第五十六話 狂人
「・・・・・・そう言って私をまた騙すつもりなんですか?」
「ゴホゴホ」
智子さんの発言に私は咳き込む。
「いや、騙すつもりはないよ。この写真見て、ここ影の向きのおかしいでしょ」
私は、写真から一枚適当にとって改造写真であることを証明する。
「そうだけど、写真はこんなにあります。実は本物が混じっていてとか、椿さんならしそうな気がして」
(ヤバい、完全に信用ない、やりすぎてしまった)
顔を盛大に引き摺らせる。
想定外の出来事にせっかくいい感じでやって雰囲気も良かったのに一気に崩壊していく。
(どうして最後まで上手くできないのかなーー)
「生徒会長、助けてください」
私の智子さんのやり取りに笑いを必死に堪えている雄大先輩と佐紀先輩に助けを求める。
「藤井君、生徒会長としてそこの写真の中に本物はない。全て加工写真だ。」
「生徒会長がそういうなら、信じます」
渋々と言った感じで受け入れる智子さん。
生徒会長達を連れてきて良かったと一番感じた瞬間だった。
智子さんは改めて写真を一枚一枚、注視する。
「よく見れば、加工写真だと分かるようなものばかり、どうして私は気づかなかったの」
智子さんはどうして気付かなかった後悔の念を漏らす。
もし、あの時加工写真のことに気がついていたら、結末は大きく変わることになっていただろう。
まあ、その可能性は限りなく低かった。
なぜなら、
「気づかないように色々と小細工しましたからね」
「小細工?」
「はい、見て分かる通り普通に出していたら気付かれる可能性が高かった。そのため幾つかの小細工をしました」
そうして、私は偽の写真を本物に仕立て上げた方法について語る。
「大前提として、人はこれが加工写真かもしれない、私はあなたを騙そうとしていると言った、考えがないと小さな異変には気が付きにくいし、気が付いたとしても無視をします」
人間は自分たちが思っているよりも雑で視野は広くない。
それ故に、意識していないことへの違和感を見逃しやすいし、見つけても無意識に無視をしてしまう。
それが意味あることだとは考えないから。
「つまり、人を騙す上でこれが偽物かもしれないと気付かれるような考えを抱かせないのが大切です。それが上手くやるほど、人は大きな違和感に気が付かない」
一流の詐欺師は全てが終わったとしても相手に騙されたことすら気が付けさない。
何故なら、そんな考えを抱かせないように徹底しているからだ。
「私は智子さんが偽物であると考えさせないようにするために、写真を出すタイミングを最も冷静ではない時にした」
激情に飲み込まれた人は、思考を停止して感情任せの行動に走る。
事実、智子さんは写真を見た時に本物でどうかをしっかり確認せず、軽いチェックだけで済ませ、現実逃避に走った。
「ただ、写真が一枚二枚では混乱していても些細な違和感を見逃すほど注意散漫にはなりません。その為に私は60枚近くの写真を用意した。10分確認する時間を与えても、一枚と六十枚では、話は大分違いますからね」
数が多いほどチェックは雑になる。
当たり前のことで些細なことだあるが、それ故に気付かれることはほぼない。
それを今回のように非常に重要な場面で使えば、相手の考えを決定的まで間違いさせる猛毒に変わり、そのステルス性の高さから、自分が猛毒に侵されていることにも気が付かない。
また、何十枚もあると言い逃れができないと勝手に考えてしまう。
それも手助けして、智子さんは違和感を見つけることがすぐにはできず、偽物であるという考えに至るチャンスが遠くなる。
そして、チャンスが永遠に訪れないものにする為にトドメをの手を打った。
「私の策略により智子さんは違和感に気が付くことができず、本物であると考えた。しかし、写真一つだけでは押しが弱い。だからこそ、私は今回の話し合いにおいて公平かつ力のある生徒会が協力する条件だったといい、第三者を証人に仕立て上げることで、本物であると思える根拠を与えた。」
本物であるという考えに納得いく理由を与えれば、事実確認をすることなくそうであると思い込む。
「一つ一つの小細工は力はありませんが、こんな感じで組み合わせることで、少し見れば加工だと分かる写真すら、本物の写真にすることができる」
才能がなくとも、このように私でもできる小さな要素を組み合わせれば嘘を本当のようにすることができる。
私の策略をすべて聞いて智子さんは何も言わずにしばらくの間考えた後、心底分からないといった表情で聞いてくる。
「そこまでしたのに、どうして無駄にするようなことを?」
「智子さんも言ったいたじゃないですか。力のあるかどうかの分からない人に賭けるようなことは出来ないと」
私の言葉に智子さんはハッとする。
「最初に言っている通り、私は穏やかな形で解決したいと考えている。しかし、いきなりこんなことを言っても信用はされないのを目に見えている。だから、私はその力と意志があることを示すつもりだった」
私は最初から素直に協力しないことを分かっていた。
軽い頼み事でも赤の他人に任せることはしないのに、自分よりも大切なものが掛かっているものを任せるわけがない。
だからこそ、私は示さなければいけなかった。
嘘のようなことを本当にする力があり、智子さんにとって大切なものを託せるほどの信用できる人物であることを。
「椿さんからしたら大切な人を傷つけた、恨んで当然の私の信用を得るためだけに、それだけのことをしたの……?私が断ったらあなたがさらに苦しくなるのに……?」
「はい、さらに言うならこれを断ったからと言っても過激なことをするつもりはありません。ここで断ったとしても智子さんに大きなデメリットありません。」
あまりにも都合のいい状況に智子さんは夢ではないかみたいな表情をする。
「どうして……どうしてそこまでするの?」
「私は全員を救うつもりだからですよ」
「!!?」
自分には成し遂げられなかったことをやろうと宣言した私に智子さんは今日一驚いた表情をする。
私は続けて考えを述べる。
「そのためには証拠を使った相手を傷づけるだけの力なんていらない。必要なのは嘘みたいなことを本当にする力です」
理想を実現するためには合理性なんてものに囚われてはいけない。
必要なのは何が何でも叶えるという強い意志だ。
「私は全員が前を向いてやり直せるようにします。しかし、私は当事者ではない。あくまでちょっかいを出している第三者に過ぎない。全員を救うのためには当事者である人たちがやり直したいと思わないといけない。そのために、藤井智子さんあなたの協力が必要です。」
これは私の問題ではない。
私がどれだけよくしたいと思っても、当事者である春野や赤菜さん、藤井さん達がそう思わないと実現は出来ない。
だからこそ、夢を見させよう。
その為に私は嘘でもなんでも使ってやる。
詐欺師のように夢を見させてそのまま本当にしてやる。
「これが私の考えです。智子さん、答えを聞かせていただけませんか?」




