第六十九話 お悩み相談
あれからすぐに帰るわけにもいかず少しばかり休んでからもとに戻った。
何がもないように平気な表情で帰ったが、友梨を騙すことは敵わず、こちらに考える時間を与える為なのか、友梨は仕事を積極的におこなった。
そうして昼休憩の時間を迎える。
俺は1人になりたくて誰もいないところにあったベンチに座る。
「はぁ、ここからどうしようか」
上手くやっているつもりで冷静に振り返れば全然上手くいってなかった。
友梨の現状を分かっているつもりで分かっていなかったし、問題をどうすれば解決できるか分からない。
今までのやり方は通用せず打つ手もない。
どうしようもできない暗闇に心が冷たくなるのを感じる。
(何を重く考えているんだ。いつもの俺なら適当にやり過ごしていただろう)
俺の役割は第三者として意見を述べるだけだ。少なくとも弓弦はそれだけでいいといった。
余計なことはしなくていい。
それが最適解のはずなのに俺の気持ちが1ミリも納得しない。
目の前にある不条理を理不尽を全てぶち壊したい。
その破壊衝動に駆られる。
ただ、それを破壊する方法が思いつかない。だからこそ、こんな悶々とした気持ちにさせられているのだ。
「こういう方法を考えるのは弓弦の役割だろーー、何かヒントくれよーー」
弓弦ならばこういった時にどうすればいいのか何かしらのヒントを教えてくれる。
しかし、今回はこれといったヒントはなかった為、自分で考えなければいけない。
これまで自身の才能に任せてなんとかしてきた俺には中々にキツい問題だった。
「やあやあ、悩める少年よ!この頼れる大人である私が相談に乗ってあげようか?」
「何をしているんですか、奈菜さん」
一度はやってみたかったんだろうなと思える菜奈さんの登場に冷ややかな対応をする。
「反応がガチで辛いなーー、もっとノリがいいと思ったのに」
「悩み事がある人にそんなことを求めないでください」
「それもそうだね!ごめんごめん」
謝りながら菜奈さんは俺の隣に座る。
どうやら相談に乗ること自体は本当のようだ。
(まあ、どうしようかな迷っていたし丁度いいか)
このまま1人で悩んでいても拉致が明かないのでここは頼れる大人の力を頼らせていただこう。
そういうことなので伝えたらマズイところはいい感じに隠したり言い換えたりしながら問題について菜奈さんに伝える。
「なるほど、なるほど。私の中にあった点が線になったよ!」
「そうですか」
事情を聞いた菜奈さんは何やら分かったことがあるらしいが、それがなんなのか俺にはさっぱり分からん。
「それで、俺はどうしたらいいですか?」
菜奈さんは少し考えた後、少し真面目なトーンで言った。
「結論を言うなら、チャンスが来るまで待つことかな」
「チャンスが来るまで待つ・・・・・・」
意味はなんとなく分かるが、それだけだと要領を得ない。
それは菜奈さんも分かっておりさらなる説明をする。
「話を聞く限り晴人君には現状を今すぐに破壊できる力はないことはいいよね」
「はい」
正確にいうなら出来ないこともないが、それは滅茶苦茶にするといった意味の破壊であり俺が欲しい結果をもたらすことはない。
「現状を抱えている問題は方向性がバラバラで不安定、だからこそどうすればいいのか分からずにいると言える」
「そうですね」
春野さんの件、クラスの件、友梨の件と俺からしてみればバラバラの問題があり、どう手を出していいか分からない。弓弦なら何かしらのつながりを見つけることができたかもしれないが俺には出来なかった。
「バラバラの問題は一見厄介だと思えるけど、見方を変えるとそうでもないと思うんだよね」
菜奈さん言葉に俺はピンとこない。菜奈さんはさらに説明をする。
「バラバラで不安定ということは、その問題一つ一つはこちらが思っている以上に重い問題ではなく、これだと思う答えを見出せば解決するほどの脆い問題だともいえることない?」
「確かに、そうかもしれません」
バラバラで数が多い所が厄介だと考えていたが、菜奈さんのように見方を変えると一つ一つの問題はそこまで強い訳ではない。
強烈な一撃、答えを与えることができれば何とかなりそうな問題ばかりだ。
「その強烈な一撃を与えるために、チャンスを待つと言うことですか?」
「理解が早くて助かるよーー」
菜奈さんはパチパチと拍手する。
大まかにどうすればいいかは分かったが、これだけではいくつか問題がある。
「どうすればいいのかは分かったのですが、俺には何をすれば強烈な一撃になるのか分かりません」
言うは易く行うは難しだ。
この問題を一気に解決する強烈な一撃をどうすればいいのかよく分からなかった。
「あれ?それについてはもう答えが出てると思ったんだけどな」
「え……?」
菜奈さんの言葉に俺は困惑する。
「それはどういうことですか?」
俺は自分が何をするべきか知るために菜奈さんに聞くが、菜奈さんは少し考えた後言った。
「月並みの言葉だけど、それは私からは教えられない。意味が無くなっちゃうからね」
「そうですか……」
相談で全て解決という甘い展開になるはずもなく、一番大切な所は自分で見つけないといけないらしい。
(今まで軽く生きてきたツケを払わされているな)
もっと努力したことがあればこんなことで迷うことが無かったと考えると、今までの自分の行いを悔いる。
「まあまあ、高校一年生でそこまで考えている方が異常だから。落ち込む必要がないよ」
菜奈さんの言葉に俺は冷静さを取り戻す。
菜奈さんの言う通りこれほどの事まで考えることができる高校生は全くいない。逆にそこまで分かった上で動いている弓弦が異常なのだ。
「ただ、なんもなしだと可哀想だからヒントを授けよう」
「わーいやったー」
ここでノリが悪いと拗ねてヒントをもらうまでに無駄な労力を使う可能性があったため、最低限の反応をしておく。
「君の親友は第三者の意見は必要だと言ったけど、第三者の客観的で冷静な意見だけとは言っていないよ」
「つまり、自分の考えを述べろと言うことですか?」
「さあ?ただその答えを出すのが晴人君の役割なんじゃないのかな?」
そう言われてしまうと俺は何も言えなくなる。
結局のところ、自分が納得いく答えを探し出さないと行けないのだ。
「難しいことだけど一生懸命に頑張るんだよ!チャンスは突然現れるものだから」
「突然現れるもの……」
「チャンス君は気まぐれなんだよ。分かりやすいものもあれば、分かりにくいものもある。ピンチはチャンスってよく言うでしょ。あんな感じでさ、その時はチャンスだと思えなかったものが後から振り返れば最後のチャンスだったりするの」
ピンチがチャンスに思える経験がないのでピンとこないが、力が籠もった言葉に重要なことだと理解する。
「だから、いつ来てもいいように日頃から構えておくの。それができる人がチャンスをものにできるからね」
そう言って菜奈さんは立ち上がる。
「そろそろ時間だから行かないとね」
気が付けば休憩の時間が終わろうとしていた。俺も仕事に戻るためにベンチから立ち上がる。
「相談に乗っていただいてありがとうございます」
「やりたくてやっているから大丈夫だよー」
菜奈さんは何事もなかったように明るく答えて、俺たちは仕事に戻るのであった。




