第五十七話 無駄ではなかった
「一つ……一つだけ教えてくれませんか?」
「なんですか?」
必死の表情で懇願する智子さんにこちらも真剣な姿勢で向き合う。
「私は……私はどうすればよかったのですか?」
智子さんのその声は後悔にまみれていた。
親友と春野、どちらも救う方法はなかったのか、どうすればよかったのか。
片方を犠牲にする以外に方法はなかったのか、あの絶望の中で光はなかったのか、今からその絶望に立ち向かう私に聞いているのだ。
「私が智子さんの立場でも、両方が傷つかないようにすることはできない。私も智子さんもそれができる才能を持っていない」
「そう……ですよね」
残酷な事実に智子さんは顔を下に向く。
現実とは変な所で平等だ。
あの時の智子さんはどうあがいても実力が足りていない。今回、もしもうまくやったところで時間稼ぎぐらいにしかならない。春野が動き出した以上こうなるのはある意味で必然だ。
実力がない、それはどれだけ逃げようとも変わらない事実である。
「その上で、私はその傷を受け入れ、春野を選び、森岡さん達を救うために戦い続けられる選択をした」
「……!」
「今は無理かもしれない、だけどこの先も無理というわけではない。諦めない限り可能性があり続ける。なら、私は勝てる可能性がある方を選び戦い続ける」
実力がない、両方とも救えない、それが何だというのだ。
その程度で諦めることなら、それまでの事だったと言うことだ。
私はそれでは諦められない。なら戦う以外の道はない。
「今は片方しか救う力しかない、なら、救えるように力をつけて、最終的に私が両方を救う。終わりよければ全て良しと言うだろ。」
いつだって私はそうしてきた。
最終的に全て救えばいいのだ。
「選択するときが最後なのですか?私はそうとは思わない。人生とは死ぬその瞬間まであるのです。それまで全力で抗えばいい、そして最後にハッピーエンドに終わることができるなら、それが最高だと私は考えています。だから、私は戦い続けられる方を選ぶ。そして、全力で実力を付けて最終的に両方を救う。私ならそうします」
私は才能はない、物語の主人公のような力もない。だが、しぶとさにそんなものはいらない。
しぶとさは気持ちさえあればいい、どれだけ負けようが傷ついても最後まで折れなければいい、そうして抗い続けたもの達が真の勝者となる。
私の言葉は決して夢のような輝いた言葉ではない。最後まで醜く抗い続ける泥臭い言葉だ。
「最終的に全てを救う……そっか……そうすればよかったんだ」
智子さんは涙を流しながら、私の言葉を噛みしめるように言った。
「私はその気持ちがなかった。あなたのように抗い続けられなかった。そんな私に救えるはずがなかったんだ」
「それは違う」
「え……?」
後悔するように言った言葉に私は否定する。
「智子さんには気持ちもあったし、抗い続ている。それに両方とも一回は救っているじゃないか」
「何をいっているの?私は諦めていた!抵抗をやめていた!何よりも誰一人救えていない!」
私の言葉を必死に否定する。
私は苦しまなければいけないと、春野のように自分を罰しようとしている。
(春野とおなじ、智子さん、あなたは優しく自分に厳しすぎる)
そんな智子さんに私は優しく包み込むように言う。
「ならどうして、私にどうすれば良かったと聞いたのですか?」
「それは……」
「諦められなかったのでしょう。両方を救う方法がないかと。だから、どれだけ苦しくとも抗って考え続けた。」
諦めているなら、抗っていないのなら、智子さんがここまで苦しそうな表情をする訳がない。
「それに、智子さんがあの時自分を犠牲にしていなかったら、春野と森岡さん達は共倒れになっていた。もし、そうなっていたら私たちですら救えなかった。智子さんが抗い続けたからこそ、共倒れの道から両方を救うことができた。希望を残すことができたんです。」
智子さんが動かなければ、森岡さん達と春野の間で血で血を洗うような熾烈な戦いが起きていた。そうなれば、私達でも両方は救えなかった。
「最高の結果ではなかったかもしれない。だけど、最悪ではなかった。智子さんが諦めずに抗ったからこそ、こうして全てを救う選択が残った。」
これは覆ることのない事実だ。
だからこそ、私は頭を下げる
「春野を救ってくれてありがとう。私はこの恩を、あなたが生み出した希望を、決して無駄にはしない。」
智子さんが行動していなかったら私は最高の結果を目指すことができなかった。
だからこそ、私はあの時自分の身を厭わずに行動した智子さんに感謝をする。
「私は行動は無意味じゃなかった……しっかりと救えていた……ああ、ああああああああああああ」
今までの悲しみの涙ではない、喜びの涙が智子さんから流れる。
「ありがとう、ありがとう、私に行動に救いを生み出してくれてありがとう」
先程の悲痛の表情はない。
智子さんの顔は憑き物が取れたようにすっきりとした表情だった。
「協力させてください!私は今度こそ全てを救いきりたいです!」
全てを救うという強り意志と希望をもって智子さんは答えた。
「はい、これからよろしくお願いします」
私たちはかたい握手をする。
そうして、全てを救うと折れることのない決意と共に智子さんは私たちの仲間になった。