第五十五話 諦めない人
「何度写真を見ても事実は変わりませんよ」
視点が定まらず、ボーといじめの証拠となる写真を見ている智子さんに語りかける。
その姿からはこのことが嘘であって欲しいと思っていることがよく伝わる。
「嫌だ嫌だ嫌だ、こんなところでじゃ終われない。これで終わったら今まで私がしたことが全て無駄になる。何も残らない……それだけはダメなの。それだけはダメなの」
「何がダメなのですか?私はやったこと以上のことをするつもりはありません。智子さんの証言が真実なら、そこまで追い詰めるつもりはありませんよ。真実ならね」
「!!」
智子さんの表情は完全に凍り付く。
まだ、智子さんは嘘を認めていない。
私は油断なく冷徹に詰めていく。
「写真を見る限り、脅されてやっているとは見えませんが何かしらの説明は出来ますか?」
「それは……」
私の質問に智子さんは目を泳がせ言葉が詰まる。
もはや、智子さんの発言が嘘であることは第三者から見ても明らかだ。
これ以上抗っても状況は悪くなっていくばかり、私が勝ちを確信して油断していたらワンチャンあるかもだが、そんな様子は一ミリもない。
智子さんに勝ち筋はない。
私は止めの一撃を言い放つ。
「もう諦めてください。智子さんが思い描く理想は訪れることはない」
「あーーああああああああああああああああああああああああああああああああ」
智子さんは涙を流しながらその場にうずくまる。
「どうしてどうしてどうして、私はただ親友を救いたかっただけなのに……それだけなのに」
「それは智子さんだけではありません。あなたが親友を救うために傷つけた春野さん、赤菜さんにも救いたいと思う人がいます。智子さんが二人を生贄にしようと考える限り、衝突は必然であり、結果智子さんが負けた。それが現実です」
私は智子さんに現実を突きつける。
救いたいと思うのは確かにいいことかもしれないが、それを理由に他人を傷つけていい理由はない。
私は現実逃避を許さない。
どんな状況であったとしても自分の選択をしっかりと受け止めることができない限り、成長することは出来ない。
また、同じことを繰り返すだけだ。
「そんな……」
智子さんは完全に絶望に染まる。
私は現実から逃がさないようにさらに追い打ちをかける。
「智子さん、あなたは逃げてしまった。親友を救うためと言う甘い理由に逃げて自分の行動を正当化して苦しみから逃れた。別にそのことが悪いというわけではありません。ただ、その代償はいつか必ず払う時が来る。それがすぐに来ただけの話です」
逃げることが悪いとは思わない。場合によっては必要な事だろう。
ただ、何事にも代償は存在する。それを支払わないで逃げるなどと都合のいいことはない。
必ず精算するときがくる。
現実はこういった所では残酷なほど平等である。
「ああ……」
智子さんは完全に折れた。
「智子さん、私たちに本当の事を教えていただけませんか?別に教えない選択をしても構いませんよ。その時はどうなるか、今の智子さんなら想像は簡単ですよね?」
「言います!言いますから、それだけはやめてください」
悪魔の表情をしながら質問をして、それに泣きながら答える智子さん。第三者からみれば私は完全に悪役だろう。
そうして、智子さんは自身の罪を受け入れ辛くなるように、イジメの全ての経緯を話してくれた。
「これが、全てです……」
「なんともまあ、報われない出来事だ」
「そうですね……」
話を聞いた雄大先輩と佐紀先輩は悲痛の表情を浮かべる。
それも当然だ。いじめをした側にもしっかりとした理由があり、才能がある雄大先輩からでは何も言えず、長年雄大先輩と一緒は佐紀先輩からしたら、とても共感できるものだった。
根本的な原因を上げるなら、春野が凄すぎた。
春野もそれが分かっていたからこそ、いじめへの対処を自分に向く限りは自分の罪として受け入れて何もしなかったのだろう。
僕がした予想は当たっていたようだ。
まあ、当たっていたとしても問題が難しいのは変わらない。
「今度は嘘はついていないようだね」
「嘘なんてつきません!これ以上罪は重ねません」
智子さんは必死に答える。
その様子からも嘘偽りなくことたことが分かる。
「なるほど、教えてくれてありがとう。それで私から智子さんに一ついいことを教えよう」
「いいこと……?」
罪を断罪されるばかりだと思っていた智子さんは、訳が分からないと言わんばかりの表情をする。
「あの写真は加工写真。つまり、偽物だよ」
「はい?」
智子さんは先程までの絶望が一瞬で吹き飛ぶほど驚いた表情をする。
そんな智子さんはよそに私は種明かしをする。
「最初から証拠なんて持っていない。ちなみに先程の自白を証拠とすることはない。騙して嵌めるような事では協力しない。また、それで真実が明らかになる又は有利になるようなことを知れてもその全ての利用を禁止する。互いにね。それが生徒会の協力条件だからね。」
「それって……」
「ああ、私には今回のいじめを他人に知らしめる証拠を所持していないし、智子さんを裏切るような行動を取ることができない」
これによって現状は一変する。
私が先程まであった有利はすべて消える。
私達は真相を知ることができたが、その代償として智子さんに反撃のチャンスと今まで騙して手に入れた手札その全てを失うだけではなく、今回知れた情報を活用していけないという強力な縛りを受けることになる。
これで私は智子さんの協力以外の道は全て険しい道に変わる。
自分の首を絞めるような行為だが、別に構わない。
何故なら、私は理想を諦めないから。
私は智子さんの目を真っ直ぐ見据えて言った。
「改めてお願いします。智子さん、私に協力してくれませんか?」