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天才美少女の自殺を幾度か止めていたら、惚れられ支配されそうになってる件  作者: 時雨白
一章友達作り 5節 自分探しの旅
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第六十七話 始まりと出会い

 音楽フェスは順調に始まった。


 3回目と言うことや余裕がある計画が立てられていることもあり、問題なく進む。


 こちらの仕事も観客の誘導をしたり、ライブを見てその影響で楽器を見にきた人を入れるようにするなどや、菜奈さんにタオルなどのサポートをするといった感じで、無理なくできていてよかった。


「みんな、すごく楽しそうだね」

「そうだな」


 ライブを見ている人たちはみんな笑顔で楽しんでいる。それはライブだけではなく、周辺の店も音楽フェスに合わせるように賑やかにやっており、活気で満ち溢れていた。


「私、今まで愛佳ちゃんの為に弾いてると思ってた。だけど、菜奈さんの問いに答えられなかった」

「つまり、それは違ったということだろ?」


 俺は事実だけを述べる。


 俺には友梨のように悩んだことが全然ない。だからこそ、友梨の抱えている問題を完全に理解することはできない。


「うん、晴人君の言う通り、私はきっと別の理由でピアノをやりたいと思ったはずなの。だから、一生懸命にあの時の気持ちを思い出そうとしているんだけど思い出せない」


 友梨は申し訳なさそうに答える。


「それを思い出せるように頑張るのが今やっていることなんだろ」


 俺は冷静に指摘する。


 俺が必要とされているのは第三者としての客観的な意見だ。


「そうだよね。私、思い出せるように頑張るよ!」

「ああ、頑張れ」


 友梨はいつも通り元気に笑い前向きに答える。


「友梨ちゃん、晴人君、次のバンドの調整に行くからその間の演奏を任せていい?」

「大丈夫です。弾く曲は指定ありますか?」


 ピアノをこちらが弾く予定はなかったので急なお願いになるが友梨は即答するどころか、どの曲を弾けがいいのか質問までしている。


(強いな)


 少しの間で大きく成長する友梨を見て距離が遠くなったような気分になる。


「曲は友梨ちゃんが弾きたいものでいいよ。なかったらこっちで用意するよ」

「分かりました。持ち曲を弾くことにします」

「よろしくね」


 菜奈さんはそう言って会場裏の方へと向かった。


「一緒に弾こうか?」

「大丈夫だよ晴人君」


 友梨は今日一番の笑顔をこちらに向けてピアノに座る。


 そこまでされてしまったらこちらからは何も言えない。


 そうして友梨はj-popメドレーを弾き始める。


 片手でも両手に負けないように慌ただしく手を動かしながらどれを弾くのか取捨選択を高速で行っている。


(上手くなってる)


 木曜日に聞いた時よりも格段に上手くなっている。


 指に迷いがなく鍵盤上に踊るかのように弾けている。前まであった慌ただしい感じが一切ない。


 片腕しか動かせないという逆境を友梨は少しずつ乗り越え成長しつつあった。


 友梨はどんどん曲にのめり込んでいき、さらに盛り上がっていく。


 俺はそれを集中して聞く、どんどんと良くなる演奏、それに比例するように多くの人が歩みを止める。


 そしてクライマックスにそのまま行こうとした瞬間、ほんの少しほどんどの人が分からないぐらいの少しだけ友梨の演奏に迷いが現れ鈍くなる。


(これが菜奈さんの言っていたことなのか)


 そんな違和感を考えながら、曲は終わり次のバンドの人が演奏を始める。


「お姉さんとてもすごかった!」


 友梨の演奏を聞いていた小学生ぐらいの女の子が友梨の方へと駆け寄る。


 俺は邪魔にならないよう一歩下がる。


「え、あ、ありがとう」


 友梨は急なことに戸惑いながらも笑顔で返す。


「お姉さんとても楽しそうに弾いてた!私も同じように弾きたい」

「あ、えっと……」


 こういうことになれていないのか、友梨はどう答えればいいのか分からず俺に助けを求める視線を送ってくる。


「なら、まずはピアノの勉強からしないとね。お姉ちゃんは物凄く勉強してるんだよ」

「そうなの?」

「あ、うん。楽譜とか読めないといけないから」


 女の子はそうなんだといった感じの表情をしていると、後ろから女の子の両親だと思われる存在が現れる。


「もう、勝手にどっか行っちゃいけないわよ」

「ごめんなさい」


 母親らしき人物は勝手にどこかに行った娘を怒る。


「娘の面倒を見て頂きありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ私の演奏を褒めてくれてうれしかったです」

「そうなんですか」

「はい」


 友梨は明るく答える。その言葉に怒られてしょんぼりしていた女の子は笑顔になる。


「私もピアノをしたい」

「そう言われてもね……」


 お母さんの方はどうすればいいのか困っているようだ。


 俺はちらりと友梨の方を見る。友梨はどうすればいいのか分からないのか目が泳いでいる。


「ここの仕事はやっておくから、相談に乗ってあげたらどうだ」

「え……でも……」


 友梨は自信がないのか弱気だ。


「友梨もこんな感じで春野さんにお願いしたんだろ?逆の立場になったら何か思い出せるものがあるんじゃないか?」

「……」


 こういった機会は滅多に来ない。出来る時にやるべきだ。それに友梨の気分転換にも丁度いいだろう。


「……うん。そうするね」


 友梨は少し考えた後、明るい表情で答えて親子の方に向かっていた。


「さて、友梨が戻ってくるまで頑張るか」


 菜奈さんに友梨の事の連絡を入れて大丈夫だと許可をもらったので安心だ。


 そうして、自分の仕事をしようとした時だった。


「いや、滅茶苦茶楽しそうだね」

「そうだね、最近クラスの雰囲気悪かったしいい気分転換になりそう」

「ホントだよね、春野さんは学校に来ないし、森岡さん達の機嫌悪いもん」


 音楽フェスを楽しみに来た友梨のクラスメイトと遭遇するのだった。

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