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第五十二話 鉄壁の覚悟に守られた嘘

(もう覚悟は済んでいると言うことですか)


 智子さんの言葉を冷静に受け止める。


「すべての罪はあなたにあると」

「はい、私が全てやりました。私が手を下したのは最後で、基本的には凜奈たちを脅してやらせました。」


(さっきの時間で考えてたな)


 こちらが森岡さん達を聞く前に先手を打っていくことによって、大切な所はこちらのペースにさせないようにしてきた。


 庇い方もこちらが脅したとなればある程度は辻褄が合うので、いきなり問い詰めていたら地味に面倒な事になっていた。


 伊達に参謀役をしていたわけではないという事らしい。


 こちらの話を聞いてもらう前に、まずは智子さんの嘘を暴くところから始めないといけない。


「言いたいことはわかりました。いくつか質問したいのですがよろしいでしょうか?」

「構いません」

「それでは一つ目に、藤井さんと森岡さんは幼稚園の頃からの親友だと聞いています。そんな親友を脅してまで春野さんをいじめた理由はなんですか?」


 私は春野の時と同じように、本人にとって答え辛い質問をぶつける。


 親友を助けるために、どこまで自分が悪役になれるか、中途半端な動機なら違和感が持たれる。そうなればそこを詰めていくだけで、勝てるだろう。


 それに相手は時間がない。親友を脅してまでやらせるほど明確な動機があるはずなのに、熟考していてはおかしいからだ。


「普通に憎かったんですよ。今までいるだけで迷惑をかける存在だった人間が、自分のやりたいことの為に私たちに恥をかかせてだけではなく、こちらを嘲笑うかのように立場や役割、人望の全てを奪っていて、あの時の私にとって春野は私達から全てを奪っていく悪魔のような存在で、憎くて仕方がなかった」


(うまいな)


 本気でそう思っている勘違いするほど感情が乗った言葉に、全然ありえるストーリー。


 これでも十分すぎるのだが、さらに追い打ちをかけるように智子さんは喋る。


「だから、イジメをすることにしたの。最初はグループみんなでやるつもりだった。だけど、凛奈達はあまりこう言うことをしたくないと否定したの。自分の実力がないから悪いとか言って、このまま全て失うことを容認していた。私はそれが許せなかった。このまま全て失うなんて嫌だった。だから、凛奈達を脅して無理矢理イジメをさせた」


 本当に自然な流れで、凛奈達の脅した動機と印象回復を行う。


 智子さんの言い分は非常にうまい。いい感じに嘘と本当を混ぜ合わせている。


「それでも春野さんは折れることがなかった。だから、最終手段に出たの。元を辿れば春野さんが赤菜さんのお願いを叶えようとしたことから始まった。だから、そこを狙えばと思ってやった。凛奈達は前々から私への反感を感じてたから、やらせることができなかったから、自分の手でやったの。」


 最後だけ自分でした理由も完璧。集めた情報と照らし合わせても、一切の違和感がない。


 最後の仕上げと言わんばかりに、悲しみに明け暮れるように語る。


「そうして、赤菜さんを怪我をさせたの。そして、絶望した赤菜さんを見た時に気がついたの。人の夢を潰して罪深さに。私は身勝手に人を殺すようなことをしてしまった。そこからは苦悩日々だった。絶望したあの表情が私をしたことの罪の重さを自覚させた。そして、春野さんあの演奏で私は自分の罪に耐えきれなくなって、学校を休むようになった。」


 全てが綺麗に繋がる。完璧なストーリーだった。


 通常時であれば確実に騙されていた。そう断言できるほど、智子さんのストーリーも感情になった声もうまかった。


 何よりも、こちらの考えを知った上で、途中で邪魔が入らないように一言も喋らずに全てを言い切った。


「質問されていないことまでお答えしてすいません。ですが、これ以上私の罪で椿君の時間を不用意に奪いたくないと思い、言わせていただきました。勝手なことをしてしまい申し訳ございません。私はいかなる罰も受け入れるつもりです。」


 そうして、智子さんはもう一度こちらに頭を下げる。


 隙がない。


 勝手に語り始めた理由に、反省の気持ち、罰を受ける覚悟と、この話を聞いた多くの者が智子さんは十分反省していると思い、この話を信じるだろう。


 それほどまでに、智子さんの話はうまかった。


 ペースは完全に智子さんにあった。


 だが、私は動揺することもなく、終始冷静に話を聞いた。


 確かにうまい話だった。だけど、それでは春野が大人しかった理由が分からない。


 もしも脅されてしていたのであれば、春野なら間違いなく気がつく。そして、凛奈達を逆に懐柔して藤井さんを叩きのめしていたはずだ。


 だが、これを理由に智子さんのストーリーは崩さない。この意見は主観的過ぎる。


 春野が気付かなかった可能性を上げれば何の意味がない。


 だからこそ、この嘘を突き崩すのにこの理論は使えない。


 だが、このストーリーが嘘であると私に確信を与えてくれる。それだけで十分である。


 このような心理戦において、迷いは敗北に繋がる。


 少しでも実際は智子さんの言っていることではないかと思ってしまったら、突き崩すことはできない。


 智子さんは自己犠牲を厭わない。


 それが先ほどのストーリーが強い要因である。


 全ての罪を被るのはもちろんのこと、庇った友達から嫌われることも許容しているからこそ、春野を悪く言うことも、親友から永遠に嫌われるようなことを堂々と言えている。


 無敵の人を彷彿とさせる強い覚悟がこのストーリーを鉄壁なものにしている。


(覚悟が決まっている人は一筋縄ではいかないな)


 最初の一手を軽く回避して、強烈なカウンターを叩き込んできたことに、生半可なことでは通用しないことを再確認する。


 立場は逆転した。


 追い込まれているのは私の方。


 私は鉄壁の覚悟で守られた嘘を打ち砕かないといけない。


(さて、どうしようか)


 どこまでも冷徹な頭の中で鉄壁の覚悟で守られた嘘を崩す方法を考えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ⇒質問されていないことまでお答えしてすいません  ↑推理小説とかで、犯人が嘘を暴かれないように饒舌になるというのはよくある描写。  勘違いだったらごめんなさいですが、この勝負椿君に分がある…
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