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第五十一話 対等な話し合い

 藤井さんの家の前に来て、僕は深呼吸をする。


(自分を信じろ、信じなきゃ騙せない)


 最高の結果を手に入れるためにはミスをすることは許されない。


 僕は高ぶる心を落ち着かせ、深海の如き深さをもって全てを見る。


 視界がクリアになるのを感じる。先程まであった様々な感情が無くなり何事にも動じない冷徹な自分になっていく。


 人も感情も全てがものとして考え始める。


(何度やっても、この感覚は慣れないな)


 ロボットのように段々と人としての考え方を失っていく自分に恐怖する。


 僕は才能がない。


 だからこそ、あらゆる面で努力をした。少しでも出来ることが増えるなら何でもした。


 その上で僕が一番鍛えたのは精神力である。


 実力は精神状態によって大きく変わってくる。


 乱れていては格下でも負けるし、極限まで磨かれた状態なら本来の実力を大きく超えることができる。


 精神は唯一才能があまり介在しない所だ。


 才能がない僕において、才能があまり関係ない精神力は天才にも勝てるかもしれないところで、僕に置いての最大の武器である。


 故に鍛え続けた。幸い、運が悪かったので鍛える機会はいくらでもあった。


 そうして身に着けた。目的だけしか見えない自分を。


「さあ、行きましょう」

「……わかった」


 一瞬にして得体の知れない存在へと変わった私に雄大先輩も気を引き締める。


 そうして、インターホンを鳴らす。


「椿と申します。学校の件について藤井智子さんとお話がしたいと思い伺いました。智子さんはいらっしゃいますでしょうか?」


 落ち着いて声で、要件を言ったが、反応が返ってこない。


「……出ませんね」


 一向に出てこないことに、佐紀先輩は少し不安そうに言った。


 今、家にいるのは藤井さんだけ。両親は仕事で家にはいないことは調査から分かっている。


 学校に行っていないのも確認済み、外に出たという情報もない。状況から考えても家に引き籠っているはずだ。


「どうするんだ?」

「いなければ、こちらで勝手に事を進めるだけです」


 何も問題ない。そう思わせんばかりに言い切る。


 そうして、一瞬だけ藤井さんの部屋の窓と思われるところを見る。


「もう一分待ちましょう。それで出てこなかったら諦めましょう。私たちには時間がないのですから、こんなところで立ち止まっている訳にはいかない」

「そうだな」


 雄大先輩もこちらの意見に賛同する。


 そうして、一分後ドアが開けられ、そこから藤井さんが現れる。


「私が智子です」


 藤井さんはかなり警戒した様子で出てくる。


 それも当然だ。


 メンバーと自分の状況を鑑みれば、私たちがなんの要件で来ているかなんてすぐに分かる。


「椿弓弦です。この度は突然の訪問、大変申し訳ございません」

「いえいえ」


 こういったことをあまり経験することはないので、智子さんは少々戸惑いながらも何とか対応する。


「先程も申し上げた通り、学校の件についてお話を伺いました。内容が内容なので少々時間を頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」

「……大丈夫です」


 智子さんは覚悟を決めたように、答える。


「それではお話を伺いたいのですが、智子さんにおいては非常に大切な話になってくると思いますので、出来るだけ落ちつた場所で話したいと考えています。こちらで場所を用意していますが、自分の家の方がいいなど、希望などはありますか?」

「なら、私の家でよろしいでしょうか?」


 現在家が自由に使える事や、これから話すことについて少しでも有利な環境でしたいという思いもあって、智子さんは家を選んだ。


「はい、大丈夫です」

「なら、今から準備をしてくるので、少し待ってください」

「分かりました」


 そうして、智子さんは準備をするために一旦家の奥へと戻っていく。


 それから10分後準備ができたのか智子が現れる。


「準備ができたので、こちらについてきてください」


 智子さんが案内したのは客室ではなく自身の部屋だった。


 部屋の中は比較的に広く、4人いても手狭だとはあまり思わない。中央にはテーブルが設置されている。


「本当は、客室の方がいいのでしょうが、少しでもリラックスできる所にいたかったのでここにしました。」


 部屋の中に入った智子さんはこちらを向いて申し訳なさそうにいった。


「気負う必要はありません。場所を選んでいいといったのはこちらですから」

「そういってくれると助かります」


 智子さんは少しホッとした表情で答える。


「お話の前に、一つ聞きたいのですが雄大生徒会長と佐紀副生徒会長は椿さんのサポートとしてついて来ていると考えていいでしょうか?」

「サポートと言うわけではない、私たちの椿君の監査、スポーツで例えるなら審判としての来ている」


 私側だと考えていた智子さんは、その発言に驚きと困惑の表情をする。


 雄大先輩は智子さんが混乱しないように説明を始める。


「今回の件について、生徒会は椿君の後ろ盾という立ち位置だ。椿君は春野君と関わりがあったらしいのだが、ここ最近、連絡が取れなくなってその事情を調べてたいので協力してほしいと頼まれている。」


 春野と関わりがあると聞いた時、智子は一瞬だけ顔を歪ませるが、すぐに元に戻す。


「生徒会としては見捨てるわけにはいかないので協力をすることにしたが、椿君は春野君と関わりがあるため、1人での調査だと客観性に疑問があるし、生徒会として平等であることが大切だ。そのため、第三者である私が今回の話し合いにおいて平等性を保障するために来ている。だから、椿君側でも藤井君側でもない、中立だと考えてくれ」

「私も生徒会長と同じです。男性2人と女性1人では配慮と平等性に欠けるため、ここにいます。椿君達が行きすぎたことをすれば、私は藤井さん側として止めるために来ました。」


 雄大先輩と佐紀先輩は先ほどまでの親しい感じは一切なく、生徒会としての距離感でこちらにも智子さんにも接する。


 これによって智子さんも今から始まる話し合いが1対3ではなく、1対1対2と一方的なことものではなく、平等な話し合いだと分かるだろう。


「丁寧な説明と配慮をしていただきありがとうございます。」


 智子さんは2人の説明によって警戒が少し薄れ、目に光が宿る。


 智子さん視点では先程までは生徒会との絶対に勝てない戦いから、生徒会が審判とした僕との戦いになったのだ。


 有耶無耶にして逃げる選択肢などの強引な選択肢はできなくなったが、それはこちらも同じであり、生徒会が信頼を裏切るようなことをしない限り、対等な話し合いなる。


 一方的な戦いを想定していた智子さんにとっては十分過ぎるほどの状況だ。


 こちらも生徒会の力を使うことはできないが、対等な話し合いを実現するのが目的なため一切の問題はない。


 それに、今回の件を主導する私が虎の威を借りないとやっていけないなど笑い話にもならない。


 雄大先輩と佐紀先輩は僕たちの話し合いの邪魔のならないような場所へと移動する。


 僕たちはテーブルを間に置き、対面する。


 これによって私と智子さんの対等な話し合いが始まる。


「学校の件とは、イジメのことであってますか?」

「はい、そうです」


 智子さんは、イジメの件を知らないフリをすることもできたが、それをしないつもりなのか、イジメの件を認めらような質問をしてくる。


 イジメについて言い逃れしたいなら、悪手である。


 その事実が意味するところは、智子さん強い意志を持って言った。


「イジメは全て私1人だけでしたことです。言い逃れをするつもりはありません。どんな罰も受けます。本当に愚かなことをしてしまい申し訳ございません」


 智子さんはそういって頭を下げる。


 全ての罪を被る。それが智子さんの選択だった。

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