着て、先程と同じレベルの演奏をすることによって、意外性とインパクトと言う付加価値を私たちの演奏に付与できる。そうなれば同じレベルの技量でも私達の方が上に見られる」
「頭いい!!」
西村さんの提案に菜奈さんはナイスアイデアと絶賛する。
西村さんが提案したことは要するに見せ方を工夫するということだ。
分かりやすい例で伝えるなら、敢えて下手に演奏した後に急に上手く演奏すれば、本来の実力以上に見られるといったギャップを活用した心証操作といった感じだ。
弓弦が多用する手段の一つであったため、西村さんの説明一つで俺もすぐに理解することができた。
「友梨、あの衣装着ても大丈夫そうか?」
「大丈夫、成功のためなら私、なんだってするから」
あれを着て演奏するのはハードルがが高いはずだが、問題がないと友梨は即答した。
「そうか、ならがんばれ」
「うん!」
そうして友梨は衣装を着て、舞台に上がり、演奏をしている。
「初動はうまく行ったね」
「菜奈さん」
次のライブの衣装を着た菜奈さんが現れる。
黒を基調としたカッコ良さを重視された衣装は、菜奈さんのカリスマ性とマッチし、誰しもが目が奪われ、従ってしまうような力があった。
菜奈は俺の隣に来ると言った。
「だけど、このままじゃ上手くいかない」
「・・・・・・」
このままでは上手くいかないと菜奈さんは断言する。
俺はそれを否定できなかった。
「西村さんの作戦はうまくいった。だけど、意外性は30分も持たない。ここからヒートアップしていけば持つけどそれもない。何故なら、友梨ちゃんの技量はもう限界に達してしまっているから」
菜奈さんは冷酷に事実を突きつける。
友梨は非常に頑張っている。初のライブ、しかも急遽決まったことであり、片手だけで弾かないといけない厳しい状況にも関わらず、しっかりと求められた最低ラインを超えた演奏をしている。
そのことだけでも相当にすごいことだ。
ただ、現実は甘くない。
熱を維持するには更なる燃料を投下しないといけない。さらに上手い演奏を届ける必要がある。
しかし、友梨はすでに実力の全てを出し切っている。観客が望むような上がり方ができない。
「広さんと西村さんが上手くカバーしてるけど、それにも限界がある」
「何が……言いたいんですか」
「このままだと普通の結果になっちゃうよ」
普通の結果、このまま行けば最高の形で次へとバトンタッチすることは出来ないだろう。しかしながら、最低ラインはすでに超えている。その時点で大きなミスをしなければライブ自体は成功で終わるのだ。
「どの選択を選んでも責められることはない。ただ、もしこのまま終わった時、友梨ちゃんは笑顔なのかな?」
俺は選択しなければならなかった。
最高の結果を諦めるか諦めないかを。




