第六十話 未来の光景と奮闘する友
あれから家に帰った僕達は用意してくれていた夜食を食べて風呂など色々やることをした後、春野は就寝する。
僕はいつも通り悪魔に魘される春野が少しでも楽になれるように色々と手を尽くしながら色々と考えを巡らせる。
(大分生活感はある部屋になったかな)
明日で春野の家に来て1週間、最初は何もない部屋だったが、色々とお節介をやり続けた甲斐もあり、今では綺麗な部屋だと思えるぐらいには家具などが配置されている。
春野の性格もあり、家具の配置などや手入れもされており非常に清潔感がある。
春野はとても気遣いができる。
今日の夜食も冷たくなっていたが、即座にアレンジをして暖かくて美味しいものを食べれるようにしてくれた。
主婦レベルはカンストしていると言ってもいいだろう。
(春野と付き合う人は幸せそうだな)
春野と一緒に暮らして生活の質が数段階上がった。
いじめを止める存在としているのにこれだけの恩恵を得ている。純粋に好きという形で暮らすことができるなら比にはならないだろう。
(心理戦もやってるから、尚更いいんだろうな)
僕は一つ一つの行動に、罠かどうか考えないといけない。良くしてくれているが、それは僕を油断させる為かもしれない。
早くこういった考えがしなくていい日々になりたいと切実に思ってしまう。
人の好意を疑うのはやはりキツい。
それに春野は真っ直ぐな時が一番輝いている。こんなふうに自分を偽るように過ごしてほしくない。
(上手くフェイドアウトする方法も考えないとな)
全てが終わった時、僕という異物はこれ以上いらない。
今の僕は弱っているところを漬け込んだようなものだ。これによって自分にとっていいことが起きても喜べない。
僕のやっていることが他人から見れば異常だということは理解しているが、僕においてはいつも通りのことをしているに過ぎない。
僕は実力が足りないから補うためにいつも全力を尽くしている。
今回の件も同じようなことだ。
だから、今回のことで目立つとかいい思いをするとかは気分良くない。
これもきっと悪いことかもしれないけど、心の底から浮かれたくはない。
本当の自分がダメなことは一番理解している。だからこそ、そんな自分を許すような真似はしたくない。
(だから、毎回1人なんだけどな)
まあ、後悔はない。自分の宿命みたいなものだと考えている。
とにかく、全てが終わった後、春野は自分の道を歩み始める。その時に僕の存在はあまりにも邪魔だ。
僕は異物、そのことを良く理解している。だからと言って普通であろうとは考えていない。
異物だからこそ、今回のようなことをできている。
これも一種の役割分担。
僕は今の役割に満足している。
最も辛い時に安心を届け、寄り添えられる存在てとてもカッコいいし、安心する様子を見ると嬉しい気持ちになる。
まあ、そんな存在は普通には必要とされていない。むしろ邪魔である。
(全てが終わった後は、赤菜さんに雄大先輩達との繋がりとできる。後はそっちに任せればいい)
僕は赤菜さんのことを考える。
(乗り越えてくれるだろうか?)
困難を与え、傷つけて、勝手に期待していると、何ともクズみたいなことをしている。
だが、春野の苦しみを根本的にどうにかできるのは、赤菜さんしかいない。
僕がどれだけやっても薄くできだけで、消すことはできない。
僕ができることは赤菜さんが乗り越えられるように精一杯応援することしかできない。
晴人もついてくれているが、今日のメールを見る限り、苦戦しているようだ。
(雄大先輩に頼んだ件によって何か見つけてくれるといいんだけどな)
僕はメールを見た時のことを思い出す。
「弓弦、助けてくれ。友梨は立ち直ることができたが、どうすればいいのかまったくわからん!
今のところやったことは美味しいアイスやパフェを食べたり、ボウリングで遊んだぐらいだ。
何かいい案をくれ!」
(何だか、楽しそうだな)
メールの内容だけ見ると、緊迫感のかけらもないようなことだが、晴人のことを考えるとふざけてやっている訳ではないだろう。
とにかく色んなものを試してキッカケを得ようとしているのだ。
晴人はそういった行動力がある。それに赤菜さんも少しの間だけだが同じ行動力を持ち合わせていると思う。
だからこそ、僕がやるべきことはその行動力が活かせるイベントを用意すること。
「あんな話をして早速ですが、一つ頼み事をしていいでしょうか?」
「なんだい?」
「音楽関係のイベントにスタッフでも直接でもいいですが、今週の休日に関われるものはありませんか?赤菜さんと晴人君を、それに参加させたいです」
「今週か、また無茶なことを頼むな」
雄大先輩は苦笑いをする。
2人は行動力がある、それに熱意もあるはずだ。だからこそ、それが強い間に行動してもらいたい。
今回の問題のキーは音楽だ。
春野のピアノに魅力を感じただけでは、ピアノをやろうとは思わない。根本的に好きという気持ちがあったから行動できたはずだ。
何か悩み事を考える時に大事な事がある。
それは原点に戻るである。
最初に抱いた気持ちは、多くの場合で自分の本心で在り方を無意識に捉えている事が多い。
それに何の知識もない状態なので、余計なことが含まれない純粋な気持ちになる。
だからこそ、色々頑張っているうちにどうして始めたとかを忘れそうになったときにどうして始めたか原点を振り返った時に得られるものは多い。
僕自身、幾度かそのような経験もあるので、赤菜さんが原点に戻れそうなイベントを用意する。
雄大先輩は『何とかしようと』と言った通り、スタッフとして街の活性化などを目的に行われる音楽イベントに参加できるようにしてくれた。
これが赤菜さん達にいい影響を与えてくれることを祈りながら、僕は春野が少しでも苦しみから解放されるように手当てを続けるのであった。




