第六十五話 込められている気持ち
「おおー!!!よかったぞ」
「朝から最高の気分だ!」
「流石、菜奈ちゃんだ」
「友梨ちゃんもすごかったぞ!!」
弾き切った二人に準備を終えてスタッフたちが賞賛の声を掛ける。
「ありがとう!」
「あ、ありがとうございます」
友梨たちは笑顔でスタッフたちに応える。
「そういえば、一番最初に終わったのは何処だっけ?」
「休憩場所チームの人たちでした」
菜奈さん達が演奏に集中して、他の事を疎かにするのは予想出来ていたので、俺は二人の演奏を聞きつつ、各チームの進捗をしっかりと確認していた。
「休憩場所チームのみなさん、おめでとうございます!賞品は……沙優ちゃんがどうにかしてくれるはずだから、後でね!」
(勢いで決めたんだな)
肝心の賞品を完全に人任せにする菜奈さんを俺と友梨は苦笑いしながら見る。
「菜奈ーー、自分で用意できないものを賞品にするな!それと朝からハードル上げすぎ」
大声で菜奈さんに苦情の声をあげる人が居た。
その人は短髪で爽やかな雰囲気を纏った女性だった。
「皆様、この度はリーダーがお世話になりました。休憩場所チームの皆様には後から最前列のチケットを用意させていただきます。皆様のおかげで早めに準備が終わりましたのでどうぞ次の時間まで休憩してください」
その言葉を聞いたスタッフは解散する。
スタッフの皆様への対応を素早く済ませた女性は、こちらに歩いてくる。
歩み寄ってくる姿からは、菜奈さんの暴走に怒っているのが分かり、一歩また一歩と後ろに菜奈さんは後ろに下がるが、その人物の歩みから逃げきることができなかった。
菜奈さんは襟を掴まれ猫が掴まれた時のような姿となった。
「後で説教だからね」
「ごめんなさいーー」
めちゃくちゃな菜奈さんを完全に抑えた女性は、そのまま俺たちの方へと向く。
「自己紹介が遅れてごめんなさい。私は川島沙優、シリウスナイトでドラムをやっているわ。沙優と気軽に呼んでくれると嬉しいわ」
「大山晴人です」
「赤菜友梨です」
2回目ということもあって友梨も冷静に対応ができていた。
「晴人君と友梨ちゃんね。菜奈の暴走に付き合わせてごめんね。大変だったでしょう」
「わたし、そんな暴走してないよーー」
「朝から会場にいる人全員を巻き込んでピアノを弾いてお祭り状態にしたのよ?管理する側の私がどれだけ大変だったか分かる?」
俺たちにとっては楽しかったが、管理する側としては何か事故が起きないか注意を巡らせる必要があるため、相当神経をすり減らしたのだろう。
「菜奈さんを怒らせないで下さい。菜奈さんは落ち込んでいる私を元気にする為に弾いてくれたんです!怒るなら私を怒ってください」
「俺も友梨と同じ考えです。迷惑かけた分しっかりと働きますので、菜奈さんをそんなに責めないでほしいです」
「友梨ちゃん・・・・・・晴人君・・・・・・」
元を辿れば友梨のためにしたことだ。菜奈さん1人だけに責任を背負わせるわけにはいかない。
俺たちの声を聞いた沙優さんは一度深呼吸した後、穏やかな表情になっていってくれる。
「菜奈のこと気遣ってくれてありがとう。そこまで怒っているわけではないよ。だから安心して」
「そうなの!?やったーー!!」
「あ?」
「す、すいません」
(注意しないとさらにヤバいことするんだろうなーー)
今のやり取りを見て俺は大体のことを察した。
友梨も同様でなんとも言えない表情になっている。
これからは沙優さんに優しくしていこうと思った。
「まあ、朝から色々あったと思うけど、準備終わったから少し休みましょ」
「はい」
「やったーー!休憩だ!」
「お疲れ様です、菜奈さん」
30分近くピアノを弾き続けながら解説や指示を飛ばしていた菜奈さんは流石に疲れたのか一番喜んだ。
友梨も一番頑張った菜奈さんに労いの言葉をいう。
そうして俺たちは沙優さんの案内により、休憩場所にたどり着く。
「ふうーー、いい準備運動したよーー!」
そういって、菜奈さんはタオルを片手に持って椅子に座った。
「何が準備運動よ。ガッツリやってたじゃない」
沙優さんは呆れた表情をしながら言う。
「ち、ち、ち、半年前の私ならそうかもしれない。しかし、私は成長をし続ける人物!私の体力は三分の一しか削れてません」
「ドヤ顔で言ってるけど、全然ガッツリやっていると言えるからね」
「うそーー、私はまだ修練が必要なのね・・・・・・」
菜奈は手を伸ばして机に倒れる。
「友梨ちゃんーー、私を癒してーー」
「え、あ、菜奈さんはとても凄かったです!何かにとらわれないで自由に弾いていて、心地よい気持ちにみんなをさせて凄いなと思いました」
友梨は何を言えば良かったの分からなかったのか、素直な感想を言う。
「ここまで褒められたの久しぶりだよーー。菜奈ちゃん大好きーー」
菜奈さんは机を挟んだ先にある友梨の方へと抱きつこうとするが危険なので沙優さんに止められる。
「何やろうとしているのよ」
「うぐーー」
(沙優さんが来てから暴走度が上がっているような気がするな)
沙優さんというストッパーがいるからか、菜奈さんはより自由にやっている気がする。
「うちのリーダー、いつもこんな感じだから今日は多くの迷惑をかけると思うけどよろしくね」
「はい、頑張りたいと思います」
俺は苦笑いしながら答える、
「沙優ーー、如月と紫亜は?」
「2人ともまだ着いてないわよ。如月は昼頃で紫亜は渋滞に引っ掛かったらヤバいかもとふざけたメールが来てるわ」
「あはは、2人とも変わんないねーー」
菜奈さんはなんの問題もないと言ったように笑い、沙優さんはため息を出している。
沙優さん、苦労人なんだな。
「えっと、今話に出てきた如月さんと紫亜さんもシリウスナイトのメンバーなんですか?」
「そうだよー。私たちシリウスナイトは4人グループでしてるの」
つまり、4人うち会場にいるのは2人しかいないと言うわけだ。沙優さんがため息をする気持ちもわかる。
「そうなんですね。菜奈さんの演奏が非常に上手で人気がある気がするんですけど、聞き覚えがなくて」
菜奈さんの実力があればかなり有名でもおかしくない。元々、そちらの方面に明るくないのでどれぐらい凄いのか計り切れずいたため、聞いた。
これから一緒に行動する上で相手の立場をしっかりと知っておけば無駄な衝突を防ぐことができる。今回は友梨もいるのでいつも以上に気を遣う。
「褒めてくれてありがとう!聞き覚えがないのは仕方がないよ、私たちあまり活動してないからね」
「そうね、全員集まってやるのは三年ぶりだからね」
「三年ですか」
三年間も活動していなかったら聞き覚えがないの当然だ。
「最後は高校の卒業式だったけ」
「ええ、あの時は楽しかったわ」
大学に進学することによって中々予定が合わなくなってといった感じか。
「つまり、今回は三年ぶりの活動と言うことですか?」
「うん!そうなるね」
つまり、今回の音楽フェスはシリウスナイトにとって三年ぶりの大舞台と言うことだ。
「元々、この音楽フェスも菜奈がシリウスナイトの為に考えたことだからね」
「沙優ーー!それは言わないでーー!謎に満ちた女性ができないじゃん!」
「そうなんだ」
菜奈さんは十分謎に満ちていると思うが、バンドの為にここまでの事を出来る行動力に今まで会話を聞くだけだった友梨が驚きの言葉を言った。
「シリウスナイトは色々あってね、今は修業期間みたいな感じなの。それでバラバラになる前に菜奈が、『私、作るから!シリウスナイトが輝けるステージを、だから次ステージを上がる時は四人全員であがる。約束ね!』と」
「ああああああ、私の不思議な女性像が!!」
「気にするのそっちなんだ」
菜奈さんのリアクションに俺たちは自然と笑みが浮かべる。
この音楽フェスは菜奈さんの強い気持ちが込められている。
それを知った以上やるべきことは決まっている。
「大成功できるように頑張らないとな」
「うん!菜奈さん達の頑張りが恵まれるように私たち精一杯頑張ります!」
友梨はそう言った頑張るぞーと拳を作る。
「二人ともありがとうーー」
「いい子だ」
菜奈さんはうれし涙を浮かべ、沙優さんはにこやかな表情で言った。
「そうなると、残りの二人がしっかり間に合うことを祈るばかりですね」
シリウスナイトはオオトリと言うこともあり、最後になっているため時間的な余裕はある。
「大丈夫だよ」
俺の心配の声に、菜奈さんは力強い目と声をもって断言する。
「どんなことが合ってもシリウスナイトは全員一緒でステージに立つ。何があろうとこのスーパーウルトラ凄い私がどうにかする。だから、大丈夫」
太陽のように絶対的な存在感にどんな闇でも希望があると思わせる輝く瞳は、俺たちに希望を信じさせてくれる。
それと同時に、菜奈さんのその姿が太陽のように絶対的な存在感にどんな闇でも希望があると思わせる輝く瞳を持ち合わせていないはずの弓弦と重なる。
(どうして、弓弦の姿を見るんだろうな)
不可解な出来事に頭を悩ませつつも、俺たちは次の仕事が来るまで雑談をして休憩した。




